虹色のドレスの様な増加装甲を纏ったそのガンダムからは全てのチャンネルをジャックして通信が接続される。
「ミオリネさん!!」
「ガンダム・エイテール?…スレッタ!!、無事だったのね!?」
「はい!向こう側でお母さんが用意してくれていたこの機体のおかげで、何とか!
私、妹たちを止めに行きます!ようやくなれた、お姉さんだから…あの子たちも、悪い魔女にしたくないから…!」
そう言い残すと、エイテールは虹色の輝きを纏ったまま飛び立つ。
行手には依然として、ガンデリクサーたちの大群が待ちはだかって居たのだが、どの機体もエイテールに手を出す前に次々と制御を失ってゆく。
その輝きはパーメットスコアの計測上限であるスコア8を超えた証であり、この空域に存在するパーメットリンクを応用したあらゆる兵器がオーバーライドされていった。
「困りましたね…ふむ…人類全てをGUND化するために用意したものだったのですが……仕方ない、少し早い登場ですが、アレを。」
議長の合図と共に、破竹の勢いを見せていたエイテールから放たれる電波干渉が突如として打ち消され始めた。
「お、おい!あれは…!?」
「嘘だろ、、、幻でも見ているのか!?」
「クワイエット・ゼロ…そして、あそこに電力を供給し続けているあのバカデカいの。ILTS(惑星間レーザー送電装置・通称イルタス)だね。」
「宇宙議会連合が再建していたっていうのか!?」
我が目を疑っている反抗者たちに、議長は告げる。
「クワイエット・ゼロとイルタス。残念ながら前議長はその使い方を間違えておられた。
いいですか?最強の盾と、最強の矛を戦わせてはいけません。優れたものというのは、互いを組み合わせる事により、最大に力を発揮するのです。」
「鬼に金棒とはこの事か…もう人類は終わりだ…」
「あんなのにかなう訳がない…」
その、あまりの威圧感に脱走者たちも次々と抵抗をやめてゆく中でも、スレッタたちはまだ動きを止めていない。
「まだ…まだです!!ここで逃げたら、何一つ残らないっ!」
奮闘するエイテールと背中合わせになった漆黒の騎士は意を決して、決意を伝える。
「スレッタ・マーキュリー。今此処デ、我ノ中ニ残ル、カルド博士ノ研究データヲ解放スル!
力ヲ貸シテ欲シイ。」
「で、でもそれじゃあ、シャディクさんの記憶が…」
「構ワナイ。ズット、ミオリネヲ守ル騎士ニナリタカッタノダ、俺ハ。コノデータノ中ニハ、キットGUNDノ希望ガマダ残サレテイルハズダ!水星ノ魔女ダト言ウナラ証明シテ見セテクレ…
GUNDガ呪イデハナク、祝福ダトイフ事ヲ!!!」
「…わかりました! 解放しましょう!!」
エイテールとミカエリス・ノーム
2機のGUND-ARMが手を取り合うと、虹色の光はますます溢れ出し、宙域全体に広がってゆく。
ミカエリス・ノームは纏っていたGUNDアーマーをパージし、スレッタの生体認証により、漆黒の騎士の中に封印されていたカルド博士の研究データは解放された。
『現在時刻、アド・ステラ101年3月12日宇宙標準時21時36分、フォールクヴァングにて記録中。私はカルド・ナボ、オックスアース社、ヴァナディース機関の研究主任を務めている…』
ジャックされた回線を通して、全世界に流れ出したのはカルド博士が生前に遺していたらしき記録映像だ。
「おぉ…カルド博士の研究データが遂に開かれたのですね!素晴らしい、今日は、人類が時間さえも支配したという歴史的な日になるのです!!」
議長はその映像を見て、歓喜の声を上げている。
『今日は私の研究分野であるGUND技術において、最新の研究データによりもたらされた可能性と危険性についての報告を記録しておく事にする…』
映像の中のカルド博士はレポートを続ける。その傍らには、彼女を恩師と崇めて補佐する、助手の若き日のエルノラ・サマヤの姿も映っていた。
「データのロックが解除されたなら、もうキミの身体の存在意義も無い。人類の進歩の邪魔をするなら消えて、スレッタ・マーキュリー。」
ガンデリクサーたちは、カルド博士のレポートが流れる宙域で、再びスレッタたちへの攻撃の手を強めた。
『長きに渡る人類の宇宙開発史において、その進歩を妨げて来たのは宇宙という未知のフロンティアの環境である。無重力、宇宙線、太陽フレア、スペースデブリ…地球というゆりかごから飛び出した人類には、その環境は余りにも過去だった。そんなか弱い人間が、宇宙の環境に適応出来る為に開発された技術、それがGUNDのそもそもの出発点だ。』
「もうやめて、エリィⅩⅣ!GUNDは人の命を奪う技術じゃない!人の命を救う技術だって、私たちのお母さんも信じて研究していたんだよ!」
スレッタの必死の呼びかけにも構わず、ガンデリクサーの攻撃は、エイテールのフルドレスを直撃させ剥がしてゆく。
『最初は眼球や指、小さな臓器など、身体の失われた機能を代替えする程度だったが、それが脊髄や胴体、心臓、脳といった人体の中枢に至るまでになると、やがて人は生身の肉体というくびきから解放される日が来るのでは無いかという可能性への期待を持ち始めた。』
「スレッタ、君は大好きなお母さんとの別れが辛く無かったの?全人類が永遠の命を手にすれば、誰も皆、そんな悲しみから解放されるというのに。」
『実際にパーメットデータリンクで形成されたデータストーム空間において、人の意識のみを移すという技術が理論的に可能でるという事は我々も証明する事が出来た。
だが私はそこで、一人の人間として、その技術の開発は、果たして倫理的に許されるだろうかとの疑念を抱いた。
もし人の意識が永遠に生き続けたとすれば、それは拷問では無いのかと…』
「私だってもちろん辛かった。寂しかった。
何度も何度も泣いて、ミオリネさんやみんなにも励ましてもらって…
でも、その悲しみから逃げる事は、愛することからも逃げてるんだよ!」
エイテールは、増加装甲を全て剥がされながらも、バリアブルロッドライフル・セカンドで、果敢に大型ビームサーベルを受け止めている。
『純粋に科学の探究のみに向き合えなかった事を考えると、私は研究者失格だったのかも知れない。
だが、GUND技術を人類の幸福と尊厳の為に役立てたいと願った、自分自身の原点を見失わなかった事は私の誇りでもある。
そういった葛藤の中、我々はデータストーム空間における人の意識の継続性・つまりは“人格の寿命”についての実験と研究を進めた。』
「人の命は短いかも知れない、この過酷な宇宙ではエリクトの様に儚いかも知れない…
お別れは辛いよ…
それでも、私は、ミオリネさんと一緒に、泣いて、笑って、やりたい事リスト叶えて…一緒にしわくちゃのおばあちゃんになって…
“一緒に生きた”って思える人生を歩きたい!!」
『その結果、データストーム空間における人格においても、現実世界の人間たちと同じ速度での成長や老化、やがては“消滅”という現象が起こる事を確認した。少なくとも、
この技術で“永遠の命”を実現する事は不可能であると結論づける。』
カルド博士のその言葉に、ふいにエリィⅩⅣらの意識は途切れる。
スレッタの想いと共に溢れ出た強い虹色の光は、ガンデリクサーらをも包み込み、ここに奇跡は再来した。
戦闘宙域にあるガンデリクサーたちは次々と戦闘を停止してゆく。虹色に変わったシェルユニットによって、議会連合の戦闘艦や、イルタス、クワイエット・ゼロなど全ての兵器たちはオーバーライドされ、その機能を停止させた。
『GUNDには魂を永遠に縛り続ける呪いは無い。
願わくば、この研究結果が、やがて生まれ来るかも知れないカヴンの子らの魂の不安を取り除く“福音”とならん事を。』
「パーメットの分子レベルでの崩壊現象を確認。この宙域一帯で次々と連鎖反応を起こしている模様!艦隊の60パーセントが既に機能を停止!」
「議長!月本部から、議会が不信任決議を提出したとの知らせが…ドミニコス隊からも強制捜索令状が出たそうです……」
「夢?こ、これは幻か…わ、私はただ人類全体の願いを…」
追い求めていた理想郷が一瞬にして夢幻と崩れ去った議長には、もはら理性は残されていない。
「スレッタ!お願いがあるんだ…」
エリクトがそう言って間もなく、宙域はパーメットの光の粒に包まれていった…
気が付くと仮面武闘会に参加していた面々は、ただ粒子化したパーメットの海に漂っていた。
「もー!何やってんすか!先輩たち!!
こんなところで皆んな揃って宇宙漂流なんて、ウチらが来なかったら、マジ笑えないッスよ?」
救難信号を受けて急行して来たフェルシー・ロロのグリューネッテの手を飛び出して、ミオリネは彼女を強く抱きしめる。
「おかえり… スレッタ!!」
“This is a story not recorded at all.”
これは、記録には残されていない物語である。
その数日後、宇宙港にはシャディクとサビーナを見送るスレッタたちの姿があった──
「本当にいいんですか?外宇宙探査船って、二度と地球には帰らず、銀河の果てを目指し続けるんですよね?」
「あぁ。どのみち地球圏に私たちの居場所は無い…全てがパーメットの海に還ってしまって結局、あの事件の証拠と言えるものは何も残っていないが、犯した罪との向き合い方を2人で話し合って、少しでも人類全体への貢献に繋がる路を選んだ。」
「2人とも顔に書いてるわよ。“これで誰にも邪魔されずに、ずっと一緒に居られる”って!」
ミオリネの茶化しをそのまま受け取って、二人は果てしなく遠く長い旅路へとつく。
帰路につくスレッタとミオリネのお揃いのキーホルダーには、いつの間にか見慣れぬ三つ目が増えている。目を光らせて、ホッツさんと信号を送り合っているようだ。
「ねぇ、エリクト?人は、人は命をより長らえさせる事を求めてきたはずなのに、なぜ、永遠を手に入れる事には躊躇ってしまうの?」
「それはね、人は皆どこかで気付かされるからかもしれないね…
永遠の灰色より、一瞬でも輝くあの七色の方が美しいって事に。
これから限りある命を生きてゆく中で、その理由を僕も君たちも、きっと見つけられるはずさ、エリーⅩⅣ。ママや、ばぁばたちがそうだった様にね。」
通りに咲いた花々は毎年同じ様でいて、もう二度とは来ない春の訪れを祝福しているかの様だった。
【機体解説】
X-EX005 ガンダム・エイテールは、エルノラ・サマヤ博士がスレッタ・マーキュリーの為に設計していた専用MSである。しかしながら、それは我々の知るアド・ステラとは異なる時間軸を辿った世界のものであり、あちら側でエルノラ博士が研究主任を務める株式会社ガンダムやアスティカシア高専の協業プロジェクトにより誕生した機体であると思われる。
スレッタの乗るエアリアル・ヘキサが撃墜された際、集まっていた四大精霊の名を冠するGUND-ARM達の共鳴により、かつてクワイエットゼロ騒乱の際に観測されたスコア∞が再び発現。向こう側の世界の設計データと、騒乱時に崩壊し消失していたかつてのガンダムたちのパーメット粒子を使って再構築された姿である。
各部の意匠にはキャリバーンやエアリアル改修型に酷似した部分が見て取れ、性能面でも両機の長所を取り入れた発展機といえる。エスカッシャンの運用能力も備えており、劇中ではエアリアル・ヘキサから切り離されたものを、受け継いで使用した。
本機専用の増加装甲プランである「フルドレス」は、装甲に組み込んだシェルユニットを増設する事でGUNDフォーマットの能力を大幅に強化させるという新しい設計思想のもと開発されており、従来の無骨で重々しいフルアーマープランとは一線を画す、優美で女性的なフォルムとなっている。エスカッシャンと同様、磁場シールドを発生させて機体の防御力を高める他、増設されたスラスターとテールスタビライザーにより機動力も強化されている。
フルドレスを装着した形態でも、エスカッシャンとの合体機構であるビットオンフォームを使用可能であり、高い防御性と高機動を両立する。
スコア∞の状態では、通り過ぎただけで近くの機体をオーバーライドさせる程の強力なデータストーム空間を構築し、その力は最早、時間や空間を超越し、次元の壁をも越えると言われている。
主武装であるヴァリアブルロッドライフル・セカンドは、その名の通りキャリバーンの装備を改良したものであり、砲身に2機のビームブレード発生器を新たに備え、格闘戦能力が強化されている。「ソフィ」と「ノレア」と呼ばれるこの2機は分離して攻撃型ガンビットとしての運用も可能である他、スレッタは虹色に変化したブレードで、攻撃するのでは無く敵機をオーバーライドさせるという芸当も見せている。
エイテールとは、中世錬金術において、四大元素に次いで天界を構成する第五元素と信じられていた物質の呼び名であり、見えない力や生命の神秘の象徴とされた。やがて科学の発達に伴い、その存在は偽証であるとされたが、エルノラ博士は語源である「常に輝き続けているもの」や、「あるはずのないものが存在する」という意味から、本機の開発コードをクインテッセンチアとした。
ザザ商会の“仮面武闘会(マスコリーダ)”に端を発した「フレイヤの花婿」を巡る一連の戦闘後には、宙域全体で再びパーメットの崩壊現象が起きたため、再建造されたクワイエットゼロやILTSをはじめ、闘いに参加したGUND-ARMたちは再び消失しており、証拠となるものが何も残らなかった事から、この事件は公式の記録には一切残されていない。
















四大精霊の祝福を受けて、ついに顕現せし”第五元素(クインテッセンス)”
コメント
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水星の魔女外伝、完結お疲れ様でした。
膨大なストーリーに綺麗なガンプラ製作、とても素晴らしい内容でした👏👏👏👏👏👏👏
UC.60生まれ
ジオン第四工科大卒
1年戦争時 工兵の不足により工業科学生でありながら学徒動員・徴用され第603技術試験隊においてオリヴァー・マイ技術中尉付きのメカニック見習いとして、様々な機体に携わり無事終戦まで生き残る。これは、彼の肉眼に映った兵器たちの記録である。
主に微改造・全塗装で仕上げている初心者モデラーです。
ガンプラの取説にある機体解説やショートストーリーが好きで、それに寄せた文章を考えてみました。
お目汚しですが、よろしくお願いします。
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