「基本戦法は“シングルモルト“でいく。中隊5個でそれぞれ仕掛けろ。」
明け方、出撃前のブリーフィングで、ラッキー・ブライトマン少佐が宣言する。先日の、シングルモルト作戦は、レバント侵攻第3軍内では、新戦法“シングルモルト“として定着した。
「先鋒はキョウ・ミヤギ総長のガンキャノン。右翼をヘント・ミューラー少尉のガンダム、左翼をイギー・ドレイク少尉のジム。イギー少尉の中隊は、そのまま突出して、第4軍と合流してサラサールに突入しろ。その頃には“ロレンス“も突入しているはずだ。」
了解、と3人の息が揃う。
「後衛からはテッド少尉。ディーン中尉も、もう行けるな。すまんが、機体を遊ばせておく余裕はない。やってもらうぞ。」
敵の奇襲を受けてから、トラウマのためにコクピットに入れなかったディーン中尉も、今回の総攻撃には参加する。中尉は、青白い顔で、それでも、はっ!と切れのある返事をする。
「後衛はガンタンク隊を守りながら進軍。中尉と少尉のジムにはビームスプレーガンを持たせておけ。」
出撃は、120分後だ、と声を張り上げ、少佐は全軍に配置を命じた。
~~~~~~~~~~~~~~~
「おい、今度は撃ち落とされるなよ!」
仮設ハンガーに向かう道すがら、イギーがいつもの調子でヘントをからかう。
「善処するよ。」
「駄目です。善処ではなく、お約束を。」
静かに、だか、強く、確かな口調でミヤギが言う。
「サラサールを陥とせば、この方面の戦いは終わります。そうしたら、休暇を申請しましょう。その時は、ご一緒に。」
「はいはい、デートの約束ならお二人でどうぞ。」
「違います、イギー少尉もご一緒に。行き先はジャブローで。」
先日、ダマスカスのバーで話した身の上話。イギーの妻子がジャブローに疎開していることを言っているのだろう。ミヤギからの意外な提案に、ヘントもイギーも顔を見合わせたが、その後、2人でニッと笑った。
「次は、出撃を気にせず、朝まで飲みましょう。」
「なあ、曹長、出撃前にそういうの、縁起悪いんだぜ。」
イギーが楽しそうに応じる。
「何て言った?ほら、オールドムービーによくあるよなあ、ヘント?」
「"死亡フラグ"。」
「そう、それだ。」
「それこそ、くだらないジンクスです。人は——、」
ミヤギは、真剣だ。
「こういう時、人は、明日への約束が欲しくなるものです。この約束は、きっと、何があっても生き抜く力の源になる。」
だから、と、呼吸を置いた後、歩みを止め、2人の袖を掴んで顔を見る。
「必ず、お約束を。全員で生還しましょう。」
~~~~~~~~~~~~~~~
『要は俺らと飲んだのが、よほど楽しかったんだろう。可愛いところもあるやつじゃないか。』
ヘントの通信機に、機体に乗り込んだイギーから通信が入った。
「だから、直に言ってやればいいじゃないか。」
『嫌だね、そういうのはお前がやれ。』
じゃあ行くぞ、と、イギーは機体を歩ませ、中隊の集合地点へと向かう。最後に、通信を送ってきた。
『お前こそ、ちゃんと言ってやったんだろうな。この後、どっちかが死んじまっても知らねえぞ。』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ミヤギ曹長。」
イギーを見送った後、ミヤギにも個人通話で通信を送る。
「ダマスカスの夜襲や、ルトバでの"シングルモルト"で、君は目立った働きをしている。敵の戦力は、君のガンキャノンとガンタンク隊に向くと思う。」
覚悟の上です、とミヤギは返す。
「もちろんだ。だが、"シングルモルト"のときの敵も然り、やはりこの砂漠の敵は手強い。"血塗れの左腕"もまだ残っている。」
だから、と、少し躊躇った後、ヘントは続ける。
「君に危険が迫ったなら、俺を呼べ。作戦の全容よりも、俺は君を守ることを最優先する。」
そこまでを告げ、ミヤギの返事を聞かず、ヘントは通信を切った。
~~~~~~~~~~~~~~~
全軍が進軍する。既に、トルコから南下してきた第1軍と第2軍が、サラサールへ攻撃を始めているという。砂漠を突っ切て突入する予定の第4軍も、夜半には出撃している。いつもの物量戦術は、1、2、4軍がやってくれるのだ。自分たちは、最後のとどめに、"シングルモルト"戦法で突入し、敵のMSを殲滅する。
(俺を呼べ、って……どうやって。)
行軍中、ミヤギは、先ほどのヘントの通信にやや腹を立てていた。自分を心配してくれているのか。それとも、これまではっきりさせずにきた、自分への好意を、こんなタイミングで示しているのか。彼はいつも、言葉が足りない。
(わたしはニュータイプじゃない、って、言ったじゃないですか。)
人の心の中など、分かるはずもないのだ。思うことがあるなら、はっきり言葉にしてほしい。
(でも、はっきりさせずにって……それは、わたしも同じか。)️
昨日は、泣き止むまでずっと傍で待ってくれた。寄り添った言葉をくれたことも、衆人環視の中にもかかわらず、ああして付き合ってくれたくれたことも、うれしかった。けれど、ああまでして、互いにそれらしい言葉はなにも交わしていない。言ってしまうべきだったのだろうか。もしかしたら、今日の戦いでどちらかが、命を落としてしまうこともあり得るのだ。
不意に、肌を刺すような、鋭い感覚が全身を打った。
「何っ……!?」
激しい、敵意というか、生の感情が、前方の砂塵の中から自分に向かってくるのを感じる。
「敵!?全機、警戒!」
率いている中隊に通信を送るが、レーダーはまだ敵機を捕捉していない。
『曹長?』
2番機が応じた瞬間、ミヤギの"予言"どおり、敵機の襲来を告げるアラートが全機に入る。遠く、砂塵の中に、巨人の影が見える。
(当たりだ!先頭の、あのキャノンだな!)
聞こえるはずのない敵の声が、聞こえた。あの時と同じだ。
(殺せ!)(殺せ!)(殺せ!)
激しい殺意が、自分一人に向けられているのが分かる。
ミヤギは、思わず怯み、機体の歩を止めた。
『曹長!?』
追い越して行った中隊の先頭、2番機が、思わず振り返る。その間に、敵機は激しい砂塵をあげながらどんどん近づいてくる。
ミヤギは、自身が率いるこの中隊は、自分の先制攻撃こそが戦法の要と理解していた。が、会敵早々、その前提を崩してしまった。仲間が、そして、自分が危険にさらされると、直感が告げている。
「ヘント!」
君に危険が迫ったなら、と、彼は言った。今が、その時だ。だが、どうやって。彼は今、どこを進軍している。
右翼の後方から、更に1機、敵のザクの襲来を知らせるアラートが鳴り響いていた。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼
「見つけたぞ、当たりだな!」
砂漠に機体を走らせながら、ハリソン少佐は歓喜の声を上げる。
「例のキャノンだ!あいつ以外は無視しして構わん!」
通信機に向かって叫ぶや、随伴した8機が散開する。が、ぶつかった敵は例の"のっぺらぼう"ばかりだ。何かを感じたのか、キャノンタイプは後ろにいる。
「やはり、ニュータイプか!?勘がいい!」
突破して向かおうとするが、敵も中隊規模を率いていて、なかなか巧みに防いでいる。砂漠に慣れてきたのか、数日前の夜襲とは動きが違う。
後方のキャノンは乱戦に参加してこない。射撃に味方を巻き込むのを躊躇しているのか、撃ってすらこない。
(……怯えている?)
後方で立ちすくむキャノンの敵機が、ハリソンの目にはそう映った。だとしたら、チャンスだ。ハリソンは目の前の敵機をすばやく左にかわし、キャノンに迫った。
向かって左、敵の右翼後方から、友軍を示す識別信号が迫っていた。妙な位置からの奇襲だが、気の利く味方がいたらしい。ハリソンは即座に通信を入れる。
「狙いはそこのキャノンタイプだ!掩護しろ!」
『了解、少佐。』
通信機から聞こえたその声は、役者のような、深みのある好い声だった。異常にゆっくりと話すその声に、ハリソンは確かに聞き覚えがあった。
「中尉か、トマス・オトゥール中尉!」
つぎはぎだらけの装甲に、獅子の紋様を付けたザクが、敵機の後ろからこちらに向けて飛び出してきた。マシンガンを斉射し、キャノンとハリソンの間に割って入る。ハリソンは敵のマシンガンをシールドで防ぎながら、キャノンに取り付けず、再び距離を取った。
「貴様、生きていたのか!?」
アーサー・クレイグ大尉の報告にあった、敵に鹵獲されたらしき、つぎはぎのザク。連邦軍か、現地のゲリラの鹵獲と思っていたが、まさか、かつての自分の部下だったとは予想もしていなかった。
「どおりで、連邦軍の進軍がスムーズだったわけだ。貴様が協力したな!?」
"敵のザク"は、通信に応えない。いつの間にか識別コードも連邦軍のものを発している。右手に持ったハンマーを思い切り放り投げ、こちらを牽制してくる。
元部下、トマス・オトゥールに気を取られているうちに、例のキャノンが息を吹き返した。組み合っている"のっぺらぼう"が、ぱっと離れた隙をつかれ、部下のザクが狙撃されていく。2機が、続け様に撃墜された。
「全機、サンドストーム!」
各機、思い切りバーニアをふかして、砂塵をまきあげる。
残りは、自分を含めて7機。最初の攻撃で、こちらも3機は墜としている。やはり、MS戦の練度はこちらが上だ。他の敵はどうでもいい。とにかくキャノンを墜としたい。
「敵にもザクがいるぞ、気をつけろ!」
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
予定していた進軍経路のやや北から、嫌なプレッシャーを感じた。ミヤギが進んでいる方向のはずだ。
「進軍方向を変える。」
ヘントの率いる中隊と、ミヤギの中隊とは、攻撃地点をややずらして、敵拠点にプレッシャーをかける予定だった。
「ミヤギ曹長の中隊と合流する。」
命令違反の上に、周囲には"そういう仲"と見られている。応答には、不満の声も混じった。
「すまない、嫌な予感がするんだ。」
合理的ではない。ニュータイプにでもなったつもりか、と、自分を叱る。だが、ガンダムに搭乗してから、勘が冴えている気がするのは、確かだ。
「ルーク准尉、この中隊の"シングルモルト"は君が引き継げ。」
ビームスプレーガンを装備した2番機に命じる。
「5番機と、6番機は随伴しろ。責任はわたしが取る。君らはわたしの命令に、無理に付き合わされた。」
2機に随伴を命じると、ヘントは、ミヤギの進軍ルートを目指した。
ガンダムのバーニアを思い切りふかすと、凄まじい推力で、文字通り飛ぶように、機体が前に進んだ。随伴を命じた2機とは、あっという間に離れてしまった。体験したことのないGに耐えながら、ヘントは、砂漠の向こうから自分を呼ぶミヤギの声を聞いた気がした。
【#22 Fury / Nov.26.0079 fin.】
ここから第2部最終話まで、新機体の登場がないので、また続けて更新してしまいました。次の話は画面作りが難しそうなので、少し日にちをあけます。たぶん。
ヘントとミヤギは、シャアとララァみたいなもんです。急にヘントがニュータイプっぽくなったのは、たぶん、ミヤギから力を得たのです。まあ、そういうことでしょう。
"シングルモルト"の発想が、なんとなくララァ専用MAを、リックドムに掩護させた、あの運用ぽいな、とセルフツッコミを入れて、そんなことを思いました。
・
次回、
MS戦記異聞シャドウファントム
#23 The last sand storm
砂漠に流されるのは、誰の血か——。
なんちゃって笑
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
次回のお越しも心よりお待ちしております。
いっておけば、よかった?
オリジナルストーリー第22話
コメント
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ミヤギ曹長のニュータイプの勘の表現👍
人の意思、思念が自分の中に入ってくる感覚😉
今までに感じとったことのない、その感覚と怨念が戸惑いと恐怖に感じ、怯える描写👍 合わせてレッドショルダー隊の凄まじい気迫も良く伝わります😆
ロレンスのザクに助けられてホッとしました😉
が以前状況は数的不利😣
ヘント少尉も独特の感覚を持っていたので、ニュータイプ同士の刺激がいつのまにか冴えて、助けを感じとれた😁
命令無視とは言え、ここは駆けつけて熱戦を繰り広げてほしいと思いました。
手に汗握る展開にワクワクします😆
デザートザク、いいですね!
コメントありがとうございます。
めちゃくちゃかっこいい機体だと思います!
ぶんどどデジラマストーリー投稿アカウントです。
技術がないので、基本的に無改造。キットの基本形成のままですが、できる限り継ぎ目けしや塗装などをして仕上げたいと思っています。
ブンドド写真は同じキットを何度も使って、様々なシチュエーションの投稿をする場合もあります、あしからず。
F91、クロスボーン、リックディアスあたりが好きです。
皆さんとの交流も楽しみにしておりますので、どうぞお気軽にコメントなどもいただけますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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