振り返るに、オデッサにおける敗退は、長く膠着状態にあった今次大戦の分水嶺とも言えた。その後の地上軍による連邦軍ジャブロー本部への突入作戦も失敗し、戦線は宇宙へと押し戻される形となっていた。
0079年11月下旬、ヨーツンヘイムへと着艦する一機のモビルスーツがあった。MS-09Rリックドムである。後部ハッチから出されたガイドビーコンを辿るが、これまで603に着任してきたテストパイロットと比べると、どこか操縦がおぼつかない。
機体の一部はテスト機を示すオレンジ色に塗装されていたが、左肩にまでも派手なそのカラーリングが施されていた。それは、公国軍において新兵を意味するものであった。
「カンナ・メルクーア軍曹、本日付でリックドム換装実証試験機と共に着任いたしました!」
まだ10代後半とも見える女性テストパイロットは、やや緊張しつつ艦長に着任報告を済ませた。テストパイロットといえば、ワンオフの試作機を扱う為、一般兵よりも優れた操縦技術と経験を持つベテランが充てられるのが通常である。しかし、今や経験豊富なパイロットから最優先で前線に回され、比較的安全な後方とはいえMS操縦訓練を終えたばかりのルーキーが、若い女性新兵がその任にあたる、、、「ジオンに兵無し」その言葉が現実のものとなりつつあるのか。
『すでに戦場は宇宙へと移ったが、地球からの資源供給を失った我々は、これまでの様な無闇矢鱈に新兵器開発を進めることも出来ない。次なる任務としてこの機体を諸君ら603技術試験隊に託す。』アルベルト・シャハト技術本部長がそう言い終えてモニターに映し出したテスト機のデータを見るなりオリヴァー・マイ技術中尉は驚きを隠せなかった。
『リックドム⁈しかし、本部長、この機体は既に開発は完了しており、我が軍によって正式採用されているはずですが?』
『その通り、リックドムはすでに正式主力機として量産に入っている機体ではあるが、ツィマッド社の設計部門によれば、地上用として生産された機体であっても多少の改修により空間戦仕様とすることが出来るとのことだ。生産されたが戦況の変化に伴い行き場を無くした数多にのぼる地上用の機体。それを最大限活用すべく、既存のベース機となったドムを改修によりリックドムとして運用出来るかを実証する事が今回の任務である。
中尉、戦局はスペースコロニー国家である我らジオンが限られた資源を活用し如何に持ち堪えられるかという局面を迎えつつある。しかし、遅滞していた次期主力機開発もようやく完成を迎えようとしているのだ。連邦軍の量産機はもとより、試作機にも匹敵するという新型機が量産・配備されれば、或いは。。そのためにはいかなる“あまり物”であっても最大限活用し、機が熟する時に備え、繋げるものも必要なのだよ。無論、ただ機体の試験だけを今回のテストで行うものでは無い。連邦軍が携行式ビーム兵器の小型化に成功したことを受け、我が軍も急遽、ビーム兵器を実戦投入することが決定した。EX-T2-2試作ビームバズーカ。603はテスト機でのこの試作ビーム兵器運用についても評価試験せよ!』
MS 09Rリックドム もともとは地上戦用MSとしてツィマッド社により開発されたドムから、推進ユニットの交換や背部バーニア、スカートユニットの換装といった僅かな設計変更のみで宇宙用制式採用機として軍の要求値を達成した、非常に優秀な基礎設計の機体である。
換装実証試験機と位置づけられた本機は、実際に地上用のドムとしてグラナダの工廠にて生産されていたものの地上用装備を空間戦用に換装。ほぼ制式採用されたリックドムと同等の仕様となっているが、テスト機としてモノアイは偵察型やスタイパータイプに採用されている一般型よりも高感度・高精細なイエロータイプのものに変更されている。また、実戦にて実用性に乏しいと評価された胸部拡散ビーム砲は、今回試作ビームバズーカの運用を考慮して封印されている。
同じく土星エンジンの系譜を引くヅダに似た青系統の塗装が施されたこの機体は、ヨーツンヘイム配備にあたり、ヅダ3番機の暴走事故以来欠番となっていた艦載MS3番機として新たに登録された。
試験支援艦ヨーツンヘイムは連邦勢力圏から離れているとされるサイド2暗礁宙域にて予定どおり評価試験を開始。テスト機は基本性能試験、戦闘機動試験と、制式のリックドムと遜色ない数値でクリアする。
メルクーア軍曹も新米ながら、目を見張るスピードで成長し、最終の試作ビームバズーカ運用試験を迎えていた。
待機中のコクピット内にマイ技術中尉より通信が入る。
「メルクーア軍曹、君はなぜ今回のテストパイロットに志願を?」
「私には優秀な姉がおりまして、、今や総帥府付きの雲の上のエリート。ずっと羨ましがっていました。決して裕福な家庭ではなかったもので、何もかも新品の姉、いつもいつもその姉のお下がりの自分。周りからは『可哀想にね』って勝手な物差しでよく言われていたんですけど、でも自分ではそうは思わなくて。たとえ仕立て直されたお下がりの服でも、私には個性豊かなお気に入りの自分だけのドレスだった。だからこの子も、たとえ“あまり物”だなんて呼ばれる機体でも輝けるんだ!って。それを証明したいって思ったら無我夢中で、前に出ていました。変わって、、いるでしょうか?、、」
「いや、機体を思う君の気持ちが本物で安心した。それもMSを託すテストパイロットとしての大事な資質のひとつだ。」
メルクーア軍曹は、ほっとしたかと思うと、年相応の無邪気な笑顔ではにかんで見せた。
だが次の瞬間、艦橋に会敵警報が鳴り響く。
「レーダーに感あり。機影1、艦影1。ジム派生タイプ、母艦はコロンブス級の模様。敵機もテスト機の様ですが、試作型ビーム兵装と思しき装備を確認!」
「艦長、試験の中止を!メルクーア軍曹は実戦は初めてです。この様な緊急事態では荷が重すぎます。」マイ技術中尉の進言を静止して、モニク・キャディラック特務大尉が発言する。
「このような暗所宙域にテスト機など、恐らく敵にとってもこれは不幸な遭遇戦。ヅダもエンジントラブルによる整備中ですぐには発進出来ない。現状出撃しているリックドムで増援を呼ばれる前に敵艦を撃沈すべきです!あのビーム兵器はその為のもののはず!」
「こちらリックドムテスト機、ブリッジ、敵機もこちらも現状は一対一、幸い母艦も足の遅いコロンブス級です。シュミレーション上はビーム兵器であれば戦列艦以下の装甲ならば容易に貫通可能。試作ビームバズーカによる攻撃許可を!」
僅かな思慮の後、マルティン・プロホノウ艦長は決断を告げる。
「こちらのパイロットが新兵だと知れれば、単機でも撤退する本艦を追撃してくる危険性もあり得る。本艦が敵ビーム兵器の脅威に晒されている以上、先手必勝、敵艦撃沈も止むを得まい、、、メルクーア軍曹、対艦攻撃を許可する!603技術試験隊はこれより、試作ビームバズーカの運用試験を開始する。これは演習ではない、繰り返す、これは演習にあらず!」
浮遊する障害物の影から、敵艦へ向けてリックドムが戦闘機動に入る。セオリー通りの一撃離脱戦法である。
しかし、熟練したパイロットが駆るであろうジムはそれを見逃さなかった
「このドム黄色い左肩に、教科書通りの機動。テスト機にどんな歴戦のパイロットが乗ってるかと思いきや、ハハハッ、何だこいつ、ひよっこか⁈」
牽制のバルカンがリックドムの装甲を掠める。
「舐められている⁈一対一だというのに。」
「CIC、敵部隊テスト機パイロットはルーキーの模様。データ収集にはちょうどいい機会だ、このまま実戦でのテストを続行する」
痛ぶる様なジムの戦いぶりに、カンナは唇を噛み締めた。
「クッ!、ルーキーだからって、“あまり物”だからって、、勝手にそっちの基準で上から目線でかかってーーー!」
遊ぶような余裕のジムの機動にリックドムは何とか必死に喰らい付いてゆく。
「この子も、私も、自分だけの基準で輝ける、目一杯輝いてみせる!!」
そのわずかな一瞬、隙を見せたジムの頭部とコロンブス級のエンジンを宇宙を駆ける一直線の閃光が貫いた。
敵艦からの入電が読み上げられる。
「モハヤ我ニ航行スル能力ナシ、貴艦ニ投降ス」
奇跡に近い勝利であった。
メルクーア軍曹、ブリッジ共に安堵の空気につつまれた束の間、試作ビームバズーカは突如爆発しリックドムはその炎の渦に巻き込まれた。。。
0079年11月29日
サイド2暗礁宙域での最終評価試験中に、リックドム換装実証試験機とカンナ・メルクーア軍曹は初陣ながら、測らずも遭遇せしジムタイプ1機と母艦のコロンブス級を戦闘不能にす。試作型ビームバズーカは、実弾兵装を遥かに上回るの威力と弾速を記録するも、発射後に暴発、これを損失。恐らくはビームバズーカ砲身内ジェネレータの高負荷と排熱に起因する問題と思われる。解決にはやはりMS本体のジェネレータ高出力化の必要性を認む。
然れども、その爆発よりテストパイロットを無事帰還せしめた事により、リックドム本体の堅牢性には疑いの余地無し。何よりも操縦士の生存率向上に大きく寄与する優秀な機体と評価す。
第603技術試験隊 オリヴァー・マイ技術中尉
今回の試験報告を受け、技術本部設計局はビーム兵器運用機として新たにリックドムRS型の開発を決定。
この後、リックドムとメルクーア軍曹はア・バオア・クー防衛戦に至るまで転戦、無事終戦を迎えたと言う。
10月のドムの制作でコメント頂いたとおり、やはりまた作りたくなって、11月再販で購入しました。2回目制作しても、やはりhgucドムは名キットと感じます。今回は大好きなMSイグルーに寄せたストーリーを妄想しながらリックドムとして制作しました。
今回の作品でも、恥ずかしながら初挑戦したことがあります。スジボリです。前回のピンバイス加工に続き、ガンプラを傷付けるという加工の為、オドオドしながら、型紙制作から入り、デザインナイフ、キリ、棒やすりなど手軽に手に入る道具を使って作業を進めていきました。ラインがガタガタ、余計なキズが消し切れていないなど課題は山程ある出来ですが、楽しく作業出来、初めてとしては満足いっています☺️
モノアイは当初、あまり見かけないブルーで塗りましたが、イマイチ目立たなかったので、高機能型や実験機という設定面からイエローに変更しています。
ヒートサーベルは今回は青にしてみました。
腹部拡散ビーム砲は、ビームバズーカのテストをする機体なのでコトブキヤの丸モードを接着しカバーました。
重モビルスーツ恒例のバーニア萌えですね笑。見えない部分まで塗り分け頑張りました👍
塗料の話になるんですが、今までほぼクレオスの水性ホビーカラー一本で使って来たんですが、いつも買っているお店で欲しいカラーの欠品があったり、値段が10円安いことなどから今回タミヤのアクリルカラーを試してみました。ふむふむ、同じ容量だけど、原液の粘度、粒子の細かさ、沈殿具合、色あいなど、違うと感じる部分は色々あるんだなと🤔筆塗りでも、エアブラシでも問題無く使えるので、しばらく使ってみることにします!
ガンメタはギラつきがすごく、かなりカッコいい色です。コッパーもかなり違っていて、水性ホビーカラーは明るめな出来立ての銅なのに対し、タミヤカラーは少し燻しの効いた銅でした。
ツィマッド社の皆さんでw
同じ土星エンジンの系譜であり、土星エンジンの高出力に堪えうる強度を追い求めてドムのボディがあるとまで言われると何やら感慨深いものはあります。
メインカラーのペールブルーはヅダに合わせたつもりでしたが、一年ぶりに調色するとやはり全く同じ色という訳にはいきませんね😅
アクセントカラーのオレンジはこたつで剥いていたミカンからインスパイアを受けました笑、、、
、というのは冗談で、テスト機のオレンジと、MS戦記の新兵の機体はサポートの為に左肩を黄色く塗装していたという設定から着想しています。
今回のストーリーはイグルー1話分の脚本を書けるぐらいの熱量で創作しました!かなり長くなりましたが、私みたいなイグルーで育った世代の方はYouTubeの MSイグルーOSTでもかけながら読んで頂ければ、アツくなること間違いなしです!w
時系列的に言うと一年戦争秘録と、黙示録のちょうど間にあたる時期の物語、第3.5話とでも言いましょうか。
603技術試験隊は設定的には一年戦争の開戦から終戦まで丸々一年実働していますんで、ホワイトベース隊なんかよりも実は三倍くらいエピソードの余白があるんですよね。そこに創作の余地を見出すマニアですw
牙突のポーズですねw
今回のテストパイロットの名前はいい元ネタが見つからなかったのでメルクーア(ドイツ語で水星)と水星の魔女でスレッタを演じられた市ノ瀬加那さんのお名前をモジってカンナ・メルクーアです。そう言えばヨーツンヘイムは「魔女の鍋」とあだ名されていた事もありましたっけね。
イグルーでテストパイロットを務めた男たち(マイを除く)はみな夢をかけた試作機の為に死んで行きますが、10代の女の子で、テストパイロットなのに新兵で、と異色の設定のカンナは幸運とリックドムの頑丈さにも助けられて無事生還を果たします。(エンマ・ライヒ中尉ごめんなさい🙏)。テスト機なのに花形の試作機じゃないリックドム換装実証試験機には一年戦争終局へと向かうジオンの斜陽の国情を反映させました。来るべきゲルググへの繋ぎ、“あまり物”の有効活用として描かれたお下がりの機体が、決して能力が高いとは言えない彼女に、男たちが成し得なかった、パイロットとして最も重要な資質である『生きて帰る事』を成し遂げさせる。
水星の魔女に習い令和らしく、誰も死なないエンドを描かせて頂きました❗️
最後はみんな大好きMGリックドム箱絵風で。
このバーニア見せ、やっぱカッコいい☺️✨
デジラマ作りも楽しかったです♪
MSイグルーは、各話そのサブタイトルの響きも素晴らしいですが、皆さんならこの⒊5話にどんな副題を付けますか❓よかったらコメント欄でお願いします🙇
ありがとうございました✨
大好きな603×ドムのサイドストーリーです
コメント
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再びのコメント失礼します。
サブタイトルですが「彗星は星屑を照らす」なんていうのはいかがでしょう?
メルクーア軍曹の名前の元ネタである「水星」と、赤い彗星とまではいかないかもしれませんが、土星エンジンの高出力で宇宙を駆けるリックドムという「モビルスーツ」、そして、尾を引きながら輝くビームバズーカの光跡が、暗礁宙域に浮かぶ無数のデブリや小惑星、そして、「余りもの」と呼ばれたリックドムやメルクーア軍曹自身を明るく照らし出す、とか、そんな感じのノリで考えてみました。
お久しぶりです✋コメントのおかわりも頂きありがとうございます✨
わー!素敵なサブタイトル考えて頂きありがとうございます🙏“星屑”という本来は取るに足らないものを”照らす”という言葉でしめて、何か明るい希望のようなものも感じさせる、まさにイグルーだけど、イグルーらしくない、この物語の本筋を捉えたような副題だと思いました!
そして、久々にコメント頂けたことでZooさんのご無事を確認出来たのが、何より嬉しい(zaku-kao9)
ストーリーに引き込まれました!
イグルーらしからぬ、パイロットが生き残るというラストもとても良いと思います。
私もストーリー仕立ての作品をいくつか投稿したのですが(つぶやきの方に、オリヴァー·マイ中尉がグフの評価試験のため地球に降下する話も投稿しました )、こういった「設定遊び」的な投稿も楽しいですよね。
コメントありがとうございます🙏
男臭いイグルーのエピソードには戦死が似合うのですが、女性パイロット×令和のイグルーということで生還させました!パイロットが生き残ったことでドムが制式採用されるに足る名機であった事の証明になったのもよかったです👍
Zooさんのストーリーも読ませて頂きました❗️
ガンプラを制作するときに、いつもこう言った脳内ストーリーに想いを馳ながら、テーマやモチーフのアイデアを膨らませています✨
メルクーア軍曹、無事で良かったですねぇ😭読みいってしまいましたw
ドムは何度作っても本当に格好良いですよね!Ⅱが欲しいんですけど再販してくれないですかね😫
次作に進むにつれ、新しい技術を試し、より自分の理想のガンプラを目指していく!
これぞガンプラの醍醐味ですね😆
閲覧ありがとうございます😊
ノーマルドムの出来が良いので、IIも最新フォーマットでリバイブして発売、、なんてしてくれたらもう言う事無いんですけどね!w
今まさにガンプラの新しい技術を楽しみながら様々習得中です(zaku-kao8)
って言って、また手抜き制作にオッゴばりに先祖返りしたりもするかもですが(zaku-kao4)笑
UC.60生まれ
ジオン第四工科大卒
1年戦争時 工兵の不足により工業科学生でありながら学徒動員・徴用され第603技術試験隊においてオリヴァー・マイ技術中尉付きのメカニック見習いとして、様々な機体に携わり無事終戦まで生き残る。これは、彼の肉眼に映った兵器たちの記録である。
主に微改造・全塗装で仕上げている初心者モデラーです。
ガンプラの取説にある機体解説やショートストーリーが好きで、それに寄せた文章を考えてみました。
お目汚しですが、よろしくお願いします。
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