【二次創作】出港前夜
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とあるジオンの酒場。
束の間の休息に酒を酌み交わす兵たちの賑わいの中・・・奥のテーブルに差し向かいに座りくつろいだ様子で酒を交わす仮面姿の若き将校と老士官。
「マシンガンだ、バズーカだ、なんてぇのは甘えだ。手斧一丁ありゃ充分よ。
ようは不慣れな連中は相手の間合いに入るのがおっかね~から、飛び道具が欲しくなるんだ。」老士官は赤ら顔で自説を続けた。仮面の若き将校は時折相槌を打ち、口元に細い笑みを浮かべて聴いている。
老士官は続けた。
「なぁ、わかるだろ?遠くの方から敵艦に向けてぱちぱち撃って戦争した気分になってる新米どもが多すぎる。
盾なんてもんもいらん。あんなもの持ったら無駄に重くなる分、ザクの機動性が落ちる。機動性が落ちるから敵弾に当たりやすくなる。
戦艦の主砲も機銃も当たらなけりゃどうということはない。さっさと相手にへばりつきゃ敵艦は自分自身に向けて撃ってくることはできんのさ。
赤い彗星と呼ばれたお前さんならわかるだろう? いかに素早く相手の懐に飛び込んで艦橋や動力部をぶっ叩いてずらかるか、だ」自信満々の笑顔で飲み干したジョッキをテーブルに置いた。
「ザクの機動性があればこそそれが可能、と・・・いうことだな」仮面の将校は思案げに同意する。
「そうだ。ザクはわしのようなロートルでも戦場で若いキツネのような俊敏さを与えてくれる。敵さんも小さくてすばしっこいマトには当てづらい。ザクは戦争を根っこから変える力を持ってる」老士官は胸をはる。
「まだロートルという歳でもなかろう」若き将校の仮面の下の表情は見えないが、その言葉には猫の背を撫でるときのような静かな親密さがある。
「がはは、赤い彗星も世辞を言うのか、こりゃ愉快だ(笑)おい店主!酒をもう一杯だ!」
「こんな私でも戦果を上げてきた年長者への敬意は心得ているつもりだ」
「ふん、もう過去のことよ。戦果を上げても偉いさんには俺様の戦い方が気に食わんらしい、戦列を乱す、とな。表向きは出世だが後方からの補給任務へ島流しだ。ようは奴ら、厄介払いがしたいのさ。」
「艦長就任おめでとう。乾杯だ。戦場にあって補給も大切な任務だろう。ろくに食べるものがなければ兵の士気も上がらんというものだ。」
「がはは、それは褒め言葉として受け取っておこう。退役間近の俺様が退役間近の老補給艦の艦長様だ(笑)笑えるだろう。弾除けがわりにでもいいから前線に送ってくれりゃ兵として名を残す華々しい最期を迎えられるってもんをよ。これからはお前ら若いもんの時代だ。」
「死ぬな。飲み相手が居なくて困る。」
「冗談言うない!ガルマ様のご学友ともあろうお方が(笑)」
「私はあまり冗談を言わないタチでな。友と呼べる者は少ない。それにガルマは今、地球だ。」
「地球方面軍司令とはご立派になられたものだ。我々ジオンの星よ、なぁ!
とにかく、補給が欲しくなったらいつでも呼んでくれ。赤い彗星の所望とあればたとえそれがクラッカー1箱だろうとも、どこへでも持って駆けつけよう。」
「ふん、頼もしいな。よろしく頼む。
「相手の懐に飛び込む」か、今夜はいい話を聞かせてもらった。続きは戻ったらまた聞かせてくれ。」
「おぅ、もう帰るのか、珍しいな。まだ飲み始めたばかりじゃないか。」
「明朝出港するのでな。」
「・・・無駄に死ぬなよ。こうしてルウムでの話をしながら酒を飲む相手がいないとわしもつまらん。」
「うむ、なぁに、連邦が物騒な物を隠し持っていないか見て回るだけの簡単な仕事だ。今回連れて行く新兵がうっかり私の背中を撃ちでもしない限り死ぬような作戦ではないさ。私とてまだ死にたくはないものだ。」
「ふふふ、赤い彗星なら新兵のへなちょこ弾などかすりもせんだろうに。なるほど少佐殿ともなるとそれなりの面倒がついてまわるもんだ。
ドズル閣下からファルメルと新しいザクをもらったそうじゃないか。ジオンにその名も轟く赤い彗星、気に入られたもんだ。帰ったらそれがどれほどぶっ飛んだ性能と乗り心地か聞かせてくれ。」
「うむ、土産話を期待してくれて構わない。」
「こんな戦争じき終わるさ。連邦のウスノロどもにザビ家が鉄槌を喰らわせてな。それまでにせいぜい軍功を上げとけ赤い彗星(笑)」
「そうだな、じきに終わる。ザビ家とともに。」仮面姿の若き将校は静かに席を立ち老士官に会釈した。
老士官は仮面の将校を見上げるかたちで言った。
「お、おうよ!ザビ家と共にあれだ。ザビ家バンザイだ!」
酒場でそれまで各々談笑に耽っていた兵たちは老士官のその言葉に気付き、口々に声を上げ始める。「ザビ家とともに!」「ザビ家とともに!」「ジーク、ジオン!」「ジーク、ジオン!」声は次第に高揚し気勢は止まらない。
その熱情の中、背を向けた去り際にニヤリとした若き将校の、仮面の下の瞳に宿る決意に満ちた怪しい光を老士官は知るよしもなかった。
旧ザクを製作しました:
コメント
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古参の武人としてザクの対艦戦のみ想定している話のガデムと、連邦が隠し持つもの(極秘裏に開発されているであろうMS)を探す任務を負う赤い彗星。
友として酒を酌み交わしながらも、新旧交代の雰囲気と、実直にザビ家の下でジオンの勝利を想うガデムと、一方で「終わる、ザビ家と共に」という言葉に復讐の含みを残す赤い彗星の想い描く終戦のカタチの違いを感じていただければ幸いです
ここまで良いストーリで、「シャア」と言う単語が出てこないのがまた良い!
ねこネコさん ありがとうございます😊
そうですシャア、ガデムという名を敢えて出さずに描いてみました。
はじめまして 素敵なサイドストーリーでした 楽しかったです 呟きに投稿は勿体ない気がします ありがとうございます
フリーダム-ウイングさん ありがとうございます😊
第3話「敵の補給艦を叩け」でのシャアとガデムとのやりとりや行動は、単なる友軍の将同士という以上の結びつきというか絆のようなものを感じたので、背景にこんなエピソードがあったら良いなぁと思い書いてみました。拙い文を読んでいただきありがとうございます😊
自称模型製作愛好家。
第一次ガンプラブームを小学生で過ごした世代。
それから40年ほど模型作りそのものから離れていました。
小学生の頃初めて作ったガンプラはたしかベストメカコレクションのガンキャノン。
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