妄想戦記
一年戦争終戦後、地上に残された軍需物資を回収、金に換える通称トレジャーハンターの間で一つの噂が広まった。
G資金・・・ジオン軍が地上から宇宙に撤退するとき、資金や株券、宝石やレアメタルなどの直接戦闘に生かせない資産を再度の地上侵攻のために隠したという噂だ。
つまりジオンの埋蔵金である。
これが噂どまりなのはその実証を示す証拠がないからだ。
G資産を隠した部隊は地上撤退の時、乗っていたHLSごと撃墜されて資料と共に消失してしまったと言われている。
この話がどこからどこまでが真実で事実なのかわからないため、浪漫ある噂どまりだったのだが・・・終戦から一年ほど後、海を中心として探索しているトレジャーハンターがとある海溝であるものを発見する。
それは海溝の間に横たわる一隻の潜水艦だった。
その船体にジオンのマークを確認した彼らは色めき立った。
水圧と潜水艦の二重ロック、そこまで厳重な隠し方をするものなどジオン資金くらいしか思いつかない。
彼らはさっそく水中用MSを出して回収しようとしたがしかし、潜水艦に近づいたMSの眼前でそれは起こった。
無人のはずの潜水艦のハッチが開き、そこから一機のMSが出てきたのだ。
「え?」
疑問符がそのまま彼の遺言になった。
水中とは思えない速度で接敵したズゴックのクローがMSの腹部を貫通していたのだ。
次の瞬間、トレジャーハンターたちは阿鼻叫喚の混乱状態に陥った。
一瞬前までの宝を発見した高揚はすでにない、あるのはいきなり生死のかかった戦場に放り込まれた哀れな生贄の恐怖だ。
そしてそんな彼らの身上を考慮する理由は正体不明のMSにはない。
混乱と恐怖にかられたトレジャーハンターたちは一機ずつ狩られ、全滅した。
海上でサポートしていたトレジャーハンターの仲間たちはそれを察したとたん全速力でその海域を離脱、連邦軍基地に逃げ込んだ。
相手がジオンでMS戦となればそれはもう連邦軍の対処すべき領域になる。
G資金は惜しいが命には代えられない。
彼らの訴えを聞いた連邦軍は空母とアクアジム12機を当海域に投入した。
相手の機体がズゴックEの派生機体なのは確認されている。
一年戦争時の最新鋭機とはいえ、今では時代遅れであり、しかも12倍の戦力なら簡単に無力化できると踏んでいたのだが、結果から言えばアクアジム12機は返り討ちに合った。
件のMSはサブアームを含め6本の腕と正体不明のドローンのような兵器でアクアジム達を圧倒した。
その戦闘力に八方塞になりかかった連邦軍だったが、とある士官がズゴックの行動のパターンに気が付いたことで状況が変わる。
ズゴックは潜水艦の守備を優先しているようで、潜水艦から一定距離以上に離れるとそれ以上の追撃をしてこなかったのだ。
連邦軍は攻撃目標をズゴックから潜水艦に切り替え、ありったけの魚雷を打ち込んだ。
案の定、ズゴックは潜水艦を守る行動に出たが、多量の魚雷のすべてを迎撃することはできず、雷撃に成功するものの、残りの魚雷が潜水艦に命中し、G資金は海の藻屑となったものの、被害の大きさと作戦を続行した場合に予想される被害を鑑みてやむをえないと判断された。
一体あのズゴックは何だったの?、パイロットはどうやって長い時間海底で過ごしてきたのか?どんなインターフェースを使えば6碗の同時操作を可能としたのか?様々な疑問は機体と共に海の闇の中に沈んだ。
この疑問が解消されるのはさらに数年後、ア・バオア・クーにて、コンクリートで偽装された秘密区画が発見されるまで待つことになる。
そこにはジオンの機密文書などを保管して隠していたようで、問題のズゴックの資料もそこにあった。
例のズゴックの正式名称はスプリガン、北欧の宝を守る妖精の名前を付けた担当者の教養を感じさせる。
元々は地球で活躍していた水中MSのエースのために特注された期待のようだが、受領前に本人が戦死したために宙ぶらりんになっていたところをニュータイプ研究所(以下NT研)が実験のために引き取ったらしい。
これを読んだ分析官は取りあえずいったんファイルを閉じてコーヒーを用意した。
かのNT研の悪名はこの界隈では有名すぎて戦場に出てもいないのにPTSDを発症する人間が出るほどだ。
なのでそれ相応の覚悟と準備を整え、分析官はいざとファイルを再び開く。
当時のNT研は一つの問題に直面していた。
彼らはNTの神髄は脳にあると考えていた…妥当だろう、ほかの場所に理由があったらそっちのほうが驚きだ。
なのでNTの能力を高めるためにはの上のアプローチが必須となり、ある意味拷問に近いことも行っていたのは周知の事実だ。
ここでNT研は一つの壁にぶつかった。
同じアプローチをかけても得られる成果に個体差があったのだ。
人間なのだから当然といえば当然なのだが、兵器としてみた場合それは不安定さとなる。
ここから先を読んだ分析官はその狂気に後悔とあきらめを覚えた。
彼らは個体差を成長過程に生じた”揺らぎ”と考えた。
同時にそれがなければ完全なNT兵器を作り出せるのではないか?とまで考えたのだ。
具体的には、NT才能を持った人物のクローンを生成、その脳だけを取り出し、NT研究のアプローチを行った。
あるいは洗脳に近い何かすら・・・具体的な内容が残されていないことに分析官は安堵した。
結果として制御ユニットAとBが完成、これはMSの完全自立駆動を可能とするシステムであり、本体と背部ユニットで独立稼働が可能であったようだ。
実験的にスプリガンに搭載されて駆動実験まではしたものの同時に戦況が悪化、最低限の電力があれば生体ユニットの維持が可能のため、G資金を積んだ潜水艦の護衛として沈められていたのをトレジャーハンターの接近にセンサーが反応、スプリガンは目覚めて例の惨劇を引き起こしたというのが事の顛末である。
この資料は一級部外秘として分析官の記憶とともに永久封印された。
最後まで見ていただいてありがとうございます。
ジオン水泳部所属
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しがないプラモ好きですが、頑張って作ったのでよかったら見て行ってください。
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