MS戦記異聞シャドウファントム#48 The consideration for recovery / Oct.15.0087

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 ラッキー・ブライトマン中佐からの、急でふざけた提案は、半分握りつぶした。

 なぜ、”イーグルス”ごときに所属している、凡夫のロートルと、自分が組まねばならいのか。

 ケイン・マーキュリー少佐は、新型MSバーザムと、自分のハイザック・カスタムのお披露目を理由に、”イーグルス”とのタッグは解消した。そもそも、奴らの使うジムでは、旧式すぎる。突如”乱入”してきたEFMPのキャバルリーは、まがいなりにもガンダムタイプの血を引いている。”ブルーウイング”のジムも、外観こそジム・スナイパーⅡだが、ジェネレーターや駆動系は新型のものに替えられ、第2世代MSに匹敵する運動性能を有している。”イーグルス”のジムは、コマンドタイプと呼ばれる強化型ではあるが、1年戦争の時代のロートル機だ。もはや哨戒任務専門に成り下がっている旧式のジムなど、組んだとしても却ってハンディキャップになる。

 ケイン少佐は、ドックに格納されている、自身の愛機である青いハイザックを見上げた。各所に改良を加え、高機動化されている。模擬戦でも、この機体に乗り、自身が出るつもりだ。

「残りのバーザムも、青く塗らせてよろしいんですね。」

 副官のマルコ・ドモリッチ中尉が尋ねる。

 ケイン少佐の部隊は、機体を青く塗っていることが特徴だった。今回の模擬戦の提案も、”ブルーウイング”のニコラ・ボーデン少佐は、揃いの青が映えることを喜んだ。

「ええ、青は良い。良い色だ。」

ケイン少佐が応える。

「良い色ですね?」

「え?ええ、良い色でおられます。」

 マルコは、慌てて応えた。

「”おられる”は、不適切だと思いますが。”おる”は謙譲語、”られる”は尊敬語。その場合は尊敬語の”いらっしゃる”が正しい。」

勉強になります、と、マルコはいつも通り、引きつった笑顔で礼を述べる。

「青に、思い入れがおありで?」

たぶん、聞いてほしいのだ。

「ええ、昔、青鬼……”蒼壁の鬼神”と呼ばれたパイロットがいました。」

 曰く、1年戦争当時、宇宙の戦線で、青いガンダムタイプを駆っていたパイロットだそうだ。

 ジオンに対する掃討戦で、凄まじい戦いをした。その姿は、ケインの憎しみを代弁しているかのように感じられた。

「わたしの上官でした。最後は黒い、高機動型のザクと戦い、機体を失いました。」

亡くなったのですか、と、思わず訊ねるところだったが、不用意に訊くのはやめておいた。

 ケイン少佐は、地球の、オーストラリアの出身だ。コロニー落としで、故郷はまるごと消滅している。

「わたしにとって”蒼壁の鬼神”は英雄だった。その圧倒的な強さと、正義を示す青、それを破った、高機動型のザク。このハイザックは、わたしにとって、正義と勝利と、力を象徴する機体です。」

それはそれは、と、マルコはおもねるような声で言った。

「あの青は、わたしが引き継いだ。わたしの誇りだ。」

遠くを見つめるように、ケインは目を細める。

「だから、”ブルーウイング”。同じ青を象徴とする者は、鼻につきます。」

 しかも、そのエースであり、ニュータイプともてはやされるキョウ・ミヤギは、旧サイド5生まれのスペースノイドだ。

 宇宙に適応した人類、ニュータイプ、という存在も、生理的に受け入れられない。言葉を使わず、意思疎通を行うと言うが、気味が悪い。人間は、地球の大地に足をつけ、言葉を交わし、昔ながらの生活を営むべきなのだ。得体の知れないテレパシーなどには、頼るべきではない。それは、人間としての美しさを損なう。人類の営みへの冒涜だと思えた。

「全てが、鼻につく。」

 なんとか、衆目に晒される場で、叩き潰してやりたい。

 そして、不穏分子のヘント・ミューラー。それを庇うラッキー・ブライトマン。今回の”乱入”は、奴らの鬼の首を取る良いチャンスだ。模擬戦はもちろん、勝つつもりだ。だが、負けても、今回の強引な割り込みは、連中を社会的に”殺す”良い材料になりそうだ。

 ケイン少佐は、目だけが笑っていない、気味の悪い笑顔を浮かべ、愛機を見つめていた。

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『やられた!ダメだな、2分と持たんとは……!』 アグレッサー(敵機役)の

『やられた!ダメだな、2分と持たんとは……!』

 アグレッサー(敵機役)の"ブルーウイング"パイロットの声が、皆の通信機に入る。悔しそうだが、しかしどこか、楽しそうだった。

『2人とも、すごい機動だ……。』 EFMPのMS空母

『2人とも、すごい機動だ……。』

 EFMPのMS空母"サクラ"のカタパルト上、駐機中のキャバルリーのコクピットの中で、カイル・ルーカス曹長が息を飲む。それを聞きながら、隣に駐機しているジムスナイパーⅡのコクピットでは、アラン・ボーモント中尉が小さく舌打ちをする。

『聞こえてるよぉ?イケメンくん。』

そして、それを耳聡く聞いて、アンナが茶化す。

 ヘント・ミューラー中尉のキャバルリーと、キョウ・ミヤギ中尉のジムスナイパーⅡが、ゆっくりと戻ってくる。先に着艦したキャバルリーが、ジムスナイパーⅡを、優しくエスコートするように手を差し出し、着艦を補助する。『どう?具合は?』 ふわりと着地したジムのコクピットに向かい、ノーマルスーツ姿のチタ・ハヤミ少尉が、ゆっくりと流れていく。 模擬戦用に低出力化しているとは言え、武装を施した機体は、サイド5の宙域内に入れない。模擬戦の訓練は、

 ヘント・ミューラー中尉のキャバルリーと、キョウ・ミヤギ中尉のジムスナイパーⅡが、ゆっくりと戻ってくる。先に着艦したキャバルリーが、ジムスナイパーⅡを、優しくエスコートするように手を差し出し、着艦を補助する。

『どう?具合は?』

 ふわりと着地したジムのコクピットに向かい、ノーマルスーツ姿のチタ・ハヤミ少尉が、ゆっくりと流れていく。

 模擬戦用に低出力化しているとは言え、武装を施した機体は、サイド5の宙域内に入れない。模擬戦の訓練は、"サクラ"を根拠地代わりにしながら、サイド5の宙域外で行なっている。"サクラ"は、MS空母の草創期の試作艦で、取り回しが悪い。MSの出入り口はカタパルト後方にあるエレベーターが一基だけで、出撃も格納も、そこを使わなければならない。艦内のMSドックに機体を格納してしまうと、出し入れをスムーズに行えなくなる。この訓練では人員も含めてカタパルト上で待機している。

「悪くない。大丈夫、本当に。」

 嘘はついていない。本当に、ビックリするほど、何ともない。

『チームのみんなはミヤギ中尉が好きだからなあ、そりゃ、敵意みたいなものを発することはできないよ。』

 アグレッサーを務めていた"ブルーウイング"のパイロットが、機体から降りるなり言う。

『なら、次のアグレッサーはアラン中尉だ。』

 ヘント・ミューラー中尉が、会話に加わる。

 おいおい、と、男の甘い声が通信機から聞こえる。

『悪いけど、俺が一番中尉を"好き"だぜ、彼氏さん。』

挑発的な口調で、アラン中尉が応じる。

『だから、あんたは嫌いだ。意味は分かるな?』

あんたになら、敵意をぶつけられる、と半ば吐き捨てるように言う。

『何言ってんです、キョウのこと、一番好きなのはわたしです!』なぜか、張り合うチタを、ミヤギが赤い顔をしながら小声で、いいから、と嗜める。『分かっている。色々なパターンを試すしかないと思っただけだ。』『じゃあ、

『何言ってんです、キョウのこと、一番好きなのはわたしです!』

なぜか、張り合うチタを、ミヤギが赤い顔をしながら小声で、いいから、と嗜める。

『分かっている。色々なパターンを試すしかないと思っただけだ。』

『じゃあ、"なら"って言葉は違うでしょう。』

『そうだな、すまない。』

とにかく、準備を頼む、と言って、ヘントは改めて全員に通信を送る。

『600秒後、各員行けるか。』

「行けます。行きましょう。」

 ミヤギが、明るく応えると、皆、了解と爽やかに応じた。

 やはり、気持ちがいい。

 いつもの完璧な連携も良い。だが、やはり、作戦行動こそが、自分の本懐だと自覚した。仲間の持ち味を活かし、様々な事態に臨機応変に即応する。そのために、訓練から様々なことを想定して、試す。ジャズのセッションのように、皆で作り上げていくこの、感覚だ。

 そして、そこに信じられる仲間が——ヘントがいる。

 それは、キョウ・ミヤギという戦士にとって、何よりも価値のある瞬間に思えた。

~~~~~~~~~~~~~~~

(分かっている、だと。余裕ぶりやがって。) ジム・スナイパーⅡの機体を宇宙空間に滑らせながら、アランは苛立ちを覚えていた。 レセプションや、先日の打合せ、どちらでもミヤギにわざとすり寄って見せたが、2人とも動揺らしい動揺を一切見せない。 アランは、腕利きのパイロットでありながら、特務機関での訓練も受けた経歴を持っている。そこを買われて、ミヤギの監視役の新たなリーダーとして送り込まれた。ついでに、ヘント・ミューラーとの仲も引き裂ければ、とも命じられている。馬鹿げているが、いわゆる”ハニートラップ要員”だ。 だが、この1年、キョウ・ミヤギは一切なびかなかった。ヘントは、そのミヤギの心象を信じ切っている。だが、仮にそうであっても、あんなにも露骨にすり寄ってくる異性が、自分の恋人の身近にいることは、普通、動揺しないか。それも、あらゆる機関から監視され、年単位で離れ離れにされてしまっている。普通だったら、耐えられない。(二人とも、群を抜いた変態だ。) キョウ・ミヤギには、割と、本気で好意を持っている。陥とし甲斐がある。おまけに、あの乙女チックさ。自分の女に、ということを想像するのは、ハンター冥利に尽きる。 だから、ヘント・ミューラーに対する嫉妬心と、嫌悪感は、先ほど宣言したとおり、本物だ。(ヘント・ミューラーに対する敵意も、彼女を苦しめるというのか?) いや、そうではない。 俺は、彼女を、監視対象として——そして、”獲物”として見ている。その感覚は、”敵意”に、近い。(見抜いていやがる、アイツ——!) 視界の隅に、白い機体が見えた。(見つけた、ヘント・ミューラー……!) スロットルレバーをグッと握りしめる。「狙うのは白いヤツだけだ!行くぞ!」 僚機に告げ、急加速を掛けた。~~~~~~~~~~~~~~~

(分かっている、だと。余裕ぶりやがって。)

 ジム・スナイパーⅡの機体を宇宙空間に滑らせながら、アランは苛立ちを覚えていた。

 レセプションや、先日の打合せ、どちらでもミヤギにわざとすり寄って見せたが、2人とも動揺らしい動揺を一切見せない。

 アランは、腕利きのパイロットでありながら、特務機関での訓練も受けた経歴を持っている。そこを買われて、ミヤギの監視役の新たなリーダーとして送り込まれた。ついでに、ヘント・ミューラーとの仲も引き裂ければ、とも命じられている。馬鹿げているが、いわゆる”ハニートラップ要員”だ。

 だが、この1年、キョウ・ミヤギは一切なびかなかった。ヘントは、そのミヤギの心象を信じ切っている。だが、仮にそうであっても、あんなにも露骨にすり寄ってくる異性が、自分の恋人の身近にいることは、普通、動揺しないか。それも、あらゆる機関から監視され、年単位で離れ離れにされてしまっている。普通だったら、耐えられない。

(二人とも、群を抜いた変態だ。)

 キョウ・ミヤギには、割と、本気で好意を持っている。陥とし甲斐がある。おまけに、あの乙女チックさ。自分の女に、ということを想像するのは、ハンター冥利に尽きる。

 だから、ヘント・ミューラーに対する嫉妬心と、嫌悪感は、先ほど宣言したとおり、本物だ。

(ヘント・ミューラーに対する敵意も、彼女を苦しめるというのか?)

 いや、そうではない。

 俺は、彼女を、監視対象として——そして、”獲物”として見ている。その感覚は、”敵意”に、近い。

(見抜いていやがる、アイツ——!)

 視界の隅に、白い機体が見えた。

(見つけた、ヘント・ミューラー……!)

 スロットルレバーをグッと握りしめる。

「狙うのは白いヤツだけだ!行くぞ!」

 僚機に告げ、急加速を掛けた。

~~~~~~~~~~~~~~~

『アラン機、ロスト。』 ミヤギの、涼やかな声がスピーカーから聞こえた。 ヘント機に、まっすぐ勢いよく向かってきたアランのジムは、下方に潜んでいたミヤギ機の狙撃で、呆気なく撃墜判定を受けた。こうまで露骨な囮に食いつかれるとは、本当に嫌われているらしい、と、ヘントは改めて自覚した。いや、違う。(こいつも、キョウのことを——……。) ミヤギのことは、信じている。それは揺るがない。だが、この男の、そういう感性が癪に障るのは事実だ。 もう一機は、そのままヘントが組み付き、撃破した。

『アラン機、ロスト。』

 ミヤギの、涼やかな声がスピーカーから聞こえた。

 ヘント機に、まっすぐ勢いよく向かってきたアランのジムは、下方に潜んでいたミヤギ機の狙撃で、呆気なく撃墜判定を受けた。こうまで露骨な囮に食いつかれるとは、本当に嫌われているらしい、と、ヘントは改めて自覚した。いや、違う。

(こいつも、キョウのことを——……。)

 ミヤギのことは、信じている。それは揺るがない。だが、この男の、そういう感性が癪に障るのは事実だ。

 もう一機は、そのままヘントが組み付き、撃破した。

「健在だな、”琥珀の鷹の目”。」『……通り名って、好きではありません。』「そうか、それはすまなかった。」 帰投しよう、とヘントは全機に通信を送る。とりあえず、このチームでの模擬戦は問題なさそうだ。ヘントが傍にいるからなのか、あるいは、気心が知れた相手との模擬線だからなのか、それは、分からない。検証の必要はありそうだが、ジャブローにいたころは、自分が同じ基地内にいたにもかかわらず、模擬線ですら体調を崩すことがあったのだ。今日のミヤギの様子は、大きな回復と言えそうな気がする。「戻るぞ、ハヤミ少尉は艦内で待機しろ。すぐにメディカルチェックだ。」~~~~~~~~~~~~~~~

「健在だな、”琥珀の鷹の目”。」

『……通り名って、好きではありません。』

「そうか、それはすまなかった。」

 帰投しよう、とヘントは全機に通信を送る。とりあえず、このチームでの模擬戦は問題なさそうだ。ヘントが傍にいるからなのか、あるいは、気心が知れた相手との模擬線だからなのか、それは、分からない。検証の必要はありそうだが、ジャブローにいたころは、自分が同じ基地内にいたにもかかわらず、模擬線ですら体調を崩すことがあったのだ。今日のミヤギの様子は、大きな回復と言えそうな気がする。

「戻るぞ、ハヤミ少尉は艦内で待機しろ。すぐにメディカルチェックだ。」

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「そうですね、中尉のおっしゃるとおり、回復の傾向と見ていいかもしれません。」 ”サクラ”艦内、医務室前の廊下で、チタが言う。「明日は、ヘント中尉も非番でしょうから、”ブルーウイング”だけでやってみるのもいいかもしれません。」 だけど、と、チタは伏し目がちになり、ためらうように言葉を途切れさせた。 代わりに、ヘントが言葉を継いだ。「回復は、彼女の身を危険に晒す。」 チタは、うつむいたままコクリと頷いた。 回復はしている。毎日一番近くで彼女を見てきたチタは、この数年、確かにそれを感じていたのだ。だが、敢えて、検証をしてこなかった。戦えてしまえば、彼女が、今度はどうマークされるか、あるいは、処分されるか分からない。その不安が、チタに、衛生兵としての責務を果たすことをためらわせてきた。 チタは沈黙したままだったが、ヘントが、口を開いた。「彼女に危機が迫ったら——」え?と、チタはヘントの顔を見る。「何を押しても、俺は彼女の安全を優先する。手が届くところにいるのなら、なおのことだ。」 ベルベット作戦のときも、そうだったと聞いている。彼は、ミヤギの危機を感じ取り、作戦を無視してミヤギの救援に向かった。そのせいで、罰を受けている。そして、その事実が、ミヤギとの結託と反乱という、負の印象を上層部に与えているのだ。 もしかしたら今回の模擬戦も……チタやブライトマンが動かなくとも、ミヤギが危機に陥るのを見れば、警備任務を投げ出して乱入していたのかもしれない。「……現実的ではありませんよ。お姫様を抱きかかえて、白馬で駆けだして……そして、その後は?」 ヘントは、応えなかった。きっと、彼にも分からないのだ。~~~~~~~~~~~~~~~

「そうですね、中尉のおっしゃるとおり、回復の傾向と見ていいかもしれません。」

 ”サクラ”艦内、医務室前の廊下で、チタが言う。

「明日は、ヘント中尉も非番でしょうから、”ブルーウイング”だけでやってみるのもいいかもしれません。」

 だけど、と、チタは伏し目がちになり、ためらうように言葉を途切れさせた。

 代わりに、ヘントが言葉を継いだ。

「回復は、彼女の身を危険に晒す。」

 チタは、うつむいたままコクリと頷いた。

 回復はしている。毎日一番近くで彼女を見てきたチタは、この数年、確かにそれを感じていたのだ。だが、敢えて、検証をしてこなかった。戦えてしまえば、彼女が、今度はどうマークされるか、あるいは、処分されるか分からない。その不安が、チタに、衛生兵としての責務を果たすことをためらわせてきた。

 チタは沈黙したままだったが、ヘントが、口を開いた。

「彼女に危機が迫ったら——」

え?と、チタはヘントの顔を見る。

「何を押しても、俺は彼女の安全を優先する。手が届くところにいるのなら、なおのことだ。」

 ベルベット作戦のときも、そうだったと聞いている。彼は、ミヤギの危機を感じ取り、作戦を無視してミヤギの救援に向かった。そのせいで、罰を受けている。そして、その事実が、ミヤギとの結託と反乱という、負の印象を上層部に与えているのだ。

 もしかしたら今回の模擬戦も……チタやブライトマンが動かなくとも、ミヤギが危機に陥るのを見れば、警備任務を投げ出して乱入していたのかもしれない。

「……現実的ではありませんよ。お姫様を抱きかかえて、白馬で駆けだして……そして、その後は?」

 ヘントは、応えなかった。きっと、彼にも分からないのだ。

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 ”リボー”コロニー付近まで、”ブルーウイング”の隊員たちを、”サクラ”で送っていく。明日から非番に入るEFMP第2部隊1班のメンバーと共に、コロニー内に向かう手筈だった。 アランは、ブリーフィングルームで一人、デバイスに記録を打ち込んでいた。『対象B(ヘント)、対象A(ミヤギ)への執着、依然として強固。連携時の精神的リンク、想定以上に機能。模擬戦、予定通り実行。ターゲットは対象Bとの連携、および対象Aの精神的限界点。』  送信ボタンを押すと、アランはブリーフィングルームの窓ごし、訓練を終えて、エレベーターからドックにゆっくり降ろされてきた、ミヤギのジム・スナイパーⅡの姿を冷ややかに見つめていた。「しっかり戦えちゃったな、”伝説のシングルモルト”。」 自身の回復に、ミヤギは高揚しているように見えた。どの戦闘でも、鋭い機動と、的確な狙撃を見せた。あれが、熱砂に躍った伝説、”シングルモルトの戦乙女”なのだ。 戦えるようになってしまうということは、新たな危機の訪れを示している。そのことには、彼女もすぐに気づくはずだ。 彼女と、ヘントとの間で、何かしらの約束がある。たぶん、兵士として彼女が回復したら、とか、そういう類のものだろう。だから、あんなにも高揚しているのだ。だが、彼女の兵士としての回復は、2人にとって更なる障害になるだけだ。2人とも分からないはずがない。(でもあいつら、互いのことになるとバカそうだからな……。) 本当に、リスクを想定できていないのかもしれない。だとしたら、俺が教えてやればいい。それが、また彼女の心を揺さぶるはずだ。心を揺らし、弱さを抱えたままでいれば、また、体勢が彼女を守ってくれる。 もう、諦めてリタイアすべきだ、と、アランは胸の内で警告する。(ヘント・ミューラーが死ねば、或いは……。) 彼女の心は壊れてしまうだろう。 だが、そうなれば、もはや、彼女をつけ狙うものはいなくなる。 人形のようになった彼女の、面倒を見てやるのも悪くない。 アランは、暗い庇護欲をその胸を充たしていく。そんな自分に、微かな嫌悪感を抱く。「ヘント・ミューラー、やっぱり、嫌いだな、あいつ。」 アランは呟き、デバイスをそっと閉じた。 だが、あいつがいないからと言って、彼女は俺の傍らに立つだろうか。それは、ちょっと、想像が付かない。 アランは、キョウ・ミヤギと自分では、魂の波長が決定的に合わないことに気づいている。気づいているが、あの気高さと美しさに、惹かれてやまないのだ。一番嫌悪感を抱くのは、そういう、ガキのような自分の性分なのだ。~~~~~~~~~~~~~~~

 ”リボー”コロニー付近まで、”ブルーウイング”の隊員たちを、”サクラ”で送っていく。明日から非番に入るEFMP第2部隊1班のメンバーと共に、コロニー内に向かう手筈だった。

 アランは、ブリーフィングルームで一人、デバイスに記録を打ち込んでいた。

『対象B(ヘント)、対象A(ミヤギ)への執着、依然として強固。連携時の精神的リンク、想定以上に機能。模擬戦、予定通り実行。ターゲットは対象Bとの連携、および対象Aの精神的限界点。』 

 送信ボタンを押すと、アランはブリーフィングルームの窓ごし、訓練を終えて、エレベーターからドックにゆっくり降ろされてきた、ミヤギのジム・スナイパーⅡの姿を冷ややかに見つめていた。

「しっかり戦えちゃったな、”伝説のシングルモルト”。」

 自身の回復に、ミヤギは高揚しているように見えた。どの戦闘でも、鋭い機動と、的確な狙撃を見せた。あれが、熱砂に躍った伝説、”シングルモルトの戦乙女”なのだ。

 戦えるようになってしまうということは、新たな危機の訪れを示している。そのことには、彼女もすぐに気づくはずだ。

 彼女と、ヘントとの間で、何かしらの約束がある。たぶん、兵士として彼女が回復したら、とか、そういう類のものだろう。だから、あんなにも高揚しているのだ。だが、彼女の兵士としての回復は、2人にとって更なる障害になるだけだ。2人とも分からないはずがない。

(でもあいつら、互いのことになるとバカそうだからな……。)

 本当に、リスクを想定できていないのかもしれない。だとしたら、俺が教えてやればいい。それが、また彼女の心を揺さぶるはずだ。心を揺らし、弱さを抱えたままでいれば、また、体勢が彼女を守ってくれる。

 もう、諦めてリタイアすべきだ、と、アランは胸の内で警告する。

(ヘント・ミューラーが死ねば、或いは……。)

 彼女の心は壊れてしまうだろう。

 だが、そうなれば、もはや、彼女をつけ狙うものはいなくなる。

 人形のようになった彼女の、面倒を見てやるのも悪くない。

 アランは、暗い庇護欲をその胸を充たしていく。そんな自分に、微かな嫌悪感を抱く。

「ヘント・ミューラー、やっぱり、嫌いだな、あいつ。」

 アランは呟き、デバイスをそっと閉じた。

 だが、あいつがいないからと言って、彼女は俺の傍らに立つだろうか。それは、ちょっと、想像が付かない。

 アランは、キョウ・ミヤギと自分では、魂の波長が決定的に合わないことに気づいている。気づいているが、あの気高さと美しさに、惹かれてやまないのだ。一番嫌悪感を抱くのは、そういう、ガキのような自分の性分なのだ。

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 ミヤギは自機の格納を確認すると、チタと共にスペースカーゴへ向かった。ヘントが傍にいる安堵感と、訓練の成功による高揚感。しかし、心の奥底では、どこか、かすかな不安がくすぶっていた。 アランの視線。ティターンズの模擬戦の意図。そして、ヘントが”リボー”に来る直前にに感じた、あの微かな悪寒。聞けば、ヘントらが正体不明の敵機と交戦したと言う。(ジン・サナダ——。) 捉えどころのない、不吉な空気感に、ふと、その名が浮かんだ。 彼の狂気に傷つけられた魂が、まだ、微かにうずいている気がする。(大丈夫……彼がいる……。) 自分に言い聞かせ、別のカーゴに向かっていくヘントの横顔を見た。その存在だけが、今のミヤギを繋ぎとめる唯一の錨だった。カーゴがコロニーの光の中へ進んでいく。その光が、迫りくる闇を照らしてくれることを、ミヤギはただ願うしかなかった。 【#48 The consideration for recovery / Oct.8.0087 fin.】

 ミヤギは自機の格納を確認すると、チタと共にスペースカーゴへ向かった。ヘントが傍にいる安堵感と、訓練の成功による高揚感。しかし、心の奥底では、どこか、かすかな不安がくすぶっていた。

 アランの視線。ティターンズの模擬戦の意図。そして、ヘントが”リボー”に来る直前にに感じた、あの微かな悪寒。聞けば、ヘントらが正体不明の敵機と交戦したと言う。

(ジン・サナダ——。)

 捉えどころのない、不吉な空気感に、ふと、その名が浮かんだ。
 彼の狂気に傷つけられた魂が、まだ、微かにうずいている気がする。

(大丈夫……彼がいる……。)

 自分に言い聞かせ、別のカーゴに向かっていくヘントの横顔を見た。その存在だけが、今のミヤギを繋ぎとめる唯一の錨だった。カーゴがコロニーの光の中へ進んでいく。その光が、迫りくる闇を照らしてくれることを、ミヤギはただ願うしかなかった。

 

【#48 The consideration for recovery / Oct.8.0087 fin.】

今回のアニメーション、なかなか苦労しました。何度か指示をし直しましたが、チタかミヤギ、どちらかがなんか違う感じになってしまい、かなりチャレンジしてようやく本文にアップした感じになりました。どうやら3回目の指示くらいからチタが男の子認定されていたようだったので、二人とも女の子だと指示したらうまくいきました笑 さて、グリプス戦役の三つ巴は、どの陣営も「地球上から人類を排除する」という目的は同じである、ということを、割と最近知りました。なので、今回、ケイン少佐が「人間は、宇宙になどあがらずに、地球の大地に足をつけ」生活すべき、と独白していますが、この考えは、彼の浅はかなキャラクター性を表現したつもりです。今回の部の悪役の一人ですが、これまでの敵に比べて、圧倒的に小物ですね。ケイン少佐は。残念。第4部はテーマカラーが青・白・黒のつもりなので、彼の機体も青くしてみました。せめて機体くらいは、かっこよく見えたらいいな、と思っています笑

今回のアニメーション、なかなか苦労しました。

何度か指示をし直しましたが、チタかミヤギ、どちらかがなんか違う感じになってしまい、かなりチャレンジしてようやく本文にアップした感じになりました。どうやら3回目の指示くらいからチタが男の子認定されていたようだったので、二人とも女の子だと指示したらうまくいきました笑

 

さて、グリプス戦役の三つ巴は、どの陣営も「地球上から人類を排除する」という目的は同じである、ということを、割と最近知りました。

なので、今回、ケイン少佐が「人間は、宇宙になどあがらずに、地球の大地に足をつけ」生活すべき、と独白していますが、この考えは、彼の浅はかなキャラクター性を表現したつもりです。

今回の部の悪役の一人ですが、これまでの敵に比べて、圧倒的に小物ですね。ケイン少佐は。残念。

第4部はテーマカラーが青・白・黒のつもりなので、彼の機体も青くしてみました。せめて機体くらいは、かっこよく見えたらいいな、と思っています笑

今回の第4部、ちょこっとしか出番のない機体でも、カット的に作らなければならないものが多く、なかなか進みません。青いハイザックは、この間のジムスパルタンと違い、物語の中でも出番はあると思いますが、テキストはできているのでじれったいです笑次回も、新しい機体を作らないと進められないので、また期間が空きます。 あと、バーザム。左腕の付け根が折れました笑ジャンクだから仕方ないか……(gundam-kao9)

今回の第4部、ちょこっとしか出番のない機体でも、カット的に作らなければならないものが多く、なかなか進みません。青いハイザックは、この間のジムスパルタンと違い、物語の中でも出番はあると思いますが、テキストはできているのでじれったいです笑

次回も、新しい機体を作らないと進められないので、また期間が空きます。

 

あと、バーザム。左腕の付け根が折れました笑

ジャンクだから仕方ないか……(gundam-kao9)

このハイザック、次回登場までにはもう少し手を加えておきます。いい具合に積みプラの山が崩れてます笑が、部屋が汚くなってるのと、ちょっと別にやりたいことがあるので、4部後の第5部(完結編)は、年明けになりそうですね。今年度はかなり、趣味にも打ち込める配置でしたが、来年度はどうなるか分かりません。シャドウファントムは今年度中に走り切りたいと思っています。 あと、前話、#47の続き、pixivにあります(gandam-プロット補強にも重要な会だったりします。

このハイザック、次回登場までにはもう少し手を加えておきます。

いい具合に積みプラの山が崩れてます笑

が、部屋が汚くなってるのと、ちょっと別にやりたいことがあるので、4部後の第5部(完結編)は、年明けになりそうですね。

今年度はかなり、趣味にも打ち込める配置でしたが、来年度はどうなるか分かりません。シャドウファントムは今年度中に走り切りたいと思っています。

 

あと、前話、#47の続き、pixivにあります(gandam-

プロット補強にも重要な会だったりします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

#49 The border between WHITE and BLACK君を守ることが、できるか——? なんちゃって笑 今回も最後までお付き合いくだありありがとうございまいた。次回のお越しも心よりお待ちしております。              (gundam-kao6)

#49 The border between WHITE and BLACK

君を守ることが、できるか——?

 

なんちゃって笑

 

今回も最後までお付き合いくだありありがとうございまいた。

次回のお越しも心よりお待ちしております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(gundam-kao6)

「……もう!」「……♪」

「……もう!」

「……♪」

オリジナルストーリー第48話

コメント

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  1. cinnamon-1 56分前

    やはり二人の力は凄いものがありますね😊

    戦えてしまったミヤギ、この後、どうなっていくのか。

    アランの企み、ティターンズの野望、謎の機体の動向。どんな結果でも、二人には試練が待ち受けてますね😱

    次回作品も機体しています😆

    • いつもありがとうございます(gundam-kao6)

      ミヤギはいまだ、ヘントの存在に依存してしか力を発揮できずにいます。ヘント無くしても戦えれば、復活ということになるのかもしれません。その時はマジックアワーの続きを……とも言えない状況ですね(gundam-kao10)

      さて、どうなることやら。

      今後もお付き合いいただければ幸いです(gundam-kao6)

  2. T-Non 1時間前

    ジャズのセッション… 2人とも群を抜いた変態だ… 読ませますねぇ〜❗️

    ホント「……もう!」って感じです😅

    また以前の様に、機体紹介の回も欲しいなとワガママを言ってみます(zaku-kao4)もっと詳しく機体を見てみたくて✨️

    • いつもありがとうございます(gundam-kao6)

      2人の”恋は盲目”ぶりは、チタをもって”マニアック”アランをもって”変態”と称されます笑 ブライトマンだけは”健気”と肯定的に捉えていますね笑

      ジャズのネタは友達からいただきました(gandam-hand1)

      機体紹介、そう言っていただけるとうれしいですね!物語に絡む機体はだいたいでたので、企画しますね(gundam-kao6)

押忍やすじろうさんがお薦めする作品

目次(MS戦記異聞シャドウファントム)

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