君の視線をくぎ付けにするッ!
「たのもう!」
ある日の夕暮れ。アスティカシア高等専門学園、地球寮のハンガーの入り口に一人の男の声が響く。奇妙な面を付け、制服の上に角張ったデザインのジャケットを着た男だ。何事かと集まってくる地球寮の面々。男は、その中にスレッタ・マーキュリーの姿を見つけると、
「スレッタ・マーキュリー、君に決闘を申し込む!」
男は真っ直ぐにスレッタを見据え言い放つ。しかし、そんな男の視界に、何やらぽわぽわとしたピンク色のものが視界を覆うように現れるや否や、
「あぁ、なんだテメー!いきなり来て何言ってんだ!コラ」
「チュチュ、ダメだよー、ケンカ腰は」
チュチュとニカである。男はそんな二人のやりとりを一瞥すると、その顔に付けた面を外し、スレッタを見据え言う。
「あえて言おう!グラハム・エイカー。君に心、奪われた者だ!!」
「…はぇぃ?」
思わず声が裏返ってしまうスレッタである。
「私が勝った暁には、君を我が妻に迎え入れる」
まさに開いた口が塞がらないといった地球寮の面々をよそに、男、グラハム・エイカーは一人、話し続ける。
「私が負けた場合は、如何様にしてもらって構わない。男の誓いに訂正はない」
そうして、グラハムは大事な事は二度言う、と言わんばかりに、利き腕である左手の人差し指をビシリと、スレッタ、…いや、その後ろに屹立しているエアリアルを指差し、声を張り上げる。
「私が勝った暁には。君(エアリアル)を貰い受ける!」
…夕暮れの中、長い影を引きずり去っていくグラハム。それを見ながら、一人、また一人とヤレヤレといった様子でその場を去る地球寮の面々。最後までそこに残っていた、…いや、ほうけていたスレッタ、ゆるゆると自分を指差すと言う。
「わ、私じゃないんですか…」
…そして、数日後。決闘は、始まる。
「…初めましてだな!…ガンダムッ!!」
決闘が始まってすぐ、スレッタは自分の目を疑うことになる。目の前のモニター、画面に表示される相手の機体情報、そして、距離。距離500。
「え…」
決闘が始まった際、互いのコンテナは、1500ほどの距離があったはず、そんなに広いフィールドではない、しかし平坦でもない。障害物も多い。にも関わらず、
「は、速くないですか…」
狼狽するスレッタ、しかしそこは、ホルダー、そしてエアリアルである。瞬時にエスカッシャン、ガンビットを展開する。それと同時に、モニターに映るこちらに真っ直ぐ、地面すれすれを飛ぶように突っ込んで来る黒いハインドリーを捉える。
黒いハインドリー、自ら「スサノオウ」と名付けた機体のコクピットの中、モニターに捉えたエアリアルを見据え、グラハムは言い放つ。
「抱きしめたいなッ!ガンダムッ!!」
両手を広げ、真っ直ぐ突っ込んで来る黒いハインドリーに困惑しながらも、正確にその機体の各部をロックオンしていく、ガンビットは既に相手の左右、そして後方に展開している。後は減速の瞬間に斉射すれば良い。
しかし、そのタイミングが訪れたスレッタに待っていたのは、この決闘が始まって二度目の驚嘆。躱されたのだ。前後左右、ほぼ全方位からの攻撃を。黒いハインドリーは、縦軸を中心にくるりと機体を回転させ躱わすと、そのまま、タックルするようにエアリアルにぶつかって来る。
その様子を中継で観ていたチュチュが叫ぶ。
「ウソだろっ、背中に目ぇついてんのかよっ!」
そんなチュチュの声はコクピットにいるグラハムには聞こえない。しかし当のグラハムは、まるでチュチュと会話しているかのように叫び返す。
「心眼は鍛えているッ!」
エアリアルの上に馬乗りになった黒いハインドリーは、その手でエアリアルの頭部をガシと掴み上げると、コクピットのグラハムは薄く笑みをたたえ言う。
「…まるで、眠り姫だな」
その駆動性能、推力で組み敷かれた状態から一旦脱出したエアリアルだったが、黒いハインドリーから距離を取ることが出来ずにいた。ライフルや、ガンビットでの攻撃をしようと距離を取るが、黒いハインドリーの加速性能は高く、すぐに懐に入られてしまうのだ。
スレッタが焦っているのが、中継を観ているチュチュ達にも分かる。
「オ、オイ、だんだん押し込まれてね」
「ハインドリーってのは、そんなに性能が良いのかよっ」
「連携戦闘重視の機体だから、単体での性能はそれほどでもないはず…」
そんなチュチュ達の会話など、コクピットのグラハムには聞こえる筈は無い。しかし、今まさにエアリアルを切り裂かんとビームサーベルを振り上げるスサノオウのコクピットの中で、グラハムは裂帛の気合いと共に叫ぶ。
「どれほどの性能差があろうとも!」
「今日の私はっ!」
「阿修羅すら凌駕する存在だッ!!」
グラハムの振り下ろした渾身の一撃は、エアリアルのビームライフルを中程から両断する。エアリアルの回避行動の方が早かったのだ。しかし、スレッタの動揺は大きくなるばかりだ。矢継ぎ早に繰り出される黒いハインドリーの攻撃に動揺を隠せないスレッタに、
「おちつきなさい、スレッタ」
冷静な、ミオリネの声が届く。
「いい、落ち着いて思い返して、相手はワケの分からない事を言いながら真っ直ぐ突っ込んで来るだけ、操縦技術も、MSの性能も、アンタの方が上!」
「み、ミオリネさん…」
「それに、アンタまだ前に進んでないでしょ。…進めば…、でしょう」
エアリアルの動きが変わる。動きの質が。周囲に展開していたガンビットがエアリアルの各部に装着される。断ち切られたライフルを投げ捨てると、その右手にビームサーベルを抜き放つ。
その動きは、グラハムには、己の信念の為、命を賭して戦う戦士のように見えた。
「そうだ。それでいい」
「やはり、私と君は、運命の赤い糸で結ばれていた。戦う運命にあった!」
グラハムは叫ぶ。それが合図のように、向かい合う二機のMSが爆発的に前に進む。互いに低い姿勢から、まるで鏡合わせのように同じ動きでビームサーベルを下から切り上げる。
「君の圧倒的な性能に私は心奪われた、この気持ち、まさしく愛だ!」
ぶつかり合うビームサーベルのスパークを浴び光るエアリアルの顔を見据え、吠えるグラハム。
「私のものになれ!ガンダムッ!!…もはや愛を超え、憎しみを超越し、宿命となった!」
スレッタもまた、サーベルの光に照らされる黒いハインドリーの頭部に向かって声を張り上げる。
「わかりません、あなたが何を言っているのか全っ然わかりません!」
「でも、これだけは言えます。ガンダムはっ、エアリアルはっ、あなたのものじゃありません!」
互いのサーベルが弾かれる。頭の上に弾かれたサーベル、向かい合う二機のMSはそのままサーベルを大上段に構える。あとは、振り下ろすのみ。
「私がっ!」
スレッタが叫ぶ。
「私たちがっ!」
「(株式会社)ガンダムですっ!!」
「なッ、なにッ!」
一瞬だった。一瞬振り下ろすのを遅れた黒いハインドリーの腕の隙間を、エアリアルのサーベルが、一閃する。
…決闘終了の合図が鳴り響く中、ブレードアンテナを根本から断ち切られたスサノオウのコクピットの中で、どこか満足そうなグラハムはつぶやく。
「見事だ。ガンダム…いや、スレッタ・マーキュリー」
心の底からの声を聞いたような気がした。その瞬間、レバーを握る手の動きが止まったのだ。
グラハム・エイカー
グラスレー寮の生徒。パイロット科。乙女座の17歳、左利き。エース級の人材が多いグラスレー寮の中でも、指折りのパイロットである。
学園に入学して間もなく、アーカイブ内で閲覧した、遥か昔、地球の小さな島国に存在した、戦士。SAMURAI、BUSHI、彼らの生き様に深い感銘を受けたグラハム・エイカーは、アーカイブ内にあるそれっぽい資料を読み漁る。彼らのようないでたちをし、彼らのような生活をし、彼らのように信念に満ちた生き方をしたいと。自らJINBAORIと呼ばれる衣装を模したジャケットを仕立て上げ、KABUTOに付属する面を模したマスクを作り。そうして、それらを身に着けると、自らをブシドーと名乗った。そして、誰に言われるでもなく、早起きをし、校庭を掃き掃除し、週に四日ほどは、SHOUJINMESHIと言って、野菜中心の食事をし、共有スペースのシャワールームで、冷水を浴びながら何やら唱えている所が目撃されている。(それは、サムライではなく、お坊さんなのでは…)
黙っていれば、学園内で上位に入る程のイケメン。黙っていれば…。
パイロット科に、ハワード・メイサン、ダリル・ラッジ。メカニック科に、アリー・カタギリと言う友人がいる。
ハインドリーブシドースペシャル スサノオウ
グラスレー社の汎用機であるハインドリーを、グラハムの趣味嗜好を重視してカスタマイズした機体。グラハムの趣味により、主に二振りのビームサーベルで戦う。基本スペックは通常のハインドリーとさほど変わらない。ただ、加速性能に全振りした機体調整がされており、最終的にパイロットのことを考えない機体となっている。その為、グラハムは凄まじいGに耐え、吐血しながら操縦している。
加速性能に全振りした性能、これは、ハインドリー本来のスラスターを含めた全てのスラスター口が、メカニック科のアリーの案により、コーンタイプのものに置き換えられており、これよって異常とも言える加速性能を持つに至った。非常に扱い辛い機体になっており、学園広しといえど、グラハム以外、乗りこなせる者はいないだろう。
高出力ビームサーベル「ハワード」「ダリル」
友人達の名が付けられた二振りのビームサーベルがメイン武装である。左手に持つ長刀「ハワード」、右手の短刀「ダリル」。一見すると細身の刀身だが、通常のビームサーベルの二倍の出力を限界まで収束して、「刀」のような刀身を形成している。未使用時は、腿部に追加装着されたスラスターバインダー内に収納される。
ディフェンスロッドシールド
アリー考案による、新機軸のシールド。表面に薄くビームを纏わせることで、基部を中心に回転し、ビームを弾く。AI技術が転用されている。しかし、その扱いは非常に難しく、グラハム以外のパイロットからは、不評である。ただ、シールドと銘打っているだけはあり、非常に頑丈である為、そのまま殴りつけたり、トンファーのように打撃武器として使用することも可能である。尚、今回の決闘では、未装備、未使用である。
特徴的なシルエットを形成する、肩部に追加されたアーマー内には、ビーム砲が内蔵されている。胸部アーマーの迎撃用ビームガンと共に、手持ちの火器を持たないスサノオウの数少ない遠距離武装だ。ビームを散弾のように撃ち出す。当然のように射程は短い。
超硬度マテリアルブレード「不知火」「雲龍」
後に彼らの手により鍛え上げられたMS用実体剣。ディフェンスロッドシールドの技術が転用されており、刀身表面にビームを纏わせることで、凄まじいまでの切れ味を持つ。二本の剣を合体させることで「蒼天」となる。この名称だが、グラハムが最近覚えたと言う、「漢字」が使用されている。
尚、余談ではあるが、このグラハム・エイカー。後に、この剣でビームを弾いたり、切ったりする、変態パイロットになる。…のは、また別のお話。
トライパニッシャー
この機体の隠し超必殺技(笑)。両肩のビームに加え、胸部装甲内のビーム砲、この三門の砲口から放たれたビームは、機体前面に巨大な火球状のビームを形成、それを相手に放つ。…もはやギャグである。当然、決闘時に使っていいような威力ではない。
パイロット科の生徒ではあるものの、決闘などにはあまり興味が無かった。しかし、たまたま観ていた、スレッタとエランの決闘。エアリアルの姿を見たグラハムの乙女座のハートに電流が走る。
「美しい…、なんと素晴らしい女性(ひと)だ…」
最早、居ても立っても居られないグラハムは、友人達に相談する。
「ダリル、ハワード、私はスレッタ・マーキュリーに決闘を申し込もうと思う」
「オ、オイ、マジかよ」
「無理だろ、ホルダーだぜ。その場のノリでどうこうできるもんじゃねぇだろ」
「そのような道理、私の無理でこじ開ける」
決意を込めてグラハムは言う。
「ダリル、ハワード、君達の墓前に誓おう。私は必ず、あの美しい女性(エアリアル)を我がものとすると」
「…いや、オレ達まだ生きてるよ」
後日、決闘に負けた彼、いや、彼ら(三人の友人らも、巻き添えになっている)は、株式会社ガンダムの新入社員として、チュチュ先輩の指導のもと、(雑用という)業務に勤しんでいる。グラハムにいたっては、エアリアルを間近で見れる為、まんざらでもないようだ。
彼らは、グラスレー寮の生徒だが、シャディクらのグループとは一切、関係ないことを明記しておく。
時間軸的には、株式会社ガンダムを立ち上げて、皆でわいわいやってた辺りの話のイメージで。…てか、本編がえらい事になっている中、こんなノリのを投稿する、勇気ッ!(2回目)
コメント
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ハインドリーとスサノオが違和感なく融合してますね…!
面白い発想ですね
改造も凄いのに文章までもしっかりしている!!やりますな
この文章もまさしく、愛だ
この文的、モデラー気質、愛だけでもセンスだけでも到達し得ない…上手く言葉に出来ない、正直嫉妬してしまう、まるで仏前に座る心地でした。
プラモ好きの40代
サッと色塗ってパッと作るあまり複雑な改造はしない人(最近はパッと作ってはいない)
ガンダムvsシャークゴッグvsモサゴッグ 海獣大決戦!
夏がきたっ(もう遅い)!それはサメ映画の季節っ!ヤツらが、…
水星から吹く風ッ!それは黄金の疾風(かぜ)ッ‼︎
チュアチュリー•パンランチには、…夢があるッ!
RGM-F0 GUNDAM CALISTEPHUS
見上げ、夢見て、追想の先に、見上げた先になにを見るのか…。
RGM-89PST PROTO ST-GAN CYCLO…
公国の亡霊を内包した一つ目の巨人は、スコープの中になにを見る…