嵐の予兆

この映像に加えてサイド6側が提供した軍警機の無線記録とガンカメラ映像はこの部屋にいる面々にとって衝撃的な物ばかりだった。

[マヴがやられた…。早すぎる!コイツはジャンク屋の機体じゃない!至急応援を!]

映し出されているのはサイド6軍警察のMSA-003MPネモ。映像が始まった時点でこの機体は僚機を失っていた。パイロットは元ジオン軍兵で実戦経験も豊富だったが、この事態に対処できなかった。

そしてネモのガンカメラ映像に映し出された機体を見た面々、特にブライトや一年戦争を戦い抜いたベテラン将兵が色めき立った。それは彼らにとって伝説と言っても過言ではない、あのRX-78ガンダムだった。それが超高速でネモに迫っていた。

[なんなんだコイツは!?]

ネモのパイロットは叫びながらビームライフルを乱射するが掠りもしない。そしてガンダムは一瞬でネモを撃破し映像は終了した。ざわめく面々を前にブライトは口を開く。

[この戦いでパイロットは無事だったがネモ2機が撃墜された。この事態にサイド6政府は国連に応援を求めてきた。それで我々はここにいる。今回の相手は乗ってるのが誰だか知らんが"ガンダム"だ。それも頭だけのパチモノではなく正真正銘のガンダムだ。ここからは今回先遣隊としてペガサスでサイド6へ向かうシャリア・ブル中佐にこのガンダムについて解説してもらう]

そして面々の前にロンド・ベル隊参謀のシャリア・ブルが現れた。

[このサイド6に現れたガンダムは姿形こそあのアムロ・レイ大尉が乗っていたRX-78-02ガンダムと瓜二つですが、機体表記および戦闘機動などからシャアの反乱直後にシャイアン基地から行方不明となった高機動試験機RX-78-X00と思われます。そちらにいる技術本部やアナハイムの皆さんからも確認済みです。この機体は皆さんも噂程度には聞いている通り並みのパイロットでは動かすのでやっと。戦闘機動となるとニュータイプ並みの技量が必要となる超高機動機です。それをこの正体不明のパイロットは使いこなしている。つまりはアムロ大尉やシャアを相手に戦うと思って臨んでください]

シャリアのその言葉にブリーフィングルームにいる面々は凍りついた。

ブリーフィングが終了し、面々が部屋を後にする中、シャリアは映し出されているモニター画像を見ていた。そんな彼にブライトはこう声をかけた。

[やはり君も気になるか?]

[勿論です。あの一年戦争で"大佐"の傍で戦いました。映像でネモを撃破したあの機動はまるで…]

[シャアのようだ。私が見てきたアムロ・レイの戦い方とは違う。それこそ君が言う通りシャアの戦い方だ。技術本部からも一年戦争中やシャアの反乱時のシャア機の機動データや動作パターンからシャアの戦い方と酷似していると来ている]

[もし現地であのガンダムのパイロットがシャアだと判明した場合、参謀本部はシャアごと撃破しろと言うでしょうね。私の手持ちでは荷が重すぎます]

[そのために参謀本部に無理を言ってグラナダに保管していた例の試作機を君のペガサスに配置した]

[例のガンダムクァックスですか?]

[そうだ。君の隊には威力偵察を任せる。あのガンダムの正体が分かり次第本隊と合流だ]

ブライトからの命令を受けて部屋を後にしようとしたシャリアにブライトはこんな言葉を投げかけた。

[もしアレがシャアのガンダムなら君はシャアを殺せるか?]

その問にシャリアはこう返して部屋を去った。

[どうでしょうか]

同日シャリア・ブル率いるロンド・ベル先遣隊は旗艦ペガサス級[ペガサス]、マゼラン級[ロドネイ]、サラミス級[シェフィールド]でグラナダを出撃。一路サイド6イズマコロニーへ向かった。