緑の烈風だ!逃げろ!

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一年戦争時、ジオンに一人の名もなきパイロットがいた。

数々の武勲を挙げながらも、ジオン兵にとっての栄誉であるパーソナルカラーを拒み、緑こそ己のパーソナルカラーとしていた。

連邦軍に対して並々ならぬ憎悪を抱いており、射線上に味方のMSがいようと躊躇なく引き金を引く、狂犬のような戦いぶりで恐れられていた。

ゆえに、友軍のMSパイロットからは蛇蠍のごとく忌み嫌われていたが、一方で艦船や基地拠点への防衛任務の成功率は群を抜いて高く、それらの乗員や歩兵からは守護天使のごとく敬われており、その色にちなんでつけられた呼び名が”緑の烈風”。

当然、それほどの技量をもつパイロットがキシリア・ザビの目に留まらないはずはなく、直属の精鋭部隊であるキマイラ隊への入隊も打診されたが、”緑の烈風”は私兵部隊に属することをよしとせず、これを辞退し、ア・バオア・クーの戦火に身を投じた。

その後の消息は不明であったが、グリプス戦役時はどのような心境の変化かティターンズに与し、エウーゴを幾度となく窮地に追い込んだ。

グリプス戦役後はティターンズ残党とともにアクシズに合流し、エウーゴへの復讐とばかりにその技量を発揮した。

そして今、第二次ネオジオン抗争において、緑の烈風が戦場を吹き荒ぶ!

 

「お客さん、そろそろ看板ですぜ」

店主はカウンター席にひとり座る男に声をかける。

 

奇妙な客だった。

閉店までいさせて欲しいと言って、金塊が満載されたアタッシュケース(この場末の酒場が、宇宙世紀の終わりまで稼働してもお目にかかれる代物ではないであろう)を店主に渡し、ボトル一本だけを注文して深夜までいたのである。

年の頃は三十半ばといったところであろうか。輝くようなブロンドをオールバックにしている。

薄暗い店内でも分厚いサングラスを外そうとしないのは、眉間から僅かに覗く傷跡を隠すためであろうか。

だが、その不調法を抜きにしても、サングラス越しの鋭い眼光と精悍な顔立ちは推測できる、どことなく気品と風格を感じさせる男であった。

 

「ん…ああ、そうか。もうそんな時間か。

すまなかったな、すっかり居座ってしまった」

僅かにまどろんでいたのであろう、瞑想するように座っていた男は気だるげに口を開く。

「待ち人ですかい?残念ながら、振られちまったようですな。

でもまあ、あんな目も眩むようなお宝をくだすったんです。ラストオーダーは受け付けますぜ。

なんなら、今後はずっと無料で飲んでいただいてもいいくらいだ」

「そうか、それはありがたい。

それなら、酔い醒ましにお茶をもらえないか。

そうだな、とびきり濃い緑茶を頼む」

男は”緑茶”の部分をことさらに強調して言った。

店主の眉がぴくりと動く。

ジオン、ティターンズ、そしてアクシズ。これらの組織を去る際、自分ができうる限り、己の痕跡は徹底的に消し去ってきたはずである。

そもそも、目の前の男から発する雰囲気からも薄々の察しはついていたが、その疑念は確信に変わった。

「つくづく珍しいお客さんだ。お茶を注文されるなんていつ以来かな。

承知しやした、仕込んでくるので少しお待ち願います」

 

数分後。店主が男の前にカップを置くが、今度は彼の眉がぴくりと動く。

湯気が立つカップに満たされていたのは、深い色をたたえる…紅茶だった。

「どうです?あなたにはこの色こそ相応しいでしょう、大佐。

それとも、大尉とお呼びしたほうがいいですかい?」

男の反応を見逃さず、店主は得意気に言う。

「気づいていたか…」

苦笑混じりに男が言う。

「そりゃあ、ね。一度は友軍として轡を並べ、一度は敵として砲火を交えたんです。

そして何より、その声。忘れようにも忘れられませんや。

で、ご用向きは?まさかこんな万年閑古鳥の店に、安酒を飲みにきたわけではありますまい?」

「そうだな…少し付き合ってもらえないだろうか。

君に見せたいものがある」

 

“大佐”に案内されて来たのは、コロニーでも最果ての廃工場の区画であった。

付近一帯はさる富豪の私有地らしく、誰も近づく者はない。

大佐がジャケットのポケットから取り出したリモコンを操作すると、建物の扉は音もなく開いた。

 

建物の中は外観と同様に荒れ果てていたが、大佐は店主を伴い、端の扉に入る。

扉の中はうって変わって白一色の、清潔感のあるエレベーターになっていた。

エレベーターは高速で地下に降りる。

到着した先は広大な空間になっており、様々な機材が置かれていた。

そして、店主にとって、覚えのある匂いが鼻をつく。

金属と機械油の匂いである。

 

「ここは我が軍とアナハイム・エレクトロニクスが提携した極秘工場になっていてな。

徹底的な秘匿工作がされているから、連邦といえど、ここを察知するにはあと数年はかかるだろう」

「…でしょうな」

店主は辺りに置かれた最新の機材を見回しながら嘆息混じりに呟く。

これらのひとつでも現金に替えれば、闇レートで投げ売ったとしても、半年は豪遊できるであろう。

足元に無造作に散らばるボルト一本でも、自分の店で扱う酒1ダースはゆうに買えるに違いない。

 

「そして、君に見せたいものというのは…これだ」

再度、大佐が手元のリモコンを操作すると、目の前の壁がゆっくりと開く。

そして、そこから現れたのは、緑色に輝く、翼を大きく広げた竜…に見えた。

否、竜というものは伝承の中の産物に過ぎない。目の前にあるのは、見たこともない…モビルスーツである。

翼に見えたのは、肩から左右にせり出したウィングバインダーであった。

腰のスカートは下半身をすっぽりと覆うほどで、リアスカートに至っては、全身の半分を占めるほどの巨大さである。

ウィングバインダーとリアスカートに満載されたブースターは、たとえ重力下でもこの巨体を軽々と浮かせ、舞うような挙動が可能であろう。

全高こそ現行のモビルスーツと大差ないが、前後左右に大きく張り出したシルエットは、威圧的な存在感を放っている。

ジオン系らしい流線型のシルエットで、かろうじて人型の体裁を保っているような異形でありながら、猛禽類のような猛々しさと、伝説の竜の優美さが絶妙に融合したモビルスーツであった。

 

「こいつは…!

ははっ、こいつは驚いた」

「気に入ってもらえたかな?

ナイチンゲール。私のサザビーのプロトタイプとして開発されたものだ。

機動力が私の要求するスペックに満たなかったので、私の乗機としての採用は見送られたが、火力と装甲はサザビーを30%ほど上回っている。

君にはこれに乗り、我が軍の旗艦、レウルーラの護衛についてもらいたい。

防衛任務を得意としていた君の技量を買っての願いだ」

「おほっ、そりゃまたずいぶん高く買ってもらえたものですな。

だが、いいんですかい?あたしは射線上に味方がいようと、お構いなしで引き金を引くのはご存じのはずだ。

そんな狂犬が自軍にいると、兵の士気にもかかわるのでは?」

「心配はいらん。我が軍の兵は一騎当千の精兵揃いだ。味方の弾に当たるような者はいない。

むしろ、君という絶対防壁が旗艦の護衛につくとなれば、兵の士気は上がるというものだ」

「そいつはー」

ジオン末期の精神論にも似てますがね、と言いかけた台詞を飲み込み、店主は続ける。

「ー頼もしい限りですな。

それともうひとつ。こいつの肩についているのは、例のファンネルとかいう兵器ですかい?

恥ずかしながら、あたしはこのサイコミュというやつが苦手でね。

アクシズの怖い怖いおかっぱの姐さんは、手足のように扱っておられましたが」

「そこも心配いらん。君がサイコミュを不得手にしているのも織り込み済みだ。

ファンネルは有線式のインコムに換装してある。

攻撃範囲こそファンネルには及ぶまいが、艦の護衛には充分だろう」

「そいつはまた…参りましたな。

まさに何もかも至れり尽くせりというやつじゃあないですか」

「どうだろうか、この依頼、引き受けてはもらえまいか。

もちろん、引き受けるか否かは君の自由だ。あのアタッシュケースも返してもらわなくても構わない。

君への敬意を込めた餞別だ」

 

「…くっ、ふふっ、ふはははっ」

店主は含み笑いを漏らす。

「どうした?笑いをとるようなことを言った覚えはないが?

あいにく、私はジョークやユーモアのセンスは持ち合わせていないのでな」

「いえね、嬉しいんでさあ。

あの赤い彗星に、こんなにも買っていただけて、ね」

懐から取り出した煙草に火をつけ、深く煙を吸う店主。

そして、己の想いを紫煙とともに吐き出した。

「あたしはねえ、大佐。ここの生活も気に入っていたんですよ。

この場末のコロニーに、人知れず骨を埋めるつもりでいたんです。

そこにネオジオンの総帥が直々に、こんな最高の機体を手土産にスカウトときた。

この礼を尽くしたお誘い、断る理由などありますまい。

委細承知。この老骨がどこまでご期待に沿えるか保証はいたしかねますが、緑の烈風、もう一度戦場を吹き荒んでご覧に入れましょう」

 

長々と失礼しました。

自分で考えた妄想ホラ話をもとに、ナイチンゲールを緑にしてみました。

塗装にはスプレーを使用。溶剤臭がやばかったです。

緑とシルバーのカラーリングは、実はDr.ドゥームを意識しています。

数十年ぶりのプラモなので、塗装して素組みしたのみ。デカールも貼っていません。

盾のエンブレムがないのは、緑の烈風はネオジオン正規兵ではなく、あくまで個人雇いと認識しているから、ということにしておきます。

 

 

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