【現地ルポ】静寂のズム・シティ：決戦前夜

宇宙世紀0079年12月30日｜サイド3 首都ズム・シティ
ルポ：パンダ・パンキチ

宇宙世紀0079年も残すところあと1日。私は今、ジオン公国の心臓部、首都ズム・シティの中央公園に立っている。私の目の前には、この「独立戦争」の象徴であるザクを模した巨大な銅像「自由の像」がそびえ立っているが、その周囲を埋めているのは市民の歓喜ではなく、装甲車両と重武装のモビルスーツ――首都防衛大隊の放つ、刺すような緊張感だ。

■ 「国葬」を前にした空洞化

明日31日には、ソロモン戦で散ったドズル・中将の国葬が執り行われる。当局は厳戒態勢を敷いているが、街に人影は驚くほど少ない。この静寂は、単なる警備の厳しさゆえではないだろう。

11月のオデッサ陥落以降、公国軍の劣勢は隠しようもない。ここ数週間、ズム・シティからは非戦闘員のみならず、政権中枢に近い高級官僚や、親ザビ派の有力家系であるカーン家、トト家までもが密かに首都を離れたという未確認情報が飛び交っている。連邦軍の矛先が「ア・バオア・クー」あるいは「グラナダ」へ向かうのは時間の問題とされる中、特権階級たちは既にこの「沈みゆく船」からの脱出を始めているようだ。

■ 異例の取材許可とジオンの「下心」

今回、我々のようなスペースノイド系のフリージャーナリストに取材が許されたのは極めて異例だ。これまでは国内メディアと「中立国」のリーア（サイド6）の報道機関に限定されていた門戸を、なぜ今、広げたのか。

リアルタイム配信は禁じられ、静止画とテキストのみという厳しい制限下ではあるが、当局の意図は透けて見える。戦況が悪化する中で、フリーの視点を通じ、失われつつある「ジオニズムへの支持」をスペースノイド全体から繋ぎ止めたいという、なりふり構わぬ「下心」だ。

■ 亀裂の走るザビ家

だが、その肝心のザビ家は一枚岩ではない。

最前線で陣頭指揮を執るギレン総帥は、まもなく地球圏全域へ向けた大規模な演説を行うという。かつてのガルマ・ザビ大佐の葬儀時のように、国民の戦意を煽るつもりだろう。

しかし、長女キシリア少将はドズル中将の国葬欠席を早々に表明。本拠地グラナダを離れた後の所在は不明だ。総帥との確執はもはや公然の秘密であり、彼女の動向が戦争の決着を左右する可能性すらある。さらに驚くべきことに、デギン公王の座乗艦「グレート・デギン」がズム・シティを緊急出港したという情報も入ってきた。これが最終決戦への「出陣」なのか、それとも「逃避」なのか――。

■ 銃口はどこを向くのか

私の目の前には、最新鋭の「ザクII改（FZ型）」が仁王立ちしている。ドムをも凌ぐとされるその高性能機の銃口は、今、静かに虚空を睨んでいる。

その狙う先は、迫り来る連邦軍か、それとも体制に反旗を翻そうとする内部勢力なのか。

宇宙世紀0080年の夜明けまで、あと30時間余り。ジオン公国、そしてザビ家が、無事に新しい年を迎えられる保証は、この街のどこにも見当たらない。