余談〜ミケルの憂鬱

UC.0095.9月6日。チベット ラサ北部にある国連軍ノースラサ駐屯地は1週間前とは比べものにならないほどの部隊が来ていた。ラサの地上軍MS大隊に海兵隊の機械化混成中隊、更には宇宙から宇宙軍の強襲揚陸艦がMS込みでやって来ていた。その原因はその強襲揚陸艦で今整備中の新型MS”ジークアクス”が宇宙からこの地に降ってきた事から始まった。そして、その始まりからこの日まで偶然とはいえ関わることになってしまったNGO職員のミケル・ニノリッチは賑やかになった駐屯地の喧騒を眺めながら浮かない顔をしていた。

???[浮かない顔だなミケル]

ぼーっとしていたミケルはすぐ側に来ていた巨漢のパイロットに気が付かなかった。

ミケル[軍曹!?]

素っ頓狂な声を上げたミケルを見て第2MS大隊第2中隊第5小隊長のテリー・サンダースJr少尉は思わず苦笑した。

サンダース[今は”あの人”と同じ少尉だ]

ミケル[失礼しました少尉]

サンダース[別にいいさ。お前はもう除隊して民間人だ。それにしても久しぶりだが、ここで何してるんだ?]

ミケル[僕の記憶が正しければNGO職員としてここで難民キャンプの子供たちに勉強を教えていたはずなんですけどね]

そう話すミケルは数日前の事を思い出していた。数日前までのミケルは確かにNGO職員だった。一年戦争終結後、軍を除隊してこの地での戦いで生死不明になったかつての上官を見つけ出した後にミケルは宇宙に帰って教師となった。そしてシャアの反乱によるラサへの隕石落としで被災した大勢の人たちを支援するNGOに志願してラサ北部警備区域にある難民キャンプで臨時教師をしていた…はずだった。それが宇宙から降ってきたMSで全てが変わった。宇宙から降ってきたMSを回収してきた海兵隊が乗っていたマチュという女の子の怪我の手当てのため駐屯地の医務室へ連れて行く中、ミケルは顔馴染みのUNICFのハモンドに頼まれてこの得体のしれないMSを診る事になった。

サンダース[教師のお前がなんでメンテに?]

ミケル[ここでは教師以外にもいろいろやる事がありまして。昔エレドアさんとホバートラックであれこれやっていた経験がここで活きて臨時のメカニックも兼任してたんです。MSの応急修理程度ならあの時嫌になるほどやりましたしね]

サンダース[確かにな。ミケルはラサへの降下前に整備隊から応急修理のやり方を仕込まれてたな]

ミケル[そんなこんなであの機体を診てたんです。こんな僻地じゃロクなパーツはありませんから本当は診るだけだったんですが、そうも言えない状況になりまして…]