…敵、…ガンダムは、敵ッ!
注意
「コレ」は、水星の魔女最終回後を、コビト少佐が勝手に妄想したものであり。公式のものではありません。その為、コビト少佐により過去に投稿された機体(ガンプラ)、それに伴うキャラクターが、さも当然のように出てくることを了承願います、願います。
宇宙空間に、二筋の光が走る。
その光は、時には緩やかなカーブを描き。時には、雷のようにジグザグの軌道を描く。その光の先には、二機のMS。宇宙に溶け込むかのような、漆黒の機体。そして、四枚の羽を広げたかの様な緑色の機体。それらは、追いつ追われつ、位置を入れ替えながら何度もぶつかり合うように、スラスターの光を交錯させる。
「決闘」が始まってすぐ、マリィは気付く。相手の異様さ、異常さに。互いの決闘開始位置は、それなりの距離があったはずだ。にもかかわらず、会敵時間が
「速いッ」
口先だけではない、か、そう言ってマリィはスロットルを上げ、フットペダルを踏み込む。それと同時に彼女の乗ったMSは、大型のバインダーを「四方」に展開する。まるで四枚の羽を広げるように、広がったバインダーの陰からジェターク社の有する「ディランザ」が姿を現す。そのディランザは、鈍重そうな見た目にそぐわない鋭い加速で、漆黒の機体へと向かっていく。
四枚の羽。バインダーを巧みに使い、見た目からは想像出来ないジグザグの機動で、目前に迫り来る漆黒の機体、「ハインドリーブシドースペシャルスサノオウ」に向かっていく。その両の手にビームパルチザンを構えて。
「なんとっ!此方の土俵に乗ってくれるか!…良いぞ!マリィ・クルス・ジンネマンッ!」
私、グラハム・エイカーが御相手するっ!そう言って、漆黒のハインドリー「スサノオウ」のコクピットの中で、グラハムは叫ぶ。吐血しながらなのは、加速性能に振り切ったカスタマイズが施された機体のGによるものだ。向かってくるマリィのディランザを、メインモニターいっぱいに捉えながらグラハムは叫ぶ。
「エアリアル亡き今!地球寮、いや。株式会社ガンダムにおいて、私が!私こそが!…ガンダムだッ!」
ガンダムはっ、敵!…かつて強化人士被検体だったマリィの脳裏に忌まわしい記憶が甦る。
「…お前も、ガンダムかッ!」
忌まわしい過去の記憶を振り払うように、彼女の左手は目にも止まらぬ速さでパネルを操作すると、次々にAIシステムをオンラインにしていく。
彼女の操るMS。ディランザ・カッティーヤは四枚の羽、バインダーを広げると、複数の小型ガンビット「コラキ」を展開する。ペイル社のMS、ファラクトに搭載されていたものと同等のものだ。その「コラキ」をジェタークのAIが操り、目前のハインドリー、スサノオウを絡め取るように広がっていく。スサノオウのコクピットの中で男は目を剥く、しかし、次の瞬間、スサノオウの動きにコクピットのマリィは驚く。
漆黒のハインドリーは、その機体の周りにまとわり付くよう展開されたコラキを次々と切り払っていくのだ。通常、MSが何かをする場合、一度モニター内に捉え、ロックオンするのが一般的だ。それを行うにはカメラなり機体なりをその方向に向けなければならない。だが、目の前の機体は、周りのコラキが全て見えているかのように、黒い竜巻のように、MSから見れば小さいコラキを、両の手のブレードで両断していく。その視界に捉えることもなく。
「…ガンビットか、…だが、私は常にッ、心眼を鍛えているッ!」
漆黒のハインドリー、スサノオウのコクピットの中でグラハム・エイカーは吠える。
空を切るビームパルチザンの残像がモニターに残る。大振りなビームパルチザンの攻撃は、素早いスサノオウの動きに、その手に持つ二振りのブレードに払われ、いなされてしまう。しかし、それとは逆に、近距離での斬撃がメインのスサノオウの攻撃は、ビームパルチザンの長い柄で、まるで生き物のように動く四枚の羽。シールドを兼ねたバインダーが全ての斬撃を防ぐ。
「身持ちが硬いな、好意を抱くよ、興味以上の対象だと言うことだ!」
そう叫ぶグラハムのスサノオウに、ディランザがぶつかる。四枚のバインダーにより、倍近い質量の体当たり。そのまま弾かれたスサノオウに、ビームパルチザンを構え突進する。この質量差だ、パイロットはシェイクされている。体勢を整える前に決めさせてもらう。
カスタムされたハインドリーの凄まじいまでの機動力は、加速性能は、MSのセンサー探知速度を超える。吹き飛ばされ、シェイクされたコクピットの中、無意識のうちに操縦桿を操り機体を加速させながら、グラハムは叫ぶ。
「見事な動きだ。自分が乙女座であったことをこれほど嬉しく思ったことはない!」
目の前から消えるように加速するスサノオウを辛うじてモニターに捉えながら、随分と話す男だ。と、呟いたマリィは一転、距離を取るように機体を旋回させていく。それと同時に胸部のビームバルカンがスサノオウの軌道を追う。
「ほう、我慢比べか、…しかし、私は我慢弱い!」
急に距離を取り、先ほどとは打って変わっての射撃戦。それをグラハムは許さない、許すはずもない。一見出鱈目だが、全ての火線を躱し突っ込んでくるスサノオウ。だが、モニターいっぱいになったスサノオウを見て尚、マリィは冷静だ。
流れるようにパネルをタッチしていく、マリィのしなやかな指は、AIをオンラインに、新たなシステムを立ち上げる。新たにモニターに表示された赤い文字は、こう綴られる。
「システム ラージャニヤ」
高速で動くスサノオウのコクピットの中で、グラハムは目を見開き、そして、感嘆する。
「その姿…、まさしく阿修羅の如く!」
ディランザ・カッティーヤの四枚の羽、バインダーが展開し、内部に格納されていたサブアームが、それぞれビームトーチ、ライフルを携え、ラージャニヤ。その名の通り、第二、第三の「両腕」として展開される。
突進するスサノオウ。その突進から繰り出されるMSでありながら目にも止まらぬほどの斬撃。それをビームパルチザンが防ぎ、ビームトーチが切り結ぶ。斬撃の隙間は、ビームライフルの射撃がスサノオウの動きを封じる。何度も、何度も繰り返されるそのやり取りは、まるで演舞をしているかのようだ。しかし、それも長くは続かない。
「見事だ!だが、今の私は、すでに阿修羅を凌駕しているッ!あえて言おう、私はすでにッ、ガンダムだとッ!」
正面からぶつかり合う二機のMSのスパークが宇宙空間を明るく染める。ビームパルチザンによる渾身の突きは、ブレードによって薙ぎ払われる。しかし、それと同時にビームトーチによる上段からの斬り下ろし。だが、それもブレードによって、返す刃で下から上へと弾かれる。その瞬間、マリィの目に光が宿る。彼女はこの時を逃さない。
「この距離だ。躱せるかッ!」
ビームトーチを跳ね上げ、バンザイをした形になったスサノオウの胴体に、二丁のビームライフルの銃口がガチリと突きつけられる。躊躇なく引かれたトリガー。二丁のビームライフルから放たれた二条の光はスサノオウを貫く。
…はずだった。ビームライフルから放たれた「二条」の光。マリィは見た。「四条」の光がスサノオウの背に抜けていくのを。
斬った。斬ったのだ。神速で振り下ろしたスサノオウの二振りのブレードは、それぞれのビームライフルから放たれたビームを斬ったのだ。その切先はライフルの銃口も切っていたのだろう。小さな爆発が起き、ディランザの動きが止まる。グラハムはその隙を逃さない。スサノオウの両の手のブレードが十字の軌跡を描く。
爆発が収まった時、そこには、根本から切り離されたディランザ・カッティーヤのツノ飾り、ブレードアンテナがあった。
MDN-6632+1 ディランザ・カッティーヤ
はじめに、この機体の開発経緯には、少し変わった事情がある。クワイエット・ゼロ事件(本編最終話)後、解体されたベネリット・グループそれに伴い、アスティカシア高等専門学園内である試みが行なわれた。御三家をはじめとする複数の寮による、技術交流を目的とした他の寮への編入制度である。これによりペイル寮からジェターク寮へ、技術交換生として編入して来たマリィ・クルス・ジンネマンの専用機として組み上げられた機体がこれである。ペイル社の技術と共に、パイロット科の生徒としてやって来た彼女だったが、彼女用の機体は用意できなかった。そんな折、新たにジェタークのCEOとなったグエルが声を発する。CEOの業務に専念する為、MSから降りることを決めたグエルは言う。自分のディランザを使え。と。
そうした経緯から、ディランザにペイルの技術を組み込んで完成したのがこの機体である。その外観、まず目に付くのは機体の四方に装着された、大型のバインダーだろう。シールド、スラスター、ウェポンラック、そして秘めた機能を持ったこのユニットは、外装にディランザ(グエル機)のシールドを使用しているものの、ペイル社の技術が使用され、この機体に高い機動性能を与えている。「物」的には、ガンダムファラクトの推力ユニット、ブラストブースターとほぼ同等の物が四基、飛行性能も非常に高い機体になっている。そして、もうひとつのペイル社の技術として「コラキ」が挙げられる。これもファラクトに搭載されていたものと同等のものだが、本機体にGUNDフォーマットによる技術は一切搭載されておらず、この「コラキ」は、ジェターク社の有する高性能なAI技術によるドローン、スウォーム兵器として稼働する。
一見して大幅な改造が施されたように見えるが、機体本体、ディランザの部分は装甲の追加、若干のデザインの変更のみで、グエル機がそのまま使用されている。そして、もう一つ目に付くのは機体の一部に施された装飾だろう。マリィ曰く、「袖」と呼ばれるこの装飾は、マリィたっての希望により施された。これらの特徴から、この機体は後に「四枚羽」、「袖付き」などと呼ばれることとなる。機体の名前の由来としては、太古の地球文明史においてある制度の第二階級。王族、武人階級の名からとられているらしい。
マリィ・クルス・ジンネマン
19歳。彼女は、ペイル社の強化人士研究の被検体の一人だった。クワイエット・ゼロ事件後、ベネリットグループ解体に伴いペイル社はGUND-ARM並びに強化人士研究から撤退した。それによって「廃棄」を待つばかりだった彼女は一転、自由の身となる。最後に社から問われた、望みはあるか。と言う問いに対し、彼女は言う。一人の人として、いち生徒として学校に通いたい。と、そうしてアスティカシア学園のペイル寮へと編入した彼女は、程なく技術交換生としてジェターク寮へ編入する。
エラン・ケレス、グエル・ジェタークらと親交を持つという事は、地球寮の面々とも親交を持つこととほぼ同じだったと言えるだろう。そこで彼女は「株式会社ガンダム」の存在を知る。強化人士としてGUND-ARM。それに関係する様々な物に対し、恐れ、憎しみ、嫌悪感、ネガティブな感情を抱く彼女だったが、GUND-ARM技術を医療へ転換すると言う社の方針。そして何より、地球寮の生徒たちに惹かれた彼女は、株式会社ガンダムへの入社を希望する。自身に刻まれた強化人士としての呪い、GUND技術への負の感情を乗り越えるために。
19歳ではあるが新入生、一年生として学園に入った彼女。成績優秀、スポーツ万能とまさに文武両道を体現しており、非常に優秀な生徒として多方面から注目されているが、彼女はそれをよく思っていないようだ。ちなみに彼女が強化人士である事は伏せられている。また、そのルックスから、男女問わず多くの生徒らから興味を抱かれるものの、その身に纏う雰囲気(眉間にしわを寄せ、いつも深刻な表情を、つまりは仏頂面)により、軽い気持ちで声をかけることの出来る豪のものはいないようだ。株式会社ガンダムに入社後は、彼女とお近づきになりたい一心で入社を希望する男子生徒が増えたものの、そういった生徒は、チュアチュリー・パンランチ(自称)面接官に光の速さで不採用が言い渡される。ちなみにパイロット科の生徒だった場合、グラハムとの決闘もオマケで付いてくる。
夕焼けが眩しい。穏やかな時間、この時間が好きだ。学園敷地内の並木道。その木々の間から漏れる夕焼けの色が…。自分が今、宿舎にしている地球寮へと続く並木道を歩くマリィ。彼女は、夕焼けに染まった道の先にいる一人の少女を見つける。…車椅子に乗った赤毛の少女、夕焼けと同じ色だ。そう思いながら彼女は近づいていく。…確か、彼女は地球寮の生徒、それも、あの…。
近づくにつれその少女は、時折、「ほっ」だの「はっ」だの言いながら自らの腕で車椅子の車輪を回しているのが見て取れる。…彼女の車椅子はモーター駆動のはず、この先は軽く上り坂になる、故障したのだろうか…。互いに声が聞こえる距離まで近づくと、遠慮がちにマリィは声を掛ける。
「…スレッタ・マーキュリー。どうした、モーターの故障か…」
マリィが近づいてきたことに気が付かなかったのだろう。おわぁ、などと驚きながら振り向いた彼女は、逆光で見えないマリィの顔を見上げて、違うんですこれは、などと言いながら続ける。
「これは、ミオリネさんが、車椅子に乗ってる間もだらけないで、鍛えなさいって。…そうすれば、リハビリの時、楽になるからって」
そう言って彼女は、腕をぐっと曲げ、小さなちからこぶをつくって見せると。
「…だから、一日の半分、移動の時とかはモーターを切って、自分で動いているんです。…ほら、筋力もだいぶ戻ってきたんですよ」
そう言って見せる笑顔が眩しい。彼女のことは、地球寮の生徒らから聞いている。クワイエット・ゼロ事件。…ガンダムのこと。マリィは眩しそうに彼女の笑顔を見つめる。彼女は、強化人士であるマリィからしてみれば、GUND-ARM技術の呪縛を乗り越えた人だと思っている。…まあ、そう思っているのは自分だけなのかもしれないが。それでも。自分もそうありたいと願う。憎んでいたガンダムを。強化人士の自分を。それでも。この呪縛を乗り越えたい。と、彼女は自分の望むべき先にいる人だ。
「よし、押すぞ。捕まっていろ、スレッタ・マーキュリー」
難しい顔をしていたのだろう。どうしたんですか。と、下から見上げてくる蒼い瞳に気付く、動揺した顔を見られたくなく、そう言ってするりと車椅子の後ろまわると、何か起きたのか分からず慌てるスレッタをよそに、ぐんぐんと車椅子を押していく。
夕焼けに染まった道。たくさん話をした。楽しい話。互いに面白くなかった時の愚痴を言い合い。そして、笑った。地球寮が見えてきたあたりで、マリィに振り向くとスレッタは言う。
「私、マリィさんのこと。もっと怖い人だと思ってました」
マリィを見上げるスレッタ。どう答えたらいいのか分からないマリィに、スレッタは続ける。
「…そうだ。マリィさん、好きな食べ物はなんですか?」
食べたいものとか。スレッタは言う。
「…食べたい…もの」
そうです、食べたいものです。そう言う、真っ直ぐな蒼い瞳。
「…‥アイス、クリーム」
「わあ、じゃあ、今度、皆んなで食べに行きましょう」
辺りも暗くなり始め、うっすらと見えてきた星空の下。彼女達の笑う声が響く。
ラージャニヤ
ディランザ・カッティーヤの四枚のバインダーには、それぞれにサブアームが内蔵される。所謂、隠し腕。である。一般にサブアームと言われイメージするのは、細く、貧弱な、あくまで何かのサポートをする為のアームユニットを想像するだろう。しかし、このバインダー内に内蔵されるアームユニットは、スペック的にペイル社のザウォートの腕部とほぼ同等のものであり、バインダー内に懸架したビームライフル及び、ビームトーチを通常の腕部のように使用することができる。まさにその名の通り、ラージャニヤ(両腕を意味する)。この機体、ディランザ・カッティーヤの第二、第三の両腕として機能するのだ。
しかし、欠点もある。通常、人体を模したMSの操縦は、人体の延長という「感覚」ありきで操縦されるものだ。機体に複数の腕を追加する。これは、自分の腕以外の腕を操作する「感覚」が必要になる。腕が六本もある人間はいないだろう。その「感覚」を補うのが、ジェターク社の高度なAI技術なのであり、強化人士であるマリィの操縦技術を持ってしても、非常に難しいのだ。その為、機体の首の後ろ、バックパックの上部に、バインダー及び、サブアームを制御する為のAIシステムを内蔵したユニットが追加されている。
地球寮内で行われている株式会社ガンダムの社内会議。私は一社員として、その末席に座り、その様子を眺める。正直、パイロット科の私は、彼ら、彼女達の話に加わることが出来ない。それは隣の席のグラハム・エイカーも同じらしい、見れば、椅子に深く腰掛け腕組みをし、眼を伏せたままピクリとも動かない。まあ、私も彼も、雑用のようなことをやらせてもらっているのだから仕方ないとも言えるだろう。ただ、たまに良い案がないかと意見を聞いてくれるのがありがたい。
会議は粛々と進んでいく。積極的に意見を述べる者、冷静に鋭い意見を出す者、帳簿が表示されているであろう端末を見て頭を抱える者、机に突っ伏したまま賛成の意思表示として手を挙げる者、そんな中にあって、この空間、皆とともにいる事に、何か居心地の良さを感じるのだ。
そんな会議も終わり、方々へ散って行く面々を横目に、ミオリネに声をかける。どこか疲れた様子なのもある。何かを言いたそうな、そんな気がしたからか。
「どうした、ミオリネ・レンブラン。…何か、問題でもあるのか」
私に声をかけられるとは思っていなかったのだろう。驚いた顔がこちらを見る。へぇ、わかるんだ。と、少し感心した様子のミオリネが言う。
「ああ、言葉にいつもの自信が感じられなったように思えてな」
目を伏せるミオリネ。
「…いや、すまない。無遠慮な言い方になってしまった」
かまわないわ。そう言ってミオリネは話し始める。いつの間にか、スレッタも隣に来ている。…新しく始めたい、試してみたいプロジェクトがあるのだと言う。それは中々の大事になるらしく、多くの企業のサポートが必要になるらしい。残念ながら私には分からないことが多かったが、上、つまりは「父親」から、反対されているのだと言う。なかなか承認が得られない、時期早々なのは分かっている。と彼女は言う。それでも。今がチャンスなのだと。それにかける彼女の熱意が伝わってくる。隣のスレッタも心配しながら話を聞いている。不意にミオリネは立ち上がると、顔を上げ、これからもう一度話してくる。そう言って背を向け行こうとする。そんなミオリネの背に私は言う、こう言ってみろ。と、
「お父さん、…わがままを、許してくれますか」
と、一瞬の沈黙。ミオリネは目を丸くして私を見る。隣ではスレッタが、おお。と言いながら小さく手をぱちぱちと叩いている。私は続けて言う。…イチコロだ。と。
「おお。イチコロっ」
隣のスレッタが再び、手をぱちぱちと叩く。…半ば呆れ顔のミオリネだったが、どうやら少し肩の力が抜けたようだ。ふと笑った顔に余裕が出てきたように見える。…それでいい。
こちらに背を向け、行こうとする彼女の背中に、私は再び声をかける。
「それでも。と言い続けろ。自分を見失うな、…それが、お前の根っこだ」
足を止めるミオリネ。振り返りはしなかった。だが、その顔は、笑っている。…そう思った。
ディランザにペイル社製のバインダーを装着する形で改修された本機、基本的にディランザ本体には手を加えられておらず、新たに装甲などが追加された程度である。基本スペックが高いであろうグエル専用機をベース機に使用した為か、四枚のバインダーの追加というハード面、強化人士であるマリィに合わせた機体の調整というソフト面、共にスムーズに行われたようだ。
基本武装は、ビームライフル×2、ビームトーチ×2、胸部ビームバルカン。「今回」のスサノオウとの決闘時において二本のビームパルチザンを装備していたが、これは近接攻撃主体の相手に合わせてのことであり、グエル機の予備を拝借しての出撃となっている。
ジェターク社の誇る高性能AIシステムによりフレキシブルに可動する四枚のバインダーは、ディランザの機動性能を倍以上に高めている、このバインダーに内蔵されたペイル社のブラストブースターは、ディランザに大気圏内における高速飛行性能を与えた。
バインダー内に武装を懸架し、「コラキ」、サブアームを内蔵、高出力ブースターとして機能し、これ自体がシールドとして高い防御性能を持つ。反面、この多機能なバインダーによりAIシステムのサポートがあって尚、非常に操縦の難しい機体になってしまった。
バインダー自体を本体から分離させ、それ自体を大型のドローン、スウォーム兵器として、攻撃及び、防御に使用することも可能。ただし、あくまで最終手段であり、「奥の手」と呼ばれるものだろう。また、ディランザの肩部の本来のシールド接続部も生きている為、「二枚羽」になることも可能だ。
「袖」。パイロットである、マリィ・クルス・ジンネマンが、どうしても。と付けたものである。どんな理由で、何の意味があるのか一切不明であり、本人に聞いても教えてくれない。ただ、分かるのは戦闘に対して何のアドバンテージもないということだけである。この装飾の為か、「袖付き」などとも呼ばれる。
数日後、地球寮内、上を下への大騒ぎの株式会社ガンダム。その中にマリィはいた。資料の入った箱の出し入れから、資料の作成、ミオリネらと共に他の企業との会議にも参加したりと忙しい。株式会社ガンダムの新しいプロジェクトが発足したのだ。以前、ミオリネに相談された件なのだろう。指示を出すミオリネの自信に溢れた声がそれを物語っている。あの後、廊下の向こうに消える、しっかりと背筋の伸びたミオリネの姿を思い出す。それでも。という彼女の熱意が伝わったのだろう。そうした中にあってマリィは思う。忙しい中で怒り、笑う、彼女達を見る。時間さえ輝いて見える、どんな絶望の中にも、希望は生まれる。彼女達は光だ。
日も暮れ、落ち着きを取り戻した寮内。騒がしかった日中と比べ、どこか緩んだ雰囲気の夕食後、部屋に戻るマリィに声をかける者がいる。ミオリネだ。振り返ったマリィに気付くと、あたりを気にするように小さく手を振って呼んでいる。
外のベンチに座る二人。見れば、ミオリネは小さな手さげの紙袋を持っている。
「…ありがとう。…その、あんたの一声がなかったら」
説得出来なかったかも。少し照れくさそうな顔で、ミオリネは言う。そうして再び、ありがとう。と小さく言う。彼女は自分を見失わなかったのだ。言い続けた、それでも。と。マリィはミオリネを見つめる。…マリィに見つめられていることに気づいたミオリネは、バツの悪そうな顔をすると、内緒話をするように口の横に手を当てる。マリィは少しミオリネとの間を詰めると、顔を寄せ耳を貸す。
「…心に、従え」
だってサ。そう言って照れくさそうに微笑む。が、恥ずかしかったのだろう。すぐに立ち上がり、持っていた紙袋をマリィに押し付けると、
「アイスクリーム。溶ける前に食べなさいよね」
そう言ってさっさと行ってしまう。寮の中に入っていくミオリネを見届ける。小さな紙袋の中を覗き込むと、中にはカップのアイスクリーム、最近学園内で話題となっている、並ばないと買えない。と言うシロモノだ。抹茶ミントチョコチップ味ストロベリーソース掛け…。
マリィは空を見上げる。満天の星空。色とりどりの星は、纏まり帯のようになって夜空に広がる。まるで夜の虹のように。空を見上げてマリィは言う。
「…イチコロ。だったか」
…この虹の彼方に、道は続いている。
天気の良い日は、学食のテラス席でアイスクリームを食べる彼女の姿が目撃されている。…どうやらマリィさんは学園生活を満喫しているようだ。
コラキがちょっぴり見えている(グレーのパーツ)。バインダーの形を作るのは楽だったが、隠し腕を付けたくなり、バインダーの展開を考えたのが運の尽き。…同じ構造のジャンクパーツの集合体を四つ。パーツの厳選に苦労するのだ。…バインダーのサイズがもう一回り大きい方が、と思ってはいけない。ディランザグエル機のシールドを芯にすることを決めていたので、このくらいのバランスで良いのである。
ディランザ・カッティーヤ。…変な名前と思うでしょう。カッティヤ、khattiyaで検索してみて下さい。この名前である理由がわかります。
水星の魔女の概要を初めて見た時、決闘がある学園もの。毎回いろんな決闘相手が出てきてどうこうする一話完結の話だと思ってました。思いませんよ、あんなお話だなんて。だからやったんですよ。自分がっ。一話完結の話みたいやつを!
多分あれだ、これある意味異世界転生ってヤツだ。どうか私にシュバルゼッテを、「普通」に。「定価」で購入させてください。次は、あのキャラクターが学園に転校してきます。
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