燃ゆる砂、兵(つわもの)どもが夢をみる——。
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「いいな、主任務は威力偵察だ。状況がまずければすぐに後退するぞ。」
第18MS中隊を指揮するディーン中尉は、スロットルレバーを握る掌が汗ばむのを感じながら、指揮下の8機に通信を送った。ミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されており、無線機に入る部下の返事もノイズが強い。
レバノンからダマスカスに抜ける山岳地帯を、地球連邦軍のMS隊が進軍を続けていた。パイロットは生きた心地がしない。MSも覆い隠す深い峡谷を進んでいくからだ。
(上から襲われたらひとたまりもないが……。)
先行して、ヘリや航空機が先行して警戒に当たっているが、ミノフスキー粒子のせいでまともに連携が取れない。対空防御用に、180mmキャノン砲を担いだ機体を3機連れてきているが、もしガウやドダイの空爆を受ければ、あっという間に岩雪崩に生き埋めだ。
(おまけに、アレクサンドリア方面は失敗したらしいじゃないか。)
レバノンのベイルートから上陸した部隊は、山岳地帯を超えて、まっすぐダマスカスを目指す。オデッサよろしく、空港を抑えて攻撃拠点にしたいのだ。ベルベット作戦の第1次攻撃の、宇宙からの電撃降下作戦で、ダマスカスはすでに制圧している。にもかかわらず、ディーン中尉がこんなにも緊張しているのは、この峡谷付近で残敵がゲリラ戦を展開していたからだ。
山岳地帯を行軍中は待ち受ける側にとっては非常に優位に戦いを進められる。本来ならば、いつものように遠距離からの砲撃と航空戦力による爆撃で薙ぎ払ってしまいたいところだが、アフリカ戦線は現地ゲリラの展開もある。ダマスカス付近は現地の人々の生活もある。いつもの物量戦だけでは如何ともし難いものがある。
開けたところで待ち伏せというのも、常套手段だ。だからこそ、エジプトはアレクサンドリア港の制圧が重要だった。アレクサンドリアの戦力を後ろ盾に、ガザからも陸上戦力を上陸させ、ヨルダンを通過して南からダマスカスに合流する予定だったのだ。
しかし、アレクサンドリアは失敗した。何とか制圧はしたものの、MSも洋上艦艇も、敵の反撃に大きな損害を受けた。敵の指揮官は名うての将だったらしい。退けた敵から昼夜に問わず反撃があるため、アレクサンドリアは拠点の維持に精一杯で、ガザに上陸する戦力を援護する余力がない。先の水陸両用MSの奇襲も危惧すれば、大それた作戦も取れず、結果、ガザの戦力はベイルートとアレクサンドリアに分散し、それぞれの戦力の後続に甘んじることになった。
ふと、集音マイクを通して遠雷のような響きが聞こえた。爆撃機のエンジン音に聞こえたが、まだ遠いようだ。
(渓谷を抜けるとそこは敵陣だった、ってか。たのむ、せめてそこまでは行かせてくれよ。)
とにかく、ここまで来たら肚を括るしかない。
「間もなく渓谷を抜ける。接敵予定時間まで、あと100秒。」
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ジオン公国軍ハリソン・サトー少佐は、左肩が赤く塗られた愛機のザクを荒野に立たせて、3km先の渓谷の出口を見つめていた。随伴している僚機はわずか3機だった。
『マイロ伍長とイアン曹長が戻りました。9機の1個中隊です。』
近づいてきたグフのパイロットが告げる。ブル―グレーの機体は、左肩とそしてシールドも赤く塗られている。
「さて、出番だな大尉。」
グフのパイロットは、アーサー・クレイグ大尉。マ・クベ大佐の指揮下でオデッサ鉱山地帯の前線拠点を指揮していたが、連邦軍の物量戦に破れ、アフリカ戦線まで流れてきたのだ。一緒にオデッサを脱出してきた、部下のマイロ伍長とイアン曹長を、上空からの偵察に向かわせていた。
「”オデッサのガンダム殺し”、お手並みを見せてもらうぞ。」
アーサー大尉の報告に応じるハリソン少佐の声は快活だ。
『……およしください。たった1機を落とすのに、2機も失いました。』
「謙遜するな大尉。さあ、いらっしゃったぞ、お客様だ!」
少佐が愛機のザクを走らせる。砂漠戦仕様に特別に強化された機体だ。脚部に増設されたバーニアで、一歩のストロークを大きく取ることができる。ドムのホバーとは違うが、足場の悪い砂漠でもスイスイと飛ぶように走る。おまけに、巻きあげた砂塵が目眩しにもなる。
少佐の機体に、3機が追随する。
3km先の渓谷から、ぬっと、紅白カラーのMSが現れた。連邦軍の量産型らしい。のっぺらぼうのような顔に、妙につるんとして起伏のない装甲が、軟弱な印象を持たせる。棺桶のような形の巨大な盾を持っているものもいる。
「ご丁寧に、自分が入る棺桶を担いできたらしい!各機、盛大に"もてなせ"!」
敵機からマシンガンの火線が伸びる。次いで、轟音と共に滑腔砲の弾丸が飛んでくる。4機は砂地の上でも軽快に立ち回り、横にステップしながら砲撃をかいくぐる。
あっという間に敵機に詰め寄ると、突出している機体に各個で組み付いた。
それぞれに至近弾を叩き込むと、思っていたより簡単に、敵機の装甲は火を吹いた。
「なんだ!?ガンダムにザクのマシンガンは効かないと聞いていたはずだぞ!?」
攻撃を仕掛けたハリソンが、むしろ動揺した。突出していた敵の3機は撃破できた。
『少佐!』
グレーのグフのパイロット、アーサー・クレイグ大尉の声に、直感的にハリソンは機体を後退させる。ピンクの火線が機体をかすめた。
「ビームか、面白い!」
ビーム兵器を装備した機体が2機。あれに捕まれば、一撃であの世行きだ。
銃弾をまき散らしながら、機体を思い切り後退させる。ここでも、機体の増設されたバーニアが役に立つ。まるで宇宙空間での戦闘のように、ハリソンの機体は地表をすいすいと滑った。
アーサーのグフがすれ違い、ビーム兵器を持った機体に突進していく。
「エド!出てこい!大尉を死なせるな!!」
ハリソンが叫んだ瞬間、滑腔砲を装備した敵機の足元からザクが4機飛び出した。砂の中からの奇襲。アフリカ戦線のジオン軍の十八番だが、宇宙から降りてきたばかりのMSパイロットには知れ渡っていなかった。ただでさえ接地の悪い足場を乱され、たまらず敵機は横転する。砂の中から現れたザクは、その敵機にマシンガンの凶弾、ヒートホークの凶刃を無慈悲に叩き込んだ。たちまち、滑腔砲の3機は撃破された。
落としたのは6機。生き残った3機が、シールドを構えながら、勢いよく後退していくのが見えた。
「構わん、追うな。」
ハリソンが部下を制止する。ビームの2機は逃したが、これほどの戦果ならば敵に”好印象”を与えただろう。
「良い引き際だな。敵ながら天晴れ。」
呟いた後、部下に通信を入れる。
「我々も撤収する!ぼやぼやしていると、ダマスカスからの敵戦力と挟み撃ちにされる。急げよ!」
少佐もまた、鮮やかな引き際である。
ダマスカスの南を迂回し、シリア・イラク方面の砂漠に部隊を引き上げさせる。アレクサンドリアが善戦したからこそ取れる撤退ルートであり、この撤退ルートを取れるからこそ展開できたゲリラ戦だった。だが、タイムオーバーだ。先程ハリソン少佐が言ったように、これ以上あの場に留まれば、制圧されたレバノンやダマスカス、トルコ方面からの増援に包囲されてしまう。
『流石だった、"ガンダム殺し"。』
撤退中の隊列の中、ハリソン少佐は部下の機体に1機ずつ、自身の機体を寄せ、肩に掌を置く。こうすることで直接通信を送ることができる。戦闘濃度のミノフスキー粒子化でも、クリアに声が伝わるのだ。
「ありがとうございます。伏兵がいたからこそできた無茶です。」
それがチームってものだろう、と少佐は快活に返すと、次の機体の傍に移っていった。
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アーサー・クレイグ大尉は、オデッサ市で、友軍をHLVに乗せるのを掩護した後、自身はマイロとイアンを連れて洋上空母に乗り込み、トルコに脱出した。トルコでは、元々オデッサの支援のために連邦側の戦力が展開していたため、現地のジオンの戦力と、脱出してきた戦力、それらを追い落とそうとする連邦軍で混戦状態が続いていた。アーサーは、トルコ上陸後も奮闘したが、敵の戦車大隊と、現地のゲリラに包囲され、機体は小破し、ガトリングも失った。もはやこれまでというところで、シリアから北上してきた、ハリソン少佐率いる"レッドショルダー"隊に助けられた。
あれから2週間と経っていないが、スエズ方面の友軍の活躍なども伝わってきている。オデッサから脱出してきた戦力を、何とか受け入れようとするアフリカ方面軍の奮闘は、後世に語り継がれるものだと思った。少なくとも、自分たちを救ってくれた"レッドショルダー"隊は、アーサーにとっては英雄だ。この隊のために、命を捨てようと思える。
(部下じゃないな、俺にとっては大尉は言うなれば”食客”だな。遠慮はいらん、存分にやってくれ。)
梁山泊みたいでかっこいいだろう、といたずらぽく笑うハリソン少佐を思い出す。そうして、アーサーはマイロ、イアンと共にジオン公国宇宙攻撃軍第241MS隊、通称”レッドショルダー”隊に接収されたのだ。
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「見よう見まねでやってみたが、なるほどな。」
地上でも、各所のバーニアを強引にふかせば、短時間なら宇宙空間のような機動が取れる。ディーン中尉は、エースらしき敵機の機動を思い出しながら、コクピットで呟いていた。
「しかし、6機も失った。ひどいやられようだ……。」
戦闘の興奮が冷めてくると、自身の犯した失態に頭を抱えざるを得なかった。
十分に警戒をしていた。最初に宣言した通り”まずければすぐ撤退”した。しかし、半数以上部下を死なせた。
(トルコやダマスカスからの増援は、あちらも予想しているはずだ。追撃はあるまいが……。)
とにかく、敵戦力の情報を伝えなければならない。飛ぶように走る砂漠仕様のザクと、砂地から這い出して来るゲリラ戦術、そして……
(赤い左腕のグフ……俺も、危なかった。)
ビーム兵器を携行していたディーンのジムにも、まるで死ぬことを恐れていない、迷いのない凄まじい突撃だった。あのザクを真似てバーニアをふかして逃げなければ、きっと墜とされていた。
「さしずめ”血濡れの左腕”というところか……。」
アフリカのジオンは強兵。
ああいう敵が、アフリカにはまだいるというのか。
ディーンは、峡谷を来た時と同じように、スロットルレバーを握る掌が汗ばんでいるのを感じていた。しかし今度は、レバーを握った指が開かない。
「くそったれが……!」
ディーンは思い切り、自身の唇の端を噛む。その痛みと、滴る血の生温かさが、まだ自分が生きていることを実感させた。
【#15 / “RED SHOULDERs” / Nov.19.0079 fin.】
ザク・デザートタイプ、かっこいいですよね。
こいつを手に入れてから、第2部はアフリカ戦線と決めました。
レッドショルダーは……ちょっと無理がありましたね(gundam-kao5)てか、復讐のレクイエムに赤い肩の部隊いたんですね(zaku-kao4)
アーサー大尉も復活しました。
ちょっと弱そうになってる……?笑
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました(gundam-kao6)
オリジナルストーリー第15話
コメント
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キット自体のクォリティーもさすがですが、妄想と画像が織りなす匠の技!!
コメントありがとうございます。
まさしく妄想の産物なのですが、皆さんからたくさんの温かいお励ましを頂戴したおかげで、妄想力が覚醒しまくっております笑
カタカナの名前で梁山泊、博識ですね🥰👍✨
パイロットは基本、インテリだと思っています笑
感想は後ほど。たぶん訂正箇所マダスカスとブレーグレー✌️
おっ、ありがとうございます(gundam-kao6)
アーサー大尉グフめちゃかっこいいっすねジオン側と連邦側では呼び名も印象も違いますよね。うまいなぁ〜。またハリソンのセリフもいい😁。レッドショルダー熱いですね
追加です”薙ぎ払ってしまいところだが”
いつもありがとうございます。
大尉のグフは、左腕だけでなく、一部カラーリング違いや、追加装甲などもあるので作り直しました。……が、並べてみたらオデッサ編の時の方が気迫がある感じがしました。汚しが甘いのかな?
さすがヨッチャKIDさん!ジオンと連邦で呼び名を変えているの、お気づきいただけましたか!(gundam-kao6)
ハリソン少佐はアーサー大尉の没ネタです。もともとはアーサー大尉をハリソン・サトーにする予定でした。第2部のジオンはハリソンが引っ張る予定です(gandam-hand2)
今回もまた物語に引き込まれました。レッドショルダーのファンになりました。
いつもありがとうございます。
レッドショルダー、部隊名は悪ノリの命名ですが、ハリソン少佐のキャラクターは真面目に考えました笑
お気に召していただけたなら幸いです(gundam-kao6)
アフリカ戦線、盛り上がってきましたね😆 凄腕のレッドショルダー隊👍
いつもありがとうございます。
アフリカの主役はこいつらと思っています(gandam-hand2)
今回は、ジオン奮戦👍️👍️👍️
血濡れの左腕(zaku-kao2)
アーサー大尉に敬礼🫡
いつもありがとうございます。
アフリカのジオンは強い印象があります(gandam-hand2)
いつの間にか、ぶんどどデジラマストーリー投稿アカウントと化してしまいましたので、監督気取りで、幻之介から、押忍やすじろうに改名いたしました。
技術がないので、基本的に無改造。キットの基本形成のままですが、できる限り継ぎ目けしや塗装などをして仕上げたいと思っています。
ブンドド写真は同じキットを何度も使って、様々なシチュエーションの投稿をする場合もあります、あしからず。
F91、クロスボーン、リックディアスあたりが好きです。
皆さんとの交流も楽しみにしておりますので、どうぞお気軽にコメントなどもいただけますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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