「そこだっ!」
月面のF・B《フロント・バック》に支社を構えるアナハイム・エレクトロニクス社ではモビルスーツなどの兵器の試験運用を行う。
その一環として模擬戦闘を行うのは地球連邦軍のグレッド・パトラス大尉率いるハルサメ小隊だ。この日は新型モビルスーツであるRX-115Rの試験である。内容は対モビルスーツ戦闘におけるテストで、一騎当千を主眼に置いたRX-115Rの性能を引き出すため、僚機はいない。敵機としてRGM-89JジェガンJ型一機、RGM-89D2ジェガンD2型一機、RGM-89S2スタークジェガン2型一機の合計四機で行う。性能差は圧倒的だが、数の暴力というのは恐ろしい。極端な話、一年戦争での地球連邦の勝利はその数の暴力で得たようなものだ。だがRX-115Rはガンダムだ。フェイスはメインカメラを覆う様に流線型のセンサー・ユニットを被っているが、その下にはツイン・アイが隠れている。それはVRヘッドセットの様に見えるが、実際は眼鏡や双眼鏡に近い。グレッドはこのガンダムを扱いきれていないと自覚している。色々と敏感すぎるのだ。彼自身、ニュータイプの素質はあると言われてきたが、それも上官に押し付けがましく言われただけだ。
「とった!」
ジェガンのアディス中尉がガンダムの後ろを取った。グレッドは頭部を軸に機体を垂直に押し上げる。
するとアディス中尉の眼前にガンダムのビーム・キャノンが挨拶をした。
「アディス機、撃墜です」
施設内オペレーターのミナ・オクイ少尉が告げる。
動きを止めたアディス機を横目に、グレッドはこちらを狙うルクレ・ルシハット少尉のジェガンに迫る。
ガンダムはビーム・ライフルを構えたジェガンの腕を蹴り飛ばす。
そのままの勢いで右腕に装備されたコンポジット・シールド・ブースターIIのビーム・ブレードで切りつけた。
「ルクレ機、撃墜」
またもオクイ少尉。
「あとは…」
次の瞬間、ドリス・マードック中尉のスタークジェガンがガンダムの背後から斬りかかった。グレッドはタッチの差で回避した。そしてビーム・ブレードをスタークジェガンに向けて振り下ろす。ドリスはミサイルでそれを払った。
二段階目のミサイルを放った時、ガンダムの機体が腹部で二つに割れて襲いかかってきた。このガンダムは分離可変機なのだ。上半身はトップ・ファイター、下半身はボトム・ファイターとそれぞれ呼称されている。
ドリス機はボトム・ファイターのクローに足を吹き飛ばされ、背後へ回ったトップ・ファイターから突き出たビーム・ブレードが機体を突き刺した。
「ドリス機、撃墜。アグレッサー機、全滅です」
オクイ少尉の報告と共に四人はモニターを再起動させ、アナハイムのモビルスーツデッキに帰投した。
「いやぁ、参りましたよ隊長ォ」
コクピットを開放したアディス中尉が額の汗を拭いながら言った。
「こいつの基本性能が半分以上だよ。俺はまだこいつに慣れていない」
「なら尚更ですよ?隊長の実力じゃないですか」
ルクレ少尉が口を挟んできた。
「ルクレ少尉、こいつは一人で扱えるようには造られてない。分離した時はかなり後悔したよ。ま、何とか勝てたから良かったがな」
そう言ってグレッドはドリスの方を見る。
「何ですか?自分嫌味は嫌いですよ」
「いや、お前は良くやったよ。勝利は殆ど俺の運みたいなものだ」
「なら今度は同じ機体で勝負してくださいね?」
「ガンダムはそんなにないぞ」
「うるさいぞアディス!」
アディスは少し捻くれ者なのだ。それ故、頑固なドリスとは相性が良いとは言えなかった。
四人は施設内のブリーフィングルームへ向かう。そこでは司令官のウディ・レーゼンビー大佐が待っていた。
「四人ともご苦労だった。これでハインリッヒ・ペーターゼン博士も報われるだろう」
ハインリッヒ・ペーターゼン博士とはRX-115Rの開発主任である。数日前、別の実験部隊でのRX-115Rの単座テストの際、遠隔誘導システムがエラーを起こし、誤ってクローをあらぬ方向へ射出してしまう事故が起きた。その際、クローがペーターゼン博士のいる巡洋艦のブリッジに直撃し、帰らぬ人となってしまったのだ。その後、残った開発陣によってシステムは書き直され、そのテストを行なったのである。
「これからなのだが、私はストームウッド中将と面会の約束がある。その間、ここの司令官はアロン・アヴァロン中佐に任せる。よろしく頼むぞ中佐」
隣のアヴァロン中佐はサッと敬礼をする。彼はこの施設では少し厳しい性格故にあまり好かれてはいない。この状況を聞いた室内の兵たちは落胆していた。
「それでは幸運を祈る」
全員が一斉に敬礼した。
レーゼンビーはブリーフィングルームを出ると、F・Bの軍関係者用のシャトル発着場へ向かった。軍用エレカの乗り心地は頗る悪かった。だが兵が送迎してくれるのはこれしかないのだ。怠惰は良くないと思ってはいた。
シャトルは既に発着場へ到着していた。軽い手続きを済ませ、ゲートから流れるように入った。ゲートでスタッフから告げられた席に座ると、数日間働き詰めの疲労からあっという間に眠りについていた。
レーゼンビーはシャトルの到着を知らせるアナウンスで目を覚ました。静寂の後、ハッチが開き、彼も立ち上がった。降りてすぐに兵士に呼び止められた。もうすでに迎えのエレカが待っているようだ。正直小休止なんてものはないのかと呆れた。しかし大事な上司の頼みを壊すことはできないのだ。
沢山の施設が立ち並ぶフォン・ブラウンの街を進むと、軍の施設がある。そこにストームウッド中将はいるのだ。その施設は警備も一段と厳しく、厄介な手間をかけさせられた。
長廊下奥の大扉を開けるとそこにいた。ストームウッド中将だ。長身に面長の顔、そして少し虚ろな目をしたこの男だ。
「遠路遥々御苦労、レーゼンビー大佐」
重苦しい声で言う。
「中将の命なら何でもするつもりです」
レーゼンビーをここまで育て上げたのもストームウッドだ。
「早速本題に入りたいのだが……その前に聞きたいことがある。レーゼンビー大佐、君はジオンがまだ生きていると思うか?」
「えらく突拍子もないご質問ですな。それがジオン・ズム・ダイクンとその血族のことでも、意志としてのジオンだとしても、私はそれは確実に死んでいると思います」
「ほう、面白い。だが今回の件は君のその考えを一部改めてもらわねばならんかも知れないな」
「?」
ストームウッドは自身の背後の大画面モニターを起動させた。そこには痩せこけて連邦軍の将官服を身に纏った初老の男性が映っている。そしてその男性が喋り始めた。
「こちらVFC本部ロサ・ギガンティアII!現在何者かによって攻撃を受けている!至急救援を要請する!頼んだぞ!」
その言葉の後に画面は砂嵐に変わった。
「彼はVFCのレオナルド・パゾリーニ中将。私の古くからの友人だ。数日前彼が映像で述べた通り、VFCのラビアンローズ級ロサ・ギガンティアIIが船ごと消息を絶った。パゾリーニも例外なくな」
「それとジオンの話になんの関連性が…って、まさかその件にジオンが関わっているとでも?」
「そうだ」
レーゼンビーはフッと鼻で笑った。
「冗談でしょ。そもそもなぜ最近開拓が始まったばかりの金星圏にジオンなんて弱小テロリスト集団が行けるのですか?」
「テロリストの中では老舗だぞ?」
「所詮はテロリストですよ。金星に行けるほどの物資などありませんよ」
「だが火星やアステロイド、木星には行ったと聞くが?」
「今更ですよ」
ストームウッドは一つため息をついて先ほどのモニターの映像を変えた。
「これでも?」
「…⁉︎」










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