機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス 第十二章「センチメンタル・ビート」
- 60
-
- 0
-
アディス・フレクソンが最後に見たのは、強烈な熱と光が降りかかる光景である。そこで気を失ったのだろう。
目が覚めると、医療用ベッドの上にいた。周りはカーテンで囲まれ、腕には点滴が刺さっていた。体を起こし、五感が機能していることを確認すると、少し声をあげてみる。
「おーい」
すると奥から物音が聞こえ、カーテンが開いた。そこから出てきたのは綺麗な銀髪を靡かせた女性だった。歳はアディスと同じ二十代半ば頃に見える。
「起きましたか、アディス・フレクソンさん」
「あぁ、えっと、ここは?」
「ここは資源衛星メルトの診療所です」
「メル…ト?」
「あなたがお怪我をなさったから、タントラって軍艦の皆さんがここに来られたんです」
「他のみんなは?」
「船にいらっしゃるそうですよ。アディスさんはどうされます? 安定はしていますけど」
酷く迷惑をかけたとアディスは後悔した。
「少し外に出たい」
「私が同行の上なら構いませんよ」
「ここはいいのか?」
「本当は休みですから」
「あんた、名前は?」
「ホープ、ホープ・スタインフェルドです」
「ホープ…さん…」
アディスは自分の身体を見つめる。
「俺の体、どうなったんだ?」
「軽い裂傷と火傷です。衝撃が強かったせいか、意識をなくしていたみたいですけど」
彼は自分の機体の装甲に感謝した。
「それじゃあ、少し外に出る」
「わかりました。どこへ行かれます?」
「案内してほしい」
「それじゃあ、このストンゴッズ通りを廻りましょうか」
アディスは立ち上がり、カーテンの外に出た。
街は寂しいもので、人の活気などないに等しい。あるのは工業機械とコンテナ。
「私たち、見ての通り貧しいんですよ。特にこの辺は殆どが工場で、住んでるのも貧しい労働者ばっかり。私だってそうよ。それにパパだって……」
彼女はすっと立ち止まる。
「親父さん、どうかしたのか?」
「本当はあの診療所もパパのなんです。でも、最近はレジスタンスに夢中で……」
「レジスタンス?」
「ブラザーフッド・オブ・アンダーグラウンド。この衛星の首領のロコ・プロコに反抗する組織よ。私も入ってる」
「ロコ・プロコってやつはどんなやつなんだ?」
「第二次ネオ・ジオン抗争頃には反連邦組織エグムに所属して、そこから金星圏に渡って、放棄されていたこの衛星メルトにやってきた。それからは私たちランデッガーの人間が連れて来られて、圧政が続いてる」
「ランデッガーって、あのミドル・モビルスーツ大手の?」
「そう。社長のオイエル・ランデッガーが消えて、不安定な時期だったし」
「あんたと親父さんもそうなのか?」
「父がランデッガーのテストパイロットだった。だけど事故で片足をなくしてからは診療所をやってた。まさか連れ去られるなんて思わなかった」
顔も知らぬ王にアディスは怒りを露わにした。
「レジスタンスの拠点は?」
「行くの?」
「念の為にな」
ホープは少し反芻し、
「……向こうのバーよ」
アディスは歩き出し、ホープもそこに続いた。
「君は嫌なんじゃないのか?」
「一人にしておけない」
彼女は人を大切にしている。自らの趣向は二の次である。
そのバーは煉瓦壁のクラシカルな内装で、どこからかジャズ・ミュージックが響いていた。
「いらっしゃいませ」
ベストを着たマスターが二人に挨拶する。
「ウォッカを半分水割りで」
「かしこまりました。ではこちらへ」
マスターはカウンターの裏へ二人を導く。中には下へつながる螺旋階段がある。降っていくと、そこは打って変わって殺気に溢れた空間だ。
「パパ!」
ホープが叫ぶと、その場は静まる。
「ホープか!」
口髭を生やした銀髪の男が左足を引き摺り、二人に近づいてくる。
「ホープ! 来てくれたか!」
その男の目は光が限りなく少なかった。
「この人が見てみたいって」
ホープはアディスの肩を叩く。
「君は……見ない顔だが、まさか噂の連邦軍の?」
「はい、アディス・フレクソンと言います」
「私はブレナン・スタインフェルド。レジスタンスのリーダーだ。連邦軍が味方となるのは心強い! よろしく頼むよ」
二人は固く握手をしたが、アディスは戸惑いが勝っていた。
「早速だが、二人に見てほしいものがある。こっちへ」
二人は格納庫のような場所に案内された。そこには長髪の男と目の隠れた女がいる。
「彼はレオーナ・ライト、私の副官だ。こっちがソル・バブラー、うちのメカニックだ」
二人は少し手を振る。
「それじゃあお見せしよう。うちの最終兵器だ」
そこにあったのは四両の軽戦車だ。飛び出た前輪には威圧感があった。
「テンペスタ型軽戦車だ。これだけあればロコの近衛くらいは余裕さ。それにミドル・モビルスーツのギガシィだってある。決起は明日の朝! ようやくやってきたんだ!」
ホープは誇らしげに語る父に限界を感じた。
「いい加減にしてよ! そんな兵器で何しようって言うの? 私がそれに乗って戦うの?」
「お前だってレジスタンスな一員だ」
「そんなの……」
「プレナンさん!」
アディスが割って入る。
「娘さんはこの活動に乗り気じゃないってわからないんですか? わからないにしたって、娘に死んでこいなんて言う父親がどこにいると言うんです!」
「……」
ブレナンは俯くしかなかった。
「もういいです。行きましょう、ホープさん」
二人はその場を後にする。ブレナンはただ立ち尽くしていた。新兵器は彼なりの優しさであったのだ。
「ごめんなさい。巻き込んで」
「いいんだ。それに行こうって言ったのは俺だ。俺こそ連れて行って悪かった」
「でもありがとう、守ってくれて。嬉しかった」
ホープは少し顔を赤らめて言う。アディスはそんな彼女の姿をかわいらしく感じた。
「せっかくだから、楽しい話しましょう?」
「あ、あぁ」
アディスは少し動揺していたのだ。
「アディスって、ご両親はいるの?」
「お袋がいる。親父は数年前に病死した」
「ごめん、無神経だったね。でも家と逆ね家、ママが死んじゃったから」
「そっか…」
「でももう乗り越えてる。それにアディスさんだっているんだし」
「俺が?」
それが意味することは今のアディスにはわからなかった。
「なんでもないよ」
そうして二人は会話を続けていた。
メルトの司令部ではロコ・プロコとその目の前には黒に金のインナーカラーの入った髪の若い男が話している。傍では秘書のヴァレンタインが真面目に前を向いていた。
「久しぶりですな、ミハエル・トラウトマン大尉」
「お久しぶりです、ロコ・プロコ殿」
トラウトマンはワインを一口飲む。
「それで、ここに例の連邦の船がいると言うのですね?」
「あなた方が誘導してくださったおかげですよ」
「よく言う」
二人はグラスで乾杯した。
「それで、タイミングは?」
「レジスタンスが明日の朝行動を起こすと聞いた。そこであなた方の出番です」
「ロコ・プロコ殿はどうなさるおつもりで?」
「ガブール・ベルグソンがあります」
「旧式では?」
「ランデッガーの技術で改修はしてありますよ」
「流石は領主だ」
「アディス、大丈夫なのか」
ドリス・マードックがつぶやいた。
「心配か?」
「大尉こそ」
二人は素直になれないところがある。
「まあ、酷い怪我じゃないって言うし、すぐ帰ってくるさ」
「だと良いですけどね」
コメント
コメントをして応援しよう
コメントにはログインが必要です
宇宙世紀ガンプラを中心に作ったガンプラやフォトストーリーなどを投稿していきます!
塗装は部分塗装がほとんどかつ雑で下手っぴなのでお手柔らかに…🙇
樫元優大さんがお薦めする作品
機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス プロローグ「異星人」
機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス 第三章「星の光に絆され…
機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス 第十一章「アンノウン・…
グレッドはタントラのブリッジから外を見つめていた。星々が煌…
機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス 第十章「再会、愛しき人…
「ドリス・マードック中尉、入ります」 扉越しに…
機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス 第九章「兆し」
エンドラ改級スサンドラのブリーフィング・ルームに…
機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス 第八章「ロミオ」
「少尉、先行したケンパルからの通信は?」 「依然…