Chap.4 U.C.0080 1月10日
◁◁ ▷▷
調子っぱずれな"アメイジング・グレイス"が聞こえる。
「パパ、どうしてそんなにこわい顔をしているの?」
娘のアリスが、怯えた顔で問いかける。
「お前と、ママを……パパと、離れ離れにしたヤツらを……やっつけるんだ……。」
そっか、と、アリスはどこか納得し切らないような表情で言う。
「パパは、セイギノミカタ?」
娘の問い掛けに、そうさ、と、胸を張って言えない。
なぜだろうか——。
戸惑い、言い淀むマイセンに、アリスは無邪気な笑顔を浮かべてさらに続ける。
「アリス、パパはね——。」
○○○○○○○○○○○○○○○
ハッと我に返る。
モニターには、巨大な火球と化したザンジバルと、敵味方入り乱れるMSの群れが見えた。
(やったのか、わたしが——!?)
機関砲が火を吹いたのと、ザクが出てきたのを見た瞬間、考える間もなく反射的に引き金を引いていた。やはり、武装解除は偽装だった。奇襲、と言うほど大胆なことは考えていなかっただろう。だが、この状況で選ぶべき手ではない。連中が選択した行動は、撃ち返されて当然の裏切り行為だ。
ガツンと凄まじい衝撃と共に、モニター一杯にモノアイの頭部が映った。
『貴様ぁっ!!!!』
先ほどの若い声だ。機体がぶつかり、再び、直接回線が開いた。その声は、怒りに滲んでいる。同胞の命が奪われたことに、その魂を震わせているのか。
「裏切ったのは、貴様らだろう!」
マイセンも、吠えた。
『サラ……サラ……っ!!』
涙まじりの叫び。呼ぶのは、サラ——?女の名前だ。恋人の、名か?今の艦に、乗っていたのか——?
「分かっただろう、貴様らも!!」
そうだ、大切なものを奪われる、その悲しみと、苦しみをーー分からせてやる。貴様らからも奪ってやる。それが、わたしの正義だ。
『貴様ぁっっっ!!!!』
2人、互いに意味を理解し得ないやり取りを交わして、機体を一度離した。
敵機は持っていたショットガンをこちらに向けて放ったが、ガンダムのシールドで難なく防いだ。マイセンは、そのまま距離を取る。
『大尉!』
敵味方入り乱れる中、ローワン・ジョウ少尉が呼び掛けてくる。
「退がれ、あの灰色のやつはわたしがやる。」
マイセンは既に冷静になっている。戦いの熱に比例して、思考は、冴えてゆく。戦場全体の空気感が、肌に感じられるように思える。戦場で働く"勘"は、経験に裏打ちされた技能の先にあると、マイセンは理解していた。
先ほどの機体は、担いでいるショットガンを乱射しながらこちらの友軍機を蹴散らしていく。他のザクも、連携して囲い込むようにこちらに仕掛けている。
「数と火力の優位を生かせ。こちらが逆に囲い込むんだ。」
ジオンには、MSが携行できるビーム兵器はない。ジムのビームスプレーガンもビームサーベルも、敵にとって十分脅威的な、必殺の火力だが、どちらも射程が短い。ならばーー
「波状攻撃で一撃離脱を繰り返せ。」
こちらからどんどん近づき、当たっても、当たらなくても、一撃を放ったらすぐ距離を取る。それを、複数機で絶え間なく続ける。そういう訓練は、している。
はっ、と、小気味のいい返事がスピーカーに聞こえる。マイセンの発破は、こちらに勢いがあるように、下士官たちに感じさせた。兵の士気が、僅かに上がったようだった。
「下士官どもはお前が指揮しろ。」
ローワンに言って、機体を走らせる。スピーカーからは、付近の下士官に集合を呼びかけるローワンの声が聞こえた。
先ほどの若いヤツの機体は、かなりの推進力だ。ガンダムも上回るようなスピードを出している。
(追いつけるか……?)
心配も束の間、マイセンに気づくと、鋭角に軌道を変えて、こちらに向かってきた。撃ち尽くしたショットガンを捨て、今度はバズーカを担いでいる。
(そうでなくては……!)
マイセンは、灰色の機体に正面からぶつかるようにコースを取り直し、ガンダムを加速させた。
死角から、2機、赤い肩のザクがひゅっと飛び出してくる。マイセンのガンダムを挟み込むように動いた。
(うまい——やはり、コイツら——!)
手練れか、と、舌を巻いたが、シールドで防いだのは、正面から来ていた新型機の火砲だけだ。ザクのマシンガンなら、ガンダムの装甲は防御姿勢を取る必要がない。
機体を推進させ、灰色の機体をゴリゴリと押し込むようにした。攻め手こそが、防御に働く時がある。同時に、右側に回り込んでいたザクを、貫こうとビームライフルを上げた。
「何……っ!?」
しかし、背後から回り込んでいたザクが、ライフルの銃身をヒートホークで切り落とした。
(やるじゃないか——!)
マイセンの、戦士としての本能が刺激される。ようやく、ガンダムの性能を発揮するに足る戦場に恵まれた。
掩護のジムが、2機殺到するのを見て、押し合っていた灰色の機体は、再び後退して距離を取った。
「邪魔をするな!」
味方に向かって、マイセンが叫ぶ。同時に、敵はいつの間にか両肩に担いでいたバズーカを放ち、難なくジムを撃退した。
「言わんことでは……っ!」
マイセンも、ハイパーバズーカを担いで推進する。今度は、敵の腰部にマウントされたシュツルムファウストが一発飛んできたが、これも、シールドで後ろに受け流した。しかし、これは囮だった。先ほどの赤い肩のザクが2機、ガンダムに再度挟撃を仕掛けてきた。
右のザクにはハイパーバズーカを叩き込んで砕いた。左のザクは無視するつもりだったが、マシンガンを持っていた腕を吹き飛ばされ、遥か後方に流れていく。ローワンの掩護だった。
「余計なことを——ローワン!」
叫ぶや、再び衝撃が走る。正面から来ていた灰色の敵機と、ガンダムをぶつからせた。敵はビームサーベルを持っていた。そいつを振るってこちらを切り裂けないように、敵を押さえ込む。
『やったのはアイツか!?』
押さえ込むと同時に、接触回線から、また若い叫びが聞こえた。敵はガンダムを押し返すようにしてかわすと、ローワンの方に向かう。
「退がれ、ローワン!手強いぞ!」
返事はないが、聞こえたらしい。ローワンは機体を速やかに後退させ、離脱して行く。
『撤退するなら、お供します!』
必死な口調だが、どこか軽い調子の女の声が続いた。ジムが1機、ローワンの機体に引っ付くように走った。
『アンナ・ベルク曹長であります。所属小隊が全滅しました、』
勝手にすればいい。数を頼みに押し返したジムの部隊に、敵も潰走を始めている。部下の”ディック”の反応はロストしている。おそらく、撃墜されたのだろう。
(あっけないものだ……。)
マイセンは、妙に冷静な気分で戦場を見渡した。
(あとは——。)
ローワンを追いきれず、別のジムに食らいつこうとする灰色の機体を見る。
「全機、灰色のヤツには手を出すな……わたしの獲物だ!」
ジムを切り裂いた敵機に、後ろから組みついて直接回線を開くと、喚き声がコクピット中に響いた。
『貴様……貴様っ!!』
「いい腕だ、若造。」
『無駄話など!』
「敵ながら天晴れと言っている。こっちの若い連中とは、違う。骨がある!」
『……貴様、なめているのか!?』
「違うな、わたしを超えてみせろと言っている!」
そうだ、なめてなどいない。認めているのだ。自分はずっと、探していたのだ。この哀しみを、この滾る血を、この力を、超えていく若い力を。
「敵でもいい……わたしを……わたしの哀しみと、闘いを、"引き継げ"!!」
『冗談も大概にしろ!!!!』
若い声は、叫び返す。当然だ。自分が言っていることなど、戯言だ。
(アンタらのマッチョイズムのアニメ脳こそ——)
ふと、”マリア”の声が蘇る。
(コイツや、マリアーー若い奴らが喚くのも、当然だな——。)
もう、マイセンは自分がいかに愚かで意味のないことを言っているのかを自覚してしまっている。
(だが、もう、これしか——。)
”マリア”の言い分も分かる。だが、もうこれしか、残されていないのだ。妻と娘を奪った”ジオン”を憎んではいる。だが、戦うことを生業としてきたマイセンは、戦争そのものを憎んではいない。今、この瞬間、強敵と相対するときに、沸き立つ血の流れと、どうしても躍る心の動きとを、否定できない。
今、目の前の若者は、女の名を叫んだ。
きっと、自分が先ほど沈めたあの艦に、恋人か何かが乗っていたのだろう。
(結局、同じか、わたしも——。)
自分も、誰かの、アリスやアイリーンを奪ってきた。技倆を尽くし、命を賭けるスリルに身を委ねるという、自身の悦びのためにーー。
(——しかめっ面で、大義だの戦士だの言うの、やめな。みっともないし、ダサい。人の命を奪う自分を美化しない方がいいよ——)
うるさい。
わかっている。
わかっているのだ。
敵機はマイセンを振り払いながら、返す刀でバズーカを切り裂いた。やはり、腕が良い。
マイセンも、ランドセルのサーベルを抜き、敵機と斬り結ぶ。
敵は激しい機動でマイセンと渡り合ったが、若さがよく分かる素直な機動だ。戦いが長引くほどに、隙が見えてくる。疲れもあるのだろう。
(そろそろ……決めるか。)
マイセンは、ビームサーベルを機体の脚部に装備した別のサーベルに持ち替える。激しいプラズマ光をほとばしらせる刃は、”奥の手”の高出力ビームサーベルだ。
思い切り振り下ろしたサーベルを、敵機もビームサーベルで受けたが、その刃ごと敵を斬り裂いた。出力が違う。斬り下げた刃が右脚を引き裂き、そのまま冷静に、右腕も斬り飛ばした。敵はバランスを崩し、きりもみするように後ろに流れると、デブリに背中を打ち付けるようにして止まった。
「……終わりか……。」
マイセンは、低く呟く。
超えろ、などと、勝手に期待を押し付けた。確かに、腕の良いパイロットだった。だが、自身の経験値が、上回ってしまった。そもそも、機体性能が違う。こちらは、天下に冠たる"ガンダム"だ。新型らしき敵機の性能、そのカタログスペックがいかほどのものか、マイセンには分からないが、ビームサーベル1本をようやく扱える程度のジェネレーター出力だ。あの軽快な運動性を産み出すためか、装甲も容易く斬り裂くことができるようなものだった。そもそも、ジオンには、ガンダムの堅牢さを生むルナ・チタニウムを扱う技術がない。
敵は腰の後ろに、何か接近戦用らしき武器をマウントしているが、それ以外の火器は、もう携行していない。マイセンは機体をゆっくりと近づけると、機体の右脚で、敵の残った左腕を踏みつけた。
(年寄りが、1人で滾っていたのか……扱う武器の威力を振りかざし、若い芽を擦り潰すことに……。)
力なく横たわる敵機を見下ろすと、ふと、そんなことを考えてしまった。
(パパは、セイギノミカタ?)
先ほどの幻で聞いた、娘の声が蘇る。
「正義……?」
口に出して、思わず動揺した。
(そうさ、アリス……パパは——……。)
お前や、アイリーンを奪った、悪のジオンを打ち砕く。そのために、戦っている。そうだ、この怒りを、悲しみをーーお前たちの、叶わなかった未来を償わせるためにーー。
(本当に?あなた——でも、その子は……?)
今度は、妻のアイリーンの声だ。
(あなたは、憎むべき"悪"に、自分を託そうとしたの……?)
意地が悪いぞ、と、幻影の妻に呟く。
(わたしは……何を……?)
接触回線を開く。最後に、あの若造の声を聞いてみたくなった。
「小僧、生きているか?名前くらいは聞いてやる、返事をしろ。」
背後には、マイセンと敵機を取り囲むように、友軍機のジム部隊が展開していた。
(もはや、逃げられまい。)
敵は応えない。沈黙が続いた。
(死んだか?)
ならば、せめて肉体を消し、魂をこの宇宙に解き放ってやろう。マイセンは、ビームサーベルを再び起動させた。
「勇敢だったぞ、小僧。仲間の許へ逝くがいい。お前のことは、このわたしが、覚えておいてやる。」
言って、サーベルを振り上げた瞬間、スピーカーから、微かな声が聞こえてきた。
『…………。』
それは、途切れ途切れに、メロディのようなものを紡いでいた。
ーー知っている。
——知っている、メロディだ——。
途切れ途切れに、調子っぱずれに、そして、ところどころ歌詞を間違えている、そのメロディは——……。
「アメイジング……グレイス、だと……っ!?」
(パパ——。)
(あなた——。)
アリスとアイリーンの、永遠に喪われた懐かしい笑顔が見えた後、マイセンはその視界が激しく明滅し、意識が遠のいていくのを感じた。
怒りや、憎しみではない。だが、決して、穏やかなものではない。
言い表しようのない、激しい感情の波が自分を飲み込むのを感じると、コクピットに激しい衝撃を感じ、マイセンの意識は途絶えたーー。
第4話・完
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
押忍やすじろうさんとのコラボ企画第二弾!第四話をお届けしました。いかがでしたでしょうか。
全て、ヤスさん作ストーリーとデジラマになります。
2人の戦いもクライマックス。戦場に流れるアメイジンググレイスは2人の運命を変えるのか。次回もお楽しみに。
今回のあとがきはミドルアーマーガンダムMSV設定になります。
ミドルアーマーガンダム・拠点防衛パック
そもそもミドルアーマーガンダムの開発はこの拠点防衛パックをベースに開発されました。それに合わせて劇中のウォールシールドも開発され先行でマイセンのもとに届けられました。拠点防衛パックは大型のエネルギータンクを積載し肩部ビームキャノンの運用を可能としています。残弾がなくなり次第パージし、ここぞという時はアーマーパージ状態にもできるマルチな仕様となっています。
劇中のミドルアーマーガンダムはマイセンの戦闘スタイルに合わせて本人がオーダーをかけた、マイセンカスタムになっています。胸部スモークディスチャージャーなどはこのパックの名残です。ただ近接戦時に案外使えると本人も気に入り多用しているようです。
















コラボ企画第二弾!第四話!
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F91のMSVが大好きです。
HGのF91を溺愛し、
そこからスクラッチして遊んでます。
ガンダムアーティファクトも好きで作ってます。
製作ペースは遅く、なかなか出来上がりませんが、
相手してもらえると喜びます。
作品へのいいねやコメントもゆっくりで、忘れた頃におじゃまします笑。
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