「くそっ!」
若き士官は壁に拳を叩きつけた。
「まあまあ、中尉。そうカリカリしなさんな。傷に響きますぜ。
あの艦の爆発から間一髪であなたを救出するのは肝が冷えたんです。
ここでお体を悪くされたら、助けた甲斐がなくなっちまいますよ」
軽口混じりに彼を諌めるのは、やや年嵩の軍曹。
二人が着ている漆黒のノーマルスーツの胸には、金色の猛禽を象ったエンブレムが輝いている。
だが、この黄金の鳥は、もう羽ばたくことはない。
彼らが属していたティターンズは、ゼダンの門における戦闘で大敗を喫し、エウーゴとの戦いの趨勢は決した。
後の世に言う、グリプス戦役の終焉である。
二人がいるのは、小惑星アクシズのモビルスーツデッキ。
彼らはエウーゴによる残党狩りを予期し、ゼダンの門の戦闘終了直後にアクシズに投降したのである。
軍曹は更に続ける。
「それにほら、考えてもみておくんなさい。奴さんらにとって、あたしらはつい先日まで敵だったんです。
命を取られなかったばかりか、MSまであてがってくれたんだから、VIP待遇と思わなきゃいけませんや」
拳をさすりながら中尉は答える。
「ちっ…確かにな。
もちろん、あんたには感謝しているし、正直、あれほどの機体をもらえるとは思っていなかった。
だからこそ、あの茶番みたいな譲渡式もまだ我慢できた」
「ですな。少し前まで敵だった者も歓迎するとアピールする。ジオンお得意のプロパガンダだ。
それに、来るべき連邦との戦いに備え、奴さんらも人手は欲しいんでしょうな。
MSはあれどパイロットがいない。そんなとこまで末期のジオンにそっくりときた。
これほどの機体を与えられたのも、あたしらの撃墜スコアを買ってもらえた、ということです」
中尉の目に再び怒りの色が灯る。
「しかし、だ。俺はまだいいが、あんたに与えられた機体はどうだ?一年戦争時の骨董品じゃないか!
アンティークで奴らと戦えと!?」
二人の奥には、2機の緑のモビルスーツがそびえ立っている。
このうち中尉に与えられたのは、龍を思わせる鋭いシルエットの最新鋭機。
対して、軍曹に与えられたのは、かつて一年戦争で使用されていたモビルスーツを改修されたものだった。
「ちょちょちょ、あたしを気遣ってくれるのは嬉しいですが、中尉殿といえど、こいつを骨董品呼ばわりは聞き捨てなりませんぜ。
こいつはね、あたしがかつてア・バオア・クーで死線をくぐり抜けた愛機の生まれ変わりなんです。
こいつの前身を知っているあたしだから言える。こいつは十二分にエウーゴとも渡り合えます。
たとえ、こいつの改修前の機体であっても、です」
「ちょっと待て」
中尉はゆっくりと腰の拳銃に手をかける。
「さっきから聞いていれば、あんたはやけにジオンの内情やMSを知っているな。しかもア・バオア・クー?
もしかして、あんたはジオン兵だったのか?元ジオン兵がどうしてティターンズに?
返答次第では、あんたといえど…!」
銃口を向けられても、軍曹は平然としている。
「おっとっと、物騒な物はしまっておくんなさい。
そう驚くことでもありませんよ。あの赤い彗星だって、エウーゴにいたじゃあないですか。
それにね、中尉。あたしはただ、かっこいい機体に乗れればそれでいいんですよ」
「…かっこいい…だと?
そんな子供じみた理由で、あんたは命を懸けて戦っていたのか?」
予想だにしない回答だった。
唖然とした中尉の銃口が下がる。
「かっこいいは正義ですよ、中尉。
ジオンもティターンズも、そりゃもうかっこいい機体ばっかりでした。
あたしは、主義主張や信条などと大層なものは持ち合わせちゃいません。
スペースノイドの解放。アースノイドの権威。あたしにとっちゃ、どちらでもよろしい。
かっこいい機体に乗れて、その中で後ろを預けられる戦友に会えれば、なお重畳というものです」
「戦友…?俺が、か?」
銃口は既に床を向いている。
「中尉、あなたはまだお若い。あんなところで命を落とすべきお方ではない。
生きてさえいれば、いいパイロットになれます。
いいパイロットになれば、一緒に酒も飲める。それはいいものです。
っと、あたしは酒はからきしなんですがね」
「くっ、くくくっ、はーっはっはっは!」
中尉は片手で顔を覆い、高笑いを上げる。
思えば、こうも笑ったのはいつ以来だったか。彼の目尻にはうっすらと涙が光る。
ひとしきり笑った後、中尉は拳銃をホルスターに戻す。
「もういい。あんたと話していると、何もかもがどうでもよくなっちまう。
いいさ、どうせ一度はなくした命だ。これから俺はあんたに従う。
もうティターンズはない。階級なんぞも意味はない。
俺にあるのは、奴への復讐だけだ。
奴は…俺の…!」
中尉の言葉を遮るように、かきん、と乾いた音が響く。
軍曹が一年戦争時から愛用しているライターの蓋の音である。
懐から取り出した煙草に火をつけ、深く煙を吸う軍曹。
そして、己の胸の内を紫煙とともに吐き出した。
「そうです。それでいい。いい覚悟です。
これでこそ、あなたを助けた意味があったというものです。
ともに緑の烈風として、もう一度戦場を吹き荒んでみようじゃありませんか」
長々と失礼しました。
やはりプラモを作っている最中はホラ話がはかどります。
これらはだいぶ前に塗ったものですが、せっかく作ったので上げてみました。
バウの盾のエンブレムが塗りつぶされているのは、中尉はアクシズに身売りしたのではないという意思表示、ということにしておきます。
リゲルグは量産型ゲルググ風、バウは袖付き風に塗り替えてあります。
リゲルグのガトリングは別売りキットから拝借。
程よく野暮いシルエットのリゲルグには、無骨なガトリングも似合います。
改めて見てみると、バウってめっちゃかっこいいです。
外観はゴージャスなのに武装はシンプルなのが渋いです。
ご覧いただきありがとうございます。
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映像作品はあまり見ておらず、ゲームや漫画のサイドストーリーはそこそこかじっているつもりのおっさんです。
あらゆるMSを緑に塗り替えたいと画策中です。
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