GN02-DAMNED

機械で延長された擬似視神経との接続が終わり、少年の視界が脳の中で花開く。破壊された建造物群。轟音の元で煙が上がる。戦場と化したコロニーは最早少年の見慣れたそれとは大きくかけ離れている。
不意にプレッシャーを感じた。
金属の鎧に身を包んだ剥き出しの敵意が、眼前に迫っている。恐怖を感じているのは自分ではない。こちらに火器管制システムを向ける操縦士の恐れが少年の中に流れ込み、耐え難い圧力が胸を締め付ける。
なぜ、自分だったのか。

物心つく頃から親代わりは施設の寮母だった。周囲の大人からは、はぐらかされ両親の行方は終ぞ知り得なかった。多少の不自由さはあったものの、同じ境遇だった施設の仲間たちと心から打ち解け、彼が知る限り十分に幸せな生活を送っていた。
それが、今日、一変した。コロニーは謎のMSたちに襲撃され、皆、散り散りになった。混乱の中で少年は施設の地下に格納庫を——黒いMSを見つける。

なぜ、自分だったのか。
寮母は少年を鉄鎧の中に押し込んだ。ごめんなさい。コックピットが閉まる間際、寮母は涙を溜めて謝罪した。少年にはその理由は分からなかったし、もう二度とその理由を訊くこともできないだろう。大きな振動の最中で寮母の悲鳴が聞こえた気がした。

追憶を遮るプレッシャー。恐怖を掻き混ぜた敵意が迫る。
なぜ、自分だったのか。
問いを掻き消すように、脳髄に響き渡る声がした。
ごめんなさい。
——そうか、そうだったのか。
少年はこの世に生まれた瞬間から、呪われていたのだった。

GN02-DAMNED
地球連邦が戦争末期、二番目に開発したMS。本機はGN01-ADAMの戦闘補助を目的として開発され、至近距離戦闘に特化した機体である。GNSを搭載した機体ではあるものの、管理者権限を持つADAMに対して制限された権限しか有しておらず、本機が取得可能な軍事情報は限定的である。一方で、限定的であるがゆえに搭乗者への負担は比較的軽微であり、ADAMが終ぞ解決できなかった継続戦闘力を改善している。地球連邦上層部はADAMによる早期終戦を目算していたが、戦争の長期化により二号機の急造が求められた経緯がある。そのため本機は皮肉を込めてDAMNED―祝福されなかったものの名を冠された。

しかしながら、実戦投入を待たずに地球連邦の敗北という形で戦争が終結し、当機は企業連に鹵獲された。
解析の結果、本機は予備の管理システムであることが判明した。つまりはADAMの排除を以て、GNSに対する本機のアクセス権が完全となるのである。そのため、現在所在不明となっているADAMの鹵獲もしくは破壊を目的として、強化調整された操縦士を伴って捜索隊に配備される予定であった。

結果、コロニーは地球連邦残党により襲撃され、本来の操縦士は死亡。予備として増産されていた強化人間の一人が搭乗することとなり、ADAM捜索隊―コルウス隊に無事配備された。
不可能とされていたコルウス隊の戦線離脱を殿として援護し、当陣営死傷者0名という輝かしい初戦を飾る。そのため命を救われた旗艦乗員たちからは愛称をつけて呼ばれることとなる——ガンダム、と。