Chap.2 U.C.0080 1月6日
神はいない。
いるのならば、かくも罪深き我ら人類に、とうの昔に鉄槌を下しているはずだ。
UC0079、12月。
”青鬼”……”蒼壁の鬼神”、と、いつの間にか呼ばれた。
巨大で分厚いシールドと、パーソナルカラーにしていた青のせいだ。
「相変わらず、容赦のない戦い方ですね……。」
至近距離からビームスプレーガンを、これでもかというほど撃ち、ぐにゃぐにゃの鉄塊と化したザクの残骸を見て、副官のローワン・ジョウが言う。
「徹底的に敵を喰らいつくす……まるで食人鬼(オーガー)ですね。」
そのやり方は、味方も怯えます、と、静かに付け加えた。
別に、構わん。
怯えるのなら、勝手に怯えておけばよい。
わたしは、わたしの戦いを続けるだけだ。
わたしは――憎きジオンを潰す。この手で。
この宇宙で、最も罪深い連中に……神が裁きを下さないと言うのなら、わたしが、この手で――。
●●●●●●●●●●●●●●●
UC0078、12月。
調子っぱずれなアメイジング・グレイスが聞こえる。
デニー・マイセン・ライオスは、ドアの向こうから聞こえるその声を聞いて、思わず微笑んだ。
「ただいま!」
娘のアリスが、元気な声で扉を開けて家に入ってきた。その後ろには、優しく微笑みながら、妻のアイリーンが続く。日曜のミサから、帰ったところだ。
「ちちと、こと、せいれいのみなにおいて……」
覚えたての祈りの言葉を、アリスが一生懸命話して聞かせる。
「アリスのパパはパパだろう?」
面白がって、マイセンが茶々を入れると、アイリーンがあなた!と嗜めるように、しかしどこか楽しそうに声をあげる。
「さっきの歌、"アメイジング・グレイス"だな。」
「そうよ、とってもきれいなうた!」
「そうだね、パパも好きだよ。」
言って抱き上げると、アリスは嬉しそうににっこりと笑う。
アリスは、またアメイジング・グレイスを歌い始める。やはり、調子っぱずれで、ところどころ歌詞も間違えている。マイセンは、一緒に低く歌ってやる。そうしていると、アイリーンも優しい声で、歌声を重ねる。
「もうすぐクリスマスだな。」
「アリスね、サンタさんにもうプレゼント、お願いしたんだ。」
「何を?」
「ひみつー!」
マイセンは、別に、神を信じていない。だから、妻子が通う教会にも一緒に行くことはない。
だが、こうして温かい時間を家族と持てることに、人生における、愛や恵みというものは、確かにあるのだと確信できる。それくらいの人情は、彼も持ち合わせている。
●●●●●●●●●●●●●●●
UC0079、1月4日。
乗機のセイバーフィッシュが被弾し、退避した。付近にいたサラミスが収容してくれたが、そのサラミスは今、沈みかけている。ジオンの赤いMSが、艦にバズーカを叩き込んだからだ。
「くそ……っ!」
マイセンは歯噛みしながら、あちこちから炎のあがる廊下を逃げるように走った。途中、砲座にいつまでもしがみついている、大男を見つけ、砲座から引き離した。
「もういい、この艦は沈む。逃げるぞ!」
『……。』
「勇敢だな、その意気は買うぞ。名前は?」
『……クリント・トーゴ少尉、であります……。』
「噂の”デューク”か。」
百発百中の砲撃主がいると、ちょっとした噂になっていた。
「お前の砲撃でも落とせなかったか、あの赤いの……ありゃあホンモノのエースだ。放っておけ。」
そういう敵も、いるのだ。
通路に転がっていたノーマルスーツ用のバーニアを拾うと、”デューク”を抱え、外壁に空いた穴から宇宙に飛び出した。そのまま、近くをふらふらとさまよっているランチに捕まり、戦場を振り返る。
巨大なコロニーの、あちこちに巨大な火球が炸裂している。
『……核か……。』
”デューク”が呟く。
「あんなものを使いやがって……。」
マイセンも、忌々し気に呟く。あれは、人類の生み出した、最も邪悪な兵器だ。それを、スペースコロニーに打ち込む行為は、何よりも非道で邪悪に見えた。コロニーの外の真空では、人間は生きてはいけない。コロニーの住民にとって、その間近で繰り広げられる戦闘は、逃げ場のない地獄の到来を意味している。
なぜ、スペースコロニー生まれの連中が、そんなことをできるのだ。いや、スペースコロニー生まれだからこそ、この行為の持つ意味を知っているのか。自分たちに歯向かうなと、牙を持たぬ宇宙市井に告げている——。
(卑怯な——!)
やがて、コロニーの巨体が、ゆっくりと地球に向けて傾いていった。ゆっくりに見えるが、はっきりと”動いている”のが分かる。コロニーの天文学的な大きさを考えると、それがかなりのスピードであることが分かる。
「……なんだ?」
マイセンは、思わず、息を飲んだ。スペースコロニーが、地球に吸い込まれていくように見えたのだ。
「……まさか……落とすつもりか?あれを……地球に……?」
そんなことをしたら、どうなる?
核兵器どころの騒ぎではない。
だが、今のマイセンには、ただ見ていることしかできなかった。
地球への直接攻撃のため、ジオンに利用されたスペースコロニー”アイランド・イフィッシュ”は、1月5日からその巨体を地球に向けて悠々と進めた。地球連邦軍はその歩を止めることができなかった。
そして、UC0079、1月10日。
ついに、アラビア半島上空で四散。その前半部が、オーストラリア、シドニーを直撃した。
そこには、デニー・マイセン・ライオスの家族が暮らしていた――。
●●●●●●●●●●●●●●●
最悪の夢見で起床したのは、あの忌々しい”マリア”の”アメイジング・グレイス”のせいだ。
出来すぎている。
2度と戻らない妻子。2人が愛したあの歌が、今、流行歌としてそこら中から聞こえてくる。それを持ち歌にしている、バカな小娘が、自分の手を煩わせる。
こんなにも腹立たしいことがあるか――。
「デニー大尉!」
いらいらしながらMSハンガーに向かって歩いていると、馴れ馴れしく名前を呼んでくるヤツがいる。マイセンにとって、名前を呼ばれることは逆鱗に触れるようなものなのは、同じ基地内にいる連中は知らないはずがない。いったいどこのどいつだ?振り返るマイセンの顔は、紅潮している。
「デニー大尉、昨日の戦闘さすがでした!」
小走りで追いついたのだろう。息を切らしながら、細見の男が近づいてくる。向こうはこちらを知っているようだが、マイセンには誰か分からなかった。着ているノーマルスーツを見ると、一応、パイロットのようだ。顔はにこやかに微笑んで見えるが、目だけが笑っていないような、奇妙な顔をした男だ。マイセンの顔色にも、気づいていないようだ。
「さすがです、やはり、ガンダムを任されている方は違う、と、皆が言っております!わたしの部隊も日夜厳しい訓練に励んでおります!」
興奮して話すが、話の内容はぼんやりとして要領を得ない。
「乗っている機体も、支持する兵の数も、この艦隊でデニー大尉に勝るパイロットはいませんよ!」
どうやらマイセンのことを尊敬しているとか、そういうことを言いたいらしい。人様に敬意を表するのは大変結構なことではあるが、ここは戦場だ。本音なのかおべっかなのかは知らないが、興奮しながら社交辞令を述べているようなときではない。
「おい。」
こちらの反応を無視して話し続ける相手の声を遮り、マイセンはドスのきいた声を出す。
「まず、所属と、貴様の名を名乗れ。わたしは貴様のことなど知らん。」
「し、失礼しました……!自分は、ケイン……」
「それと、”デニー”と呼ぶな。それだけは、絶対に、だ。いいな?言ったぞ?2度と呼ぶなよ?」
相手の名乗りなどまったく無視して、それだけを力強く告げ、マイセンは踵を返した。
「……ルーキーですね、あなたのことをよく知らないと見える。」
いつの間にか、隣を華奢な男が歩いている。ローワン・ジョウ少尉だ。
マイセンが、ファーストネームで呼ばせていたのは妻だけだ。
(わたしをデニーと呼んでいいのは妻だけだ。お前らはマイセンと呼べ。)
新婚の頃は、自分で明るく吹聴していたが、コロニー落としで妻子を失ってからは、キラーワードだ。彼と一緒に務める連中は、その暗黙の了解を共有し合う。彼のことを、決して”デニー大尉”とは呼ばない。
「褒めてくれるのは別に悪い気はしない。だが、自分の魂から出る言葉で語れないヤツは信用できん。」
「何ですかそれ。」
「階級章を見たが、下士官だ。下士官のくせに"わたしの部隊"などと抜かしおったぞ。お前ら少尉連中が、きちんとしつけろ、ああいうバカはな。」
「よく分かりませんが、失礼いたしました。以後気をつけます。」
ローワンという男は好きではないが、軍人としての仕事と考え方はしっかりしている。こういう理不尽な物言いにも、無駄に楯突かない。今日のように苛ついている日は、さっきのようなバカにまとわりつかれるよりも、この男と話している方がまだマシだ。
「……で、バカな小娘はどうなった?」
ハンガー脇の更衣室で、ノーマルスーツに着替えながら訊ねる。
「さっき、交渉の使者が出ました。明日にも引渡が行われるんじゃないですか?」
声の方に視線を滑らせると、ローワンの白くしなやかな背中が見えた。何となく嫌悪感と羞恥心を抱き、マイセンはすぐに目を逸らす。
「敵に、腕の立つのがいた。」
「赤い肩の連中ですね。」
さすがローワンだ。よく見ていた。
「特にサラミスの腹の下から出てきたヤツ。思い切りが良いのに、操縦は繊細でしたね。」
「俺の狙いはアイツだ。アイツと、心ゆくまでヤリたいもんだな。」
「……。」
マイセンが興奮を滲ませて言うと、ローワンが目を細めてこちらを見ている。女が恥じらうような顔つきだった。
「何だ?気色悪い顔はやめろ。」
「言い方です、大尉。品がない。」
「むっつりが。発想に品がないのはどっちだ。」
マイセンはふと、先ほどの白い背中を思い出す。
「……お前、どっち派だ?」
「その聞き方自体、お考えが、古い。」
まあ、仕事さえきちんとしてくれれば、どちらでもいいことだ。
大して意味のない会話を打ち切り、マイセンはハンガーに出た。まずは、機体の調整からだ。
「"ディック"軍曹がまだ来ていないぞ。しつけがなっとらん。」
ローワンに向かって、低く呟く。一人前のパイロットならば、自分の機体の面倒も自分で見るものだ。
「失礼しました。指導しておきます。」
いつものように飄々と返すが、たぶんこいつは下士官共に、マイセンの考えるような"指導"など行ってはいない。
マイセンは分かっている。
そういう上官も、必要だ。それに救われる兵もいる。
(だが、ジオンの連中……。)
あの、戦い慣れた対応力。あれは、厳しい戦場で叩き上げられ、生き延びてきた連中の動きだった。マイセンは、敵ながら、対戦したジオン兵たちに、ほのかな好感を抱き始めていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
UC0080、1月7日。
ローワンの見立てどおり、"マリア"はすぐに引き渡された。彼女を乗せたランチに、ジオンのMSが付いてきているが、先頭は赤い肩の連中だった。
(アイツか——?)
その中に、1機、油断なくこちらを見つめるような様子のザクがいた。その機体のパイロットが、狙いの"アイツ"だと、マイセンには直感的に分かった。
『今回は勝手にハジけないでくださいよ?』
ローワンが皮肉っぽく通信を送ってきたが、無視した。プレッシャーを放つ機体から、目が離せない。
やがて、ランチの引き渡しが終わると、両陣営とも静かに宙域を離れていった。
ドックに戻るや、マイセンは機体を降り、駆け出した。大尉、と、ローワンが大声で呼ぶのが聞こえたが、構わず駆けた。向かった先には、ランチから降りてきた"マリア"がいる。
"マリア"は、マイセンの接近に気付き、美しい亜麻色のストレートロングをなびかせて振り向いた。
澄んだ色の大きな瞳と、視線がぶつかる。
「貴様――……!」
マイセンは、歯噛みしながら呻いた。
"マリア"は、冷静な目つきでマイセンの全身にサッと視線を巡らせ、青、と呟いた。
「無理に戦闘を始めた青いガンダム……バカなパイロットはあなたね?」
バカ、だと――?
マイセンは思わず声を張り上げる。
「バカはどっちだ!?」
「まだ戦争なんか続けてるアンタらがバカよ。ア・バオア・クーは陥ちた。なら、もう終わりでしょ?」
「ふざけるな……ギター片手に敵陣に……お前のお歌で戦争が止められるとでも思っているのか?」
それ、あるかもね、と、"マリア"は挑戦的な視線を送る。
「あたしの歌なら、届くかもしれないって、信じてる。でなきゃ、こんなことしてない。」
「バカか!アニメじゃないんだよ!」
「ロボット乗って戦争って、そっちのがよっぽどアニメでしょうが!」
「小娘が――……!」
減らず口を、と、歯を食いしばったところで、ローワンが追いついた。
「大尉!」
「うるさい!」
「ダメですよ!」
「殴りはせん!」
気づくと、マイセンの気迫に押され、護衛の兵士も遠巻きになりかけている。
「ジオンでも……。」
"マリア"が、静かに話し出した。
「同じことを言われた。そんなのはおとぎ話だと。」
ふー、ふー、と2度息を吐くと、"マリア"の顔を見る。
「そのとおりだ。」
「でも、あたしはやめないよ。これがあたしの戦いだ。」
「意固地になりやがって……!」
「意固地になってるのは、アンタらだ!」
"マリア"が、声を張り上げる。
「気づいてんだろ、こんな戦争もう無駄だって。お互いもう嫌なんだよ!そのくらいは分かり合えるんじゃないの!?」
音楽はさ、と、"マリア"は続ける。
「みんなが、良いって思えれば、伝わる。国とか、主義とか、時代も超えて。"アメイジング・グレイス"がいい例だろ!?」
あたしだって、別にクリスチャンでも何でもない、と、マリアは言う。
「何が言いたい?」
"アメイジング・グレイス"という言葉に、敬虔な妻と、無垢な娘の姿を思い出しながら、マイセンは砕けるのではないかというほどに、奥歯を強く噛み締める。
「互いに同じ人間同士だってこと、忘れたフリして、くだらない意地張り合ってるような……アンタらのマッチョイズムのアニメ脳こそ、あたしの歌でぶっ壊してやるっつってんのよ!」
「お前のそのメルヘンなアニメ脳に付き合って、死んだ兵士がいるんだろうが!!」
「大尉!」
ローワンが後ろから抱きついて止める。
「ジオンの飯は不味くて貧しかったよ……ひもじい思いをしてんだ。そんなヤツらをくびり殺して、自分は誇り高き宇宙の戦士を気取るわけ?」
"マリア"は侮るような視線を投げ掛けながら続ける。
「アンタらは、分かり合えないんじゃないよ。分かり合うことを拒否してるだけだ。それじゃどれだけ戦っても、誰も"勝利者"にはなれやしないね。」
「禅問答か?学があることで……。」
こめかみに青筋を浮かべて、マイセンは言う。
「あたしの言ってること、分かんないんだ?」
マイセンは応えない。応えられない、と、言っていい。
「逃げてんだよ、アンタらは、"戦うこと"でね。どうしたらいいか、分かんないフリして、今までどおりのやり方に逃げてるだけ。分かり合ってくだらない戦いを捨てることから逃げてる。逃げてる先に、栄光の勝利なんて、あるはずないよね?」
フン、と鼻を鳴らし、ギターケースを担ぎ直すと、"マリア"はクルリと背を向けた。
第2話・完
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
押忍やすじろうさんとのコラボ企画第二弾!第二話をお届けしました。いかがでしたでしょうか。
全て、ヤスさん作ストーリーとデジラマになります。
遂にマイセンの悲しい過去が明かされましたね。
悲しみの果てに鬼神と化してしまったマイセン、獣の如き若きエースパイロットマイロ、亜麻色の歌姫マリアの運命やいかに!!
今回のこの企画の意見を出し合うなかで、数々のキャラが登場しました。またオイラからのキャラ設定や展開の断片、セリフなどの要望や無茶ぶりを、100%通してくださりうまくストーリーに落とし込んでくれたヤスさんの才能と力量に感謝✨。
そして、ヤスさんの本編、シャドウファントムからもちらほら出演させてくれています。気づかれましたか😙?
最後まで読み切ったオイラがあえて言おう。絶対に読んで後悔はない。そして、きっと読み返したくなるはず。素晴らしい作品です😁。最後までお付き合いありがとうございます。次回もどうぞよろしくお願いします。










コラボ企画第二弾!第二話!
コメント
コメントをして応援しよう
コメントにはログインが必要です
バサラっぽいすね🥰
ボンバーとか言い出しかねんですな😂
F91のMSVが大好きです。
HGのF91を溺愛し、
そこからスクラッチして遊んでます。
ガンダムアーティファクトも好きで作ってます。
製作ペースは遅く、なかなか出来上がりませんが、
相手してもらえると喜びます。
作品へのいいねやコメントもゆっくりで、忘れた頃におじゃまします笑。
ヨッチャKIDさんがお薦めする作品
【予告】コラボ企画第2弾『LIGHTNING REDEMPT…
【予告】コラボ企画第2弾『LIGHTNING REDEMPT…
MSZ-008X2 ZZII アーティファクト
可動化 ZZガンダム MSZ-010 アーティファクト
【コラボ】雷鳴の伝灯・第1話
Chap.1 U.C.0080 1月4日
【予告】コラボ企画第2弾『LIGHTNING REDEMPT…
人はいつかは死に、誰しもがその歩みを終える。 死は平等にやっ…
アーティファクト AFW 甲脚砲 "百虎"
“負けてやる義理はないからな、お互いに。R…
HG 陸戦型ガンダム+ジム改・改修型 "パッチーズ"
「それで、そんな人命を軽視した馬鹿げた機械に、誰が乗るんです…