オリジナルストーリーGQ 余談[ニャアンとドゥー]

UC.0095.12月15日。ニューブリテン島ラバウル空軍基地。

シャリア[敵は特定の勢力に縛られません。ジオンでもなければ国連軍でもない。何を最終目標にしているかはまだ謎ですが一つだけ確かなのは、一年戦争から始まった多くの戦いを生き抜いた精鋭が敵です。これまでのようには行かないでしょう]

このシャリア・ブルの言葉で決定したラバウル空軍基地でのマチュ、シュウジ、ニャアンを主な対象とした戦闘訓練はトリントン基地でG計画研究の責任者が待っているという時間的制約から5日間のみという短期間だったがスケジュールは1時間単位で組まれ、模擬戦とはいえアグレッサー役のドゥー、エグザべ、ウラキ、キースの4人による一切手加減なしの実戦形式というハードスケジュールで行われていた。また、サイコミュ起動不可というイレギュラーケースも考慮に入れて訓練は全てマニュアル操作で行われていた。これにはマチュも[モ〜無理!疲れた!死ぬ!!]と叫び、[叫べるならまだまだ余裕あるね]でドゥーが訓練メニューを追加し[ドゥー横暴〜!!]とマチュが更に叫ぶという現象が度々見られた。一方で以前ドゥーが使っていたスタークジェガンで訓練を受けていたニャアンは最初こそジークアクスと違う機体機動とアグレッサー役のエグザべやウラキに最初こそ翻弄されていたが、彼女もまた天性の才能なのか訓練半ばになるとエグザべ機相手に撃墜判定を取るなど技量向上が見られてきた。そんな中でニャアンはふと考える事があった。

ニャアン[これが終わったら私ってどこに行くんだろう…]

訓練明けにペガサスのハンガーでスタークジェガンを見あげながらニャアンはふと口に出していた。思えばニャアンにとってマチュたちとのこれまでは全て成り行きだった。勿論自分の意思もあったが、どれも必要に迫られての決断だった。彼女の頭の上にいるコンチは”そんなことない”と言っているがニャアンの顔は晴れなかった。

ドゥー[お、黄昏てる若者はっけーん]

その声で振り返るとドゥーが来ていた。

ニャアン[お疲れ様ですブル大尉!]

ドゥー[マチュみたいにドゥーでいいよ。ボクは軍人ってガラじゃないし]

ニャアン[じゃあドゥーさんで]

ドゥー[それでいいよ。で、”あのコ”を見上げて何黄昏れてたの?これでもキミよりも10くらい年上の年長者だから話くらいは聞くよ]

ニャアン[…じゃあ…]

そしてニャアンはこれまでの事をドゥーに話した。生後間もなく誰かが乗せたプチモビで戦火のサイド2を脱出してジオン艦に拾われた事。イヅマでの難民生活やその中でのマチュたちとの出会いと初めて”キラキラ”を見た時。そして流されるままに生きてきたことに対する不安。ニャアンは無意識のうちに全部話してしまっていた。ドゥーはそれを黙ってずっと聞いていた。

ニャアン[す、すいません!!ずっと自分語りしてしまって!!]

ドゥー[別にいいよ。ボクが聞きたくて聞いたんだから。じゃあボクの昔語りも聞いてもらおうかな]

ニャアン[?]

そしてドゥーはかつての自分についてニャアンに話した。ドゥーは”親”と呼べる人も本来の自分の名前も知らずに生きてきた。一年戦争で孤児になり、ムラサメ研に引き取られて初めて”ドゥー”と名付けられ、行く当てのないドゥーは流れに任せて強化人間となり、気がついたらティターンズでサイコガンダムに乗ってイズマで暴れていた。無線越しに唯一親しかったゲーツの断末魔を聞いた瞬間に初めて自分の意思で何もかも投げ出して逃げようと思った。だが、

ドゥー[そううまくは行かないよね。後で知ったけどマチュとシュウジがやり合ったシイコが乗ったジムⅢのミサイルがクリティカルヒット。その時に誤作動か知らないけど機体から放り出されてボクはボク自身が壊した街を彷徨って捕まった。これでボクの人生終わるのかな、こんな空っぽな人生のまま死にたくないとか半分諦めながら独房で過ごしていたら”お義父さん”に出会った]

ニャアン[シャリア・ブル中佐の事ですよね]

ドゥー[そう。あの時に初めてボクは生きたいと言ったな〜]

ニャアン[…私たちって似た者同士ですね。…ああ!?すいません!!私ったらまた!!]

ドゥー[似た者同士だよ。流され者同士と言った所かな。でもね、いくら流されても結局はどこかで自分で自分のこれからを決める時が来る。後でその決断を後悔しないように精一杯生きて経験値をいっぱい貯めとくんだよ。あ、マチュは例外ね。あの子は脊髄反射で生きてんのかってくらい即決しすぎ]

そしてドゥーはニャアンの背中を押してハンガーを後にした。そしてニャアンは、

ニャアン[経験値…いっぱい貯めないとね!]

頭上のコンチにそう言った。