グスタフ・F・カール

シャアの反乱以降、大きな戦闘はなく彼が配属されたのは定期航路をMSで巡回する警備部のMSパイロットだったが、彼は自分にはむしろそういうとのほうが向いていると不満などを抱くことはなかった。

夢であったMSパイロットになってMSを操縦するのもそうだが、遠回しにでも民間人の生活を守っているという事は彼の誇りにもなっていたからだ。

何より配属された部隊の同僚はみな気さくであり、兄弟や家族のようなつながりを感じるのに時間はかからなかった。

リックは常々自分の人生は恵まれていると思っていた。

夢をかなえ、人間関係にも恵まれ、誇りを持てる仕事をしている。

これ以上を望むのはぜいたくで罰が当たるというのが彼の偽らざる本心だった。

そんな彼の思いを聞いた同僚は欲がないなと茶化して笑うが、冗談だというのが伝わってくるし、何より最近同僚のMSパイロットの女性に告白してOKをもらった彼はだれがどう見ても人生の勝ち組であり、やっかみ交じりの冗談程度は嫌味で返すくらいの余裕がある。

その日も・・・”いつもと同じ繰り返し”になるはずだった。

定期コースを変態を組んで部隊に配備されているグスタフカールで宇宙空間を編隊を組んで飛行していた。

そろそろ旧式になりかけているグスタフをネタに新型機の配備要望を集めようと軽口をたたいていた時、レーダーに感があった。

どうやら今日はいつも通りにはいかないらしいと全員が意識を切り替える。

レーダーには高速で近づいてくる物体の影、大きさはMSほど、あとはこれがテロリストなどの敵か何らかの理由で救助でも求めに来た味方かである。

「ザクタイプ？データには該当なし、でもあの速度は・・・」

話の途中で同僚からの通信は切れた。

隣で上がった爆発に攻撃され、撃墜されたのだと理解する。

あまりにもふいうち過ぎて反応が遅れた。

いち早く正気に戻った僚機が発砲するころには彼我の距離は近づきすぎていた。

背中から取り外した長柄のアックスが同僚のグスタフをどうで両断するのをみたリックは叫んだ。

何を叫んだのかはわからないが叫んで、正体不明のザクタイプに発砲した。

警備既定の誰何や警告必須などのマニュアルは頭から吹き飛んでいる。

ただ生存本能のままに反撃したが、ザクタイプのバックパックから分離したファンネルに頭部を破壊されその衝撃でモニターとともに彼の意識もブラックアウトした。

どれほど気を失っていたのか…リックが目を覚ますとまだコックピットの中にいた。

モニターなどはすべて死んでいるようで機体の状況などはわからないが、命が助かっただけも儲けものだと自分の幸運に感謝した。

思えば、これが彼に運が味方した最後の瞬間だったのかもしれない。

ゆがんだハッチを爆薬で吹き飛ばし、外に出た彼は見た。

コックピットを撃ち抜かれたグスタフカールの姿を…そして彼の目は絶対見たくないものを情報として脳に伝える。

グスタフにマーキングされた識別番号は先日彼が告白した彼女の乗機を表すものだった。

その後リックは部隊のマーキング焼失を察知して救援に来た舞台に救助され、落ち着くのを待って事情聴取を受け、その場で今回の経緯を大まかに聞くことができた。

オールズモビル…それが仲間と彼女を奪ったもの、そしてあの赤と紺のザクが…リックは自分の中にこんな激しい感情があるのを初めて知った。

仲間と彼女の最後に見た顔がちらつく…「酬いを…受けさせてやる」

オールズモビル掃討作戦が立ち上がった時、真っ先に誰の手が上がったかを言う必要はあるまい。

リックは作戦参加にあたり、乗機にグスタフを指名した。

弔いのためなのかこだわりなのかは本人にもよくわかっていなかっただろう。

そして彼の上司も…シャアの反乱時にMSパイロットとして参加していたため、たとえ復讐であってもそれを成し遂げなければ前に進めないことを理解しており、彼の同僚のグスタフから可能な限りの部品を流用、強化改造を施したグスタフをかなりの強権とごり押しで用意させた。

決戦の場にて…それはどんな奇跡か偶然か…あるいは復讐の念がのろいと引き合ったか…イノシシのように破壊をまき散らしながら疾走する機体を見つけたリックは躊躇なく機体を向かわせ、壁のように復讐のために作られたグスタフ・F・カールが呪いのザクF2000と対峙した。

邂逅の時間は一瞬、直後に二機は殺し合いに突入した。

最後まで見ていただいてありがとうございます。