MS-05B 旧型ザク(実戦配備カラー)
緒戦においてザクⅡとの混成部隊に編入されたザクⅠは全て、ザクⅡと同一の制式カラーリングに再塗装された。
MS-05B《ザクⅠ》はジェネレータ出力の不足以外にも、動力パイプを内蔵することによる排熱不足から活動時間が制限され、また複雑な空間機動にも対応出来ないなど設計上の問題を抱えていた。
開戦時の主力として配備されたMS-06C《ザクⅡC型》では、上半身を中心に施された耐核装備による重量増と荷重の偏りとで大きく低下したAMBAC性能を補うため、機体各所に増設した姿勢制御用スラスターによって従来水準の機動性を維持する設計だった。
特に核バズーカ使用時の照準精度は大きく向上し、新兵にも扱いやすくなった操縦性と共に公国軍上層部からは高い評価を受けた一方、熟練パイロットからは不満の声も少なくなかった。
一般に運動性の面でもザクⅡに大きく劣ったとされるザクⅠであるが、正確には制御スラスター設置箇所の少なさ等により宇宙空間での複雑な三次元機動に適さなかったに過ぎない。
ザクⅠ当時においてはAMBACが可能にした高効率な制動や方向転換を除けば、航宙機による従来の戦闘と変わらない運用思想であった。従って最小の投影面積で携行火器を前面に構えた対艦突撃姿勢による機動が基本となっており、フォアグリップを握る左腕を前面に突き出し、構えた銃火器の陰に胸部や右腕が位置する姿勢に合わせて、左肩への避弾経始に優れる曲面装甲や、頭部正面にモノアイガードが採用、また動力パイプは内蔵式として被弾を避ける必要もあった。
ただし銃砲身の延長線上と機体の重心がほぼ一致する、この姿勢では発射の反動と前進する機体の慣性力とが相殺されることで命中精度が向上するため、大型目標等に対する実弾系兵器の基本テクニックとしてモビルスーツ機種を問わず用いられる。
今日のモビルスーツ戦の様な、推力偏向や姿勢制御を駆使しし正対で敵機を近距離に捕捉して行う高機動戦闘はMS-06《ザクⅡ》で初めて採用された戦闘機動であり、原則としてヒット・アンド・ランによる対艦攻撃を想定した設計のザクⅠには対応が困難だった。
宇宙用モビルスーツにおいては推進装置を利用した廃熱機構を備えているが、内部スペースが狭く推進剤搭載量の少ないザクⅠでは常に廃熱用途分を意識した節約が強いられる状態とも言える。
裏を返せば効率的な廃熱タイミングの把握やAMBAC機動の積極活用など、操縦技量次第で運用稼働時間を延長する余地がある事を意味し、実際に高重量かつ推進剤消費の多いザクⅡC型よりも長く活動出来た。
実にこの点こそが、総合性能では大幅に向上したザクⅡC型配備後もなお、宇宙において一部のベテランがザクⅠを愛用し続けた唯一の理由であり、事実MS-06F量産型ザクの配備が開始されてからは滞りなく機種転換が進んだという。
なおMS-06A《ザクⅡ》が元々ザクⅠの改良型”MS-05C”として開発された機体である通り操縦性に大きな違いはなく、制御ソフトウェアによる柔軟な調整も可能であるため、実際には機種転換に要する負担は極僅かなものだった。
最大の違いは想定された戦闘スタイルの抜本的な変化にあり、操縦技量とは別の適性や身体的能力が要求されたため、適応の困難な一部パイロットは、部隊へのザクⅡ配備と入れ替わる形で後方任務や地球方面への転属がなされた。
開戦時点で既に二線級兵器としての扱いではあったものの、宇宙空間ほど機動性能が要求されない地上では新型機との性能差はさほど問題にならず、ザクⅠも多数が地球侵攻作戦に投入され主戦力の一端を担い続けた。
更に量産型ザクで採用されたAMBAC制御システムが部分的に既存のザクⅠへもインストールされ始めると、持ち前の堅牢性と低燃費性から、後方部隊における事実上の支援用モビルスーツとして再び活躍の場を得ることとなった。
ザクⅠではザク・マシンガンの反動を十分抑え込めず命中精度が低下するケースが多いため、前線においてはザク・バズーカを主兵装とした支援担当に回される事が多かった。
元々ザクⅠ自体が宇宙空間での対艦戦闘を主眼に開発されたため、標準装備のZMP-47DやZMP-50B《ザク・マシンガン》はサイドアームとして腰部マウンタでの携行性を最重視した設計となっている。
但し連邦がモビルスーツを投入し始めてからは、牽制射撃による支援担当として120mmザク・マシンガンを主兵装とするケースも見られるようになった。
M-120A1(ZMC38Ⅲ)《120mmザク・マシンガン》はMS-06A《ザクⅡA型》専用兵装として開発された経緯があり、新たに追加されたストックはバットプレートが06Aの右肩アーマーにフィットする形状で設計されている。
つまり06Aでは両手と肩付けの3点で保持しなければ命中精度を維持出来なかったのであるが、姿勢制御に優れるMS-06C《ザクⅡC型》や性能強化されたMS-06F《量産型ザク》以降では両手のみで十分となり、射撃に際してストックの存在は完全に不要となった。
だがストック部分は接近戦での殴打や、臨時の作業工具としての利用など依然有用であったため、特に仕様変更が行われる事なく後継モデルの登場まで生産が続けられる。
なおザクⅠがM-120A1を装備する場合、前述の理由から左手で取り扱う場合が殆どであったが、小火器の反動制御に関する問題は無重力または低重力環境に限られ、コロニー内を含む地上戦では問題とならなかった。
H&L-SB21K《最初期型ザク・バズーカ》はザクⅠによる核砲弾280mmA-Nの使用前提で単発・前装式として開戦前に開発された。
機体構造上十分な耐核装備の搭載出来ないザクⅠでは、核砲弾使用には遠距離からの砲撃が必要であり、弾頭の推進力を最大限発揮させるため反動の相殺は最小限に留めざるを得なかった。
それに伴いザク本体側の専用オプション装備として肩部バズーカラックが応急的に用意される。右肩の専用ハードポイントにバイパスされる動力パイプを通して右腕全体の出力を一時的にオーバードライブさせる特殊な機構であり、機体への負荷は極めて大きかった。
後継型であるH&L-SB25K《ザク・バズーカ》では、十分な耐核装備が施され近距離からの砲撃が可能となったザクⅡC型用として開発されたため大幅に反動が抑えられており、通常弾頭の280mmA-PであればザクⅠでもオプションなしに使用可能である。
ヒート・ホークは元々モビルスーツ用工具としての装備品であり、ザクⅠ用のヒート・ホークType3も近接武器としては未だ十分な溶断能力と言えなかった。
特に無重力環境における斬撃のインパクトとスラスター制御の正確な同期が不可能なザクⅠでは攻撃後の姿勢維持が困難であり、ベテランパイロットでさえ宇宙での接近戦には専ら格闘攻撃を用いていた程である。
後継機においても近接格闘における反作用は依然難題であり、ザクⅡC型でも相手を掴んでからの至近からの打撃攻撃のため肘と膝の装甲材質が強化された。
もっともこれは当時存在した敵モビルスーツは当時、巡洋艦1隻に値する鹵獲されたザクのみであり、可能な限り無傷に近い状態で奪い返すためパイロットのみを無力化しうる打撃含め、質量攻撃が重視されていたことによる。
連邦側も最新鋭試作モビルスーツの装備に質量兵器を採用するだけの効果が認められていたが、その後モビルスーツの高機動化等に伴いコクピットの耐G・耐衝撃性能が向上した戦争中盤以降、純粋な質量兵器は事実上消滅した。
なお、重心移動や地面からの反力を利用する事で威力の増幅が可能な地上では、ヒート兵器を赤熱化させない斬撃のみでも十分有効であり、むしろザクⅠでこそ積極的に近接格闘が用いられた。
これをもってスパイク・シールドについて、地球侵攻部隊での補修部材を活用した現地改修を起源と見る説も根強い。
余談とはなるが、かつて教導機動大隊ではAMBAC機動のマニューバ開発と併せ対モビルスーツ戦闘訓練が行われていたこともあり、所属していたパイロットには格闘攻撃を好む者が多いと言われる。
実戦さながらの戦闘訓練を数多く戦い抜いてきたベテランともなれば、絶妙な間合いからカウンターで繰り出されるタックルの衝撃は敵パイロットを失神させてモビルスーツを無効化、つまり「一撃で撃破」する事さえ可能であったと伝わる。
U.C.0078年、公国軍が宇宙攻撃軍と突撃機動軍に分割再編された際、教導機動大隊に所属していたパイロットに対する贈呈の形で、ヒート・ホークが大隊の象徴色でもあるパープルに塗装された。
旧教導大隊所属パイロット達は新たに編成された各部隊において自然教官的立場を担い尊敬を集めていたこともあり、この異例の処遇に対しドズル・ザビ中将も素直に理解を示したとされる。
この特別色の装備が確固たる実力の証として戦場で自他へ与える心理的影響について、総帥府ペーネミュンデ機関の大いに注目するところとなる――
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ザクⅡF型(ツィマット社製)
MS-06F(Zi) 量産型ザク(ツィマット社製)
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ザクⅡS型(ロールアウトカラー)
MS-06S 指揮官用ザクⅡ(ロールアウトカラー)