MS戦記異聞シャドウファントム#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness / Dec.10.U.C.0079

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 二人で、楽しく踊ろう。そして、行けるところまで、行こうよ——。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 特務G13MS部隊は、夜襲を得意としている。今回も、真夜中を回ってから出撃して行った。

「夜明け前には作戦は完遂するかな。」

 予備戦力としてパイロット用の控室に待機中の第22遊撃MS部隊所属のヘント・ミューラー少尉は、作戦指示書に目を通しながら、呟いた。

「うまくいけば、マジックアワーを目にできる。」

「何だよそれ。」

 イギー・ドレイク少尉があくびをしながら応じる。

「知らないんですか、イギー少尉。」

 珍しく、”地球文化・文学オタク談義”に、キョウ・ミヤギ少尉が加わる。知らん知らん、とイギーは取り合わない姿勢を見せたが、解説の機会を奪われたミヤギの不満そうな顔が見える。

「……はいはい、聞いてさしあげればいーんでしょ。」

どーぞ、と、イギーが言うのを見ながら、ヘントがくすくすと笑っている。

では、僭越ながら、とミヤギは口角をあげる。「日没後や、夜明け前、つまり、太陽が水平線に対して0度から6度までの角度に位置する時間帯で数十分見られる現象のことです。空が幻想的な色に輝いて、それは美しい光景が見られるんです。」 ウェブ上の知識を丸暗記したみたいなセリフだな、とイギーが茶化す。それは失礼しました、と言って、ミヤギは引き下がった。蘊蓄を披露し終えて、満足したらしい。「要するに、夕焼け小焼けね。」 今回は夜明けだがな、と、ヘントが補足する。「コロニーでも、太陽光の調整をして再現することもありますが、本物は違うでしょうね。」 再び、ミヤギが会話に加わる。「地球に降りてきてからは、そういうことに気を向ける余裕はありませんでしたが、そっか、地球なら本物を見られるんだ。」 ミヤギの瞳が、期待の光を帯びるのを横目に、イギーが話題を変える。「先に出た部隊の装備や練度、敵との兵力差を見ても、まあ、作戦の失敗ということはまず心配はなかろうが……」背伸びをしながら続ける。「お前らがそうやっていちゃつくの、俺はもう構わんが、一応ここは戦場だ。前線に出ていく連中の前では、少し気を遣えよ。」 珍しく、イギーが真剣な口調で釘を刺す。ミヤギが気まずそうに口をつぐんでしまったので、ヘントが話を引き継ぐ。「それは、そのとおりだ。後方での任務のせいで感覚が鈍っていたかもな。」席を立ち、ミヤギの横に立つ。「ミヤギ少尉もあまり気にするな。これから気を付ければいい。」「だから、そういうのを言っている。」「お前の前では構わないと、お前が言った、さっきな。」イギーの方を振り返ると、にやりと笑う。「くそ、ホントにやるようになりやがって、プレイボーイが。」「なんならキスでもしてみせようか?」ヘントにしては随分と攻めたことを言う。訓戒を述べながらも、2人も、まあ、それなりに順調なのだろうと、イギーは微笑ましく思う。

では、僭越ながら、とミヤギは口角をあげる。

「日没後や、夜明け前、つまり、太陽が水平線に対して0度から6度までの角度に位置する時間帯で数十分見られる現象のことです。空が幻想的な色に輝いて、それは美しい光景が見られるんです。」

 ウェブ上の知識を丸暗記したみたいなセリフだな、とイギーが茶化す。それは失礼しました、と言って、ミヤギは引き下がった。蘊蓄を披露し終えて、満足したらしい。

「要するに、夕焼け小焼けね。」

 今回は夜明けだがな、と、ヘントが補足する。

「コロニーでも、太陽光の調整をして再現することもありますが、本物は違うでしょうね。」

 再び、ミヤギが会話に加わる。

「地球に降りてきてからは、そういうことに気を向ける余裕はありませんでしたが、そっか、地球なら本物を見られるんだ。」

 ミヤギの瞳が、期待の光を帯びるのを横目に、イギーが話題を変える。

「先に出た部隊の装備や練度、敵との兵力差を見ても、まあ、作戦の失敗ということはまず心配はなかろうが……」

背伸びをしながら続ける。

「お前らがそうやっていちゃつくの、俺はもう構わんが、一応ここは戦場だ。前線に出ていく連中の前では、少し気を遣えよ。」

 珍しく、イギーが真剣な口調で釘を刺す。ミヤギが気まずそうに口をつぐんでしまったので、ヘントが話を引き継ぐ。

「それは、そのとおりだ。後方での任務のせいで感覚が鈍っていたかもな。」

席を立ち、ミヤギの横に立つ。

「ミヤギ少尉もあまり気にするな。これから気を付ければいい。」

「だから、そういうのを言っている。」

「お前の前では構わないと、お前が言った、さっきな。」

イギーの方を振り返ると、にやりと笑う。

「くそ、ホントにやるようになりやがって、プレイボーイが。」

「なんならキスでもしてみせようか?」

ヘントにしては随分と攻めたことを言う。訓戒を述べながらも、2人も、まあ、それなりに順調なのだろうと、イギーは微笑ましく思う。

「いえ、イギー少尉のご指摘に従いましょう。ここは、気を引き締めます。すみません。」 いつものように耳まで真っ赤にして慌てるかと思いきや、意外な成り行きに、二人とも目を丸くした。「……どうした?」ヘントも少しの落胆と、微かな違和感に、思わず尋ねる。「あ、いえ。何でもありません、大丈夫です。」そんな顔しないでください、と慌てて言う。「そう言うことは、人目のないところで……ね?気をつけましょう?」小声で囁くのを、イギーは笑いながら、ほら、そういうのだっての、と茶化す。「でも、ホントに大丈夫なのか?お前、最近顔色悪いぞ。」イギーも心配しているらしい。「とにかく、作戦の成功を祈ろう。そうすれば出撃もしなくて済む。然る後に、マジックアワーだ。」その時は、イギーも付き合うんだ、とヘントは軽く微笑んだ。~~~~~~~~~~~~~~~

「いえ、イギー少尉のご指摘に従いましょう。ここは、気を引き締めます。すみません。」

 いつものように耳まで真っ赤にして慌てるかと思いきや、意外な成り行きに、二人とも目を丸くした。

「……どうした?」

ヘントも少しの落胆と、微かな違和感に、思わず尋ねる。

「あ、いえ。何でもありません、大丈夫です。」

そんな顔しないでください、と慌てて言う。

「そう言うことは、人目のないところで……ね?気をつけましょう?」

小声で囁くのを、イギーは笑いながら、ほら、そういうのだっての、と茶化す。

「でも、ホントに大丈夫なのか?お前、最近顔色悪いぞ。」

イギーも心配しているらしい。

「とにかく、作戦の成功を祈ろう。そうすれば出撃もしなくて済む。然る後に、マジックアワーだ。」

その時は、イギーも付き合うんだ、とヘントは軽く微笑んだ。

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(何だ?先鋒の様子がおかしい……?) 陸路から進軍中の地球連邦軍MS中隊を率いる、ジェームズ中尉は、戦場の空気が揺らぐようなプレッシャーを感じていた。G13部隊の攻撃は予定どおり始まっているはずだ。遠く前方の地平が、火灯りでほのかに明るくなっているのが見えた。 だが、なんだろうか。 言葉にできない不吉な感じが、その火灯りから漂っている。兵士のそういう勘は、当たるものだと、ジェームズ中尉は知っている。

(何だ?先鋒の様子がおかしい……?)

 陸路から進軍中の地球連邦軍MS中隊を率いる、ジェームズ中尉は、戦場の空気が揺らぐようなプレッシャーを感じていた。G13部隊の攻撃は予定どおり始まっているはずだ。遠く前方の地平が、火灯りでほのかに明るくなっているのが見えた。

 だが、なんだろうか。

 言葉にできない不吉な感じが、その火灯りから漂っている。兵士のそういう勘は、当たるものだと、ジェームズ中尉は知っている。

 突如、暗闇の中から、一つ目の巨人たちが踊り込んだ。「やはりか!」敵の陸戦隊の夜襲だ。ジェームズ中尉の隊は応戦するが、敵は闇夜の戦いに慣れている。木々の群れと、闇夜に紛れながら、巧みに攻めてくる。(だが、火力はこちらが上だ!)ザクのマシンガンでは、決定的な火力が足りない。こちらはビーム兵器を携行している。 闇夜の中、機体を走らせながら照準を絞ろうとしたが、横合いから激しい衝撃がジェームズを襲った。

 突如、暗闇の中から、一つ目の巨人たちが踊り込んだ。

「やはりか!」

敵の陸戦隊の夜襲だ。ジェームズ中尉の隊は応戦するが、敵は闇夜の戦いに慣れている。木々の群れと、闇夜に紛れながら、巧みに攻めてくる。

(だが、火力はこちらが上だ!)

ザクのマシンガンでは、決定的な火力が足りない。こちらはビーム兵器を携行している。

 闇夜の中、機体を走らせながら照準を絞ろうとしたが、横合いから激しい衝撃がジェームズを襲った。

 闇夜に溶け込むような、暗い青いグフがぶつかってきていた。そいつは、倒れたジェームズの機体のコクピットに、持っていた剣を深々と突き刺した。◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 闇夜に溶け込むような、暗い青いグフがぶつかってきていた。そいつは、倒れたジェームズの機体のコクピットに、持っていた剣を深々と突き刺した。

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(連邦のMS隊も練度が上がってきていると聞いていたが……。) さして手応えがなかったと、ジオン公国軍”ナハト・イェーガー”ことウォルフガング・クリンガー大尉には感じられた。『意外と大したことありませんでしたね。』 別動隊を率いてきたアイザック・クラーク中尉も、同じことを感じたらしい。合流するなり、そんなことを口にした。『どうも、後方の様子がおかしいと思いますね。』ただの勘ですが、と前置きをしながらも続ける。『この間、カルア軍曹の奪還作戦のときと同じだ。不気味なプレッシャーを感じる。』「おう、やはりか。俺もだ。感じるな。」『カルア軍曹は上にあがったんでしょう。大丈夫なんですか、”赤鬼”と接触しているはずだ。』先日の、あの、戦場を覆いつくした気味の悪いプレッシャー。あれは、カルアを乗せた敵の赤いガンダムから発せられていた。(あれが”ガンダム”ならば、ニュータイプ用の兵器ということか……?連邦はジオンよりも、研究が遅れていると聞いていたが……。) ウォルフガングは一人、考える。 いわゆる”ニュータイプ”と呼ばれる特殊なパイロットの、脳波を増幅させて兵器に転用する。軍部内には、そんなことを本気で研究している部門もあると聞く。現場の兵たちの間では、オカルトじみた噂話とばかにされているが、かつては地球外生命体の存在を、軍が予算を組んで研究していた時代もあるのだ。そうそうばかげた話でもないのかもしれない。実際、ジオンには、エスパーのような兵士についての研究機関があるのだ。まだ宇宙にいた頃、ウォルフガングはその研究員たちを見たことがあった。「とにかく、一度退がるぞ。」 ウォルフガングは、部下に号令をかける。今は、得体の知れないエスパーや、その研究機関について考えていても仕方ない。ここは戦場なのだ。 敵の陸戦隊は阻んだ。空挺奇襲部隊は、陸戦隊ほどの数はいないはずだ。カルアがうまく立ち回っていれば、壊滅できるかもしれない。(運が向いてきた。)ここで、敵を退けられれば、宇宙に帰れるのではなかろうか。こんな不潔な地球の大地で、アホのボンボンと一緒に心中はしたくはない。そう言い放ったアイザックの気持ちは、ウォルフガングにだって理解できていた。「カルアは、幸運の女神かもしれないな。」 ウォルフガングが呟くと、アイザックは、何言ってんです、と呆れた声で応じる。『同じ女神でも、混沌の女神の類だ、アレは。後方の戦線なんて、どうなっているか分かったもんじゃないですよ。』~~~~~~~~~~~~~~~

(連邦のMS隊も練度が上がってきていると聞いていたが……。)

 さして手応えがなかったと、ジオン公国軍”ナハト・イェーガー”ことウォルフガング・クリンガー大尉には感じられた。

『意外と大したことありませんでしたね。』

 別動隊を率いてきたアイザック・クラーク中尉も、同じことを感じたらしい。合流するなり、そんなことを口にした。

『どうも、後方の様子がおかしいと思いますね。』

ただの勘ですが、と前置きをしながらも続ける。

『この間、カルア軍曹の奪還作戦のときと同じだ。不気味なプレッシャーを感じる。』

「おう、やはりか。俺もだ。感じるな。」

『カルア軍曹は上にあがったんでしょう。大丈夫なんですか、”赤鬼”と接触しているはずだ。』

先日の、あの、戦場を覆いつくした気味の悪いプレッシャー。あれは、カルアを乗せた敵の赤いガンダムから発せられていた。

(あれが”ガンダム”ならば、ニュータイプ用の兵器ということか……?連邦はジオンよりも、研究が遅れていると聞いていたが……。)

 ウォルフガングは一人、考える。

 いわゆる”ニュータイプ”と呼ばれる特殊なパイロットの、脳波を増幅させて兵器に転用する。軍部内には、そんなことを本気で研究している部門もあると聞く。現場の兵たちの間では、オカルトじみた噂話とばかにされているが、かつては地球外生命体の存在を、軍が予算を組んで研究していた時代もあるのだ。そうそうばかげた話でもないのかもしれない。実際、ジオンには、エスパーのような兵士についての研究機関があるのだ。まだ宇宙にいた頃、ウォルフガングはその研究員たちを見たことがあった。

「とにかく、一度退がるぞ。」

 ウォルフガングは、部下に号令をかける。今は、得体の知れないエスパーや、その研究機関について考えていても仕方ない。ここは戦場なのだ。

 敵の陸戦隊は阻んだ。空挺奇襲部隊は、陸戦隊ほどの数はいないはずだ。カルアがうまく立ち回っていれば、壊滅できるかもしれない。

(運が向いてきた。)

ここで、敵を退けられれば、宇宙に帰れるのではなかろうか。こんな不潔な地球の大地で、アホのボンボンと一緒に心中はしたくはない。そう言い放ったアイザックの気持ちは、ウォルフガングにだって理解できていた。

「カルアは、幸運の女神かもしれないな。」

 ウォルフガングが呟くと、アイザックは、何言ってんです、と呆れた声で応じる。

『同じ女神でも、混沌の女神の類だ、アレは。後方の戦線なんて、どうなっているか分かったもんじゃないですよ。』

~~~~~~~~~~~~~~~

『助けてください、中尉!』 森の中に分け入るや、ザクが逃げるようにこちらに駆けてきた。後ろから、ゆっくりと、赤いMSが姿を表し、ザクを後ろから撃ちぬいた。どうやら、拠点に残してきた連中は、こいつにやられたらしい。 拠点に到達しているはずの敵を、守備に残した戦力と挟撃する算段だった。さらに立体的に攻めるために、ウォルフガングの隊とは、一度別れていた。「出てきたな、”赤鬼”!」 アイザックが叫ぶのを聞いて、味方が一斉に散開する。 闇に溶けるような見事な散開だったが、”赤鬼”は全て見えているかのようにあっという間に3機を撃ちぬいた。 アイザックは動揺しながらも、とにかく動け、と残った味方に喝を入れた。 ”赤鬼”は、闇の中に飛び込むと、ぴたりとザクに機体を寄せ、ビームサーベルで切り裂いていく。お前は最後だ、と、言わんばかりに、アイザックの機体には目もくれない。

『助けてください、中尉!』

 森の中に分け入るや、ザクが逃げるようにこちらに駆けてきた。後ろから、ゆっくりと、赤いMSが姿を表し、ザクを後ろから撃ちぬいた。どうやら、拠点に残してきた連中は、こいつにやられたらしい。

 拠点に到達しているはずの敵を、守備に残した戦力と挟撃する算段だった。さらに立体的に攻めるために、ウォルフガングの隊とは、一度別れていた。

「出てきたな、”赤鬼”!」

 アイザックが叫ぶのを聞いて、味方が一斉に散開する。

 闇に溶けるような見事な散開だったが、”赤鬼”は全て見えているかのようにあっという間に3機を撃ちぬいた。

 アイザックは動揺しながらも、とにかく動け、と残った味方に喝を入れた。

 ”赤鬼”は、闇の中に飛び込むと、ぴたりとザクに機体を寄せ、ビームサーベルで切り裂いていく。お前は最後だ、と、言わんばかりに、アイザックの機体には目もくれない。

(遊んでいやがる——こいつ!)アイザックは、”赤鬼”に向けてバズーカを放ったが、かすりもしない。

(遊んでいやがる——こいつ!)

アイザックは、”赤鬼”に向けてバズーカを放ったが、かすりもしない。

 ”赤鬼”が、こちらを向く。火器を放たず、推進剤を思い切り噴射させ、組み付いてきた。『貴様は、腕が立つな。』 接触回線で通信が入る。ひどく虚ろで、危なげな声だ。『貴様も、カルアを弄んだヤツの一人か?』「あぁ!?なんだ、てめえは!?」 そういえば、カルアはどうなった。こいつにやられたのか。それとも——『貴様もカルアを、モノのように扱ったのかと聞いているんだ!』「うるせぇな、そんなこと聞いてどうすんだ!!」『カルアを傷つけるモノは、全て壊スと言っていル!!!!』怒り——?こいつは、怒っているのか?呂律が回っていない。 

 ”赤鬼”が、こちらを向く。火器を放たず、推進剤を思い切り噴射させ、組み付いてきた。

『貴様は、腕が立つな。』

 接触回線で通信が入る。ひどく虚ろで、危なげな声だ。

『貴様も、カルアを弄んだヤツの一人か?』

「あぁ!?なんだ、てめえは!?」

 そういえば、カルアはどうなった。こいつにやられたのか。それとも——

『貴様もカルアを、モノのように扱ったのかと聞いているんだ!』

「うるせぇな、そんなこと聞いてどうすんだ!!」

『カルアを傷つけるモノは、全て壊スと言っていル!!!!』

怒り——?こいつは、怒っているのか?呂律が回っていない。

 "赤鬼"が、何か攻撃を仕掛けようと、抑え込んでいた手を離す。その隙をつき、全力で機体を退がらせる。

(カルアと言ったな、アイツら、やはり——!)

どういう繋がりかは分からないが、やはり通じていた。この戦場の異様な混乱も、こいつらが作り出している。

 考える暇も与えず、"赤鬼"は追撃を続ける。

(話が違うぞ、カルア——ここまでやるのか、こいつ……!?)

以前、カルアは、アイザックが望むように、力を出し尽くした戦いができると言っていた。だが、どうだ。”赤鬼”の猛攻撃を、ぎりぎりかわすので精一杯だ。

 気づけば、僚機の反応はことごとくロストしている。

(俺も、もう無理だな……。)

 稲妻のような軌道を取りながら、なんとか敵の砲撃をかわしていたが、バズーカ砲のナパーム弾に機体を焼かれ、アイザックの意識は途絶えた。~~~~~~~~~~~~~~~

 稲妻のような軌道を取りながら、なんとか敵の砲撃をかわしていたが、バズーカ砲のナパーム弾に機体を焼かれ、アイザックの意識は途絶えた。

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 拠点まで後退したウォルフガングは、炎に包まれた戦場のその異常さにすぐに気がついた。 敵はいなかった。ここに来るまでに、敵MSと、それを空輸してきたと思しきカーゴ型航空機の残骸もあった。カルアが、空でうまくやったのだろう。敵を壊滅させたか、退けたらしい。 だが、味方もいない。 味方も悉く、その無惨な亡骸を大地に横たえていた。 不意に、味方の反応を示すアラートが鳴る。「カルアか——?」

 拠点まで後退したウォルフガングは、炎に包まれた戦場のその異常さにすぐに気がついた。

 敵はいなかった。ここに来るまでに、敵MSと、それを空輸してきたと思しきカーゴ型航空機の残骸もあった。カルアが、空でうまくやったのだろう。敵を壊滅させたか、退けたらしい。

 だが、味方もいない。

 味方も悉く、その無惨な亡骸を大地に横たえていた。

 不意に、味方の反応を示すアラートが鳴る。

「カルアか——?」

 呟くと、炎の中から、光帯が勢いよくこちらに向かって伸びてきた。 それが何であるかを理解する間もなく、部下が3機撃破された。『おかえりなさい、大尉。』 通信機に、カルアの声が入った。 今のは、グレン少佐の

 呟くと、炎の中から、光帯が勢いよくこちらに向かって伸びてきた。

 それが何であるかを理解する間もなく、部下が3機撃破された。

『おかえりなさい、大尉。』

 通信機に、カルアの声が入った。

 今のは、グレン少佐の"秘策"、ゲルググのビーム兵器だ。カルアが、撃ったのか?

 炎の中からゆらりと現れたゲルググは、ビームライフルを無造作に3発放った。瞬く間に、また3機、火を吹いた。

「貴様!?」 ウォルフガングはようやく、自分の

「貴様!?」

 ウォルフガングはようやく、自分の"お気に入り"が敵に寝返ったことを理解した。残った部下の3機も、ゲルググを囲い込もうと散開する。

 今度は、背後から、閃光が襲う。

「何っ!?」 ウォルフガングは、機体を反転させる。赤い機体が、勢いよくこちらに突進してくる。「貴様ら……っ!」 2機は、示し合わせて自分を追い詰めている。(ここにくるまでの、敵も、味方も、こいつら二人で葬ったと言うのか?あの数を——拠点に残してきた連中も——!?) 人間業ではない。動機も、経緯も、理解できない。 先ほどの、アイザックの言葉を思い出す。アイザックの言うとおりだ。カルアは幸運の女神などではない。混沌の化身、いや、この戦場を支配している、混沌と狂気そのものだ。 部下は全滅している。2機は、ウォルフガングの機体の周囲をぐるぐる回って牽制を続けるが、撃破しようとはしない。(なぶり殺しにするつもりか……?) ウォルフガングは、自身の行く末を思い、全身の血の気が引いていくのを感じた。これまで、物のように扱ってきた相手に、今度は、自分がおもちゃのように痛ぶられている。

「何っ!?」

 ウォルフガングは、機体を反転させる。赤い機体が、勢いよくこちらに突進してくる。

「貴様ら……っ!」

 2機は、示し合わせて自分を追い詰めている。

(ここにくるまでの、敵も、味方も、こいつら二人で葬ったと言うのか?あの数を——拠点に残してきた連中も——!?)

 人間業ではない。動機も、経緯も、理解できない。

 先ほどの、アイザックの言葉を思い出す。アイザックの言うとおりだ。カルアは幸運の女神などではない。混沌の化身、いや、この戦場を支配している、混沌と狂気そのものだ。

 部下は全滅している。2機は、ウォルフガングの機体の周囲をぐるぐる回って牽制を続けるが、撃破しようとはしない。

(なぶり殺しにするつもりか……?)

 ウォルフガングは、自身の行く末を思い、全身の血の気が引いていくのを感じた。これまで、物のように扱ってきた相手に、今度は、自分がおもちゃのように痛ぶられている。

(報いを受けるのか……だが、なんの報いだ?) 俺よりも、もっと狂った、人間の所業に背いたような、残忍な連中はいたじゃないか。これは、戦争なんだ、と、自分自身に言い訳をする。しかし、何に対しての言い訳だろうか。 機体に刻んだ狼の紋様が、虚しく輝く。 ウォルフガングはもはや、闇の戦場を駆ける猛々しい獣などではない。闇夜を這い回る、惨めな敗残兵に過ぎなかった——。【#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness / Dec.10.U.C.0079 fin.】    今回のポイントはミヤギさんのドヤ顔です笑ヒロイン対決、間も無く終了です笑。              次回、MS戦記異聞シャドウファントム

(報いを受けるのか……だが、なんの報いだ?)

 俺よりも、もっと狂った、人間の所業に背いたような、残忍な連中はいたじゃないか。これは、戦争なんだ、と、自分自身に言い訳をする。しかし、何に対しての言い訳だろうか。

 機体に刻んだ狼の紋様が、虚しく輝く。

 ウォルフガングはもはや、闇の戦場を駆ける猛々しい獣などではない。闇夜を這い回る、惨めな敗残兵に過ぎなかった——。


【#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness / Dec.10.U.C.0079 fin.】

 

 

 

 

今回のポイントはミヤギさんのドヤ顔です笑

ヒロイン対決、間も無く終了です笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

#38 All you need is ... あなたに、望むものは——。 なんちゃって笑今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。次回のお越しも心よりお待ちしております。

#38 All you need is ...

 

あなたに、望むものは——。

 

なんちゃって笑

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

次回のお越しも心よりお待ちしております。

オリジナルストーリー第37話

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