あれから、出撃がないことが、特務G13MS部隊のジン・サナダ曹長には不満だったが、今朝、ようやく出撃の具体的な指令が下った。北米に進出する。もうじき始まるキャリフォルニアベースの奪還作戦に組み込まれるのだ。
賑やかな連中が来た、と、トニーがいつものにやけ顔をぶら下げてコンパートメントに来た。正規のパイロットは、下士官でもコンパートメントが与えられている。
「中東から引き上げてきた奴らだっていうが、すげえ美人がいるらしい。」
パイロット同士でデータの交換が必要だろうから、それを理由に口説きに行こうぜ、とトニーがはしゃいでいる。
中東と言えば、先に降下したキョウ・ミヤギが作戦に参加していた所だったはずだ。大変な美人のパイロット、という稀有な特徴から、ジンはミヤギを即座に連想したが、果たしてその正体はキョウ・ミヤギその人であった。中東で戦果を上げてきたらしく、"シングルモルトの戦乙女(ヴァルキュリア)"とか言う、よく意味のわからない通り名まで付いていた。
シングルモルト。たしか、あいつの名前とよく似たシングルモルトウイスキーがあったはずだ。呼んでいる連中は、面白がって呼んでいるとしか思えない。いずれにしても、ばかばかしい。
V作戦の機体群は、共通の教育型コンピュータを搭載しているため、データを蓄積すればするほど強くなるという特徴がある。ここは地球連邦軍の総本部ジャブローである。先日、噂のニュータイプ部隊、ホワイトベースもここを経由して宇宙に上がった。本物の"ニュータイプ"兵士が運用しているという、本物の"ガンダム"のデータもここにはある。それを取り込んだ、ジンの"レッドウォーリア"は、さらに強くなったはずだ。
キョウ・ミヤギを擁するMS部隊も、V作戦に連なる"ガンダム"を運用している。程なく、データ共有の命令が下り、ジンはMSハンガーに向かった。
「キョウ・ミヤギ!ミヤギ曹長じゃないか。」
そこで、彼女と再会した。
自分でも、驚くほど明るく弾んだ声が出たことに、ジンは一瞬戸惑った。だが、表には出さない。どんな時も、望ましい同僚性を持った、模範的な軍人の化けの皮を脱ぐことはない。擬態は完璧に。ずっと、内なる狂気を隠し続けるジンにとって、それは自然な習慣だった。
「すまない、曹長。彼女はもう少尉だ。君よりも上官だよ。」
ミヤギとジンの間に、ミヤギの上官らしき士官が割って入った。ジンがデータを共有する予定のガンダムタイプの専任パイロットで、本来ジンが用事があったのはこの男だ。ミヤギに対する庇護欲のようなものを感じる物言いだったが、階級は、こいつも少尉だ。上官というわけではないだろう。だとしたら、考えられるのは……。
(キョウ・ミヤギの、男か。)
ジンは、直感した。男の肩越し、ためらいながらも、はにかむような、いじらしい表情のミヤギがいた。僅かに頬が上気しているようにも見えた。
(あいつ、女になったな。)
彼女が目の前の男と深く通じ合い、戦場で見せた純粋な鋭さを失い、生々しい”女”になったのだと理解してしまった。その変化に、ジンは言いようのない失望と、わずかな軽蔑を覚える。彼が心のどこかで守りたいと思っていた、孤高で穢れのない存在が失われたかのように感じられたのだ。
「大変失礼いたしまいた。じゃあ、ミヤギ少尉、こっちは明日には出撃だ。お互い生きていたら、またゆっくり話でもしよう。」
再会を望むような言葉を口にしながら、生きていようとなかろうと、もはや会うこともあるまいと胸の中で一人ごちる。せいぜい、その男と共に、気だるいまどろみの中に身を焦がしていろ。俺とお前とでは、どうやら歩む道が違ったようだ。
ジン・サナダにとって、ジャブローで見せる人当たりの良い態度は、内なる破壊衝動を隠すための擬態に過ぎなかった。彼の本質は、ルナツーで燻っていたあの頃と何も変わっていない。
~~~~~~~~~~~~~~~
「何だ、随分親し気に話してたな。」
コンパートメントに戻ると、ハンガーで遠巻きにミヤギを見物していたトニーが勝手に入ってくる。
「ここは俺の部屋なんだが。」
「何言ってんだ、同じチーム、同じ階級のよしみだろうが。」
悪びれる様子もない。
「噂どおり、すっげえ美人だったな。頬の傷が気になったが、あれはあれでセクシーでいい。」
知らないよ、とジンは受け流す。本音としても、下世話な話は好きではない。
「で、何?知り合いなのか?」
「訓練校時代からの同期だよ。」
「よし、今晩飲むぞ。紹介しろ。」
「そこまで仲良くないよ。ちょっと懐かしくなっただけだ。」
「嘘つけよ。お前、お前があんな可愛い顔して笑うなんて知らなかったぞ。」
「可愛いってなんだよ……。」
安心しろ、男には興味はない、とトニーが笑う。やはり、こいつはどうも、俺の肚の内を見抜いていると感じる。
「明日には出撃だろ。飲んでる場合じゃない。」
言ってから、ああ、そうだった、とジンは、顔をあげてにこりと笑ってみせる。さっきから、どうにも鋭く踏み込んでくるトニーに、少しカウンターを喰らわせてやろうという気になった。
「彼女、男ができたみたいだよ。つけ入る隙なんてないさ。」
U.C.0079 12月3日。
地球連邦軍は、北米及びアフリカ戦線における、ジオン公国軍の残存地上戦力の大規模掃討作戦を通達。その発動を12月5日とした。
特務G13MS隊も、同月4日未明、北米に向け進出。ジャブローを後にした。
【#29 The beauty and the crimson beast / Dec.3.0079 fin.】
ジンとミヤギの関係、こんな風にするつもりなかったんですが、なんだかこじれましたね笑 主にジンが。と、言うか、ジンだけが笑
ジンの狂気がいいかんじに深まったと思うので、結果オーライです。ミヤギさんを絡めたら、一気にこんな話になりました。やっぱりミヤギさんにはストーリーを引っ張る力がある(gundam-kao10)
短い話が続く上に、全然MSが活躍しませんね、すみません(gundam-kao10)今回はホントにガンプラも出せなかったので、すみませんでした!!
次回はまた、赤い獣を派手に暴れさせます。あと、ナイトシーカーズも!デュークをもっと活躍させたいのです。
・
次回、
MS戦記異聞シャドウファントム
#30 Unknown
未知の、衝撃——。
なんちゃって笑
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
また次回もよろしくお願いします。
オリジナルストーリー第29話
コメント
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ジン・さなだのあばれっぷりなら色々な展開ができそうですね〜。呂布奉先的な?そこまで単純ではないか😙。同じ場面を視点を変えてストーリー展開させるヤスさんのパターン。いいですよね、そのシーンの理解も深まるし。全然とらえ方が違くてそのギャップがいい。
いつもありがとうございます(gundam-kao6)
ジン・サナダが何をやらかしてくれるのか、ちょっとわたしも予想しきれないところもあるのですが、第3部のオチは決めました!
場面の視点を変えるのはやってて面白いですね。特にジン・サナダは認知が歪んでるので、全然違う場面になっちゃいますね(gundam-kao10)
ジン・サナダ…壊れっぷりが良いですね 大人の階段を上ったミヤギ少尉への不貞腐れた内心も可愛い 大丈夫、男に興味はないですよ 笑
やはり「真田」でしたか 赤備えならモロズミやヤマガタもいますが知名度が違いますからね 赤備えガンダムなら私も作ってますので、レッドウォーリアの暴れっぷりが楽しみです 次回をお待ちしています
いつもありがとうございます。
ジン・サナダのコンセプトは中二病がガチ目にパラノイアに育ってしまった人なので、被害妄想にギアが入りやすいです。
赤備えと言えばサナダ!単純ですが、わかりやすくいこうと思いました笑
更新がお早いっ!!ミヤギの頬の傷がまだまだ見慣れませんが同僚が言ってた通りで其れは其れでgoodですねwジオン機が居ない。。。倒すなら倒すでジオン機欲してますww次作期待してます(*^^*)
いつもありがとうございます。
準備が追いついてしまい、投稿してしまいました笑
今回の部は、ジンの中に読者の憎むべきものがいるので、敵対勢力の影が薄くなるかもしれません(gundam-kao10)次回あたりから、ジオンの機体もぼちぼち出て参ります(gandam-hand1)
土曜日の夜の更新もいいですね!
準備が追いついてしまったので、やってしまいました笑
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技術がないので、基本的に無改造。キットの基本形成のままですが、できる限り継ぎ目けしや塗装などをして仕上げたいと思っています。
ブンドド写真は同じキットを何度も使って、様々なシチュエーションの投稿をする場合もあります、あしからず。
F91、クロスボーン、リックディアスあたりが好きです。
皆さんとの交流も楽しみにしておりますので、お気軽にコメントなどもいただけますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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