MS戦記異聞シャドウファントム#25Bloom of youth or MIYAGI’s counterattack -2 / Dec.1.0079

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「上官がブライトマン少佐でなきゃ、営倉入りくらいじゃ済まなかったな。」

 イギー・ドレイク少尉は、士官食堂で、対面しているヘント・ミューラー少尉に向かって、さも愉快な話のように語り掛けた。ヘントは、命令違反の罰としての営倉入りから、今さっき解放されたところだった。

 捜索に来た際、イギーは開口一番、この被撃墜バカップルが、心配かけやがって、と、心配しているのか、怒っているのか、茶化しているのか分からない気色と言葉をぶつけてきた。イギーは面白いやつだな、とヘントは思った。

「捕虜にした、”血濡れの左腕”は?」 ヘントは、自分が撃墜した”血濡れの左腕”のパイロットのことを尋ねた。 アーサー・クレイグ大尉と名乗ったパイロットは、投降した際も堂々たる態度で、南極条約に則った処置を要求した。 金髪碧眼のなかなかの美丈夫で、基地内のウェーブ(女性士官)たちの間で一時騒ぎになったという。「何も喋らんし、喋らせる気もないだろう。ただ、やっぱり、オデッサでお前をやったグフは、あいつだったみたいだな。」 自分で仇を討ったわけだ、とイギーは感心した。 それよりも、あの時、彼を殺せなかったのはなぜだろうか。ミヤギの声が聞こえた気がしたが、あの時、ミヤギは気を失っていた。だとしたら、この男を殺してはならないと、自分の深層心理が働き掛けたのか。しかし、縁もゆかりもない彼に、なぜ——。

「捕虜にした、”血濡れの左腕”は?」

 ヘントは、自分が撃墜した”血濡れの左腕”のパイロットのことを尋ねた。

 アーサー・クレイグ大尉と名乗ったパイロットは、投降した際も堂々たる態度で、南極条約に則った処置を要求した。

 金髪碧眼のなかなかの美丈夫で、基地内のウェーブ(女性士官)たちの間で一時騒ぎになったという。

「何も喋らんし、喋らせる気もないだろう。ただ、やっぱり、オデッサでお前をやったグフは、あいつだったみたいだな。」

 自分で仇を討ったわけだ、とイギーは感心した。

 それよりも、あの時、彼を殺せなかったのはなぜだろうか。ミヤギの声が聞こえた気がしたが、あの時、ミヤギは気を失っていた。だとしたら、この男を殺してはならないと、自分の深層心理が働き掛けたのか。しかし、縁もゆかりもない彼に、なぜ——。

「おい、お前、何やってるんだ。」 イギーの声に、ヘントはハッと我に返った。 なぜか士官食堂をうろついていた”キッド”に声を掛けたのだ。「あ、ヘント少尉。営倉出られたんですね。オツトメ、ゴクローサマです。」 愛嬌ある笑顔を浮かべて、近づいてくる。「お前、いつまでも何してんだよ。お前の仲間はもう行っちまったじゃないか。」 ヘントとミヤギが回収された地点の傍には、敵と”ロレンス”のザクが組み合ったまま、煙を吐いているのが発見された。敵のザクは、コクピットに深々とヒートホークが突き刺さっていたため、間違いなく戦死しているが、”ロレンス”のザクはコクピットハッチがはじけ飛んでいた。コクピットの中から濛々と煙と炎があがっていたと言うから、中からの爆発で吹き飛んだのだろう。おそらく彼も死んでいるはずだ。だが、”レバント解放戦線”の勇士たちは、”ロレンス”が生還して、再び指揮を執るものと信じているらしい。ジオンを追い払った今、何と戦うと言うのか、彼らは再び武装を整えると、連邦軍の幕営地を後にした。「この土地は、昔から争いの絶えない場所ですからね。”ロレンス”が生きていようといまいと、彼らには関係ないんですよ。」 おいらは、イチ抜けです、と”キッド”は笑う。「だからどうすんだって聞いてるんだが。」「少佐のお取り立てで、まあ、部隊の雑用程度に拾っていただけることになりました。」 そのうち、軍属にでもなれそうです、と付け加える。この男のような器用な人間は、確かにどの部署でも重宝しそうだ。何より、その愛嬌が殺伐とした戦場の清涼剤になる。「

「おい、お前、何やってるんだ。」

 イギーの声に、ヘントはハッと我に返った。

 なぜか士官食堂をうろついていた”キッド”に声を掛けたのだ。

「あ、ヘント少尉。営倉出られたんですね。オツトメ、ゴクローサマです。」

 愛嬌ある笑顔を浮かべて、近づいてくる。

「お前、いつまでも何してんだよ。お前の仲間はもう行っちまったじゃないか。」

 ヘントとミヤギが回収された地点の傍には、敵と”ロレンス”のザクが組み合ったまま、煙を吐いているのが発見された。敵のザクは、コクピットに深々とヒートホークが突き刺さっていたため、間違いなく戦死しているが、”ロレンス”のザクはコクピットハッチがはじけ飛んでいた。コクピットの中から濛々と煙と炎があがっていたと言うから、中からの爆発で吹き飛んだのだろう。おそらく彼も死んでいるはずだ。だが、”レバント解放戦線”の勇士たちは、”ロレンス”が生還して、再び指揮を執るものと信じているらしい。ジオンを追い払った今、何と戦うと言うのか、彼らは再び武装を整えると、連邦軍の幕営地を後にした。

「この土地は、昔から争いの絶えない場所ですからね。”ロレンス”が生きていようといまいと、彼らには関係ないんですよ。」

 おいらは、イチ抜けです、と”キッド”は笑う。

「だからどうすんだって聞いてるんだが。」

「少佐のお取り立てで、まあ、部隊の雑用程度に拾っていただけることになりました。」

 そのうち、軍属にでもなれそうです、と付け加える。この男のような器用な人間は、確かにどの部署でも重宝しそうだ。何より、その愛嬌が殺伐とした戦場の清涼剤になる。

「"これからは、地球のために戦います!"かっこいいでしょう。ふふふ。」

「そうか。じゃあ、しっかり時間ができたわけだ。この間の防塵処理、あれ、よく分かんなかったんだ、今度ちゃんと教えてくれ。」

イギーが、気持ちのいい笑顔で言うと、もちろんです、と”キッド”は応じる。

「そうだ、ジャブロー行けるぞ。」 イギーの声が一段と明るく響く。 22部隊の次の転属先は、宇宙になるのか、地上の別の戦線になるのか。アフリカ戦線も、中東は制圧したが、南アフリカに向けて、更に掃討戦を続けると言う。とにかく、一度ジャブローに入り、機体の整備やら、ニュータイプの検査やらを受けることになると言う。「そうしているうちに、戦争も終わっちゃいそうですね。」 ”キッド”が言うとおり、地上のジオンの勢力はほとんど一掃されつつある。ちょうど昨日、ジャブローにジオン軍の大規模空襲があったと言う。ジオンにとっての、オデッサ・ディと言うか、一大反抗作戦だったようだが、鉄壁のジャブローは抜けなかった。イギーも家族のことで気が気でなかったようで、昨日は気が立っていたらしい。無事は今朝、確認できた。「よかったな、家族に会えるじゃないか。」 ヘントは、心からそう思う。「そうだな。あとは、あれだ、約束通り朝まで飲むぞ。」 ただ、ジャブローの地下は暗くて陰気なんだよな、とイギーが言うのを聞いて、ヘントはずっと気にしていたことを口にする。「ジャブローと言えば、ミヤギ曹長は。」 営倉に入っている間、会いに来なかったのは彼女らしい気遣いだと思ったが、出てくる時はイギーと一緒に、自分を迎えてくれるものと思っていたのだ。「まあ、一番の関心はそっちですよね、当然。」 ”キッド”が茶化す。「お前から行ってやるのがいい。」 イギーは、ミヤギのコンパートメント(個室)のナンバーと、居住スペースへの道筋を、サッとメモに書いて渡した。「それと、もう曹長ではなく、少尉だ。」

「そうだ、ジャブロー行けるぞ。」

 イギーの声が一段と明るく響く。

 22部隊の次の転属先は、宇宙になるのか、地上の別の戦線になるのか。アフリカ戦線も、中東は制圧したが、南アフリカに向けて、更に掃討戦を続けると言う。とにかく、一度ジャブローに入り、機体の整備やら、ニュータイプの検査やらを受けることになると言う。

「そうしているうちに、戦争も終わっちゃいそうですね。」

 ”キッド”が言うとおり、地上のジオンの勢力はほとんど一掃されつつある。ちょうど昨日、ジャブローにジオン軍の大規模空襲があったと言う。ジオンにとっての、オデッサ・ディと言うか、一大反抗作戦だったようだが、鉄壁のジャブローは抜けなかった。イギーも家族のことで気が気でなかったようで、昨日は気が立っていたらしい。無事は今朝、確認できた。

「よかったな、家族に会えるじゃないか。」

 ヘントは、心からそう思う。

「そうだな。あとは、あれだ、約束通り朝まで飲むぞ。」

 ただ、ジャブローの地下は暗くて陰気なんだよな、とイギーが言うのを聞いて、ヘントはずっと気にしていたことを口にする。

「ジャブローと言えば、ミヤギ曹長は。」

 営倉に入っている間、会いに来なかったのは彼女らしい気遣いだと思ったが、出てくる時はイギーと一緒に、自分を迎えてくれるものと思っていたのだ。

「まあ、一番の関心はそっちですよね、当然。」

 ”キッド”が茶化す。

「お前から行ってやるのがいい。」

 イギーは、ミヤギのコンパートメント(個室)のナンバーと、居住スペースへの道筋を、サッとメモに書いて渡した。

「それと、もう曹長ではなく、少尉だ。」

 ”シングルモルト”を始めとする、中東での活躍が認められての、二階級特進だった。このままじゃ、あっという間に抜かれるな、とイギーは笑っていた。それも良い。

 ”シングルモルト”を始めとする、中東での活躍が認められての、二階級特進だった。このままじゃ、あっという間に抜かれるな、とイギーは笑っていた。それも良い。"シングルモルト"の発案も、なかなかの戦略眼だった。仲間を思いやれる気持ちもある。彼女なら、自分たちより上等な指揮官になるだろう。

 考えているうちに、コンパートメントに着いた。「ミヤギ……少尉。ヘント・ミューラー少尉だ。」 ミヤギの部屋をノックしたが、返事がない。居留守だろうことは、容易に想像できたので、少尉、と呼び掛けながら、ノックを続ける。3回目の呼び掛けで、ばたばたと部屋の中を動き回る気配がした後、ようやくドアが開いた。 普段はハーフアップにまとめている髪の毛を、MS搭乗時のように一つにまとめているが、慌てて結ったのか、なんだかバランスがおかしい。急いで羽織ったらしい軍服も、襟が乱れている。が、一番目を引いたのは、右の頬に貼られた大きな不織布だった。「非番だったか。」最初に口にするのがそれか、と、自分の気の利かなさを呪う。「いえ、いや、非番、ではありますが。……あ、オツトメ、ご苦労様です!」 ”キッド”の入れ知恵だろうか。ヘントは、くすっと笑う。「時間、もらえるかな。」「あ、はい。勿論です。」「士官食堂で待っているよ。ちゃんと待っているから、準備してから来ると良い。ゆっくりでいいよ。」~~~~~~~~~~~~~~~  食事を乗せたプレートを持って、ミヤギとヘントは向かい合った席に腰掛ける。「ヘント少尉は召し上がらないのですか。」「すまない、わたしはさっき、イギーと済ませた。」「そうですか。」ミヤギは、やはりイギーと一緒に迎えに行けばよかったと、少し後悔したが、ヘントは気づかない。

 考えているうちに、コンパートメントに着いた。

「ミヤギ……少尉。ヘント・ミューラー少尉だ。」

 ミヤギの部屋をノックしたが、返事がない。居留守だろうことは、容易に想像できたので、少尉、と呼び掛けながら、ノックを続ける。3回目の呼び掛けで、ばたばたと部屋の中を動き回る気配がした後、ようやくドアが開いた。

 普段はハーフアップにまとめている髪の毛を、MS搭乗時のように一つにまとめているが、慌てて結ったのか、なんだかバランスがおかしい。急いで羽織ったらしい軍服も、襟が乱れている。が、一番目を引いたのは、右の頬に貼られた大きな不織布だった。

「非番だったか。」

最初に口にするのがそれか、と、自分の気の利かなさを呪う。

「いえ、いや、非番、ではありますが。……あ、オツトメ、ご苦労様です!」

 ”キッド”の入れ知恵だろうか。ヘントは、くすっと笑う。

「時間、もらえるかな。」

「あ、はい。勿論です。」

「士官食堂で待っているよ。ちゃんと待っているから、準備してから来ると良い。ゆっくりでいいよ。」

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 食事を乗せたプレートを持って、ミヤギとヘントは向かい合った席に腰掛ける。

「ヘント少尉は召し上がらないのですか。」

「すまない、わたしはさっき、イギーと済ませた。」

「そうですか。」

ミヤギは、やはりイギーと一緒に迎えに行けばよかったと、少し後悔したが、ヘントは気づかない。

「その頬。」 ためらいがちに、ヘントが口を開く。「あ、ええ。少し深いですが、切り傷です。化膿や破傷風の心配もありません。」「深いって、どのくらい?」「痕は、残りそうですね。」何と声を掛ければいいか、ヘントは分からなかった。すまない、は違う気がする。「ご両親には、済まないことになったな。」「仕方ありません。軍属ですから。重要なのは命です。」 ミヤギらしい返答を聞いて、せっかく、綺麗な顔なのにな、という言葉は、さすがに飲み込んだ。彼女の覚悟と責任感に対し、それはあまりにも不躾だ。 ふと、ミヤギの目の前の食事に目を落とす。ミヤギの前には、こじゃれたカレーライスのプレートと、小さなパフェが並んでいた。連邦軍にはウェーブも多いので、士官食堂のメニューにもモダンなものが多い。「やっぱり君、カレー、好きだろう。」いつか聞きそびれたことを、また尋ねてみた。「父が、よく作ってくれたので。自分も時々、スパイスから調理します。よろしければ、そのうち。」 あまりに自然な提案だったが、なかなか踏み込んだことを言っていると気づき、ヘントはちょっと戸惑った。「死線を越えて、一皮剥けたか。」何のことです、とでも言いたげな顔をされたが、どう説明したものか、更に困ってしまう。「少尉はいつも言葉が足りないんです。ちゃんと言ってもらわないと分かりません。」ふう、とため息をついたかと思うと、今度は伏し目がちにしょげ返る。そして、言葉を続ける。

「その頬。」

 ためらいがちに、ヘントが口を開く。

「あ、ええ。少し深いですが、切り傷です。化膿や破傷風の心配もありません。」

「深いって、どのくらい?」

「痕は、残りそうですね。」

何と声を掛ければいいか、ヘントは分からなかった。すまない、は違う気がする。

「ご両親には、済まないことになったな。」

「仕方ありません。軍属ですから。重要なのは命です。」

 ミヤギらしい返答を聞いて、せっかく、綺麗な顔なのにな、という言葉は、さすがに飲み込んだ。彼女の覚悟と責任感に対し、それはあまりにも不躾だ。

 ふと、ミヤギの目の前の食事に目を落とす。ミヤギの前には、こじゃれたカレーライスのプレートと、小さなパフェが並んでいた。連邦軍にはウェーブも多いので、士官食堂のメニューにもモダンなものが多い。

「やっぱり君、カレー、好きだろう。」

いつか聞きそびれたことを、また尋ねてみた。

「父が、よく作ってくれたので。自分も時々、スパイスから調理します。よろしければ、そのうち。」

 あまりに自然な提案だったが、なかなか踏み込んだことを言っていると気づき、ヘントはちょっと戸惑った。

「死線を越えて、一皮剥けたか。」

何のことです、とでも言いたげな顔をされたが、どう説明したものか、更に困ってしまう。

「少尉はいつも言葉が足りないんです。ちゃんと言ってもらわないと分かりません。」

ふう、とため息をついたかと思うと、今度は伏し目がちにしょげ返る。そして、言葉を続ける。

「……申し訳ございませんでした。」 思った通りだ。さっき出てこなかったのも、イギーらと一緒に来なかったのもこの気掛かりがあったのだろう。「”自分のせいで、少尉を危険に晒しました”かな。」「そう、それです。」 アイスコーヒーを一口すすって、少尉も、ニュータイプですか、と顔をあげる。忙しく顔色を変えるミヤギに、随分”ほぐれた”とヘントは思う。「君の責任感の強さを知っていれば当然そう思う。イギーにだって分かるさ。」言ってから、ちょっと失礼だな、と思った。イギーはむしろ、よく気づく方だろう。「もう一つ言えば、顔の傷。わたしが気にすると思っていただろう。」 沈黙が、ミヤギの肯定を表している。 しばらくして、ミヤギが口を開いた。「でも、少尉は罰をお受けになって、自分は……自分だけ、その……。」「それもわたしが自分で判断した結果だ。君の昇進は、君自身の実力だ。」そこまで言って、そうだったね、と呟く。「おめでとう、少尉。最初に伝えるべきだった。」「……ありがとうございます。」礼を言われたが、どこか納得のいかない様子だ。 その後、奇妙な沈黙が続いた。

「……申し訳ございませんでした。」

 思った通りだ。さっき出てこなかったのも、イギーらと一緒に来なかったのもこの気掛かりがあったのだろう。

「”自分のせいで、少尉を危険に晒しました”かな。」

「そう、それです。」

 アイスコーヒーを一口すすって、少尉も、ニュータイプですか、と顔をあげる。忙しく顔色を変えるミヤギに、随分”ほぐれた”とヘントは思う。

「君の責任感の強さを知っていれば当然そう思う。イギーにだって分かるさ。」

言ってから、ちょっと失礼だな、と思った。イギーはむしろ、よく気づく方だろう。

「もう一つ言えば、顔の傷。わたしが気にすると思っていただろう。」

 沈黙が、ミヤギの肯定を表している。

 しばらくして、ミヤギが口を開いた。

「でも、少尉は罰をお受けになって、自分は……自分だけ、その……。」

「それもわたしが自分で判断した結果だ。君の昇進は、君自身の実力だ。」

そこまで言って、そうだったね、と呟く。

「おめでとう、少尉。最初に伝えるべきだった。」

「……ありがとうございます。」

礼を言われたが、どこか納得のいかない様子だ。

 その後、奇妙な沈黙が続いた。

 沈黙に耐え切れず、ミヤギが口を開く。「あの……話って、それだけですか。」「ん?あ、ああ……そうだな……。」 勢い込んで押しかけてみたものの、確かに何を話すのか、まったく考えていなかった。 呆れた、という顔でヘントの顔を2秒ほど見つめた後、ミヤギはプッと噴き出した。「少尉らしいですね。」楽しそうに笑うミヤギから、ヘントはバツが悪そうに顔を逸らす。「階級が並んだんだ、そうかしこまって話す必要はない。」よくわからない提案で、その場を誤魔化す。他愛のない話でいいから、ただ、君と話したかった、と、言えばいいだけなのだが。「では、ヘント少尉。聞いてもよろしいですか?」「大して変わっていないじゃないか。」「いいんです、あなたの方が年上な上に、先任なのですから。」真面目な口調と発想は変わっていないが、確かに態度は砕けた気がする。 ミヤギは、オデッサのブリーフィングルームで初めて会ったとき、超人的な長距離狙撃を、やれる、と確信をもって述べた時と同じように、涼やかな声で続けた。              ・

 沈黙に耐え切れず、ミヤギが口を開く。

「あの……話って、それだけですか。」

「ん?あ、ああ……そうだな……。」

 勢い込んで押しかけてみたものの、確かに何を話すのか、まったく考えていなかった。

 呆れた、という顔でヘントの顔を2秒ほど見つめた後、ミヤギはプッと噴き出した。

「少尉らしいですね。」

楽しそうに笑うミヤギから、ヘントはバツが悪そうに顔を逸らす。

「階級が並んだんだ、そうかしこまって話す必要はない。」

よくわからない提案で、その場を誤魔化す。他愛のない話でいいから、ただ、君と話したかった、と、言えばいいだけなのだが。

「では、ヘント少尉。聞いてもよろしいですか?」

「大して変わっていないじゃないか。」

「いいんです、あなたの方が年上な上に、先任なのですから。」

真面目な口調と発想は変わっていないが、確かに態度は砕けた気がする。

 ミヤギは、オデッサのブリーフィングルームで初めて会ったとき、超人的な長距離狙撃を、やれる、と確信をもって述べた時と同じように、涼やかな声で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘント少尉は、わたしのことを愛しておいでですね?」                完全に予想外の逆襲に、ヘントはベルベット作戦発動以来、最大の衝撃を受けた。いや、これまでの敵味方の、どんな作戦・戦術よりも驚愕すべきものだった。

「ヘント少尉は、わたしのことを愛しておいでですね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に予想外の逆襲に、ヘントはベルベット作戦発動以来、最大の衝撃を受けた。いや、これまでの敵味方の、どんな作戦・戦術よりも驚愕すべきものだった。"血濡れの左腕"の奇襲攻撃を遥かに上回る。

「ミヤギ少尉、それはちょっと、直球すぎやしないか。」

「決め球はストレートと決めています。相手がどんな球を欲しがっても。」

「待て、それは、ちょっと、心の準備が……!」

「少尉!」 テーブルの向こうから、ぐい、と上体を突き出す。「ダマスカスで言ったはずです。わたしはニュータイプではありません。」「いや、少尉の戦場での働きはニュータイプそのものだった。」「そういう話ではありません、少尉!」「なんだ、今日は随分ぐいぐい来るな。」「心の中のことは、口に出さなければわかりません。口に出す必要がなくなるなら、わたしはニュータイプになどなりたくはない。だから、必要なことはちゃんと、言ってくださらなければ。」参ったな、とヘントはたじろぐが、琥珀色の瞳から、目を逸らせない。ブライトマン少佐の言うとおり、彼女は案外したたかななのか。いや、違う。抜群に勝負強いのだ。このままではいずれ、自分は白旗をあげざるを得ない、と、ヘント・ミューラーは覚悟し始めていた。

「少尉!」

 テーブルの向こうから、ぐい、と上体を突き出す。

「ダマスカスで言ったはずです。わたしはニュータイプではありません。」

「いや、少尉の戦場での働きはニュータイプそのものだった。」

「そういう話ではありません、少尉!」

「なんだ、今日は随分ぐいぐい来るな。」

「心の中のことは、口に出さなければわかりません。口に出す必要がなくなるなら、わたしはニュータイプになどなりたくはない。だから、必要なことはちゃんと、言ってくださらなければ。」

参ったな、とヘントはたじろぐが、琥珀色の瞳から、目を逸らせない。ブライトマン少佐の言うとおり、彼女は案外したたかななのか。いや、違う。抜群に勝負強いのだ。このままではいずれ、自分は白旗をあげざるを得ない、と、ヘント・ミューラーは覚悟し始めていた。

「負けませんよ、少尉。」 ミヤギは、ニコリと笑った。

「負けませんよ、少尉。」

 ミヤギは、ニコリと笑った。

 戦火が止んだ砂漠の空は、ただ、青い——。  U.C.0079 12月3日。 第22遊撃MS部隊は、制圧を完了したサラサール基地から、ジャブローへ転身。喪失したガンキャノンに代わり、RGM-79Cジムを1機補充。ジャブロー基地の守備隊に加わりながら、星1号作戦に向けて新設されるMS隊の教導任務に着任。その後、北米方面、キャリフォルニアベース奪還作戦の後方予備戦力に配置されるなど、小規模な転換を経たが、大規模な戦闘に加わらないまま、ジャブローにて終戦を迎える。 終戦後、再度、アフリカのジオン掃討戦線に加わるも、戦闘状況にはならず、U.C.0081 2月をもって解隊された。 また、ベルベット作戦で地球連邦軍の捕虜となった、ジオン公国軍突撃機動軍所属アーサー・クレイグ大尉は、空路を護送中の機体を、ジオン公国の襲撃を受け、行方不明となった。 【#25 Bloom of youth or MIYAGI’s counterattack -2 / Dec.1.0079 fin.】MS戦記異聞シャドウファントム 第2部 ベルベット作戦編・完

 戦火が止んだ砂漠の空は、ただ、青い——。

 

 U.C.0079 12月3日。

 第22遊撃MS部隊は、制圧を完了したサラサール基地から、ジャブローへ転身。喪失したガンキャノンに代わり、RGM-79Cジムを1機補充。ジャブロー基地の守備隊に加わりながら、星1号作戦に向けて新設されるMS隊の教導任務に着任。その後、北米方面、キャリフォルニアベース奪還作戦の後方予備戦力に配置されるなど、小規模な転換を経たが、大規模な戦闘に加わらないまま、ジャブローにて終戦を迎える。

 終戦後、再度、アフリカのジオン掃討戦線に加わるも、戦闘状況にはならず、U.C.0081 2月をもって解隊された。

 また、ベルベット作戦で地球連邦軍の捕虜となった、ジオン公国軍突撃機動軍所属アーサー・クレイグ大尉は、空路を護送中の機体を、ジオン公国の襲撃を受け、行方不明となった。

 

【#25 Bloom of youth or MIYAGI’s counterattack -2 / Dec.1.0079 fin.】

MS戦記異聞シャドウファントム 第2部 ベルベット作戦編・完

 第2部も、お付き合いいただきありがとうございます。 今回、イラストばかりでGUNSTAへのアップをためらったのですが、一応締めとして、上げさせていただきました。お目汚しになってしまっていたら、申し訳ございません。 第1部の全10話に対して、第2部全15話+2話、テキスト総数は約3倍になっておりました。本当に、熱心にお読みくださった皆様には頭が下がります。 第1部は、匿名性の高い戦場のイメージと、敗走を指揮する指揮官を描きたかったのは、第1部ですでに触れました。当初、第2部はアフリカ戦線か北米戦線かを、あっさり4、5話で終わらせようと思っていたのですが、なぜこうなってしまったかと言うと、ジークアクスの衝撃です笑 最後の、ララァの嬉し涙(これがいちばんでかい)、シイコ・スガイの刺激的なキャラクター、コモリ少尉のなんていうか、なんか、なんか、あれです。とにかく、可愛い女の子を登場させたくなり、ミヤギ曹長が爆誕してしまったわけです笑 成功だったか失敗だったかはよくわかりませんが、戦いの趨勢と、二人の関係が割とうまくハマって、個人的には楽しかったので、よしとします。 前回のあとがきでも触れましたが、2人が2人、撃墜されても生き残るというのは、確かにご都合主義で、第1部のころのドライな感じから逸脱してしまうのはわかっていました。しかし、子どもの時分に読んだ、小説版ポケ戦のあとがきにあった「一流の悲劇よりも三流のハッピーエンド」という言葉が忘れられず、彼らの結末は三流でもいいので、きっとハッピーエンドに、と思っていました。今ちょうど、YouTubeのガンチャンでオリジン8話をやってますが、ラストのあの恋人たち、ああいう人たちの、叶わなかった想いを、ヘントとミヤギには2人で背負って生きていってほしいなと思います。 もちろん、彼らにとってはハッピーエンドだとしても、彼らが討ち取った敵にとっては、そうではないということは、理解しているつもりです。  あと、ほんのちょっとだけ、この直後の、22部隊の、というか、ヘントとミヤギの話を書いてみました。ガンプラを登場させられなくもないのですが、ちょっとここでやるのは……な内容なので、外部サイトにのみ掲載します。後ほど、リポストにてお知らせしますので、読んでくださる方はぜひお願いします。 実は、映像作品ではF91が、ストーリーひっくるめてだと、クロスボーンが好きです。どちらも、愛(恋愛だけでなく)とか、人を思う気持ちが、他のガンダムよりグッと前面に出ている気がします。 ヘントとミヤギの行く末も、もう少し見守りたくなってしまったので、物語はずるずると、第5部まで続く予定です。が、第3部は一度主人公は交代です。ヘントとミヤギは、私の気が変わらなければ第4部で帰ってきます。イギーはわかりません。 あとがき、ながくなっちゃいました、すみません。  では、第2部も最後までお付き合いくださりありがとうございました。熱心にお読みくださった皆さんの存在が、一番のモチベーションになりました。予想外の方向に転がってしまった第2部も、無事?着地できたのは、ここまでお付き合いくださった皆さんのおかげです。本当にありがとうございました! 今後も私の宇宙世紀の物語に、もう少し、お付き合いいただれば幸いです。                             ・

 第2部も、お付き合いいただきありがとうございます。

 今回、イラストばかりでGUNSTAへのアップをためらったのですが、一応締めとして、上げさせていただきました。お目汚しになってしまっていたら、申し訳ございません。

 第1部の全10話に対して、第2部全15話+2話、テキスト総数は約3倍になっておりました。本当に、熱心にお読みくださった皆様には頭が下がります。

 第1部は、匿名性の高い戦場のイメージと、敗走を指揮する指揮官を描きたかったのは、第1部ですでに触れました。当初、第2部はアフリカ戦線か北米戦線かを、あっさり4、5話で終わらせようと思っていたのですが、なぜこうなってしまったかと言うと、ジークアクスの衝撃です笑

 最後の、ララァの嬉し涙(これがいちばんでかい)、シイコ・スガイの刺激的なキャラクター、コモリ少尉のなんていうか、なんか、なんか、あれです。とにかく、可愛い女の子を登場させたくなり、ミヤギ曹長が爆誕してしまったわけです笑

 成功だったか失敗だったかはよくわかりませんが、戦いの趨勢と、二人の関係が割とうまくハマって、個人的には楽しかったので、よしとします。

 前回のあとがきでも触れましたが、2人が2人、撃墜されても生き残るというのは、確かにご都合主義で、第1部のころのドライな感じから逸脱してしまうのはわかっていました。しかし、子どもの時分に読んだ、小説版ポケ戦のあとがきにあった「一流の悲劇よりも三流のハッピーエンド」という言葉が忘れられず、彼らの結末は三流でもいいので、きっとハッピーエンドに、と思っていました。今ちょうど、YouTubeのガンチャンでオリジン8話をやってますが、ラストのあの恋人たち、ああいう人たちの、叶わなかった想いを、ヘントとミヤギには2人で背負って生きていってほしいなと思います。

 もちろん、彼らにとってはハッピーエンドだとしても、彼らが討ち取った敵にとっては、そうではないということは、理解しているつもりです。

 

 あと、ほんのちょっとだけ、この直後の、22部隊の、というか、ヘントとミヤギの話を書いてみました。ガンプラを登場させられなくもないのですが、ちょっとここでやるのは……な内容なので、外部サイトにのみ掲載します。後ほど、リポストにてお知らせしますので、読んでくださる方はぜひお願いします。

 実は、映像作品ではF91が、ストーリーひっくるめてだと、クロスボーンが好きです。どちらも、愛(恋愛だけでなく)とか、人を思う気持ちが、他のガンダムよりグッと前面に出ている気がします。

 ヘントとミヤギの行く末も、もう少し見守りたくなってしまったので、物語はずるずると、第5部まで続く予定です。が、第3部は一度主人公は交代です。ヘントとミヤギは、私の気が変わらなければ第4部で帰ってきます。イギーはわかりません。

 あとがき、ながくなっちゃいました、すみません。

 

 では、第2部も最後までお付き合いくださりありがとうございました。熱心にお読みくださった皆さんの存在が、一番のモチベーションになりました。予想外の方向に転がってしまった第2部も、無事?着地できたのは、ここまでお付き合いくださった皆さんのおかげです。本当にありがとうございました!

 今後も私の宇宙世紀の物語に、もう少し、お付き合いいただれば幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Many thanks for your unwavering support.

 

心より。

本当に、本当に、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、MS戦記異聞シャドウファントム#AfterMISSION戦いは、続いてゆく―—。※GUNSTAでは公開しません笑 第3部もお楽しみください。

次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

#AfterMISSION

戦いは、続いてゆく―—。

※GUNSTAでは公開しません笑

 

第3部もお楽しみください。

オリジナルストーリー第25話、第2部ベルベット作戦編・完

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「キョウ・ミヤギ!!!!」  キョウ・ミヤギ曹長の乗るガンキ…

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MS戦記異聞シャドウファントム#23 The last sand storm / Nov.26.0079

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MS戦記異聞シャドウファントム#22 Fury / Nov.26.0079

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「基本戦法は“シングルモルト“でいく…

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MS戦記異聞シャドウファントム#21 Overload / Nov.25.0079

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 若き命が滾るのを、誰が、止められようか——。 〜〜〜〜〜〜…