LIGHTNING REDEMPTIONエピローグ
これは、書かないつもりでしたし、書いたとしても公開しないつもりでしたが、ヨッチャKIDさんからの後推しもあり、公開してみました。つぶやきなら、いいのかな、と思いこちらに。
さて、これを書かねば・書きたいと思ったのは、個人的な体験のせいです。2月のある日のことでした。
生きるチャンスを与えられなかった人がいる。
そういう、話を聞く機会を得ました。
忘れていたわけではありませんが、思い出しました。
3月11日の話を聞いて。わたしも、故郷の景色を失いました。
だから、この3月、公開したいと思いました。
またまた、ガンプラ投稿サイトにはふさわしくない投稿かもしれません。エゴだとか、承認欲求だと批判されてもいい。でも、表現せずにはいられなかった。伝えたかったのです。どうしても。
たった一人でもいい。
あなたに、お読みいただけることを、うれしく思います。
(pixiv委嘱は完了しましたが、このまま残したいと思います。)
Epilogue:遠雷の終焉
「いいのか……?」
言って、男は恐る恐る、視線をあげる。がっしりとした大柄な体が、小さく縮こまっていた。
病室は、静かで清潔だ。規則正しい心電図の音が、その静寂をより一層意識させた。
視線は、女の胸元当たりで止まる。赤子が抱かれている。薄い肌は、文字通り赤く、微かに開かれた口から、静かな、浅い吐息が漏れている。つい一昨日、この世に生まれ出たばかりの新生児だ。女の夫は、今は席を外している。
「ああ、むしろ……いいのか、アンタこそ。」
女が問い返す。
「何がだ?」
「映像を見た。コロニー落としの。」
「……胎教に悪そうなものを……。」
「この子が来てくれる、もっと、ずっと前だよ。」
心配してくれて、ありがとう、と女は静かに言う。
「酷いもんだね。あんな……。」
男は、コロニー落としで妻子を失っている。
「ああ、骨も残らなかった。その身の欠片も、わたしの許には帰ってこなかったよ。」
女は、しばらく黙っていた。
自然災害ならばどこかで踏ん切りをつけられよう。だが、あんな……顔も知らない、誰かの悪意によって、理不尽に、大切な人々を奪われてしまったら……一体誰が、何が、その怒りを鎮められるだろうか。
その怒りに身を焦がし、ただ、戦いの荒野に身を投じていた。そんな頃、この2人は、互いに傷付け合う立場にいて、そして、取り返しのつかない傷を負った。
「あたしも夫も、作戦には参加はしてない。けど、あの作戦で名を揚げた人たちの下にいた。その人たちに、恩義も感じてる。あたしも、あの人も。」
今度は男が黙る。
「夫にすれば、みんな憧れの人だ。血は繋がっていないが、想いは繋がってる。そんな2人の子だよ。」
抱けるのか、アンタは、と、女は静かに言う。その声に、懺悔の気配も、哀れみの色もない。ただ、人間なら当たり前にそう感じるだろう、と、静かに投げ掛けているだけだ。
男は、黙って、そっと、手を差し出す。
女は微笑むと、その腕の中に、生まれたばかりの我が子を抱かせてやった。
その軽さと、柔らかさに触れ——男は、涙を流した。
大粒の涙が、とめどなく、流れる。
何の涙かは、本人にも、分からないだろう。
「”サラ”と名付けることにした。」
女のつぶやきを聞いて、男はハッと顔をあげる。
その名は、目の前の女にとって、とても大事な者の名だった。そして、もともとその名を持っていた者は、彼がこの世から消し去った。
「でも、代わりにはしない。この子にも、話さない。ただ、あたしや、あの人が忘れないために……。」
そういう女の顔は、やはり落ち着いている。悔恨や後ろめたさはない。だが、悟りや達観もない。ただ、日常に生きる、母親の顔をしていた。
「代わりなんていないんだよ、誰にも。誰も、誰かの代わりにはなれない。」
もう一度、静かに呟いた。
「だから、アンタも忘れないでよ。あたしたちと、共に歩むって決めてくれたなら。」
そう言って微笑む女の顔を見て、男は、一度、サラ、とその名を呟いた。
「サラ……。」
もう一度、その名を呼ぶ。
赤子は、静かに笑った。腕の中に在る、そのわずか50 cmの小さな命は、ただ、温かかった。
生きるチャンスを、与えられなかった者もいる。
そのチャンスを、奪った者もいる。
そんな宇宙の中の、この、家族と呼ぶには少し複雑で、奇妙なコミュニティーに、この子は生を受けた。
「デニーさん、さ。」
女が優しい声で言う。かつて、妻にしか許さなかった、その名で呼ばれることに、男はもう拘泥しない。
「弟か、妹もって、 家の人と話してる。」
「……気が早いな。」
「助け合える相手は多い方がいいよ。あたしも、マイロも、アンタも、この子より先に死ぬ。」
戦場で、てのは勘弁だけどね、と軽い調子で笑う。
「そういう世の中にしようよ。子どもたちがさ、当たり前に、親より後に死ねるような。」
「……そうだな。」
それで、と、男——デニー・マイセン・ライオスは先ほどの話の続きを促す。
「ああ、そうそう。もう1人。できれば、さらに1人は、欲しいかなぁ、って。そんで、なんとなく……女の子のような気がしてるんだよね。」
「……”ニュータイプ”か?」
「こういう勘のことをそう言うなら、女は太古の昔から”ニュータイプ”だよ。」
からからと笑うその笑顔に、マイセンもフッと頬を緩めた。
「でね、デニーさん。次の女の子には、あんたの娘さんか、奥さんの名前をもらったらどうかって、あの人がね……。」
マイセンの腕の中で、赤ん坊が泣きだしたので、女はそっと受け取り、あやしつける。
「お腹が空いたみたいだ。悪いけど、外してくれ。」
「ああ、すまない。」
マイセンは、袖口で涙を拭うと、席を立った。
病室を出ると、先ほどの提案に返事をしなかったことを、ふと思い出した。
悪くない申し出だ——……だが、断っておこう。
マイセンはそう思った。
命の意味。そんな言葉が頭を過ぎった。
だが、その意味は、誰かから押し付けられるものではない。
もし、次に生まれてくる命に……例えば、”アリス”と名付けるのは、マイセンにとって、”意味”が強すぎると思えたのだ。
(せっかく、お前のことを考えてやったってのに……!)
先ほどの女の夫——マイロ・アンダーソンが、憎まれ口をたたく顔が思い浮かんだが、その想像が絶対に断ってやろう、と、マイセンの決意を固くさせた。
そして、口角をわずかにあげると、廊下をゆっくりと歩いた。
遠雷の終焉・完
▶︎pixiv版(挿絵、あとがき付)






