見上げ、夢見て、追想の先に、見上げた先になにを見るのか…。
空を見るのが好きだった。とはいえ、見えるのは青空ではなく、「向こう」側の街なのだが。そう考えると、「空」ではなく「上」を見ることが好きだったのだと思う。
私はコロニーの生まれだ。サイドI、30バンチ。体が弱く、入退院を繰り返していた幼い私は、大きな手術の為、月の病院へ両親と離れ入院した。月の低重力が治療に必要だったからだ。とはいえ、5歳の頃だ、あまりよくも覚えていないのだが。でも、これだけは覚えている。手術の日、私の父と母は来なかった。手術の前日、UC0085、7月31日。ティターンズのバスク・オムの指揮により、サイドI30バンチコロニーにG3ガスが注入され、住民1500万人が死亡した。私の父と母もその中に含まれている。
泣かなかったと思う。退院後、私を引き取りに来た地球に住む叔父と叔母に対してひどく怒ったことは覚えている。地球、アイルランド、ダブリン。その郊外にある寄宿学校に入った私は、そこでは本物の青空を見て過ごしていた。そして何度か季節を繰り返した後、私は見た。ダブリン郊外、街を見下ろす丘の上で。空が落ちてくるのを。空を割り、落ちてくるスペースコロニー、人類の宇宙における大地が、私が生まれた所と同じものが、地球の大地に突き刺さるのを。…いつからだろう、「空」を、「上」を見なくなったのは。ダブリンの街に住んでいた叔父と叔母は、避難途中で橋の崩落に巻き込まれ、亡くなった。
…そして私はひとりになった。
RGM-F0(F00) カリステフス
UC0106〜0107にかけて、連邦軍内で行われたアナハイムとサナリィ、二社による次期主力MSを決める競合において、サナリィ側が用意したMS。サナリィに対し、MS開発に一日の長があるアナハイムは、自社で過去に開発した機体をベースに競合を行うことを提案。そうしてアナハイムより供与されたRGM-87(アナハイムにおける機体名ジムⅣ)は、サナリィMS開発部の若く、ハングリー精神溢れるスタッフ達により、弄り倒される。そうして生まれたのがこの機体である。型式番号にRGMとあるのはベースになった機体に対してであり、サナリィ側の型式番号はF00となる。
ベースとなったRGM-87ジムⅣだが、ジムⅢの後続機として二機のみ生産された。しかし、開発されたものの機体性能、運用方法の違いから、RGM-88Xジェダにその生産ラインを奪われている。
供与されたRGM-87は、スタッフらによってフレーム単位にまで分解される。そのフレームにサナリィで開発されたジェネレータ、関節部を始め様々なサナリィ製のパーツが組み込まれた。特にジェネレータに至っては、小型でありながら高出力、高い推進性能を備え、軽量かつ頑丈と非常に高い性能を持つものだった。サナリィ製のMSといえば15m級であるが、この機体はフレームがアナハイム製のMSである為、18mとなっている。つまり、この機体サイズに対して軽量のジェネレータは、機体の重量に余裕を持たせる事ができた。これにより、機体各部に設けられたハードポイントに様々なパーツ、ユニットを装着し機体特性を変化させることが可能となった。
この機体のシルエットを特徴付けている左肩後ろに装着されたフィン状のユニット。これは、試験時のデータを収集する為のユニットであり、ライフルなど武装の懸架装置としても使用される。実はいちばん大事な部分だったりする。
外見の話をするならば、この機体の見た目に言及せねばならないだろう。本機体は、RGMの型式が示すようにジムである。しかしその見た目はガンダムである。ガンダムにしか見えない。これは今回の競合において集められたサナリィの技術師らによるものが大きい。この競合だが、主だった戦争も終わり、軍縮を辿る連邦軍が予算獲得の為に行うものであった。競合の結果を問わず軍はアナハイムのジェガンタイプを運用し続けることがすでに決まっており、サナリィ側もなかばそのことを了承していた。そんな中、サナリィの若い技師らが声を上げる。今、自分達が出来る最高の技術を集めたMSを創ろうと。そうして、20代後半から、30代の若く、ハングリー精神溢れるスタッフが集められた。彼らは幼い頃の憧れ、または、人によっては恐怖の対象としての「ガンダム」を創り出そうと。彼らのハングリー精神は爆発した。
後に責任者の一人は言う。軍上層部に機体データを提出した際、軍のお偉方の「えぇ、なんでコイツらガンダムなんて作ってきてんの…」という、微妙な顔が並ぶさまを、あの微妙な空気感を忘れることはできないと。
尚、この時の若いスタッフらは、後のフォーミュラ計画に参加。その技術はフォーミュラシリーズに少なからず影響を与えている。
ケイリー・タチバナ
27歳。日系。RGM-F0 (F00)カリステフスのテストパイロットであると同時に、フレーム及び関節部の技術主任でもある。技術畑の出だが、何故か非常に高いパイロット適性を持つ彼女は、テストパイロットをするにあたり、軍から少尉相当の階級が貸与されている。趣味は観葉植物を「愛でる」こと。少尉待遇により与えられた個室内はさながら植物園のようになっているとか…。
技術師として彼女が主に担当した関節部は、従来のものより可動域が広く、駆動部の小型軽量が特徴だったが、強度不足という欠点があった。それを補ったのがMS開発に一日の長があるアナハイム製の頑丈なフレームだった。彼女が携わった部位は赤く塗られており、これにも何か、彼女なりのこだわりがあるのだろう。この機体に「カリステフス」というキク科の花(アスター)の名を付けたのも彼女である。アナハイムではよく花の名を持つ機体が多いことからそれに倣い名付けたものと思われる。
幼い頃、彼女は体が弱く、入退院を繰り返すような子供だった。しかし、月の病院で行われた手術の後、病気がちだったとは思えないほど彼女は「健康」になっている。大げさな言い方をすれば、スポーツをすれば数多くの賞を獲り、同世代の少女達と比べて高い身体能力があったのだ。彼女は知らないのだが、彼女を引き取ったアイルランドの叔父と叔母は、地球連邦軍内の、ある「エリート」組織から多額のお金を受け取っている。…彼女が受けた「手術」は、一体何の手術だったのだろうか。そこは本当に「病院」だったのだろうか…。ちなみに両親は軍関係者だったりする。
「ダメだ。ケイリー、先行しすぎだ」
僚機のEWACジェガンを試験観測用に改装した「サイクロプス」のパイロット、ヨハンさんの叫び声にも似た声が聞こえる。でも私はそんな声など聞いていられなかった。冷静さを欠いていたのだ。モニターの中に「あの」ドムタイプの機体を確認した瞬間、私の中の何かが壊れた。私のやってきたことが、私の信じてきたことがバラバラになった気がしたのだ。あの時、私はあのドムを撃墜した。パイロットの命を奪ってしまった。
私は戦争が嫌いだ。にもかかわらずMSに乗っている。戦争の道具に。そして戦っている。MS自体は好きなのだ。技術者として見るならば、人型の「ロボット」に夢を、未来を感じるからだ。甘い考え方だという事は自分でもよくわかっている。私は戦争が嫌いだ。だから、せめてパイロットの命は奪わない。ヨハンさんからは甘いと言われる。何度も、何度も。それでも、私はそれが正しいことだと信じて。
モニターの中に白い機体を捉える。
「アイツだ。あのガンダム…」
ドム。ドム・カーリマのコクピットの中で、アリシャ・アミンはギリリと歯噛みし、静かに吠える。父親を奪われた怒りを、操縦桿を握り込むことで抑える。
「クルト少尉。手筈通りにお願いします」
冷静な声が出る。自分で思うより冷静な声が出たことに驚きながら、あのガンダムを、父親の仇を討つための作戦を反芻する。とはいえ、作戦というほど大げさなものでもないのだが。前に戦った時、脅威は目の前のガンダムではなく、見えない狙撃機の存在だと判断した。ビームライフルによる狙撃。これに対処する為に、クルト機にビーム攪乱幕の弾頭を山ほど持たせた。そして、狙撃の届かない位置から散布してもらい待機。ドムにはIフィールドを装備、元はMA用の物だそうだ。これにより、ビームでの狙撃を無効化する。ガンダムの相手は、もっと単純だ。アレは、スポーツでもしている気なのか、コクピットを狙ってこない。であれば、いくらでも対処できる、ビームが効かないことが解れば、サーベルによる接近戦。狙われる場所が限定されるのならいくらでも捌けるだろう。私達の作戦。それは、狙撃機を完全に無視、私のドム、父の形見のドムでガンダムと一騎討ち。単純極まりないものだ。
「クルト少尉、援護はいりません」
我ながら冷徹な声が出たと思う。すみません、少尉。心の中でそう付け加えると、重い、やけに重く感じるペダルを踏み込む。
笑っていた。と思う、酷く凄惨な貌をして。私の中で何かが変わったのがわかる。変わってはいけない何かが…。それと同時に自分とガンダムが一体になったようにも感じた。今までにないほど機体を自由に動かせる。そしてそれは相手のドムにも感じられた。戦い始めて間もなく、その動きはどんどん良くなり、人機一体とはこのことか。私も、あのドムも。
ビームが効かないことを知るや、早々とライフルは捨てた。今はサーベル一本で相手の全てを捌いている。ファンネルを切り払い、サーベルとサーベルがぶつかり火花が散る。そうして何度目かの接近の時、ドムの右腕が巨大なバズーカごと吹き飛ぶ。一瞬、動きが止まるものの、私もドムもすぐに体勢を立て直し距離をとる。ビームライフルによるものではない。遠ざかるドムの破壊された部位を見る。フレーム鋼材の破損の様子やまるで消し飛んだかのように破壊されたことから、恐らく実弾。対MS用ではない、対艦用の大口径弾。ヨハンさんの狙撃…?
…そういえばヨハンさん、えらい古いライフル持ってたっけ。と、いけない。目の前にドムの放ったミサイルが迫る。不規則に動くミサイルをかわし、サーベルで切り払う。この状況で中距離戦は不利だ。迎撃したミサイルの爆発を利用し、一気に距離を詰める。しかし、機体ごとぶつけるように振り下ろしたサーベルは、ドムの左腕から発振されたビームサーベルにより防がれる。ビームとビームがぶつかり互いの機体が包み込まれるほどのスパークが、光が広がる。…その時、それは起きた。
光、光が入ってくる。私の中に。その光は身体中にコードや管が繋がれた少女の姿になる。その少女は、助けを求めるように両の手を差し出して…。そして私は聞いてしまう。
「おまえっ!…お前が父さんを…っ!」
女の子!組み合った機体を通して、ドムのパイロットの声が聞こえたのだ。まだ幼なさの残るパイロットの叫びは、私に一つの事実を知らしめす。…そうか、私が命を奪ったあのパイロットは、彼女の…。
機体に、自分に強い衝撃。その振動に我にかえる。一瞬動きが止まっていた、ドムの放ったミサイルが左腕に直撃したのだ。すぐさま機体を立て直そうと操縦桿を倒す。が、動揺した私の、ガンダムの動きは鈍く…。モニターの中の光景は、ガンダムの右腕を弾きながら、ドムの左腕がボディブローのようにその胴に突き刺さる様がまるでスローモーションのように見えて…。
衝撃。コクピットを包むシェルユニットが、フレームが悲鳴を上げ、MSの腕部という質量体がぶつかる衝撃は、ヘルメットのバイザーを砕き。モニターを割る。頑丈なはずのコクピットをひしゃげさせながら、私に巨大な質量が迫るのがわかる。そしてその質量は瞬く熱い光を放ち…。
…空を見た。…どこまでも青い、蒼い、空を見た。
アスター
キク科エゾギク属(カリステフス属)
学名 calistephus chinensis
英名 china aster
和名 エゾギク(蝦夷菊)
別名 サツマギク
花言葉 変化、追想、多様性、信頼、私はそれを思う(夢見る)ことができる、あなたは私を愛するかしら
属名は、ギリシャ語の「kallos(美しい)」+「stephos(冠)」に由来
サナリィ製の小型軽量、高出力のジェネレータと、関節部。それらをアナハイム製のフレームに内包した二社のハイブリッドともいえる、ガンダムカリステフス。この機体の特徴として、機体各部のハードポイントに様々なユニット、主に武装を装着、機体の戦闘時の特性を変えられることがある。本来であれば、それらのユニットを用意し、運用試験も同時に行う予定だった。だが試験機体の損失により、これらのユニットはデータ上だけのものである。しかし幾らかのユニットは製作され実戦に使用されている。
腕部に装着された90mmガトリングガンユニット。RX-78NT-1を彷彿とさせる。非常に装弾数が少ないものの、ユニット式の為、肩部や脚部のハードポイントにも装着可能である。
背部にフィン・ファンネル状の武装を装備して。調子に乗った武装担当のスタッフが作成したデータ内にあった物だ。パイロットにNT能力は無い(?)為、使用はできないだろう。そもそもこの機体自体に、サイコなんちゃら〜などといったシステムは一切搭載されていないのだが。
インコムタイプの武装、もしくは「置き」砲台のような使い方でも考えていたかもしれない。
みんな大好き複合兵装。ビームガトリングに、マイクロミサイル。ミサイルの両脇に90mmマシンガンが。右腕を覆うように装備する。右肩に装着されているのはビームガトリング用のエネルギーパック、左肩にカウンターウェイトの役割も持つアーマーユニットが装着される。
これらのユニットは同時に装着することもできたようだ。
この機体に複数設定された追加ユニット類、その中で最終案として構想されていた状態のガンダムカリステフス。
左腕に構想、試作段階であろうビームシールド発振装置が装着されている。背部には、ビームの射出方法(速度)を変更することで威力の調整が可能な、新機軸のライフルが装備される。
この状態での特徴の一つが、背部だろう。小型化されたジェネレータは、胴体内部に推進ユニットの内包を可能にした。これは、今まで別々のユニットだった、胴体とバックパック(推進ユニット)が一つになったことで、機体の軽量化に繋がった。そして背中全体をスラスターにすることで、非常に高い機動性能を持つことができる。はずだったが、やはり機体の損失によりデータ上のものであった。
背部から両脇に抱えるように展開することを想定したライフルタイプの武装が確認できるだろう。開発スタッフらにヴァリアブル・スマートガンと呼ばれていた二対のライフルは、ビームの射出方法を収束、拡散。ペレット状にしたビームを散弾のように、またはマシンガンのように射出することが可能だった。しかし、その特殊な発射機構の為に銃身が長く、重い為、両脇に抱えるように展開して尚、取り回しが難しいものだった。さらに、背部から取り外し、E-CAPによる手持ち火器としての使用も考えられていたが出力が安定せず、ジェネレータ直結式のタイプも考案されていた。
ビームシールドを展開して。あくまでデータ上の数値だが、ビームの展開速度に難があったようだ。シールドとして、瞬時に防御体制に移れないのは致命的だろう。
最終的にこの機体の喪失により、これらの開発、アナハイムとの競合は無効。競合自体が無かったことになったものの、この機体に関わったほぼ全てのスタッフがフォーミュラプロジェクトに参加している。また、噂ではあるが、そのプロジェクトにおけるF90開発責任者が、彼らを直接引き抜いた。という話もあったようだ。彼らの作り上げたガンダムカリステフス。まるでRX-78-2を彷彿とさせるこの機体に何か思うところがあったのかもしれない。
GM/GMとレオパルドダヴィンチのニコイチ。2017年?当時に作ったジャンク品を発掘。ジャンクパーツでそれっぽくお色直し。そして再塗装。塗装が厚ぼったいのはその為だ(ゆえに動かすたびに剥げる塗装)。汚し表現がないのは、試験機(設定)だからだ。けっして、面倒くさかったからでは、無い。
あと、細かい設定(特に時系列。フォーミュラ計画絡みの多いので)に対するツッコミは心に留めておいていただきたく。妄想、妄想なんです。
コメント
コメントをして応援しよう
コメントにはログインが必要です
プラモ好きの40代
サッと色塗ってパッと作るあまり複雑な改造はしない人(最近はパッと作ってはいない)
MDN-6632+1 ディランザ カッティーヤ
…敵、…ガンダムは、敵ッ! 注意 「コレ」は、水星の魔女最…
ガンダムvsシャークゴッグvsモサゴッグ 海獣大決戦!
夏がきたっ(もう遅い)!それはサメ映画の季節っ!ヤツらが、…
水星から吹く風ッ!それは黄金の疾風(かぜ)ッ‼︎
チュアチュリー•パンランチには、…夢があるッ!
RGM-89PST PROTO ST-GAN CYCLO…
公国の亡霊を内包した一つ目の巨人は、スコープの中になにを見る…