「君に乗せてもらうことにして、よかったと思っている。今のままではすぐに墜とされる。」
コクピットに上るリフトの上で、金髪碧眼の美しい男は呟いた。だが、その美しい色をした瞳は、真っ黒なサングラスに隠されている。
その男の佇まいは、堂々としており、人の前に立つものであることを周囲に自然に納得させるものがある。美しいが、鋭い目つきと、額のものものしい切り傷の跡が、その男が戦士であることを示しているようだった。言葉もはっきりとしており、一見すると力と自信にあふれているように見える。だが、その男の語気に含まれる微かな不安を、先に操縦席に向かった赤毛の男は捉えたようだった。
「迷うことはないはずだ。君しか今のエゥーゴを率いる者はいないのだから。」
こちらは、対照的に、どこにでもいそうな平凡な男に見えた。声色も優しい。だが、どこか——どこが、とは言えないが——厳しい戦いを潜り抜けてきた者特有の鋭い気配を身に纏っているように感じられた。現に、今、機体を動かして戦場を飛ぼうとしているのはこの赤毛の男の方なのだ。
「自分ひとりの運命さえも、決断できない男がか。」
「大衆は常に英雄を求めているのさ。」
大衆が求めているのは、君のような英雄ではないのか、と言う言葉を、金髪碧眼の男は飲み込んだ。
「自分に道化を演じろということか。」
「あなたに舞台が回ってきただけさ。シナリオを書き換えたわけじゃない。」
言われて、金髪の”英雄”は、コクピットシートに座るもう一人の”英雄”の名を、呻くように口にした。
「人は、変わっていくものだろう。」
赤毛の男が、諭すような口調で言う。
人が、時代を動かす。人が変わっていくと言うのなら、時代もまた、それに合わせて変わっていく。
男たちの乗る”アウドムラ”は、一路、ダカールへ——そう、時代が、今、変わろうとしている——。
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ヘント・ミューラー暗殺事件のせいで、一時中断されていたジム・スナイパーⅡの仕様変更は、割とすぐに作業が再開された。黒髪眼鏡と、愛嬌のある小男が、相変わらず難しい顔をしながら作業をしている。だが、今日はやけに急いでいるように見えた。ニコラ少佐から、司令書も見せられた。ハクシュウ大佐も認可した正式なもので、やはり、アランが以前予想した通り、新型装備の試験のための換装だった。平和な広報部隊だった"ブルーウイング"だが、そのうちティターンズ麾下の実験部隊にでもされるのだろうか。風雲急を告げる情勢に、自分たちは血なまぐさい戦いに連なる兵に変えられてしまうのかもしれない。一連の騒動によって、部隊のエースであるキョウ・ミヤギ中尉が、戦闘行為に耐えられることが証明された。"ブルーウイング"のパイロットは、操縦技術において選りすぐりの精鋭であることも間違いない。戦力になるのだ。お祭りや式典のために、文字通り遊ばせておくには惜しいはずだ。
作業中のドックを横切りながら、アラン・ボーモント中尉は、そんなことを考え、不安になる。一方で、別の暗い欲望が胸を充たすのも感じていた。いつか、妄想したことが、現実になってしまった。
ヘント・ミューラーが、死んだ。
(キョウ・ミヤギが、手に入るのか……?)
こうなったとしても、彼女が手に入ることはあり得ない、と、一度は納得したはずだ。だが、再び巡ってきたチャンスに、ハンターとして胸が高鳴るのを、止められなかった。
しかし、あれから10日。
彼女の姿を、一目たりとも見ていない。
「無理です。人に会える状態ではありません。」
間違いを起こさぬよう——つまり、後追いなどせぬよう、専属の精製兵チタ・ハヤミ少尉が片時も離れずに傍にいる。そのチタ・ハヤミが、これまでにないほど鉄壁の守りを敷き、キョウ・ミヤギ中尉に、蟻一匹寄せ付けない。
「何も取って食おうってんじゃないだろう。チームメイトとして心配するのは当然だろうが。」
「どの口が!」
抗うチタの声も荒々しい。
「以前から取って食う気まんまんだったじゃないですか。」
厳しい口調で追い返された。次いで、チタからしがみつかれるような格好で無理やり向きを変えられる。その小さな体に背中をぐいぐい押されながらも、アランは訊ねる。
「生きてはいるんだな?」
「じゃなきゃ、わたしがこんなに元気なはずないでしょう!」
それもそうだ。この2人の日頃の"ベッタリ"は、友情を超えて、もしかして"そういう仲"なのではないかと錯覚させることも度々ある。
(取り付く島もない。)
まんまと追い返され、ドック脇のブリーフィングルームに戻ると、隊の同僚が真剣な顔でテレビを見ている。アランの方に顔を向けず、おう、と口だけで軽く挨拶をする。
「何だか変だぜ。」
画面には、どこかの市街地でのMS戦の光景が映し出されている。そして、議会風の映像とが、交互に映し出される。
「ダカール……連邦議会か?」
アランが呟く。襲撃を受けているのか。エゥーゴだろうか。考えていると、議会を閉じるな!という叫びが聞こえ、場が騒然とする様が映し出された。継いで、テレビのスピーカーから、朗々とした好い声が発せられた。
『議会の方と、このテレビを見ている連邦国国民の方には、突然の無礼を許して頂きたい。私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉であります。』
やはり、エゥーゴか。何のつもりだ。連邦議会の承認を経て、正規軍と化したティターンズへの意趣返しか。画面映えする、金髪碧眼の美しい男が、好い声を張り上げている。しかし、一介の大尉ごときが、こんな大それたことをしたところで何になる。エゥーゴも、ヘント・ミューラーも、キョウ・ミヤギも、やはり狂っている。そこまでを、一瞬で考える。が、次に聞こえてきた言葉で、それらの思考はすべて吹き飛んだ。
『話の前に、もう一つ知っておいてもらいたいことがあります。私はかつてシャア・アズナブルという名で呼ばれたこともある男だ。』
「何だと!?」
アランも、一緒に中継を見ていた、驚きの声をあげた。
『私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐものとして語りたい。もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン・ダイクンの子としてである。』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
武装に封印を施された”サクラ”に収容され、ラッキー・ブライトマン中佐はじめ、EFMP第2部隊第1班の面々はサイド5宙域外の仮設ドックに移送されている最中だった。皆、ブリッジに集められ、ティターンズや連邦軍の正規兵が武装して警備している。
しかし、移送されている者たちは、ブリッジのモニターに映し出された映像を見て瞳孔を開いた。
『議会の方と、このテレビを見ている連邦国国民の方には、突然の無礼を許して頂きたい。私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉であります。』
モニターには、金髪碧眼の美しい男が映っている。続けて、男は自分がシャア・アズナブルであると打ち明けた。
『私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐものとして語りたい。もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン・ダイクンの子としてである。』
来た——ついに。
ブライトマンは、すっと立ちあがる。
「おい、勝手に動くな!」
見張りの兵が、声を荒げる。モニターでは、シャアと名乗った男が、地球の保護の必要性を訴え、それを阻害するティターンズの横暴を、ザビ家以上の悪であると痛烈に批判している。そして画面には、ティターンズのMSと揉みあう白いMS、”ガンダム”が映し出される。まるで、傷つき、悲鳴をあげる地球のために、虐げられるスペースノイドの叫びを代弁するために、”ガンダム”は戦っているように見えた。
(やるな、エゥーゴ……!)
ブレックスが死んだいま、誰が書いたシナリオだ?いや、誰でもいい。よくできているには違いないのだ。
疲弊した地球環境の回復のため、人類を一度地球上から追い出す。その目的はエゥーゴも、ティターンズも変わらない。ただ、エゥーゴは議会工作で、ティターンズは紛争と武力でもってそれを成し遂げようとしていた。それが今、エゥーゴも武力で議会を制圧しようとしている。これでは、エゥーゴも結局ティターンズと、同じ穴のムジナになる。だが、そのことを——こうして武力に訴える自分たちのやり方を、画面の中の"シャア・アズナブル"が詫びている。エゥーゴの演出のうまさは、こういうところだ。愚行と理解してもなお、行動を起こさざるを得なかったという切実さが、画面に映る美しい男の必死の形相からも感じられた。
ジオン・ダイクンの子……"ニュータイプ時代の申し子"とも言うべき英雄と、伝説のガンダム。この衝撃的な絵面と、地球連邦の本拠地での思い切った行動。演説の内容以上に、視覚と感覚に訴えるこの瞬間が、新時代の到来を世間に印象付ける。
(シャア、ジオンの子、スペースノイドの未来を謳い、ティターンズの横暴を現行犯で暴きだす。これなら、このタイミングなら——)
全人類に、地球から出ていけというエゥーゴの思想、その全てに、必ずしも共感できるわけではない。だが、逃げ場のないコロニーへの毒ガス攻撃の残忍さ……散々地球を痛めつけてきたコロニー落としを戦力として選ぶ非常さ……地上での核兵器の使用とそれに伴う汚染……そして、人類が文化レベルで保証してきたはずの、思想と言論の自由を弾圧するような示威行為の数々……人類史の過ちのハイライトとでも言うべき数々の悪業。ティターンズにあらずんば人にあらずと言う高笑いが聞こえるような、連中の横暴には、もはや腹に据えかねるものがあった。理解できないものを見下し、歯向かうものをねじ伏せるしか能のない連中に、一矢報いてやるべきだ。そのための力は、今の宇宙にはエゥーゴしかない。これまでの忍耐とは裏腹に、ブライトマンの動機も、蓋を開ければその程度の稚拙なものだった。
だが、人が動くには、それで十分だ。
人が動く。時代が動く。ここからは、理屈ではない。時代の波と、熱を、肌が、魂が、感じている。
「世間がひっくり返るぞ。」
詰め寄る見張りの兵に、ブライトマンは静かに言う。
「何……何だ?」
「今が、”その時”だ!」
叫んだ。
場に、緊張が走る。
警備の兵の後方、何名かが、弾けるように動き出し、小銃を放った。
「何だ!?」
動揺の声をあげる目の前の兵士を、ブライトマンは咄嗟に組伏せる。
ブリッジを囲い込んでいた見張りが、皆、足元を抱え込んで呻いている。行方をくらましていたキアヌ・ファーブル少尉と、数名の兵士が、見張りに紛れている。
「艦を奪うぞ、1班の面子以外は排除しろ!」
ブライトマンが叫ぶ。一瞬の動揺の後、ブリッジにいた面々は、オウ!と雄たけびで応えた。
■■■■■■■■■■■■■■■
「反乱……!」
”サクラ”の護送に随伴していた、EFMP第1部隊第1班MS隊隊長バギー・ブッシュ中尉は、即座に反応した。分かっていた。逆に、いつ事を起こすのか、待っていたのだ。ブリッジごと吹き飛ばしてやろうかと思ったが、中には仲間がいる。スペースノイドどもには冷徹になれるが、仲間ごと敵を吹き飛ばすほど、非道ではない。
だが、警告はする。ビームマシンガンの銃口を向け、数発ビームをかすめて見せた後、オープン回線を飛ばす。
「ブライトマン!抵抗すればブリッジごと吹き飛ばす!」
非道ではない、と、自分に言い聞かせたが、いざとなればそうもなれる。中にいる兵も、そういう覚悟はあるはずだ。
サクラの主砲がこちらを向く。
いつのまにか、砲身の封印が剝がされている。砲塔付近をふわふわと漂う、白いノーマルスーツが見えた。
「貴様ら……!」
やはり、初めからそのつもらだった。艦のあちこちに、伏兵がいたと言うことだ。ここで反乱を起こし、艦を奪うつもりだったのだろう。準備をしていたに違いない。バギーが叫ぶや、主砲が火を吹いた。MSには当たらない。MS戦の黎明期から、艦砲射撃は大味すぎてMSにはまず当たらないと言うのが常識だった。だが、バギーの小隊3機は咄嗟に散開して火砲をかわした。
おそらく艦内はもう制圧されている。
だが、MSは積んでいない。ヤツらの予備機は、先日の襲撃騒ぎで全て失われているし、1キャバルリーは先に別の船で運び込んである。こうなったときに、敵にMSがいなければ、制圧はたやすい。MSからすれば、戦艦など巨大な的だ。ましてや、こんな旧式の試作艦など、取るに足らない。
「警告はしたぞ、ラッキー・ブライトマン!あの世で部下に詫びるが良い!」
今度こそ、ブリッジを吹き飛ばすつもりで、銃口を向けた。
『させると思うか——?』
通信機に、聞き覚えのある、不快な声が入った。
同時に、数条のビームが機体の傍を走る。バギーら、シュトゥルム・ザック隊は、再び散開せざるを得なかった。
「化けて出たか!!」
視界を巡らせると、白い機体が3つ、勢いよくこちらに突っ込んでくる。
第2部隊の主力機キャバルリー……そして、先ほどの声は……
「ヘント・ミューラー!!」
バギーが絶叫すると、白い機体が思い切りぶつかってきた。
~~~~~~~~~~~~~~~
整備兵どもが、突如、牙をむいた。
「殺すつもりはない!」
あの、愛嬌のある小男が指揮している。
「こ、殺さないでぇ~!」
サイラスとか言う、黒髪眼鏡の技術者が人質のような格好になっている。芝居のようにもみえるが、本当に怯えているようにも見える。どちらでもいい。今は、生き延びねば。アランは、物陰に身を潜めながら、ミヤギのいるコンパートメントの方に向かった。
廊下では既に、”ブルーウイング”の仲間がバリケードを設置して、防御を固めていた。
「よし、それでいい。」
仲間たちに声を掛け、アランはさらに奥へとすり抜けていく。
コンパートメントのドアの前では、パイロット用のノーマルスーツを着込んだチタが仁王立ちをしている。
「どけ。」
「嫌です。」
「どけ、女に手荒なことはしたくない。」
「今まで散々、あなたはキョウに手荒だった。」
「紳士的に対応してきたつもりだが。」
「その気のない相手を口説き続けて、土足で心に踏み入ろうとすることが、手荒な真似ではないとでも?」
「今はそんなことを言っているときじゃないだろうが!」
細い二の腕をぐっと掴むと、その場から押しのけ、ドアを開ける。案の定、中には抜群に冴えた顔色の、キョウ・ミヤギが立っていた。既に、青いノーマルスーツに身を包み、その意識を戦場に向けているように見えた。
「……ヘント・ミューラーはどこにいる。」
アランは、不意に閃き、そんなことを口にした。
「彼は……亡くなりました。」
「嘘だな。だったら君の顔色がそんなにいいはずがない。」
どういうカラクリかは分からないが、暗殺事件はブライトマンが打った芝居だったか。
「まさかと思うが、ドックに行って、機体に乗るつもりじゃあるまいな。」
「よくお分かりで。」
「バカか。」
アランは、持っていた拳銃をミヤギに向ける。
「EFMPの連中が護送中だったな。そこで反乱でも起こしているのか?エゥーゴの、シャアの演説に乗っかって?」
ミヤギは何も応えない。琥珀色の瞳を油断なく光らせ、アランをじっと見つめるだけだ。
「そんなことをして、どうなる?あのカスみたいな、ティターンズの少佐の包囲は抜けられるだろうが……その後はどうするんだ?」
行くな、と、言外に言っている。
「もうすぐ、白馬の王子様が迎えに来るか?だが、どうするんだ?そいつと一緒に行っても……」
エゥーゴと合流するのか?だとしても、新たな戦火に身を投じるだけだ。
「行くな、キョウ・ミヤギ。」
言葉にならない。アランは、拳銃を構え直し、静かに、それだけ言った。
「行きます。どいてください。」
ようやく応えてくれたその言葉は、アランをはっきりと拒絶していた。
「駄目だ。」
「駄目です。銃を下ろして。どいてください。」
「駄目だ。行ったら、死ぬ。」
死なせたくない。
「分かってるだろ。俺は、ホントに——お前を、死なせたくない。」
「なら、あなたは撃てない。」
静かに言う。この女、意外に、したたかだ。
「行きます。」
歩き出そうとするミヤギの足元に、一発、威嚇で銃弾を放つ。
「本気だ。俺は、本気で君に惚れてる。惚れてる女が、むざむざ叛逆者になりに行くのは見過ごせない。」
「本気なのは、こっちだって……!」
背後からチタ・ハヤミの声。同時に、後頭部に、固い物が押し当てられる。銃か。
「手荒なことを。」
「銃を捨てて、アラン中尉。」
チタに促され、アランは持っていた銃を、床に置き、両手をあげる。
廊下の向こうから、おお、と雄叫びが聞こえる。おそらく、仲間の守りが突破された。間もなく、猟兵と化した整備兵どもが、なだれ込んでくるだろう。
ミヤギは、アランの足元から銃を拾うと、間近に立った。
「ありがとう、アラン・ボーモント。あなたが、あなたなりの立場で、私を守ろうとしていたことは知っていました……。」
それは、忘れません、とだけ言うと、すっとアランの横をすり抜け、チタ・ハヤミと2人、銃声の鳴り響く廊下へと駆けだした。彼女が通ったあと、涼やかな香りが、わずかに鼻腔をくすぐった。
華奢な背中が去った後の、開け放たれたドアを、アランはしばらく見ていたが、やがて、少年のようにしゃくりあげ、握った拳の背で、グッと涙を拭った。
■■■■■■■■■■■■■■■
「ご無事で!」
廊下に出ると小銃を抱えた”ジュニア”がすぐに駆け寄ってきた。
「そりゃあもう!このとおり!」
チタがとびきり嬉しそうに応じる。こういうときも明るくいられるのは、チタの良いところだと、ミヤギは思った。肝が据わっている。だからきっと、自分とこうも相性がいいのだ。
「この先、大丈夫ですね?」
ミヤギが確認すると、”ジュニア”は、ええ、と短く返事をする。
「父と、仲間が制圧しています。」
ですが、と、続ける。
「すぐ増援が来るでしょう。さっさとずらかって、ヘントさんたちと合流を。」
駆けていくと、ドックの入り口に、懐かしい顔が見えた。
「”キッド”!」
昔と変わらない愛嬌のある笑顔で、はやく、と手招きする。
「準備はできてます、機体に、火は入ってますよ!」
”キッド”が早口に言う。”ジュニア”には、はやくカーゴに乗れ、と促した。
「どうやって準備したんです?」
「アナハイムにも、ちょっとツテがありまして……個人的に。」
「……本当に、何者ですか、あなたは。」
ミヤギが舌を巻くと、"キッド"はニヤッと笑った。
「どれに乗ればいいかは……わかりますね?」
言われて見上げると、火の入っている機体——その頭部には、デュアル・アイが輝いている——
「”ガンダム”——!?」
「我々はカーゴで脱出します。掩護、お願いできますね!?」
言って、”キッド”はカーゴに乗り込んだ。
「わたしも、いっしょに……!」
チタが言う。一緒にコクピットに乗る、ということらしい。
チタの手を引き、地面を蹴る。ドックの重力は切られていた。
開け放たれたハッチから、コクピットに滑り込むと、機体データを手早く確認する。
なんということはない、今まで使ってきたジムの頭をガンダムのものに、ランドセルをキャバルリーと同型のものに挿げ替えたただけだ。多少、推進力は増したが、性能に大きな変化はない。機体バランスがちぐはぐな分、かえって扱いづらそうな印象を受ける。だが、なんだろうか——不思議な力を感じる気がする。
(ガンダムには、魔力があるのかもしれない——。)
かつて、砂漠の戦場で、ヘントがそんなことを言っていた。
分かる気がする。
頭をデュアル・アイに替えた。それによって、この場にいる味方の期待や希望が、ここに集まってくる。ミヤギはその拡張された認知力で、確かに感じ取る。その感情の波が、機体に力を与える——これは、この機体は、紛れもなく”ガンダム”だ。
『"ニュータイプ"の中尉が乗る、”ガンダム”。そいつを旗頭にして、ティターンズに一発、ぶちかまします。』
そのために中佐と準備をしてきました、と、”キッド”の明るい声が、スピーカーから響く。
「キョウ専用ガンダム、ね。いいじゃない。」
隣のチタも、楽しそうだ。
「”ガンダム・ヴァルキュリア”なんて、どうかしら?」
機体の呼び名のことだろう。
「いいわね、最高。」
コンソールパネルを確認しながら、ミヤギも明るく応じる。通り名は好きではないが、"戦乙女(ヴァルキュリア)"の音は、もはや馴染みのある響きで、心地の良さすら感じる。
「ライフルは使えますね?」
通信機越し、”キッド”に確認すると、もちろん、と元気な声が返ってくる。手元の表示も、エネルギーゲインは十分なことを知らせている。
「隔壁、閉まってます!?」
『さっき、中尉が入った後にしっかり閉じましたよ!』
「よし!」
ライフルをハッチに向けて構えると、一撃を放って、吹き飛ばす。わあ、とチタが感嘆の声をあげた。吹き飛ばされたハッチから、真空の宇宙に向けて、ドック内の空気が勢いよく噴き出していく。ここから、機体も外に出す。
「ね、ね……!あれ、言って!あれ!」
はしゃぐチタの顔を見て、ミヤギは一瞬微笑むと、すぐに表情を引き締める。
スロットルレバーを握ると、しっかり捕まって、とチタに言う。
「キョウ・ミヤギ、ガンダム・ヴァルキュリア、行きます!!」
【#53 The day of Dakar / Nov.16.0087 fin.】
次回、
MS戦記異聞シャドウファントム
#54 Before the storm of the universe
生き残れ——!
なんちゃって笑
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
またのお越しを心よりお待ちしております。
ヘントくん、生きててよかったね。
















オリジナルストーリー第53話
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ぶんどどデジラマストーリー投稿アカウントです。励みになりますので、ストーリーのご感想、ぜひ!お聞かせください!コメント嬉しいです!誤字脱字の訂正なども、あったらこっそり教えてください笑
技術がないので、基本的に無改造。キットの基本形成のままですが、できる限り継ぎ目けしや塗装などをして仕上げたいと思っています。
ブンドド写真は同じキットを何度も使って、様々なシチュエーションの投稿をする場合もあります、あしからず。
F91、クロスボーン、リックディアスあたりが好きです。
皆さんとの交流も楽しみにしておりますので、お気軽にコメントなどもいただけますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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