夏がきたっ(もう遅い)!それはサメ映画の季節っ!ヤツらが、帰って来た!
注意 この映画は、数年前に投稿された「ガンダムVSシャークゴッグ」の続き。いわゆる「2作目」にあたります。そちらも一緒に観ていただけるとより楽しむことができると思います。
ビーーーー! …そろそろ幕間も終わりです。
…頭がビデオカメラの男と、サイレン頭の逃走劇が始まる…。
蒼い。蒼い闇の中。何かを打つような音が聞こえる。暗い深海にぼんやりと葉巻き型のシルエットが浮かぶ。ユーコン級と呼ばれる潜水艦だ。
その巨体の腹の中、薄暗い、赤い光に満たされた空間で数人の男たちが、ディスプレイを見つめている。
「‥距離、…3000、…2900」
発令所にソナーを担当する、まだ若い青年兵の低いがよくとおる声が響く。皆が見つめているディスプレイには、一つの光点が光る。
「…副長、この海域で作戦行動中の我が軍の艦は…」
「いえ…」
「…音紋照合っ、…MSM-03、友軍機?…我が軍のゴッグですっ」
艦長と副長の会話を遮るように、ソナーの青年兵は声をはる。その声と同時に光点は速度を上げ、ディスプレイの中心。この艦に向かい動きだす。
「…っ、速度を上げましたっ。距離2500、…2000っ、速いっ、来ますっ」
一瞬にして、発令所の温度が下がる。にわかに慌ただしくなった中で、艦長は的確に指示をだしていく。
「…1500っ、衝突コースっ」
「回避だっ、ブローっ!」
「…間に合いませんっ!1000、衝突まであと…」
「総員っ、衝撃に備えろっ!」
「衝突っ!…3、…2、…1っ」
衝撃。金属と金属がぶつかる音。衝撃。艦の耐圧殻が軋み、引き裂かれる音。まるで地響きのような揺れは、艦内に海水が侵入したことを彼らに教える。何度も起きる立っていられないほどの衝撃は、破壊と全ての終わりを彼らに知らせる。艦内の厚い壁を通して聞こえる水の音。
先程まで足首ほどだった水は、瞬く間に、膝、腰を超え、胸にまで達する。艦長の男は、認識票と共に下げられた家族の写真が入ったロケットを握ると静かに目を閉じる。妻と娘の顔を瞳の裏に写す彼が最後に聞いたのは、圧壊していく艦の音。自分の肺の中が海水で満たされていく音。…そして、なにか、生き物のような、…叫び声。
圧壊し、鉄の塊となったユーコン級。「だった」もの、沈んでいくそれの脇を悠々と泳ぎ去る影。それは、生き物のように泳ぐと、深い蒼い闇の奥へとその姿を消す。
MSイグルー外伝
二顎、蒼き深海に光を見るのか
〜♪〜♪(MSイグルーの例の曲)
光。目も眩むような光。ほんの数時間前まで宇宙(そら)という暗闇にいた僕達には眩し過ぎる光だ。
僕は、オリヴァー・マイ。ジオン公国軍第603技術試験隊技術中尉だ。僕達は今、地球。ジオン勢力下の海沿いにある、主に水中用MAを運用する部隊の補給を担う基地にいる。この基地は、その立地条件から水陸両用MSなどのテスト運用などにも使用されている基地だ。そう、僕達はあるMSの運用試験の為、ここにいる。
実をいうと、この基地には二度目、…だったりするのだが。前回、僕達はここであるMSの試験に立ち会った。XMSM-03S シャークゴッグ。ツィマット社、そしてASLM社の二社合作による機体だ。…その外見は、名は体を表す。というか…。まあ、それはいい。そうして今回、僕達、いや、「我々」第603技術試験隊に、正式採用された(されてしまった?)MSM-03Sシャークゴッグの最終試験が依頼されたのだ。
暑い夏の日差しをその身に受け、僕は基地と、海に面して大きく口をあけるハンガーの間にあるビーチ脇の小道を歩く。砂を踏む「サンダル」越しの感覚が心地良い。海からの風を受け、着ている「パーカー」の前を開け、首に掛けたタオルで汗を拭う。そうしてビーチ沿いを歩く僕の背に声をかける人物がいる。
「ほお〜、オリヴァー・マイ技術中尉。随分と涼しげな格好をしているな。どうやら、技術中尉殿はこの任務の重要性をお分かりになっていないようで」
モニク・キャディラック特務大尉だ。その声のトーンに何かただならぬ気配を感じ、慌てて振り向く僕の目に飛び込んできた光景。それは、ピシリと「軍服」を着た、第603技術試験隊。「みんな」の姿。
何も言えず固まっている僕に、特務大尉の怒号がとぶ。
「オリヴァー・マイ技術中尉っ!貴様何を腑抜けているかっ!」
人差し指をビシリと突きつけ叫ぶ特務大尉。そんな彼女を諌めるように、マルティン・プロホノウ艦長は言う。
「まあまあ、キャディラック特務大尉。…特務大尉の言いたいこともわかるが。この気候、この暑さだ。ストレスを感じずに任務を遂行する為と思えば、その姿もまた、むべなるかな」
…艦長、それフォローになってません。…って、待ってくれ、前回の任務の時は僕だけが軍服だった。それなのに、何故。僕だけが…。
海上の光も届かないほど深い、暗い海の中を巡航形態となったシャークゴッグが泳ぐ。MS状態における背部から腰部にかけて長距離航行ユニットを装着されたシャークゴッグは、その名のとおり巨大な「サメ」のシルエットを暗い深海に浮かび上がらせている。…20メートルをゆうに超えるその姿は、太古の昔、この海に王者として君臨したメガロドンを彷彿とさせる。差し詰め、「メカメガロドン」と、いったところか。
…いや、まて。僕は何を言っている?落ち着け。オリヴァー・マイ。…深呼吸だ。…よし。
気を取り直し、改めてモニターの向こうにいる、シャークゴッグのパイロットに声をかける。
「ワシヤ中尉、こちらからの機体チェックはオールグリーン。中尉の方でよろしければ、評価試験を開始してください」
今回、この機体のパイロットとして抜擢されたヒデト・ワシヤ中尉だったが、モニターの向こうの中尉の表情は暗い。それもそのはず。彼の乗っているシャークゴッグは、前回のテスト時に暴走している。いや、正確には彼の機体は二番機であり、暴走した機体ではなく新たに組み上げられた完全に新規の機体だ。当然、暴走の原因だと思われたOSも別のものに変更されている。
「えぇ〜、二番機、ですか?」
「あら、ヅダの時は喜んでいたでしょう?」
「…うむ、海の男である中尉にしか頼めないことだ。すまないな」
出撃前の艦長らの会話を思い出す。大丈夫ですよ中尉。と声をかけて見たものの、正直なところ自分もこの機体に対してあまり良い印象を持ってはいないのだ。それはワシヤ中尉も同じなのだと思う。
「…コレ、本当に暴走しませんよね」
深海にワシヤ中尉の声が響く。そうして、MSM-03Sシャークゴッグの評価試験が開始された。
「…っ!前方っ、MS反応っ!」
モニターを見る者達に緊張が走る。…一体どこから。先程からソナーにはワシヤ機しか映し出されていない。
「ワシヤ中尉っ!別の何かと見間違いの可能性は?」
「そんなことないっ、…あれは確かにMSだったっ!…こちらのパッシブソナーには反応なしっ。アクティブソナーっ…」
「待ってくださいっ、中尉。相手がなんであれまだこちらに気付いていない可能性もありますっ!」
しかし、僕の声が届く間もなくモニター、シャークゴッグのメインカメラからの映像を映し出すモニターに、我々は信じがたいものを見る。
「ぬうぅ、あれは一体…」
「…な、なんて、ナンセンスな」
後ろで騒ぐ特務大尉らをよそに、モニターの向こうの中尉に的確に指示を出す。いや、出来ない。…なんだアレは!
「ちょっ!襲ってきたんですけどっ!」
半ばパニックになっている中尉に対して、落ち着いてください。と声をかけるものの、自分でも今、目にしているものが理解出来ない。…あれは、ゴッグ?…我が軍の、あの機体がなぜ?…それより、あの頭部?はなんだ。それに、尻尾がある…?
自分も、現場にいるワシヤ中尉も理解が追いついていかないまま、戦闘に入る。海中戦に特化した機体構成のシャークゴッグではあるものの、相手のゴッグ?もまた、水中での機動性は高い。
水中での機動戦闘。互いに激しく動き回る為、魚雷を始めとした火器の使用はあまり有効ではない。その為か、水中での運用を考えられたMS、MAには大型のクロー状の武装が装備され、接近戦闘を見据えた装備構成になっていることが多い。それは中尉の乗るシャークゴッグも同じだ。しかし、今、シャークゴッグは長距離航行する為のユニットを装備している。この機体ベースとなったハイゴッグにおける巡航形態の状態でユニットを装着することで、長距離の高速、静音航行を可能にしているのだ。そのかわり、MSの腕部として折りたたまれている腕部クローを展開出来ない。…つまり、今、あのシャークゴッグに残された近接用の武装は、あの大きな顎しかないのだ。シャークゴッグはその名の通り「魚類」として戦うほか、ないのだ。
僕達、宇宙で生まれ育ったスペースノイドは知識として海を、魚類を知っていても、本物の海を、そして「サメ」を知らない。…それは今、パイロットとしてあの機体を「操縦」しているワシヤ中尉も同じなのだ。…モニターの中に映るシャークゴッグの動きを通して、中尉の焦りが伝わってくる。
「落ち着いて、中尉。…まずは相手との距離離しましょう!」
そう言ってはみたものの機動性能は明らかに相手の方が上だ。
「無茶だっ、あっちの方が素早いっ!…そうだっ、航行用ユニットをパージすればっ」
「だめですっ、中尉!…そのユニットをパージすると、中尉が帰って来れません!この大海原で、溺れてしまいますっ」
そう、あのユニットはあくまで機体の長距離航行用のユニット。機体への着脱は専用の施設がなくては出来ない。たしかに、ユニットをパージし、シャークゴッグをMSとして戦闘機動させれば、相手に対して互角、それ以上の戦いが出来るだろう。しかし、それではワシヤ中尉が帰って来られないのだ。
モニターの中では、まるで生き物のように動くゴッグ?と、サメのように動くゴッグがぶつかり合う。顎と爪が、顎と顎が。そうして何度目かの接近の時、モニターの中のワシヤ中尉が叫ぶ。
「…嘘でしょっ!直上っ、熱源反応っ!」
「中尉っ!回避をっ!」
それと同時に、二機の間を裂くように戦艦の主砲のようなビームが放たれる。
「そんなっ、ビーム砲、水中であれほど強力な…」
モニターを見ると、ワシヤ中尉は無事、回避したようだ。そして相手のゴッグ?も。しかし、上を見上げたシャークゴッグのメインカメラからの映像を見て、その場にいた者全員が凍りつく。遥か海面からの光を背に、人型のシルエットが浮かび上がる。
「あ、あれは…、ガンダム」
RX-78ガンダム。連邦軍が開発したMS。そのMSはまるで人間のようにくるりと頭を下に回転すると、手足で大きく水を掻き、泳ぎ、こちらに向かって潜ってくる。…そして、驚く僕達を後目に言う。…オープンチャンネルで。
「オイオイ、本気(マジ)か。…巨大な(デカい)サメに、巨大な(デカい)ワニか?…昨日の酒はもう抜けたと思ってたんだがな」
青く抜ける空の下、どこまでも広い大海原の中。一隻の空母がポツリと浮いている。その周りに護衛艦などの姿は無い。本当にただ一隻の空母が浮いているのだ。よく見れば、その空母の上には数人の人が乗っているのが見える。いや、あれは人ではない。あの空母がミニチュアでもない限り、人というには大きすぎる。
その艦は、地球連邦軍のMS空母。周りに護衛艦がいないのは、甲板上に艦橋を玉座のように見立て頭を垂れ傅くMSがその役目を担っているからだ。分類上水中用ジムと呼ばれる機体の中、目を引く白亜の機体がある。RX-78ガンダム。その背には巨大な「銛」のような物を背負っている。さらによく見ると、その白亜の機体の足元に人の姿。今度は本当に人、人間だ。
男は、腕を組み、海を、広い大海原を見ている。そんな男の背に駆け寄ってくる者がいる。その者は…、まだ若い、幼なさを感じさせる顔つきの青年、そばかすだらけの顔がそう感じさせるのだろう。服装は、油汚れだらけのツナギ。そのメカニックの青年は、腕組みをし、海を見据えている坊主頭の男の横に立つと、ピシリと敬礼をする。
「テイラー中尉っ!艦長がお呼びですっ!」
そう言って、緊張の為か背を伸ばす。
「…ん、なんだ、また出撃か?」(CV.山路氏)
男は眉間に皺を寄せ振り向くと、緊張に身を硬くする青年を睨みつける。…が、ニカリと口の端を上げると、青年の肩をバシバシと親しげに叩く。
「すまないな、こんな所にまで呼びに来させちまって、…まだ整備の途中だっただろう」(CVは山路氏で)
そう言って、背中越しにヒラヒラと手を振ると艦橋の方向へ歩き出す。しかし、途中で足を止めくるりと振り向くと、緊張のほぐれた様子の青年に言う。
「ああ、そうだ。左膝のアクチュエーターの調子が悪い。ちょっと見てやってくれ。…頼んだぜ」(くどいようだがCVは山路氏!)
「さすがテイラー中尉だ。見事な飛び込みだな、完璧な入水角度、飛沫も少ない」
甲板でMSの出撃を見ていた兵やメカニック達が口々に言う。ジムが棒立ちのまま足首から海中に入っていくのに対し、テイラー中尉のガンダムは、妙に生々しいほど「人」のように動き、見事なフォームで海中へと飛び込む。
〜10分前〜
「艦長、ジョナス・テイラーだ。入るぞ」
「遅いぞ、テイラー。…たまには艦内放送の届く範囲にいろ」
そう言うと、艦長と呼ばれた男は、ジムのパイロットらが座っている椅子の空いている所をアゴで指す。
「見てくれ、数十分前からのソナーの画像だ」
テイラー中尉が椅子に座るのを確認すると、スクリーンに数枚の画像を表示させる。そこには大きな影が一つと、小さな影が二つ。
「現在、この海域に展開している連邦軍の部隊は無い。音紋照合の結果、この大きな影はおそらくジオンのユーコン級。何故こんな所にいるのかはわからない。問題はこちらの小さい影二つ。MSと思われるこれらは、近付いたり離れたりを繰り返しながら東の方向へ向かっている」
「…自分達から離れて行っているので、構わないのでは」
艦長の説明を開いていたジムのパイロットの一人が言う。確かに二機のMSと思わしき影が向かう方向には何も無い。この画面上の地図には。艦長は手元のパネルでスクリーン画像に情報を追加していく。
新たに地図に表示されたものを見てその場にいた皆に動揺がはしる。
「…二機のMSが進む先、そこには大規模な海上油田プラント群がある。あのMSの目的が何なのかは分からない。が、プラント群に何かあった場合、地球に住む人々のエネルギー問題に不具合が出るのは明白だ。そして環境問題もあるだろう」
この海を守る者として調査するに越したことはないだろう。そう言って艦長は指示を出し始める。
「MS隊は全機出撃、ただし、行くのはテイラー中尉だけだ。ジム隊は艦の周りに広く展開、何かあった場合直ぐに動けるように戦闘配備。テイラー中尉は、単独でまずは偵察だ。中尉とガンダムなら推進機を使わずに長距離航行が可能だからな」
「ジョナス・テイラー!ガンダム、出るぞ!」
甲板の端に立つガンダムは、屈伸するように両手の指先を爪先に付けると、しなやかにジャンプ。飛沫も最小限に海中に姿を消す、そのままガンダムは美しいフォームのクロールで水平線の向こうにその姿を消して行った。
「おいっ!聞こえるか、サメ野郎っ」
シャークゴッグのコクピット内に男の声が響く。いきなりオープン回線での通信に動揺を隠せないワシヤ中尉は、思わず返答してしまう。
「えぇ、オープンチャンネル…、お、オレはジオンだそっ!」
「ああ?ジオンだろうがなんだろうが関係ねぇ。あっちのワニ頭は、返答も無いからな」
…普通は、返答しないと思うのだが。そんなツッコミをすんでの所で飲み込んだワシヤ中尉は、目の前の状況に警戒しながら、この状況を記録しているだろうオリヴァー・マイへの通信をしようとするが、繋がらない。どうやら離れ過ぎたらしい。
「おまえらはなんだ?何で身内でやり合ってる?…脱走兵か?」
矢継ぎ早に話かけてくる連邦のパイロットの声を聞きながらワシヤ中尉は考える。今、目の前に敵がいる、連邦軍。しかも、白い悪魔と呼ばれ恐れられているRX-78ガンダムが。そこまではわかる。解せないのは、攻撃の意思がない。…のか。
「お前らは、ここから先に用があるわけじゃ無いんだな」
「そ、そうだ。オレ達は試験中に襲われただけだ。…この先に何が、あっ」
簡易マップを開き示された位置を確認する。そこには、大規模な海上油田プラント群が。…気が付かなかった。
「いいか、サメ野郎。俺達はお前らにあそこに行って欲しくない。…お前はどうだ?このままならあのワニ頭は、真っ直ぐプラントに行きかねん。どうする!サメ野郎!」
「サメ野郎って言うな!オレはジオン公…」
「おっと、自己紹介はいい…。次に会う時は敵だからな。…よし、なら共闘だ。やるぞサメ野郎!」
共闘って何を言い出すんだこの連邦兵…。コクピットの中、ひとり頭を抱えるワシヤ中尉だったが、技術中尉らのユーコン級と逸れてしまった今、二機を相手に立ち回るののは得策では無い。あのゴッグ?だけでもかなり相手だ。それと同時にガンダムを相手にするなどもってのほか。ならば、こちらに攻撃の意思がないガンダムと、一時的とはいえ共闘した方が生き残る確率は上がるだろう。それに、このシャークゴッグの他にガンダムのデータも取得出来るかもしれない。後の事はユーコン級と合流してから考えればいい。
「わ、わかった…」
「よし…、それでいい。お前の機動力を貸せ!サメ野郎、…おかしなマネしたら後ろから撃つからな」
「えぇ…」
「あわせろよ!サメ野郎っ!」
感嘆するより他なかった。見事な動き。水中用MSにも引けを取らない機動性能を持つのか?ガンダムという機体は。ただ、それを言うならば相手のゴッグもまた、かなりのものだ。こちらからの攻撃がことごとく回避される。一対二であるにも関わらず互いに有効打を与えることが出来ずにいる。
「やるなワニ頭の分際で!…こっちは二対一だぞっ!」
見事な動きだが、ガンダムのパイロットの焦りが伝わってくる。だんだんと戦闘域がプラント側に寄って来ているのだ。
「いい加減こっちも弾切れだ。…いいぜ、お望み通り接近戦でカタをつけてやる」
そう言ってガンダムは、持っていたビームライフルから大きな「銛」を引き抜くと構える。
「いいか、サメ野郎!ワニ頭を挟み込むっ、タイミングを合わせろよ!」
言うが否や、ガンダムはしなやかな泳ぎで、ゴッグ?の右側に回り込んでいく。自分は左側だ。と機体を反転させた瞬間にアラート。警告音が鳴る。メインモニター脇に表示させていたマップを見ると、自分達がすでに油田プラント群に入っているのがわかる。
「絶対にプラントに傷を付けるな!」
乱立する油田プラントの足を避けてゴッグ?に攻撃するものの、水中を自由に動き回るゴッグ?に翻弄される。
「水中じゃ、ワニ頭の方が上か。…そうか、「上」か。サメ野郎っ、俺をプラントの上まで連れて行け!」
「ど、どうやって…?」
「ジャンプだ。俺を背に乗せて海上にジャンプしろ!後はガンダムの推力で飛べるっ!」
機体に微かな衝撃、見るとシャークゴッグの背に装着された推進ユニットにガンダムが取り付くのが見える。…しかも、サムズアップまでしている。
「…その後は、ワニ頭を下から追い立てろ、ヤツを海面上に出してやれっ!」
そうか。水中であれだけ動けても、空中じゃそうはいかない。
「よしっ!…掴まってろよっ!」
思わず声を張り上げてしまう。スロットルを上げ、フットペダルを踏み込む。ガンダムをその背に乗せたシャークゴッグは、その巨体を海面に向け、ぐんぐんと上昇させる。
海面に近づくにつれ明るくなっていくメインモニターを見ながら無意識のうちに叫んでしまう。
「「いけっー!」」
二人の声が重なる。どうやらガンダムのパイロットも同じだったようだ。
激しい衝撃と共に激しい光がコクピット内を照らす。太陽の光だ。モニターの中ではガンダムが大空に飛翔するのが見える。その機体が見る間に小さくなる中、二度目の衝撃がシャークゴッグを襲う。着水したのだ。再び闇に覆われるモニターを見ながら、先ほどの言葉を思い出し、ゴッグ?の姿を探すとフットペダルを踏み込む。…後はあのゴッグ?を海面上に追い立てるだけた。
「やってやる…、やってやるっ!」
「喰らえっ!この野郎っ!」
ガンダムのコクピットの中でジョナス・テイラーは吠える。ドンピシャのタイミングで海面からその姿を現すワニ頭。いい仕事するじゃねぇか、サメ野郎!
大口を開け海上へと飛び出してくるワニ頭の口の中に「銛」、ヒートモリを突き立てると、ズブリと根元まで突き入れる。そのまま、各部で誘爆を引き起こすワニ頭と共に海中へと落ちていく。
動きを止め、力無く手足を広げ、暗い海底に沈んでいくワニ頭を見送るガンダム。コクピットに座るテイラーの前に巨大なサメが姿を現す。動こうとしない目の前の機体にテイラーは声をかける。
「どうした?サメ野郎。やらないのか?」
「…はは、機体がもう限界なんだ」
ノイズ混じりの返答が聞こえてくる。テイラーはレバーのスイッチを操作すると、ガンダムにビームサーベルを抜かせる。
「…脱出しろ、上のプラントの連中に助けてもらえ。連中は中立だ。…海の男ってやつだな」
目の前の機体のコクピットハッチが開き、パイロットが海面に向け泳ぎ出すのを確認すると、外部マイクに切り替えて言う。海の水がこちらの声をパイロットに伝えてくれるだろう。
「サメ野郎っ!…お前のことは気に入った!…だから、この海にはもう来るな!…次は落としちまうぞっ!」
そう言って、主のいなくなった巨大な「サメ」をビームサーベルで両断する。
シャークゴッグの爆発を確認すると、ガンダムはその機体をくるりと反転させ、やはり妙に人間っぽい動きで、美しいフォームのクロールで、その姿を海中に消して行った。
〜♪〜♪(MSテーマ曲)
MSM-03S シャークゴッグ
過去に稼働試験中に暴走、そののち撃破されたXMSM-03Sを、主に暴走の原因となったOS関係の改修を中心に、正式採用に向け新たに組み上げられた。前回の試験時には無かった専用の装備、長距離航行用のユニットを装着しての試験中、謎のMSの襲撃を受け、テストパイロットを務めたヒデト・ワシヤ中尉の操縦の元、謎のMSと交戦。一時的に行方不明になるものの、戦闘海域にほど近い油田プラント群でパイロットであるヒデト・ワシヤ中尉を発見、保護。保護された中尉の話によると、謎のMSとの戦闘に現れたRX-78ガンダムと交戦、一時、三つ巴の形になるものの、ガンダムが謎のMSを撃破。その後、シャークゴッグもまたガンダムに撃破されるものの、機体及び一部の戦闘データを回収し、脱出。近くの油田プラントに救出された。中尉の持ち帰ったデータは、脱出の際、海水に一部浸かっており、破損したデータも多かったが、この機体の量産化を検討するに当り非常に有効的な物であると思われる。機体こそ失ったものの、我々としては優秀なパイロットを失わなかったことが一番の結果だと断言できるだろう。
第603技術試験隊技術中尉オリヴァー・マイ
記す
前回、私はこの機体に対し、本当にMSでいいのか。という懸念を持った。今回、改めてこの機体に接した訳だが、やはり、これちょっと生き物なのでは。という、思いが大きくなるばかりだったように思える。謎のMSについてもそれと同じ思いだ。しかし、気になるのは、何故、私以外の皆は、誰もこれらの機体が生き物のようだと、言及しないのだろうか。
型式番号不明(MSM-03?) モサゴッグ(仮名)
シャークゴッグの評価試験中に現れた謎のMS。その外見は、ゴッグのようだが、まるで生き物のような頭部、尻尾(ヒレ?)を持つ。凄まじいまでの水中機動性能を持ち、推測ではあるがある程度のステルス性能も有しているようだ。おそらく火器の類は搭載されていないか、すでに弾切れ(補充されていない)なのか、シャークゴッグとの交戦の際、両手のクローを始め、尻尾や、顎による打撃攻撃が主な攻撃方法だった。
後の調査により、この機体はASLM社がシャークゴッグに先駆けて試作したMSであることがわかっている。稼働試験中に行方不明になったという記録が残っていただけであり、その他の機体に関するデータは何一つ残っていなかった。ただ謎なのは、パイロットはいたのだろうか?この機体は、MSなのか?…それとも「生物」だったのだろうか?
謎は深まるばかりである。
「…報告書は読ませてもらったよ。技術中尉」
「はっ」
薄暗い、複数のモニターの明かりだけでかろうじて互いの顔が見えるような部屋の中。敬礼する僕の、机を挟んだ向こう側に座る、技術本部長アルベルト・シャハト少将がゆっくりとこちらを向く。
「機体を失うことになってしまいましたが、量産化に必要なデータは充分なほど得ることができました。また、パイロットも無事であり…」
「…技術中尉、そのパイロットだが、気になること言っていたそうだな」
シャハト技術本部長が僕の報告を遮る。そう、パイロット。救助されたワシヤ中尉だが、交戦したRX-78に対しおかしな事を言っていたのだ。
「はっ、…その、MSが「泳いだ」と、まるで人間のようにクロールで…」
「人間の、ように…、か」
そう言って本部長は、手元のパネルを操作し、部屋の一面を締めるモニターの一部に荒涼とした砂漠地帯を映し出す。ノイズが多い、ミノフスキー粒子下のMS戦闘時の物のようだ。本部長はその画面を指し言う。
「技術中尉、この映像を見たまえ、ある地上部隊が連邦の木馬部隊と交戦した際に記録された映像だ」
画面の高さ、揺れから判断するに、おそらく06、ザクのメインカメラからの映像だ。映像の奥に交戦相手の姿が見える。白い機体と、赤い機体。…あれはRX-78。
「…技術中尉、あちらの、赤い中距離支援機に注目してみたまえ」
「赤い機体にですか、…あっ、あぁ、アレは、一体、岩を、岩を投げて、…あの岩はあの機体より質量があるのでは」
自分が今見たものが信じられない。しかも、その後の映像では、06を殴ったりと、赤い機体はまるで人。それも輩のように…。
「報告書にあった、「泳いだ」という報告。この記録映像を見る前であったなら、私も技術中尉と同じ感想をもったであろうな」
そう言って本部長はこちらに向き直る。そして静かに口を開く。
「このことから、連邦軍のMS技術は、我が軍の技術より数段上をいっている。と言っても過言ではないだろうな」
「我々の、我が軍のMSを凌ぐほどの可動性能。それによる「人間」のような動きが出来る。と言うことでしょうか」
「…うむ、そう言うことになるな」
薄暗い部屋、重い沈黙が続く。ギシリと椅子を鳴らし本部長は僕に背を向ける。…悔しいと思った。我が軍のMSは、技術は連邦に先駆けこの世界に生まれ、そして数々の戦果を得た。それが数ヶ月で追い抜かれてしまったのか…。握り締めた拳に力が入る。
…その沈黙に耐えきれず、退室しようとする僕の背に、本部長、シャハト少将が声をかける。
「…話は変わるのだが、技術中尉。…今回は、モニク・キャディラック特務大尉の、記録映像などは、…無いのかね」
振り返ると、こちらに向き直った本部長と目が合う。
「し、失礼ですが本部長。…前回の記録映像は」
「うむ、…妻に、見つかってしまってな。…別の、隠し場所を探さねばならん」
「………」
僕は、いや、私は、胸のポケットに入っていた、小さな記録用のデータチップを静かに机の上に置くと、ピシリと敬礼し、部屋を後にした。
RX-78ガンダム
パイロットは、ジョナス・テイラー中尉。坊主頭に無精髭、いつも眉間に皺を寄せてシニカルな笑みを浮かべている。その振る舞いから、人を寄せ付けない雰囲気を感じさせるが、面倒見が良く、義理堅い人柄の為、彼を慕う者も多い。若い頃、軍に入る前は高飛び込みの選手だったようで、中年にも関わらず引き締まった逆三角形の上半身がそれを物語っている。スーツ姿が非常に似合い、眉間に皺を寄せ振り返るだけで絵になる男だ。余談ではあるが、地上の基地内に彼専用の車庫を有しており、その中には複数の高級スポーツカーが並んでいる。尚、吹き替え時のキャラクターボイスは、山路氏でお願いします。
特徴的な武装として目を引くのは、中尉が考案、開発した大型のビームライフルだ。シールドとしての役割も兼ねた複合兵装であると言えよう。水中でもビームを高出力で撃てるが、一定のチャージが必要であり、また、再発射する為の冷却に大量の水、つまり海水が必要となる為、実質、海中限定となっている。それを補う為に、「銛」状の武装。一際目を引く、ヒートモリを始めとして、二発の銛状のミサイル(海中で使用すると言う前提であるならば、魚雷と言ってもいいだろう)、三叉槍のようにビームを展開することが出来る、ビームトライデントが装着されている。この大型で重い複合兵装を、ジョナス・テイラー中尉は、時にボディボードのように、時にサーフボードのように使い、海中、海上を問わず、「ガンダム」を見事に乗りこなすのだ。
「…うん、技術中尉、お前は泳がないのか?水が気持ちいいぞ」
「あ、いえ、自分は…」
「…なんだ、さっきのことを気にしているのか?」
「そういうわけでは、…あっ」
「?…どうした、技術中尉」
「だっ、駄目です。特務大尉。動いてはっ」
「動く?…いったい何を言っている技術中尉」
「いっ、いけません!そんな大股で歩いて来てはっ、紐がっ!」
「何を言っているのだ技術中尉!だいたい貴様は、いつも回りくどいことを」
「だめですっ、…そのっ、ヒモが、紐がっ!」
(外野)「おおっ、おお」
「中尉!記録願います。願いまっ…」
コメント
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文才🤣(笑)
いや~白熱して読みきってしまいましたw手に汗握るサメとワニとスイマーの戦い(笑)この夏のNo.1ヒットは間違いなしですね!
ちなみに…これジャンルはロボット映画?モンスターパニック?(笑)
サメはもはや夏の季語・・・サメ映画は大好きです!(笑)
発想が面白いです!!すごい!
プラモ好きの40代
サッと色塗ってパッと作るあまり複雑な改造はしない人(最近はパッと作ってはいない)
水星から吹く風ッ!それは黄金の疾風(かぜ)ッ‼︎
チュアチュリー•パンランチには、…夢があるッ!
RGM-F0 GUNDAM CALISTEPHUS
見上げ、夢見て、追想の先に、見上げた先になにを見るのか…。
RGM-89PST PROTO ST-GAN CYCLO…
公国の亡霊を内包した一つ目の巨人は、スコープの中になにを見る…
AMS-119D/X DOM KALIMA
黒き者、破壊の女神。復讐する者。