MS戦記異聞シャドウファントム#39 THE SHADOW PHANTOM / Dec.10.0079

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 自分の中のどうしようもない幼さを、認めざるを得ない。

 恐竜。

 アレは、単純に、かっこいいから好きだった。

 MSも、かっこいいじゃないか。

 だから、はやく乗ってみたかったんだ。

 MSは、ぼくの思いどおりに動いてくれた。

 ——それも、好きだ。

 この、どうしようもない世界の中で、彼らだけは、自分が完璧に支配できる存在だと思ったんだ。無敵の巨人になって、宇宙を駆け回ったとき、うれしかった。ずっと、彼らと一緒に、戦場を駆けていたかった。

 ぼくが、そういう子どもじみた思いを抱えたまま、こんなところまで来てしまったのに、君は、ひとりで大人になってしまったんだね。キョウ・ミヤギ。さようなら。ほんとうに、もう、会うことはないだろう。

 自分の故郷のコロニーが地球に向かって沈んでいくのを見たあの時、ほんとうは、どうしようもなくかなしかったんだ。それを、自分の恐怖を押し殺してまで、優しく気遣ってくれたキョウ・ミヤギに、ずっと、恋心を抱いていた。あの頃は、”ニュータイプ”なんて、そんなものはどうでよかった。

 それを、そのまま素直に伝えていれば、君は俺の傍にいてくれたのか——あいつではなく、俺の——……。

(もう、いいじゃない。)

 優しい、女の声が聞こえる。

(もう、わたしがいる。)

そうだ。そういう幼さも、壊れてしまった自分の心も、全部受け入れてくれる君がいるじゃないか。

「そうだね、カルア。」

 約束したんだ。

 二人で、全部壊すと——。

「連れていってくれ、カルア。”少佐”のところまで——2人で生き直そう。また、一緒に壊すために——。」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「外したか!」 木立の中で、キョウ・ミヤギ少尉は歯噛みした。『いや、当たってますよ!』 直掩についていたスコット・ヤング軍曹が驚嘆の声をあげる。しかし、ミヤギは2機の息の根をまとめて止めるつもりで撃ったのだ。当たったのは、ジン・サナダの乗るレッドウォーリアだけだ。それも、両機とも、爆散することなく健在だった。 しかし、頭を吹き飛ばされたレッドウォーリアは戦闘不能のはずだ。 イギー・ドレイク少尉をかわしてきたジオンの敵機が、一瞬で合流する。ヘント・ミューラー少尉のガンダムに追撃を加えることを警戒し、ミヤギは再び照準を絞ったが、敵機はレッドウォーリアを抱き抱えるようにして、闇の中に消えていった。 ミヤギは、ふう、と安堵の息をつき、ライフルを下ろした。〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「外したか!」

 木立の中で、キョウ・ミヤギ少尉は歯噛みした。

『いや、当たってますよ!』

 直掩についていたスコット・ヤング軍曹が驚嘆の声をあげる。しかし、ミヤギは2機の息の根をまとめて止めるつもりで撃ったのだ。当たったのは、ジン・サナダの乗るレッドウォーリアだけだ。それも、両機とも、爆散することなく健在だった。

 しかし、頭を吹き飛ばされたレッドウォーリアは戦闘不能のはずだ。

 イギー・ドレイク少尉をかわしてきたジオンの敵機が、一瞬で合流する。ヘント・ミューラー少尉のガンダムに追撃を加えることを警戒し、ミヤギは再び照準を絞ったが、敵機はレッドウォーリアを抱き抱えるようにして、闇の中に消えていった。

 ミヤギは、ふう、と安堵の息をつき、ライフルを下ろした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『良いな?追わなくて。』 イギーはヘントに確認する。イギーの機体も、左腕を切り落とされていた。敵も相当な手練だったのだろう。「いい。この戦場で、あの敵を追うのは危険すぎる。」 兵士としての直感が、そう告げている。 最後の狙撃は、ミヤギだろう。 彼女の盾になったつもりだったが、最後は守られた。それでいい。互いが補い合って、生き延びる。それが、我々兵士の正しいあり方だ。「全機、集合しろ。状況を報告。」 ヘントは皆に通信を送る。「確認後、後退する。敵も味方も、全滅している。」 生き残った我々だけでも、せめて、きちんと家に帰ろう。最後に、そう付け加えた。◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

『良いな?追わなくて。』

 イギーはヘントに確認する。イギーの機体も、左腕を切り落とされていた。敵も相当な手練だったのだろう。

「いい。この戦場で、あの敵を追うのは危険すぎる。」

 兵士としての直感が、そう告げている。

 最後の狙撃は、ミヤギだろう。

 彼女の盾になったつもりだったが、最後は守られた。それでいい。互いが補い合って、生き延びる。それが、我々兵士の正しいあり方だ。

「全機、集合しろ。状況を報告。」

 ヘントは皆に通信を送る。

「確認後、後退する。敵も味方も、全滅している。」

 生き残った我々だけでも、せめて、きちんと家に帰ろう。最後に、そう付け加えた。

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 アイザック、アイザック、と、無邪気に自分を呼ぶ声が聞こえる。 勘弁してくれ。 やっと楽になれたと言うのに。 このまま死ねば、せめて魂だけは宇宙に帰れるんだ。ほっといてくれ。「何言ってるの、まだ死んじゃだめだよ。」 カルア・ヘイズの声を聞いて、アイザック・クラークは目を覚ました。「……ふざけるなよ……。」 目を開けると、カルアと一緒に、あのアホのボンボン、グレン・G・モーレンが、美しい笑顔をたたえてこちらを見下ろしていた。「よく戻ったな、アイザック。」「ふざけるなよ。」もう一度、それだけ呟く。「言ったはずだ、君の願いを叶えてやるとな。宇宙に帰るぞ。」「……は?」「ここは、我が社が買い取ったザンジバルの中だ。」 ふざけるな、と、もう一度呟く。「元気そうで結構だ。君とカルアは戦死したことになっている。」つまり、諸君らは実態なき幻影に等しいと言うわけだ、と、芝居がかった口調で言う。「今後は私の側近く、騎士として仕えろ。」「お前はどうなる?」「それは、どうにでもなる。」 金の力か、と、アイザックはいつもの調子で悪態をつく。「何にせよ、命あっての物種だ。滅びゆくジオンに付き合う必要はない。」 何なんだこいつは。これまでの狂気じみた英雄ごっこは

 アイザック、アイザック、と、無邪気に自分を呼ぶ声が聞こえる。

 勘弁してくれ。

 やっと楽になれたと言うのに。

 このまま死ねば、せめて魂だけは宇宙に帰れるんだ。ほっといてくれ。

「何言ってるの、まだ死んじゃだめだよ。」

 カルア・ヘイズの声を聞いて、アイザック・クラークは目を覚ました。

「……ふざけるなよ……。」

 目を開けると、カルアと一緒に、あのアホのボンボン、グレン・G・モーレンが、美しい笑顔をたたえてこちらを見下ろしていた。

「よく戻ったな、アイザック。」

「ふざけるなよ。」

もう一度、それだけ呟く。

「言ったはずだ、君の願いを叶えてやるとな。宇宙に帰るぞ。」

「……は?」

「ここは、我が社が買い取ったザンジバルの中だ。」

 ふざけるな、と、もう一度呟く。

「元気そうで結構だ。君とカルアは戦死したことになっている。」

つまり、諸君らは実態なき幻影に等しいと言うわけだ、と、芝居がかった口調で言う。

「今後は私の側近く、騎士として仕えろ。」

「お前はどうなる?」

「それは、どうにでもなる。」

 金の力か、と、アイザックはいつもの調子で悪態をつく。

「何にせよ、命あっての物種だ。滅びゆくジオンに付き合う必要はない。」

 何なんだこいつは。これまでの狂気じみた英雄ごっこは"命あっての物種"の真逆だったと言うのに、どうして急に冷静ぶっているのだ。

「命根性の汚ねぇ野郎だな。」

「英雄の性と言いたまえ。」

 涼しい顔の受け答えは、案外噛み合っている。こいつは、もしかしてそこまで馬鹿ではないのか。

「とにかく、ジオン軍に君の帰る場所はない。わたしに仕えるより他はないわけだ。」

「汚ねぇな。」

「構わん。君もいずれ、わたしの英雄性を理解する。」

 そんなもん、わかりたくもないね、と吐き捨てる。だが、命を拾われた恩は、返さねばなるまい。

「……クソ。」

「間も無くマスドライバーへの設置が完了する。6時間後には打ち上げだ。あとは宇宙にあがるまでゆっくり寝ていたまえ。」

 優雅に告げると、グレンはくるりを背を向ける。

「どうやら宇宙で、面白い物を見つけたようだ。」

 それだけ言って、どこかへ去っていった。

「よかったね。」 カルアがにこにこしながらこちらを見ている。よかっただと、本気か、と思わず反論する。「間接的とは言え、殺されかけた相手にそんな顔されると、腹立つな。」「ごめんね。でも、楽しかったでしょ?」「お前もクソだ。」 アイザックが毒づくと、カルアはおもむろに立ち上がり、近づいてきた。「だから、ごめんて。」言って、深い口接けを交わす。アイザックは、一応、その温かく、甘い感触を楽しんだ。「……お前な、もうやめろ、こういうのは。」カルアの顔が離れると、アイザックは呆れたような、労わるような声で言う。「ウォルフガングも、他の連中も、みんな死んだんだろうが。もういいんだよ。」「そう……?」「そうだ。

「よかったね。」

 カルアがにこにこしながらこちらを見ている。よかっただと、本気か、と思わず反論する。

「間接的とは言え、殺されかけた相手にそんな顔されると、腹立つな。」

「ごめんね。でも、楽しかったでしょ?」

「お前もクソだ。」

 アイザックが毒づくと、カルアはおもむろに立ち上がり、近づいてきた。

「だから、ごめんて。」

言って、深い口接けを交わす。アイザックは、一応、その温かく、甘い感触を楽しんだ。

「……お前な、もうやめろ、こういうのは。」

カルアの顔が離れると、アイザックは呆れたような、労わるような声で言う。

「ウォルフガングも、他の連中も、みんな死んだんだろうが。もういいんだよ。」

「そう……?」

「そうだ。"赤鬼"のパイロット、アイツもこの船で一緒なんだろう。」

あいつに、ちゃんと大事にしてもらえ、とアイザックは諭すように言う。

「大事に?」

 不思議そうに首を捻る。そういう発想はないようだ。それも、当然だ。

「そう……そっか。そうだね!それがいいんだ。」

うん、そうだ、と一人で納得しながら、カルアもその場を後にした。

 "赤鬼"に、自分を壊して欲しいとアイツは言った。だが、とっくに壊れているのだ。"赤鬼"のパイロットが、彼女の壊れた魂を修復してやれるのか、それは分からない。だが、カルアがああいう、年相応の、健全な若い女のような表情を見せられるようになったのなら、それは一つの救いなのではないだろうか。

(まあ、どうでもいいがね……。)

 身体中が痛い。アイザックは、もう一眠りしようと目を閉じた。

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「特務G13MS部隊とレッドウォーリア、特にジン・サナダに関する記録は全て抹消される。」 作戦を終え、拠点に戻ると、ラッキー・ブライトマン少佐が説明を始めた。「上も、決断が早いですね。」「当たり前だ。とんでもない不祥事だよ。俺も、だいたいの話は聞いてきたが、何が何だかさっぱり分からん。」 とにかく、彼らの存在は

「特務G13MS部隊とレッドウォーリア、特にジン・サナダに関する記録は全て抹消される。」

 作戦を終え、拠点に戻ると、ラッキー・ブライトマン少佐が説明を始めた。

「上も、決断が早いですね。」

「当たり前だ。とんでもない不祥事だよ。俺も、だいたいの話は聞いてきたが、何が何だかさっぱり分からん。」

 とにかく、彼らの存在は"無かったこと"にされる。歴史の影に、幻のまま葬られる。

「連邦の象徴、V作戦に連なるガンダムタイプも持っていかれた。知られるわけにはいかんのだろう。」

「体面もですが、敵にV作戦の、教育型コンピュータが渡ったというのは……」

ヘントは、戦略上の懸念を口にするが、ブライトマンは、関係なかろう、と切り捨てる。

「この戦争も、もう終わるよ。今更、MSのデータ一つで何かが変わるような状況じゃない。」

それもそうか、と、ヘントは理解した。

 トニー・ローズ曹長というパイロットが一人一命を取り留めて回収されていたらしいが、先ほど息を引き取った。そのパイロットのコクピットから、手帳が出てきた。「お前が持っていろ。」 密かに回収していたブライトマンが、ヘントにその手帳を渡す。「わたしが、ですか?」「このままじゃあ、アイツらがこの世にいたってことの痕跡すら消されちまうからな。」 ページをめくってみると、まめに日記が付けられている。「誰かが覚えておいてやらにゃあな。そういうの、お前、得意だろう。」 少尉は、優しいからな、と、適当なことを言って、ブライトマンは執務室へと戻っていった。

 トニー・ローズ曹長というパイロットが一人

一命を取り留めて回収されていたらしいが、先ほど息を引き取った。そのパイロットのコクピットから、手帳が出てきた。

「お前が持っていろ。」

 密かに回収していたブライトマンが、ヘントにその手帳を渡す。

「わたしが、ですか?」

「このままじゃあ、アイツらがこの世にいたってことの痕跡すら消されちまうからな。」

 ページをめくってみると、まめに日記が付けられている。

「誰かが覚えておいてやらにゃあな。そういうの、お前、得意だろう。」

 少尉は、優しいからな、と、適当なことを言って、ブライトマンは執務室へと戻っていった。

 U.C.0079、12月15日。 キャリフォルニアベースの陥落をもって、地球連邦軍による北米方面の奪還作戦は、一応の決着を見た。 その最中、特務G13MS部隊および、部隊が運用したMS群のデータ、兵卒の個人データは全て抹消された。 尚、部隊を指揮していたコヴ・ブラック少佐は除隊処分後、U.C.0080、グラナダ近郊で不審死を遂げる。 また、ジオン公国側も、壊滅的な被害を受けた北米戦線の各拠点については、その後の将兵や装備の処遇を含め不明な点が多い。サイド3に本社を持つ、モーレン社は、ジオン公国軍北米方面軍への関与が疑われるも、全面的に否定。戦後はMS開発事業への参入を試みるが、戦時の疑惑を拭いきれず、業務は低迷。運営規模を大幅に縮小し、U.C.0082、アナハイム・エレクトロニクス社に買収された。【#39 THE SHADOW PHANTOM / Dec.10.0079 fin.】              次回、MS戦記異聞シャドウファントム

 U.C.0079、12月15日。

 キャリフォルニアベースの陥落をもって、地球連邦軍による北米方面の奪還作戦は、一応の決着を見た。

 その最中、特務G13MS部隊および、部隊が運用したMS群のデータ、兵卒の個人データは全て抹消された。

 尚、部隊を指揮していたコヴ・ブラック少佐は除隊処分後、U.C.0080、グラナダ近郊で不審死を遂げる。

 また、ジオン公国側も、壊滅的な被害を受けた北米戦線の各拠点については、その後の将兵や装備の処遇を含め不明な点が多い。サイド3に本社を持つ、モーレン社は、ジオン公国軍北米方面軍への関与が疑われるも、全面的に否定。戦後はMS開発事業への参入を試みるが、戦時の疑惑を拭いきれず、業務は低迷。運営規模を大幅に縮小し、U.C.0082、アナハイム・エレクトロニクス社に買収された。

【#39 THE SHADOW PHANTOM / Dec.10.0079 fin.】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

#40 Magic hour with you最後の、告白——。 なんちゃって笑今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。次回のお越しも心からお待ちしております。

#40 Magic hour with you

最後の、告白——。

 

なんちゃって笑

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

次回のお越しも心からお待ちしております。

オリジナルストーリー第39話

コメント

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  1. 与一 36分前

    面白い方向へ🤭

    良いストーリーテーラーぶり感心致しました🙂素晴らしいです🥰👍✨

    また第四部でも期待致しますm(_ _)m🙂💕

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