色違いボリノークサマーンです。
改造は程々に、肩の溝をあえて埋めてみたり、筋彫り入れたり、ぐらいです。
色はほとんどガンダム Mk-Ⅱの配色でまとめてみましたが、ちょっと黄色がイメージとは違ってしまって難しいですね。
一応、右腕のシールドは接続軸を追加して、外した状態にできるようにしていますが、本当に簡単なものですね。
投稿自体は数年ぶりですが、途中で作っていたものもあるので、少しずつ上げていこうと思います。
【妄想設定】
PMX-002 .pot ボリノークサマーン 量産試験機
パプテマス・シロッコ氏が開発した偵察機であるボリノーク・サマーンの量産化を検討するためにティターンズ工廠の一つで生産された機体。基本的にパプテマス・シロッコ氏の設計のまま、カラーリングのみティターンズのものに変更してある。
大型MSであることで広域レーダーによる高い索敵能力を得ることに成功した機体であり、対ジオン残党および対アクシズでの作戦立案における情報精度の上昇が期待される。シロッコ氏の作成した試作機とは形状が異なる箇所も多いが、多くの場合は生産性を高めるための機構であると研究者たちからは評価が高い。
問題は、量産性はこの機体の性能と比すれば高いものの、量産コスト自体は高いことと、地球の技術者の開発にこだわるバスク・オム大佐が量産については難色を示すことがわかりきっていることだろう。
しかし、機体性能は申し分なく、隠密偵察から強襲偵察までこなすこの機体の量産は、ティターンズの戦力拡大に確実に繋がると思われる。
記録、および検証者:ーーーー
輸送機の窓から見える景色は、荒涼とした荒れた大地だった。
その上空を飛ぶミデア輸送機の広いコクピットには、微妙な空気が漂っていた。緊張感、と言うまではいかないが妙に肩が凝る空気感、それを主操縦席に座るハルト・アリスガワは感じていた。
いつもならば、こんな退屈な時には副操縦士である軽薄で軽い男が、面白くもない冗談を飛ばしてくれるのだが、残念なことにそんな相棒は副操縦士であるにも関わらず、席を外していた。上官命令ならば仕方がない……と言うのはおかしい話だが、代わりがいるのでしょうがなく、と言ったところだ。
相棒の代わりの男は、コクピット後方の席についていた。黒人で背が高く、軍人であるハルトよりもはるかにガタイが良い、そんな筋骨隆々な肉体に黒い軍服を纏う姿は、まさに堅牢な壁にも思われた。
しかもこの時代、黒い軍服には特別な意味がある。ティターンズ。地球連邦でも特別な権限を持っていた、エリート集団。その黒い軍服は、宙遠くのグリプスで主力が敗退したとしても、確かな力を持っている様にハルトは感じた。
そんなティターンズの将校の一人と所属軍人1人、そしてティターンズがある工廠で生産させたMS1機を輸送するのが、今回の彼と相棒の受けた命令であった。
別に、コクピットに座る男が威圧しているわけではないが、その軍服と彼の存在感から感じる威圧感に、ハルトは勝てなかった。
「…しかし、この辺りはでかい岩石が多くて、なかなか見応えがありますね…。」
おそるおそる、ハルトは席の後ろに座る彼に声をかける。
永遠に感じるほどの沈黙が流れたが、男が答えた。
「……ワタシにトッテは、見晴らしガ悪くて落ち着かナイな。」
思ったよりも優しい声が響く。独特なイントネーションが、彼の雰囲気に合っている様にも思った。
「この辺りは、地形が入り組んでますからね。少し我慢してくださいな。」
「アア、すまない。別ニあなたの仕事ニケチをつけようというわけでハナインだ。」
男の返答に、ハルトの感じていた緊張感が緩む様に感じた。
「……あなたは、我々ヲにくんだりしていないのデスカ?。」
男のふとした言葉に、先ほどとは違う汗がハルトの頬をつたった。どういう意味なのだろうか。返答次第では……。
しかし、チラリと鏡越しに見た男の表情は、むしろ悲しそうに見えた。
「憎むってぇのは、その軍服の色の話ですか?。」
「アア、前の基地デハ、最初は怖がられていた。そして、出ていくトキにはバセイを浴びせるモノもいた。」
それは……、とハルトが言いかけたが、男が言葉を続ける。
「バセイは仕方ない。それに、厄介払いはナレテいる。でも、アナタの様に少なくとも敬意ヲ持って接してくれる人が今の我々にイルのに、オドろいている。」
独特なイントネーションは変わらず、しかし男の言葉には不器用で嘘偽りも感じられなかった。
「まあ、もちろんその入りの軍服を着た嫌な奴にも会ったことがありますが、少なくとも少尉はそんな感じじゃなかったでしょ。なら、別に俺も相棒も気にはしませんよ。」
「だが、ワレワレは負け…。」
「だから、あんたらもティターンズから原隊復帰するんでしょ。それとも、あんたは30バンチ事件の実行者とか命令者なんですか?。」
「チガウます。ワタシも少佐も知らなかっ…。」
「なら、別に気にしませんよ。」
彼なりに気を遣った言葉。その言葉に、男に感じていた威圧感が驚くほど小さくなった様に感じた。
「アリガトウ、ええと……。」
「ハルト・アリスガワですよ、少尉。」
「アリガトウ、アリスガワ。」
黒人の大男が感謝の言葉をつぶやく。
「いいえ、マリーク…ええと…。」
「マリーク・ンコシ、だ。」
大男の言葉に、ハルトは軽く振り向く。大男、マリーク・ンコシ少尉は階級名をつけずに名乗った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぐわぁぁぁぁ!疲れたぁぁ!。」
マリークとハルトが打ち解けて少しして、コクピットに一人の男が転がり込む様に飛び込んできた。100人がみれば8割はいい男と評価されそうな、金髪碧眼の男、しかしその姿は憔悴している。
「リーアム、入ってくるならもう少し静かにしてくれ。」
「いいだろ別に。ミディアには俺たち以外にネズミ1匹いやしないんだからよ。」
慣れた仕草で計器を確認し、リーアムと呼ばれた男は副操縦席についた。ウィリアム・ハーパー、輸送機のパイロットであり、ハルトの長年の相棒である。
「だいぶ気に入られたみたいだな。羨ましい限りだよ。」
「いつでも変わってやよ。というか、次はお前が行けよ。」
「ワタシの上官ガ、すまない。」
ハルトとウィリアムの掛け合いに、マリークの言葉が挟み込まれる。ウィリアムはその言葉に一瞬驚き、しかし次の瞬間には苦笑を浮かべる。
「なあに、付き従ってたあんたに比べりゃ安いもんさ。しかしあのお嬢さまはいつもああなのですか?。」
「少佐モ、いつもああデハないんだ。少佐ナリにショックなの、だと思ウ。」
マリークは大きな体を縮める様に項垂れる。
「少佐ハ、ワタシの恩人ナンダ。」
顔を挙げ、マリークはウィリアムの方を見る。ウィリアムも幾分真面目にその姿を見た。
「何か、訳ありみたいですね。」
楽しそうに聞き返すウィリアムに、ハルトは目線を向ける。しかし、ウィリアムはその視線を軽くいなした。それどころか、ハルトを親指で指し示す。
「大丈夫、こいつも訳ありでね。初恋の女を落としたと思ったら、軍人の嫁は嫌だって逃げられた手合いですよ。」
「おいっ!。」
ハルトが遺憾の意を示すが、ウィリアムには通じていない。そして、マリークはその2人の様子にきょとんとしていた。そして、程なくしてポツポツとつぶやく。
「……少佐ハ、軍人になったワタシを引き上げ、ティターンズに入れてクレタ人、デス。ワタシは、貧しい部族にウマレたんです。兄弟を学校にイレルには、軍人になるしかなかった。だから、幼馴染や友達ともワカレて、軍人になりまシタ。」
へぇ…とウィリアムの静かにつぶやきが聞こえた。
「心無いコトを言う人もイマシタ、故郷ヲ、ワタシの部族をバカにする人も。そして、ワタシは少佐と会いました。彼女はワタシを見て、大地を踏みしめてきた戦士ダト言ってくれました。」
マリーシは顔を上げた。
「ダカラ、ワタシは彼女をマモろうと決めました。彼女に恩をカエスと、決めたんです。」
マリークの独白に、ウィリアムもハルトもすっかり毒気が抜かれていた。特にウィリアムは、先ほどまでのどこか揶揄う様な様子がなりを潜めていた。
「それで、少尉はこれからどうするんですか?。」
「コレから?」
マリークが、驚いた様子で聞き返した。
「そう。これからマリーク少尉がやりたいコトとか、ないんですか?。」
ハルトの問いに、マリーシは考え込んだ。そして、再び顔を上げる。
「実は……プロポーズ、ヲ考エテいます。」
「えっ!?。」
「???。」
マリークの言葉に、味のある表情でコーヒーを口に含んだウィリアムが吹き出した。ハルトもまた驚くことしかできなかった。
「プロポーズ、ですかい?。」
ウィリアムは、吹き出したコーヒーを拭きながら聞き返す。その言葉にマリークはしっかりとした様子で答えた。
「ハイ、あなたたち2人に聞いてもらって、ユウキ出ましタ。」
黒人の大男が顔をくしゃくしゃにして魅力的な笑顔を浮かべる。それは、まるで冒険に向かう少年の様にも見える。
「きっと、ワタシは軍を辞めます。ダカラ、せっかくなら次は、愛するヒトト一緒にいます。」
「そいつはいい!、いいじゃないか。俺は応援するぞ。」
マリークの言葉に、ウィリアムが即座に答える。
「うまくいくかはわからんが、そう言う思い切りのいい奴は、俺は大好きだよ。」
「そうだな。いつも複数の女性にフラフラしてるリーアムくんに比べりゃ、上等だな。」
「フラフラしてるんじゃない、俺は全員に本気なんだよ。」
ハルトとウィリアムの掛け合いに、マリークもまた笑顔を浮かべる。
「アリガトウ、うまく行ったら、オフタリにもお伝えシマスね。」
しかし、そこでミディアの計器が警告音を発した。数刻前まで和やかだったコクピット内が一瞬で緊張に包まれる。
すぐにハルトもウィリアムも計器と共にミディアのレーダーに集中する。マリークは、そんな2人の様子に、一瞬にして気を引き締めた。彼らもまた、やはり軍人であった。
警告音の元は、すぐにわかった。
「ハルト、進行方向に複数のMSの反応だ。奴さん、地形に潜伏してたらしい。」
「タイプは?。」
「黒のハイザックが2機に……ジムのキャノンタイプがいる……くらいしかわかんねぇな。これは。」
「多分、ツミニを狙っている我々のナカマ、いえ、元ナカマです。」
マリークがすぐさま反応する。
「みたいですね。停船命令と積荷の受け渡しを要求してやがる。」
「…たく、護衛が出ない区画って時点で覚悟してたが、厄介なことで。で、どうするハルト?。」
「振り切れればいいが……。」
様々な想定がハルトの頭の中を駆け巡る。しかし、そこでマリークが声を上げた。
「積荷ヲ、ワタシに使わせテクレマセンカ。」
「積荷を?」
ウィリアムが答えると、マリークは続けた。
「ええ。奴らに狙いは、少佐トMSです。アノ機体と少佐を確保スレバ、それなりの影響力ヲが手に入ルと思ったのでしょう。ダカラ、少なくトモワタシがMSでデレば、ワタシのコトも無視出来なくナリマス。」
「だけど、あんたパイロット経験は?。」
「少しだけ。デモ、囮ニはなれます。」
マリークの提案に、ハルトは思考を巡らす。確かにそれならば…。しかし、一方で囮となったマリークは帰還できるのか?
ウィリアムとマリークがハルトの返答を待つ静寂の中、唐突にコクピットのドアが開いた。入ってきたのは、銀髪で碧眼の女性であった。背筋がまっすぐ伸び、その瞳には強い意志が宿っている。黒い軍服は、彼女の銀髪と白い肌と対比が効いている。しかし、そんな彼女を彼らは見下ろす形で出迎えた。この3人の中で一番背が低いハルトよりも頭1つ分背が低い。
「ソフィア中佐…。」
マリークがすぐに敬礼を返す。その仕草を確認すると、ソフィア・ヴォルコフはハルトとウィリアムの方をまっすぐ見据えた。
「戦況は、どうなっている?。」
「はっ、…正体不明のMS勢力より停船とソフィア中佐、および積荷のMSの接収の宣告が届いています。」
すぐさま軍人モードとなったウィリアムが答える。
「それに対して、マリーク少尉にMSの使用許可を求められたところです。」
ハルトの言葉に、ソフィアは一瞬だけ思案する。だが、返答は一瞬だった。
「そう……マリーク少尉、ボリノーク・サマーンへの搭乗を許可します。ミディアは1戦闘距離まで巡航速度を落とし、奴らの命令を受け取ったように見せかけなさい。」
「騙し討ちってわけですか?。」
ついつい出てしまった軽口に、ソフィアが形の良い眉を歪める。ウィリアムは素知らぬ顔を決め込むが、内心では後悔しているのだろう。しかし、ソフィアの返答はハルトとウィリアムの想定とは異なっていた。
「そう、騙し討ちよ。どうせ、ティターンズが落ち目になったから、慌てて切り離そうってどっかの基地のバカなお偉いさんの息のかかった奴らでしょう。なら、多少暴れたところで、泣き寝入りするしかないわ。」
ニヤリと笑いながら、ソフィアが答える。
その美貌から出る壮絶な笑みが、なんだか威圧感を醸し出している。一方で、背丈は微妙に低いのだけが、その威圧感を払拭してくれていた。
「了解、ゲイゲキ、します。」
マリークが力強く答える。そして、すぐさまミディアのコクピットを出ていく。それを見送ると、ソフィアはハルトの席の後ろの席にドカリと陣取り、シートのベルトを閉め始めた。
「中佐は特別室に戻ってください。コクピットは危険ですよ。」
「あら、怖い上官がいたらダメかしら?。」
ウィリアムの言葉に、ソフィアはニヤリと笑いながら返した。蠱惑的だが、底冷えする声色にウィリアムは言葉を飲み込む。その様子に、ハルトは小さな笑いを噛み殺した。
「接敵まであと5分ってところだ。マリーク少尉は?。」
『それまでには、間に合わせる。』
格納庫からの返答に、ハルトは覚悟を決める。ミディアの巡航速度を下げ、あえて低空飛行に切り替える。せめて、マリークの乗る機体が安全に着地を決められる場所、しかも相手の部隊が着地を狙いづらい地点を即座に計算する。そんな相棒の様子を感じ取り、ウィリアムもまた、ミディアの各種センサーを稼働させつつ、ミディアの大型エンジンの調子をもう一度チェックする。
「マリーク少尉、ミディアは巡航速度で飛行後、あんたを下ろしたら一度、上昇する。その後は一時的に戦場を離脱、大きく円軌道をして回収に戻る。」
『それはダメダ。君たちはスグに基地に…。』
「マリーク・ンコシ少尉、貴公が帰還しないとこの件を立証できなくなる。10分だけ許す。ミディアがもう一度戦場に戻るまでにカタをつけろ。」
ハルトの言葉に反論しようとしたマリークを、ソフィアは一蹴する。
「ハルト少尉、あなたの判断通りだ。一時的に戦場を離脱した後に旋回して戻る。いいわね。」
「イエス、マム。」
ハルトはソフィアの判断にニヤリと笑う。そして、揶揄うように答えた。ソフィアはその返しに一瞬だけ、不快感を浮かべるがすぐさま同じようにニヤリと笑った。
「お前ら、なんか仲良いな…。」
悪く笑う相棒と、怖い上司の不穏な雰囲気に、ウィリアムはたまらずつぶやいた。勘弁してくれよ……という言葉だけは、かろうじて飲み込みながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
荒涼とした大地と空の中、ダコダ少尉は3度目の停戦命令を上空を飛ぶミディアに飛ばした。返答はないが、コクピットのモニターに映る望遠レンズではミディアが減速し、高度を下げている様子が見える。どうやら、観念したらしい。
横のモニターには、仲間のジムキャノンが砲撃姿勢を崩す様子が見られた。その様子を見て、ダコダ少尉はジムキャノンに通信を試みる。
「何をしている、砲撃態勢はまだ…。」
『大丈夫ですよ、たいちょ。乗ってるのはティターンズのお偉いさんなんでしょ。この前みたいに偉そうなこと言いながら最後は命乞いしますって。』
「しかし、噂ではMSの輸送任務のはずだ。いざという時のために……。」
『それも気にしすぎですって。乗ってるティターンズってのも親の七光りの女将校に木偶の坊の黒人でしょ。こっちにゃ5機もいるんですよ。1機程度でどうにかなるもんじゃないですよ。』
ダゴダの言葉に、他のMSパイロットからも反論が飛んできた。その言葉に、ダゴダはうまく反論できずにいた。どうにも部隊内の規律がよくない。ティターンズが拠点を宇宙に移したあたりから、部隊内でのティターンズ憎しの反応が強くなっている。しかも、似たような命令を受けるごとに、部隊内の規律が緩んでいる感じが強くなっていた。
『どうせ、何もできませんって。心配ばかりしているから、後頭部が薄くなっちまうんですよ。』
他の隊員の笑い声が響く。これが、ジオン残党相手の作戦行動前ならばダコダ自身も笑って返していたが、今回は軽くは返せなかった。ここ数回切り返されるティターンズ将校を拘束、または逃走しようとしたティターンズへの追撃命令自体、あまりダコダにとっては嬉しいものではなかった。隊員の中では、偉そうにしていたティターンズの鼻っ柱を叩き折れると息巻くものもいたが、ダコダとしては気持ちの良いものではない。
『たいちょう?。』
そんなダゴダの思案を知ってか知らずか、隊員の一人が声をかけてきた。しかし、ダコダはすぐに頭を振ると思考を切り替える。
「なんでもない。とりあえず、あちらさんがこっちに従うっていうならすぐにティターンズ将校とMSの収容準備だ。回収部隊にも連絡を入れておけ。」
『はっ。ところで、噂の女将校さんは俺たちもお話しできるチャンスはぁ?。』
「お前ら、なんか勘違いしてないか?。」
仲間の下卑た言葉に、ダコダはドスを効かせて答える。一瞬、通信機越しの雰囲気が一気にピリッとひりつくが、その緊張感も一瞬だけだった。
『冗談、冗談ですよ、隊長。』
「面白くない冗談を作戦行動前に言うんじゃない。それに…。」
良いタイミングだ、ここらで一つ一喝を入れてやろう。そう思った矢先、コクピット内にアラームがけたたましく鳴った。
『ミノフスキー粒子濃度上昇!戦闘濃度に達します!。』
その言葉と共に、望遠レンズの映像に強いノイズが走る。どうやらこちらに近づいてきたミディアがミノフスキー粒子を散布したらしい。それと共に、通信機から強烈な異音がこだました。
その異音に、すぐさまダコダは通信機を切る。そしてモニター越しに周囲のMSを確認する。他のMSもこちらを見回している。
「クソッタレ!、根性座った奴もいるじゃないか!。」
吐き捨てるように叫ぶと、向かってくるミディアにビムスプレーガンを構えた。味方のジムキャノンが肩のキャノンを数発、発射する。命中はしないが、ミディアへの牽制にはなるだろう。
しかし、ミディアはその砲撃に臆することなく、高度を下げてくる。その姿に、ジムキャノンたちがたじろぐ姿が見えた。
「それとも、自殺志願者でも乗ってやがるのか!。」
こちらに突撃するかのように向かってくるミディアに、ダコダはビームスプレーガンをを打ち込むが、その輸送機に有効打を与えるには、高度が遠すぎる。そう思った時、ミディアの後部から、大きな黒い人形が降りるのが見えた。その影をモニターが捉えると共に、再びけたたましいいアラートが鳴る。
「ミサイル!?。回避だ、回避しろ!。」
通信機を切っていることも忘れて、ダコダは周囲のMSに怒号を上げる。そして自らのジムを後方に飛ばす。モニターには、後退に遅れた機体が多数のミサイルに焼かれる姿が見えた。自身のジムの姿勢を即座に整えて、ダコダは降りてきた黒い影を見据えた。
ティターンズの藍と黒の塗装、その姿は通常のジムやザクとは異なっていた。一回り大きな姿は、どこか猫背のひどい事務員のような印象にも見えたが、がっしりとした手足と大型の肩は、異様なほどに威圧感がある。そして、その特徴的な頭部は鈍い光を放っていた。
「なんだ、こいつは!。」
黒い巨体のMSに、ダコダは戦慄を覚えた。その、ダコダの一瞬の怯えを知ってか知らずか、黒い機体は肩のハッチを開けて、再びミサイルを発射する。そして、すぐさまその巨体に似合わぬ速度でミサイルによって被害を受けたジムに向かって飛びかかった。
「クソッタレ!。」
ミサイルの掃射と、黒いモビルスーツのビームホークによって、次々と部隊のジムが破壊されていく。ダコダも反撃を試みるが、そのことごとくは回避され、当たったとしても巧みな姿勢制御によってその黒いモビルスーツの外装を焼く程度だった。
また1機、ヒートホークでジムキャノンが崩れ落ちる。
その姿に、ダコダは恐怖した。
「黒い……オーガー……。」
その言葉に反応したかのように、モニター越しの黒いモビルスーツ、ボリノークサマーンがゆっくり近づいてくる。しかし、次の瞬間にはボリノークサマーンが急加速を見せ、距離を詰める。そして手に持ったビームホークを振りかぶった。
ダコダは、それをただ見守ることしかできなかった。
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あれから3ヶ月。
基地でミディアの整備を手伝っていたハルトの下に、1通の手紙が来た。それは、マリークからのものであった。サボっていたウィリアムに声をかけ、ハルトは整備中のミディアを見ながら、丁寧に書かれた手紙を開いた。ふと、1枚の写真が入っている。その写真には、笑顔を浮かべるマリークと、同じくらいの背の高い黒人の女性が、満面な笑みを浮かべていた。
『拝啓、ハルト様、ウィリアム様。
プロポーズがうまくいったので、約束通り招待状を送ります。
彼女は、私の昔からの幼馴染で、いつも私を手紙で励ましてくれました……。』
「「プロポーズって、そっちかいっ!。」」
手紙を読みながら、ウィリアムとハルトは同時にツッコミを入れた。
そして、2人はお互いの顔を見合わせて、笑った。だが、そんなハリウッド映画のような余韻は、長くは続かなかった。
遠くからでもわかる長い銀髪と存在感、その姿を見て、ウィリアムとハルトは再び顔を見合わせ、今度はお互いため息をつく。
「上官に向かって、随分な態度ね。二人とも。」
言葉にこそ棘があるが、どこか楽しそうなその女性の言葉に、ハルトが肩をすくめる。
「失礼しました。マム。お元気そうで、何よりです。ウィリアムなんて、別れを惜しんで3日3晩、酒をかっくらっていたんですよ。」
「そう、面倒そうな上官の輸送任務から解放されてよかったわね。」
ウィリアムの顔が白黒する。隣の相棒に文句の一つも言いたいが、当の本人の冷たい微笑に、言葉の一つも出て来なかった。女性の後ろに立つSPの目もある。
「さて、悪いけどこれからあなたたちには私の仕事を手伝ってもらうわ。」
「手伝う、ですか?。そういえば中佐は今は…?。」
訝しげな表情を浮かべるハルトとウィリアムに、ソフィア・ヴォルコフ中佐は言葉を続ける。
「今は情報部戦史戦略保存管理室長兼第三者的戦史保存組織設置推進準備室室長よ。」
「………もっかいお願いします。」
「だから、情報部戦史戦略保存管理室長兼第三者的戦史保存組織設置推進準備室室長です。3度目はないわ。」
「イエス、マム。」
「それで、俺たちは何をすればいいんですか?。」
そろそろ歯痒くなってきて、ハルトはストレートにソフィアに聞いた。彼女が、その言葉に蠱惑的な笑みを浮かべる。
「とりあえず、2回の戦争でめちゃくちゃになった軍籍のデータベースの再構築とMIA判定の再判定機関の設置、そして軍籍のあるMSと艦船の回収任務ね。とりあえず、当分は各基地に存在する現地回収機とティターンズのMSを協力施設に輸送してもらうのがメインね。」
「……それで、回収予定のMSっていうのは?。」
「確認できているだけで14機、うち2機は可変式MSだから、どちらかに乗ってもらうわ。あとはおいおい、移動中に確認してもらうわ。」
ソフィアの言葉に、みるみる2人は青ざめていく。
「さて、準備時間は10分で間に合うかしら?。」
彼らの受難は、始まったばかりである。
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作るの大好きな初心者です。
妄想設定好きですので、そう言ったものが苦手な方は申し訳ありません。
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