MS戦記異聞シャドウファントム#36 LOVE PHANTOM / Dec.10.0079

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君以外、何も要らない——。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 出撃する。 同じカーゴに乗る

 出撃する。

 同じカーゴに乗る"デューク"少尉が、自分を警戒していると、ジン・サナダ曹長は感じていた。

(大丈夫、ジン。あなたは一人じゃない。わたしがいる。)

 不意に、カルアの思考が流れ込んでくる。それは言葉というより、温かい奔流のような感覚だった。ジンは一瞬戸惑うが、その感覚が心地よいと感じている自分に気づく。ケーンや"デューク"から飛んでくる無機質な通信が、ひどく邪魔なものに思えた。

「心配しなくてもいいですよ。カルアは、自分に協力すると約束しています。」

『……狂っているヤツの約束など、信用できん。』

 狂っている。カルアのことか?それとも、俺のことか?

「少尉は、ニュータイプのこと、どこまで信じていますか。」

 静かに、ジンは尋ねる。"デューク"は応えない。

「俺、自分がニュータイプだと思います。分かるんですよ、いつも、敵の動きが。」

『……だろうな。それをニュータイプと言うのなら、お前はニュータイプだ。』

「ええ、でも、そう言うヤツはT4部隊の時の同期にもいたんです。だから、そんなに特別なことじゃないって、そう思っていました。」

 少尉だって、それに近いでしょう、と投げかける。"デューク"は背後の敵の気配に、いち早く気づいて撃ち抜くという伝説を持った兵士だ。少尉の背後には立つな、と言うのが、G13部隊のいる基地内では、ちょっとした笑い話になる。

「でも、彼女は、カルアは違います。本当に、本物のニュータイプだ。」

 彼女は全て分かってしまうのだ。

 対面する相手の思考が、と言うレベルではない。

 多分、世界の仕組みや、流れのようなものを、理解すると言うよりも、本能的に感じ取り、掴んでしまうのだ。

「カルアが理解している世界の中で、彼女の作る意志の、その流れに従う。それが、この戦場でのベストなんです。人は、流れに乗る生き物だ。そうでしょう?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 こいつは、何を言っているのだ。 通信機から聞こえる、虚な声を聞きながら、やはりこの男を拘束すべきだったという、至極真っ当なことを思い返した。自分を含め、誰もそのことを提案しなかった。その異常性に、

 こいつは、何を言っているのだ。

 通信機から聞こえる、虚な声を聞きながら、やはりこの男を拘束すべきだったという、至極真っ当なことを思い返した。自分を含め、誰もそのことを提案しなかった。その異常性に、"デューク"は改めて戦慄した。あの女、カルア・ヘイズの魔力に、敵も味方も支配されている。

 こいつは、危険だ。

 今、この場で撃ち殺すべきだ。"デューク"の兵士としての直感が、そう告げている。それは、ニュータイプがどうと言う話ではない。

『……来た。』

 レッドウォーリアが、項垂れるようにしていた頭部を、ピクリと正面に上げる。

『来たな、カルア。』

 ジンの呟きと同時に、敵の襲来を告げるアラートが鳴った。

■■■■■■■■■■■■■■■

 カルア・ヘイズ軍曹の報告を信じ、ジオン公国軍グレン隊は、地上と空に布陣した。 ウォルフガング・クリンガー大尉が、乗機のグフを先陣に立て、陸戦隊を率いる。 ウォルフガングの”ナハト・イェーガー”という異名は、この男が野戦で名を挙げてきたことを表している。闇の中に巧みに紛れ、敵の虚を突くタイミングで近接戦闘で畳み掛けるのが、彼の必勝の戦術だ。(何が”ナハト・イェーガー”だ。) アイザック・クラーク中尉は、胸の中で毒づく。味方が、部下が、奮戦している隙をつき、自分が”美味しいところ”をかっさらってきた結果だと、アイザックは理解していた。だから、ウォルフガングは部下の評判も良くない。 だが、決して腕は悪くない。むしろ、腕利きと言ってもいいのだが、いつもは滅多に先陣に立たない。そんな男が、珍しく先鋒を率いるのは、敵の

 カルア・ヘイズ軍曹の報告を信じ、ジオン公国軍グレン隊は、地上と空に布陣した。

 ウォルフガング・クリンガー大尉が、乗機のグフを先陣に立て、陸戦隊を率いる。

 ウォルフガングの”ナハト・イェーガー”という異名は、この男が野戦で名を挙げてきたことを表している。闇の中に巧みに紛れ、敵の虚を突くタイミングで近接戦闘で畳み掛けるのが、彼の必勝の戦術だ。

(何が”ナハト・イェーガー”だ。)

 アイザック・クラーク中尉は、胸の中で毒づく。味方が、部下が、奮戦している隙をつき、自分が”美味しいところ”をかっさらってきた結果だと、アイザックは理解していた。だから、ウォルフガングは部下の評判も良くない。

 だが、決して腕は悪くない。むしろ、腕利きと言ってもいいのだが、いつもは滅多に先陣に立たない。そんな男が、珍しく先鋒を率いるのは、敵の"赤鬼"に、異常な関心を示しているカルアの気を引くためだろう。

(徹頭徹尾、馬鹿げている……。)

 あの女、カルアは、最初からお前などに、微塵も関心を持っていなかったではないか。いや、俺たちの誰にも、それどころか、この世界の何に対しても、関心など持っていなかった。

 囲っていた女の、間男のところに殴り込みに行くのか。うらぶれた酒場の片隅で起こっている、痴情のもつれのような話を、地球圏の命運を懸けた戦場に持ち込むんじゃない、と、あの大男の横面を張ってみたくなる。

(……まあ、そんなことも含め、もう、何がどうなってもいい。)

 カルアの”感知”が正しければ、間もなく接敵する。ウォルフガングが会敵した部隊の、横腹を突いて壊滅させるのが、アイザックの率いる隊の仕事だ。

 とにかく早く、敵と会いたい。

(そうだ。そうすれば、もう、余計なことを考えなくて済む。)

■■■■■■■■■■■■■■■

「やめろ、全機、銃を降ろせ。」 ジンは、カルアが率いてきたMS3機に、ライフルを向けた味方を制止する。カルアたちも撃ってこない。ガンペリーの横を、伴走するようにゆっくりと浮遊している。『ごめん、ジン。遅くなった。』まるで、デートの待ち合わせでもしていたかのような、浮ついた女の声が通信機に入った。『通信回線を敵に教えたのか!?』 ケーンが驚愕の声をあげる。「教えた、わけではないです。分かってしまうんだ、なあ、カルア?」『違うよ、これは、教えてくれた人がいる。』 突如明かされたスパイの存在に、ジンを除いた誰も動揺する。(何だ、この戦場は……すべてが狂っている!) ケーンは吐き気を堪えながらも、なんとか操縦桿を握り直した。『で、どうするの?』「どうするって……どうしたらいい?」『考えて、なかったの?』くすくすと笑うカルアの声を、敵も味方も、オープン回線で聞く。(ふざけるな……っ!) 異常な戦場の空気を、”デューク”が斬り割く。ジムのライフルをあげ、カルアの乗る機体に銃口を向けた。しかし、その瞬間、”デューク”の視界を光が包んだ。~~~~~~~~~~~~~~~  ”デューク”のジムの銃口が、カルアの乗るゲルググに向けられる。瞬間、時間が止まる。いや、無限に引き伸ばされていく。カルアのゲルググに銃口を向ける”デューク”のジムの動きが、永遠に続くスローモーションのように見えた。(嫌だ!壊される——!?) それは声ではない。カルアの魂の叫びが、絶望の奔流となってジンの精神に流れ込む。違う、これは俺自身の叫びだ。俺の唯一の理解者が、俺の世界が、今まさに

「やめろ、全機、銃を降ろせ。」

 ジンは、カルアが率いてきたMS3機に、ライフルを向けた味方を制止する。カルアたちも撃ってこない。ガンペリーの横を、伴走するようにゆっくりと浮遊している。

『ごめん、ジン。遅くなった。』

まるで、デートの待ち合わせでもしていたかのような、浮ついた女の声が通信機に入った。

『通信回線を敵に教えたのか!?』

 ケーンが驚愕の声をあげる。

「教えた、わけではないです。分かってしまうんだ、なあ、カルア?」

『違うよ、これは、教えてくれた人がいる。』

 突如明かされたスパイの存在に、ジンを除いた誰も動揺する。

(何だ、この戦場は……すべてが狂っている!)

 ケーンは吐き気を堪えながらも、なんとか操縦桿を握り直した。

『で、どうするの?』

「どうするって……どうしたらいい?」

『考えて、なかったの?』

くすくすと笑うカルアの声を、敵も味方も、オープン回線で聞く。

(ふざけるな……っ!)

 異常な戦場の空気を、”デューク”が斬り割く。ジムのライフルをあげ、カルアの乗る機体に銃口を向けた。しかし、その瞬間、”デューク”の視界を光が包んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~

  ”デューク”のジムの銃口が、カルアの乗るゲルググに向けられる。瞬間、時間が止まる。いや、無限に引き伸ばされていく。カルアのゲルググに銃口を向ける”デューク”のジムの動きが、永遠に続くスローモーションのように見えた。

(嫌だ!壊される——!?)

 それは声ではない。カルアの魂の叫びが、絶望の奔流となってジンの精神に流れ込む。違う、これは俺自身の叫びだ。俺の唯一の理解者が、俺の世界が、今まさに"普通の世界"の正義によって消されようとしている。

(俺から彼女を奪う気か。)

 こいつも、ケーンも、トニーも、結局は同じだ。俺たちの世界を理解しない、”あちら側”の人間だ。

(カルアを傷つけるものは、全て壊す。言ったはずだ。そうだろ、俺は……!)

 時間が、再び動き出す。ジンは、躊躇なく右腕のビームサーベルユニットを起動させていた。

「やめろ!」 ジンが叫んだとき、サーベルの切っ先はジムの腹を深々と抉っていた。「あ……」爆散するジムと、ガンペリーを見ながら機体を宙に浮かせる。ジンは一瞬正気に帰る。だが、もう後戻りはできない。俺は、彼女を選んだのだ。

「やめろ!」

 ジンが叫んだとき、サーベルの切っ先はジムの腹を深々と抉っていた。

「あ……」

爆散するジムと、ガンペリーを見ながら機体を宙に浮かせる。ジンは一瞬正気に帰る。だが、もう後戻りはできない。俺は、彼女を選んだのだ。

(戦場で、遊ぶのはやめろ。) いつかの、デュークの声が脳裏をよぎる。あの硬い声は、俺の全てを否定していた。(お前、

(戦場で、遊ぶのはやめろ。)

 いつかの、デュークの声が脳裏をよぎる。あの硬い声は、俺の全てを否定していた。

(お前、"ニュータイプ"なんだろう。)

 トニーの嘲笑が聞こえる。そうだ、俺はお前たちとは違う。お前たちの常識が、仲間意識が、俺をずっと擬態させてきた。

(あなたも、ニュータイプでしょう?)

 だが、彼女だけは違った。カルアだけが、俺の心の奥底にある破壊衝動を、獣を、肯定してくれた。

(二人で、全部壊そう。)

 そうだ。この獣が俺の本性だ。お前たちの世界を壊してでも、俺は俺のままでいたい。カルアと共にいたい!

『”デューク”!!』 ケーンが叫ぶ。「やめろと言ったはずだぞ、俺は!!」 叫びは、もはや悲痛な制止ではなかった。腹の底から湧き上がる、歓喜の咆哮だった。ジムの腹を貫いたサーベルの感触が、今まで感じたどんな破壊よりも甘美に、全身を駆け巡る。 そうだ、これだ。これが俺だ。 ジンは、引き裂いたガンペリーの残骸を蹴り、ケーンとトニーが乗る機体に向かう。モニターに映る彼らの顔に動揺の色は見て取れない。彼らはもう、ケーンでもトニーでもない。ただの

『”デューク”!!』

 ケーンが叫ぶ。

「やめろと言ったはずだぞ、俺は!!」

 叫びは、もはや悲痛な制止ではなかった。腹の底から湧き上がる、歓喜の咆哮だった。ジムの腹を貫いたサーベルの感触が、今まで感じたどんな破壊よりも甘美に、全身を駆け巡る。

 そうだ、これだ。これが俺だ。

 ジンは、引き裂いたガンペリーの残骸を蹴り、ケーンとトニーが乗る機体に向かう。モニターに映る彼らの顔に動揺の色は見て取れない。彼らはもう、ケーンでもトニーでもない。ただの"壊すべきモノ"だ。

『てめぇっ!!』

 トニーの声が聞こえた。だが、今のジンには心地よい断末魔にしか聞こえない。ハイパーバズーカのトリガーを引く指に、一切の躊躇はなかった。

「カルアを傷つけるな!!」

爆炎に包まれるガンペリーを見ながら、ジンは笑っていた。

 ついに、ジンの中の狂える赤き獣が、檻から解き放たれたのだ——。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「いいよ、ジン!すごく良い!」 ジンが、取り付いたガンペリーの真横まで機体を滑らせると、カルアは、バックパックのビームキャノンを後続のガンペリーに向かって放つ。光の束は、ガンペリーを貫き、炎の塊に変えた。「ごめんね。」言ってから、カルアは機体の左腕のミサイルランチャーを放ち、隣を飛ぶドダイから、ザクを叩き落した。「使って、ジン!」 ジンに通信を送る。

「いいよ、ジン!すごく良い!」

 ジンが、取り付いたガンペリーの真横まで機体を滑らせると、カルアは、バックパックのビームキャノンを後続のガンペリーに向かって放つ。光の束は、ガンペリーを貫き、炎の塊に変えた。

「ごめんね。」

言ってから、カルアは機体の左腕のミサイルランチャーを放ち、隣を飛ぶドダイから、ザクを叩き落した。

「使って、ジン!」

 ジンに通信を送る。

『何言ってんだ、軍曹!?』ドダイのパイロットが、混乱して叫ぶ。ジンは、その動揺をキャッチしたのか、ドダイをまともに使おうとしなかった。足場代わりに、一度ドダイに着地した後、思い切り蹴って最後のガンペリーに向かう。ジャンプと同時に、足元のドダイをビームライフルで貫いていた。『カルア、全部壊すぞ!二人で!』空を駆けながら、ジンが叫ぶ

『何言ってんだ、軍曹!?』

ドダイのパイロットが、混乱して叫ぶ。ジンは、その動揺をキャッチしたのか、ドダイをまともに使おうとしなかった。足場代わりに、一度ドダイに着地した後、思い切り蹴って最後のガンペリーに向かう。ジャンプと同時に、足元のドダイをビームライフルで貫いていた。

『カルア、全部壊すぞ!二人で!』

空を駆けながら、ジンが叫ぶ

(”二人で”——!)その言葉の響きが、鮮烈に、カルアの胸に響いた。「いいね、”二人で”……”二人で”——!」

(”二人で”——!)

その言葉の響きが、鮮烈に、カルアの胸に響いた。

「いいね、”二人で”……”二人で”——!」

カルアは、その言葉を反芻しながら、ビームライフルで、もう一機、ザクとドダイを撃ち落す。 最後に、自分の乗っていたドダイを破壊すると、空中を落下していくレッドウォーリアのところに機体を飛ばした。

カルアは、その言葉を反芻しながら、ビームライフルで、もう一機、ザクとドダイを撃ち落す。

 最後に、自分の乗っていたドダイを破壊すると、空中を落下していくレッドウォーリアのところに機体を飛ばした。

 空中で、二機は手を繋ぎ合う。直通回線で、互いの声がクリアに聞こえた。「ねえ、ジン。わたし、ずっと、あなたに壊してほしかったの。」『何を言っている。言ったはずだ。俺は君以外のすべてを壊すと。一緒に壊すぞ、カルア。』「そう、それ!それなんだ——!」カルアは、パッと笑顔を咲かせる。「あなたと、その、

 空中で、二機は手を繋ぎ合う。直通回線で、互いの声がクリアに聞こえた。

「ねえ、ジン。わたし、ずっと、あなたに壊してほしかったの。」

『何を言っている。言ったはずだ。俺は君以外のすべてを壊すと。一緒に壊すぞ、カルア。』

「そう、それ!それなんだ——!」

カルアは、パッと笑顔を咲かせる。

「あなたと、その、"一緒に"っていうの、すごく、気持ちいいよ。」

魂の底が、震えるんだ、と、カルアは熱のこもった声で続けた。

 機体は、ふわりと地上に降り立つ。二人とも、並みの腕ではない。

 地上に降りても、二機は恋人同士のように手を繋ぎ合い、向き合ったまま直立している。

「わたし、ずっと、死にたかった。あなたに、完璧に壊して欲しかった。こんな、意味のない生き方、嫌だった。でも、分かったの、わたし——」

 高鳴る鼓動を、うるさく感じる。カルアは、絞り出すように声を出す。

「わたし、今、もっと生きたいと思っている。あなたと一緒に、もっと、全部、壊したいって——」

 モニターの向こう、ジンの乗る”赤鬼”、レッドウォーリアの瞳が、キラリと光る。『もちろんだ、カルア。今、はっきりと分かった。俺は——』 息を吸い込む音が、通信機からもはっきりと聞こえた。『俺は、このために生まれてきた。君と一緒に、すべてを壊すために。』 ジンの声が、気配が、魂が、カルアの心と身体を、幸福で充たしていく。『君以外何も要らない。二人で壊そう。ジオンも、連邦も、地球も、コロニーも——全部。』◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 モニターの向こう、ジンの乗る”赤鬼”、レッドウォーリアの瞳が、キラリと光る。

『もちろんだ、カルア。今、はっきりと分かった。俺は——』

 息を吸い込む音が、通信機からもはっきりと聞こえた。

『俺は、このために生まれてきた。君と一緒に、すべてを壊すために。』

 ジンの声が、気配が、魂が、カルアの心と身体を、幸福で充たしていく。

『君以外何も要らない。二人で壊そう。ジオンも、連邦も、地球も、コロニーも——全部。』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『なんで……味方が……!?うわぁぁぁ!!』 カルアのゲルググに追い立てられ、撃破されたザクのパイロットが叫ぶ。 ジンとカルアは、ジオンの守備する拠点に向かい、破壊の限りを尽くしていた。 二人には、もう、敵も味方もない。あるのは、ただ、二人と、それ以外という境界だけだ。ジンとカルア以外、全てを、破壊しつくす。 カルアの情報では、ジオンの拠点にはMSが20機。二人でやるならば、何と言うことのない数だ。 歪んだ愛を原動力に、二機は戦場を駆ける死の幻影となり、手あたり次第の命を刈り取った。 二人で壊す。それは良い。だが、その後はどうするのか。 カルアとの甘美な”恋の熱

『なんで……味方が……!?うわぁぁぁ!!』

 カルアのゲルググに追い立てられ、撃破されたザクのパイロットが叫ぶ。

 ジンとカルアは、ジオンの守備する拠点に向かい、破壊の限りを尽くしていた。

 二人には、もう、敵も味方もない。あるのは、ただ、二人と、それ以外という境界だけだ。ジンとカルア以外、全てを、破壊しつくす。

 カルアの情報では、ジオンの拠点にはMSが20機。二人でやるならば、何と言うことのない数だ。

 歪んだ愛を原動力に、二機は戦場を駆ける死の幻影となり、手あたり次第の命を刈り取った。

 二人で壊す。それは良い。だが、その後はどうするのか。

 カルアとの甘美な”恋の熱"に浮かされ、勢いのまま、全てを壊すと決意したものの、ジンは、ふと冷静になる。戦いは、むしろ、思考と勘を研ぎ澄ます。

『大丈夫、”少佐”が何とかしてくれる。』

「”少佐”?」

『赤いザクの。』

 イメージが、伝わる。カルアを保護しようという何者かが、北米からの脱出を手配している。

『”少佐”のところに行ければ、何とかなる。』

 カルアがそう言うのなら、そうなのだろう。"赤いザクの少佐"と言えば、捕虜にしていた時にカルアが言っていた男だろう。そんなヤツの傍に、再びカルアを戻してやることは躊躇われるが、今度は俺がいる。俺が傍にいる限り、くだらないヤツらなどに、カルアに指一本触れさせるつもりはない。

 後顧の憂いが無くなり、ジンは再び、戦いに没頭する。

 撃ち漏らした敵機が、西に向かって逃げていく。「何かあるのか?」『うん、ウォルフガング大尉と、アイザックの隊が、連邦の陸戦隊と戦ってる。』「そうか、味方と合流する気か。」と、言うことは、追っていけば、更なる獲物にありつける。「まだ行けるか?カルア?」『当たり前だよ。』通信機から聞こえる声は、楽しそうだ。「よし、付き合ってくれ、カルア。」ジンが、戦場にそぐわない、ひどく優しい声で言うと、カルアは、うん、もちろん、と、これもまた、殺し合いの最中とは思えない明るい声で返す。「それに、ウォルフガング。そいつは俺が殺してやる。そうすれば、君は自由になれる。そうだろう、カルア。」狼の紋様などを刻んでいると言うが、俺が魂に刻んでいるのはT-レックスだ。獣としての、格の違いを見せつけてやる。 ジンと、カルアは、再び歪んだ愛の幻影となり、戦場を駆けた——。 【#36 LOVE PHANTOM / Dec.10.0079 fin.】                次回、MS戦記異聞シャドウファントム

 撃ち漏らした敵機が、西に向かって逃げていく。

「何かあるのか?」

『うん、ウォルフガング大尉と、アイザックの隊が、連邦の陸戦隊と戦ってる。』

「そうか、味方と合流する気か。」

と、言うことは、追っていけば、更なる獲物にありつける。

「まだ行けるか?カルア?」

『当たり前だよ。』

通信機から聞こえる声は、楽しそうだ。

「よし、付き合ってくれ、カルア。」

ジンが、戦場にそぐわない、ひどく優しい声で言うと、カルアは、うん、もちろん、と、これもまた、殺し合いの最中とは思えない明るい声で返す。

「それに、ウォルフガング。そいつは俺が殺してやる。そうすれば、君は自由になれる。そうだろう、カルア。」

狼の紋様などを刻んでいると言うが、俺が魂に刻んでいるのはT-レックスだ。獣としての、格の違いを見せつけてやる。

 ジンと、カルアは、再び歪んだ愛の幻影となり、戦場を駆けた——。

 

【#36 LOVE PHANTOM / Dec.10.0079 fin.】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness あなたに、望むものは——。 なんちゃって笑今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。次回のお越しも、心よりお待ちしております。  ヒロイン対決も開催中です笑

#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness

 

あなたに、望むものは——。

 

なんちゃって笑

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

次回のお越しも、心よりお待ちしております。

 

 

ヒロイン対決も開催中です笑

オリジナルストーリー第36話

コメント

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  1. cinnamon-1 25分前

    暴走マシーンとなり、大暴れしましたね😨 敵味方関係なく、まさに破壊を楽しむ感情が覚醒😱

    オールドタイプにはわからない感情。

    ジン、カルアとも、どこへ進むのか。第3部いよいよ大詰め😁

    次回作品も、楽しみにしています

     

    • いつもありがとうございます(gundam-kao6)

      ジン・サナダとレッドウォーリアを主人公に、敵のパイロットと感応させるというアイディアが浮かんだ時から、ラストバトルのこの展開は決めていました。

      同じニュータイプでも、ミヤギはきっと理解しないでしょうから、きっと彼ら独自の感覚なのでしょう。それが、ニュータイプ能力でとんでもない方向に転がってしまった……バトルはあと3話で決着です!お楽しみに!?

  2. T-Non 55分前

    いよいよ狂いましたね‼️

    敵味方問わず、壊しまくる‼️

    残り数話でどうなっていくのか、ドキドキ💓します🙂‍↕️

    いいゾ❗️やすじろうさん👍️👍️👍️

    • いつもありがとうございます(gundam-kao6)

      この話のデジラマが、いちばん大変そうだったのですが、今日は振休だったので、一気に作っちゃいました(gundam-kao6)

      あと、実質3話になります!この狂気の戦場に、どう決着がつくのか……ご期待ください!?

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