1年戦争が終結すると、”ガンダム”はすぐに回収された。代わりに配備された機体は、ガンダムと比べても、遜色のない性能を有していた。しかし、再び配属されたアフリカでは、戦闘らしい戦闘にもならないまま、一年が経った。いや、散発的な戦闘はあったのだ。だが、第22遊撃MS部隊は、積極的に前線に出されなかった。自分のせいだ、と、キョウ・ミヤギ少尉は感じていた。
(お荷物だ、これでは……。)
22部隊の解隊を告げられたのは、そんな焦燥に身を焦がしている折だった。
「私は、いつでも準備ができているよ。」
間も無く、出会ってから1年も経とうという、U.C.0081の、10月初旬のことだった。いつもの最初の一杯、ロックグラスのシングルモルトウイスキーを口に運ぶ直前、ヘント・ミューラー少尉はそんなことを言った。
「戦士としての君の矜持は、もちろん尊重するし、尊敬している。だが、もし君が、戦士でなくなったとしても、わたしは君というひとりの人間に、敬意をもち、愛し続けられる。」
「”朴念仁”が随分とはっきりと……成長されましたね。」
あれから何度目かになる、そんなやりとりを、ミヤギは受け流す術を身に付けてしまっていた。
「年が明ければ、T4大隊に、戻れることになりそうです。」
「”トップガン”だな、正真正銘の。」
なんですか、と首を傾げてみせたが、ヘントは微笑んだまま答えない。きっとまた、地球の古い小説や映画の話だろう。応える代わりに、話を続けた。
「なるほどな、そこならば戦闘任務は発生しない。君の回復を待つにはいい場所だ。」
ブライトマン少佐のご配慮だな、と、最後に呟いたのを聞いて、そうです、と応えた。
「模擬戦だけは、心配だな。」
ヘントは、遠くを見つめた後、ミヤギをまっすぐ見た。
「分かっている。いつまでだって待つと、言ったのは俺だ。」
ヘントは、穏やかな目を向けて言う。
「”朴念仁”が勝負に応じるまで、君も待ってくれた。次は、俺の番だな。」
そう言って浮かべた優しい微笑みが、瞼の裏に、いつまでも、消えない。
待ったと言っても、あの時自分が待ったのは、せいぜい数日だった。
でも、彼は——今も……。
~~~~~~~~~~~~~~~
コーヒーの香りが鼻腔を充たす。
悪夢、とは言えないが、良い夢見だったとは言えなかった。
鏡を見るが、顔色は悪くない……と、思う。
「今日は、チタにも何も言われないかな……。」
いつものように、シャワーを浴びて、コーヒーを飲み干し、部屋を出る。いつものように、小柄な衛生兵が駆け寄ってくる。
「何か、嫌な夢でも見た?」
そして、いつものように、見抜かれる。
「……。」
「……何?」
「あなたは、ニュータイプ?」
「あのねえ、6年も一緒にいればさすがにわかるでしょう。」
あきれたような、おどけるような、複雑な表情でチタ・ハヤミ少尉は応える。
「まあ、ニュータイプは置いておいて……ごく親しい間柄の者同士に、テレパシーのような感応が起こる、ていう実験は、昔からあるよね。」
「……へえ?」
「興味ある?」
どうかなぁ、と、曖昧に応えたが、チタは構わず続ける。
「夫婦間でやったりするけど、全然別の部屋にいる二人の脳波を、それぞれ測定するの。」
「それで?」
チタが話したそうなので、とりあえず相槌を打つ。夫婦、という言葉が、今朝の夢見のせいか、わずかに胸を痛める気がした。
「全然別の、離れた部屋でよ?一人はテレビのコメディ・ショーを見る。もう一人は何もしないでじっとしているのだけれど、コメディ・ショーを見ている方。そっちが大笑いして、脳波が大きく動いた瞬間、もう一人のじっとしている方、どうなると思う?」
「普通は、何も起こらないけど……。」
「でも、そんなこと、わざわざテレビで流す?」
「じゃあ、一緒に笑う、とか?」
「惜しい。わずかにだけれど、まったく同じ瞬間に、何もしていない方の脳波にも、同様の波形の変化が起こる。」
それは、ちょっと驚きだ。
だが、言われてみれば納得できる気がする。相手がニュータイプとかではなく、何か、気持ちが通じる瞬間というのは、誰にだってあるはずだ。
「脳って、電気信号を発してるわけだから……もしかすると、自分の体の外にもそういう、ビビッて飛ばす力とかもあるのかな?そういうのが強い人をニュータイプって言うとか?」
チタは、少し興奮しているようだ。
「波長が合う、みたいなのも、あるんじゃない?」
ミヤギも、乗ってみる。
「あなたと、わたしみたいに。」
ミヤギの言うのを聞いてチタはニコリと愛嬌のある笑顔を浮かべたが、あ、と声をあげる。
「なんでそう、変な遠慮するのかなあ……そこは、さあ……」
「いいから。」
おそらく、”彼”の名前を口にしようとしたチタを遮る。
「とりあえず、朝食を。今日は余裕があるから、ゆっくり食べましょう。」
今日は飛行訓練はない。午前中は非番で、夜にはレセプションだ。昼過ぎには別のバンチ、”パルダ”に向かうランチに乗る。
どうやら、EFMPの、ヘント・ミューラー中尉も来るらしい。ミヤギは、思わずこぼれそうになる笑みを噛み殺した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
サイド5"パルダ"のレセプション会場は、軍人や政治家、報道陣などで人に溢れ返っていた。
目立つのは、政治家たちだが、アナハイムのお偉方らしき面々や、その傘下会社の役員と思しき一団が特に目を引いた。その中に、ひときわ目立つ、美しい男が混じっている。
「ええ、ようやくここまで持ち直しましたよ。」
報道陣に囲まれているのは、アナハイムエレクトロニクス傘下の複合企業、モーレン社の役員、グレン・G・モーレンだった。
「わたしが、いわゆるミリタリーマニアでして。ジオンのメカニックには、正直なところ、美学を感じています。今も。」
報道陣からのインタビューに、爽やかに受け応えをしている。モーレン社は、かつてサイド3に本拠地を持っており、1年戦争当時も軍への関与を疑われていた。戦後、MS産業への参入に意気込んだが、疑惑の影を拭いきれず、実権をアナハイムに譲り渡すことに甘んじた。それがこの数年、独自の技術の提案と開発で、勢いを取り戻している。EFMPのシュトゥルム・ザックも、ベースはハイザックで、アナハイム社による開発だが、モーレン社の技術がふんだんに盛り込まれた機体だ。高コストで量産には向かないが、もはやハイザックとは別物と言っていい、野心的な機体で、注目を集めている。
傍には、ガードマンだろうか、粗暴そうな男と、虚な表情をした女が、揃いの黒いスーツを着て立っている。女の方は、ガードマンにしては妙に華奢だ。
女は、ふと、何かに気付いて、グレンにそっと耳打ちする。その親し気な様子が、もしかすると、ガードマンではないのかもしれないと周囲に感じさせたらしい。週刊誌記者らしき女が、パシャパシャと写真を連写した。
グレンも、何かを小声で応じると、女は、子どものような無邪気な顔で笑い、人ごみのなかに消えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
"ブルーウイング"隊長のキョウ・ミヤギ中尉の周りにも常に人だかりがあり、誰かが必ず傍で話し込んでいる。今も、会場正面にある巨大なスクリーンには、青いカラーリングのMS隊による曲芸飛行の映像が映し出されていたが、その琥珀色の瞳に、深い疲労と焦燥の色が浮かんでいることには、誰も気づかない。
「曲芸とは言え、素晴らしい飛行ですね。重力下での飛行はあなた方の方が練度が高いかもしれせんね。」
しきりに話し掛けているのは、ティターンズのケイン・マーキュリー少佐だ。
「一糸乱れぬ連携は、作戦の遂行の基本です。我が隊も日頃から、連携訓練は欠かしません。」
エゥーゴとの戦闘が激化しつつある昨今の状況もあってか、今年は10月の新サイド5警備任務に、ティターンズも加わる。ケイン少佐の隊は、そのためにここに来た。今年の航空宇宙祭では、ティターンズの新型機のお披露目も行う予定だ。
「実戦向きの技術もご教授しましょう。どうぞ、我が隊の訓練にも、ご視察にいらしてください。」
にこやかに言うと、さっとその場を離れた。
「嫌なやつだ。」
シャンパングラスを持ったアランが、そっと耳打ちする。
「あっちが一方的にまくし立てて、君はほとんど話していないないじゃないか。ありゃあ、"会話"と呼べない。」
ミヤギは、苦笑いを浮かべたが、こういう場ではケイン少佐のような相手に適当に相槌を打っている方が気が楽だ。報道陣の、あちらの望むような回答を引き出そうとするような、ねちこい"会話"の方が得意ではない。
「失礼します、アルテミスジャーナルの、ローズです。ミヤギ中尉と、アラン中尉のお二人は……」
そうだ、たとえば、こういう。
「お嬢さんね、そういうのはもう少し会話を楽しんでからスマートにいかないと。がっつきすぎだ。」
報道関係者らしいが、見たところ随分若い。もしかすると、まだ10代かもしれない。
「あちらのティターンズの将校さんなら、気持ちよく色々話してくれるよ。」
にこやかに言いながら、アランは若い記者を、ケインが去っていった方に押しやった。
「貸し、一つだ。」
「食事は付き合いませんよ。」
「良いよ。別に今すぐ返せとは言わない。」
アランは、近くのテーブルのオードブルから、バーニャカウダをひとつまみ取って、シャリっとかじった。こういう動作ひとつにしても、いちいち様になる男だった。
「調べてみたけど、ティターンズのあの少佐さん、天下に冠たるティターンズの癖に、大した腕じゃないぜ。」
アランが馴れ馴れしく話しかけてくると、さっきの記者が、遠くからカメラを連写しているのがわかった。
「今どきマゼラン級一隻で、あちこちの宙域をフラフラして、EFMPの連中みたいな、中途半端な仕事ばかりしている。」
今や時代はMSだ。大艦巨砲主義時代のエース艦だったマゼランよりも、MS運用能力を持った実用的な艦、サラミス改のほうが、よほど使われている。ケイン少佐の部隊の装備は、前線できちんと戦わせたい部隊にあてがわれるような内容ではない。
「噂話は感心しません。そういうのが、たび重なるお断りに繋がっているとは思いませんか?」
「品行方正なら、誘いにも付き合ってくれるのか?」
アランを無視して、ミヤギは、持っていたグラスのハイボールをほんの少し口にすると、人混みの上に目を滑らせる。視線の先には、地球連邦軍仕様の、白い制服に身を包んだ一団が見えた。
「君こそ、感心しないな。」
ミヤギの視線に気付き、アランが言う。
「さっきのお嬢さんみたいなのが、うろうろしている。恋する乙女の顔は控えた方がいい。」
「あなたが言うことですか?」
ミヤギはアランと目を合わせず、ため息をついた。
だが、そのとおりだ。
「私的な表情は、みだりに衆目に晒すものではない。それはあなたも一緒です。」
グリーンの瞳を、しっかり見て否定するため、顔をあげる。ふと、先程まで自分の周囲に群がっていた人の群れが消えているのに気づく。ティターンズの将校と、アランのおかげだろう。特にアランの、親しげな態度は、周囲の遠慮を引き出すのに効果的だったようだ。
「これは、借り、ですね。」
ふっと笑って小さく呟くと、アランが不思議な顔をした。構わず、ミヤギは軽く微笑む。
「では、中尉も、お楽しみを。」
言って、踵を返すと、人混みの中に分け入った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「だめだめ、酒と料理はいいけど、好い男がいない。」
アンナ・ベルク少尉が、なみなみと酒を注いだ大きめのグラスを握って言った。
「何をしにきたんだ、君は。」
壁の花になっていたヘント・ミューラー少尉は、呆れた表情で応答する。
「何って、そりゃ、良いお酒を飲みにきたんでしょうが。」
へらへらと笑いながら、好い男がいれば、文句ないじゃないの、と付け加える。
「"ブルーウイング"のパイロットに、すごくハンサムな人がいるじゃないですか。ほら、あそこに。」
カイル・ルーカス曹長が、目線を送る先では、面長でハンサムな隊員と、例の"シングルモルトの戦乙女"、キョウ・ミヤギが、顔を突き合わせるかのような距離感で話しているのが見えた。
「ありゃ、ヘントくん、あれ、いいの?」
「何がだ。」
「あんなかっこいい人と、なんか、仲良さそうじゃん。」
「別に、何も問題ないだろう。」
彼女の想いについては、何も心配していない。だが、人垣の向こうに見える、愛しい人の姿は、スポットライトを浴びるかのように輝いて見えた。世間の彼女を見る目を通せば、その他大勢の背景にすぎない自分を自覚すると、ほんの少しだけ気後れを感じさせられる。
「強がっちゃって、またぁ!」
言いながら、アンナは肩をぐいぐい寄せてくる。
「君こそやめろ。」
ヘントは心底迷惑そうな顔をして、アンナと距離を取る。
「どうなんだ、それこそ、ああ言うのは好い男じゃないのか。」
ミヤギと話し込んでいる、ハンサムな士官を指して言う。
「いや、ああいう、自分がかっこいいの分かってそうな男って苦手なんだよね。」
「……結構わがままですね、少尉。」
カイルが呆れた様子で言う。
「結構じゃない。」
「そうか。普通に、ずぼらでわがままでしたね。」
ちょっと、とアンナが抗議の声をあげる。
「あんた達こそね、こんな好い女が傍にいて、一緒に酒飲んでるのに、何も思わないわけ!?」
「……自分で言います、それ……。」
「言いますとも。"その時"のために、それなりに自分磨きはしてるんだから。」
なぜか得意げに胸を張る。
「"その時"が来てないからこんなことになってるんですよね。」
カイルが言うと、アンナは口を尖らせる。
「それ、セクハラだよ、カイルくん。」
「少尉が始めた話題でしょう!」
「まあ、いいけど。あんたら、どっちか、あたしを口説こうって気にはならないわけ?"こんな場所だと、君もいつもより魅力的に見えるよ"とか……。」
「なるはずがない……どうせなら、人としての生き方を磨け。はやく貸している金を返せ。」
低い声で一人芝居をするアンナに、ヘントは冷徹に応じる。
「それ、言う?今言う!?」
「引くなぁ……少尉、それはホントに、ヘント中尉の言うとおりですよ。そんな生き方じゃ、良い運が舞い込みませんよ。」
カイルが呆れて言うのと同時に、涼やかな声が響く。
「楽しそうなところ、失礼します。」
思わず、はっと息を飲んだ。
三人の目の前には、地球連邦軍の青い制服に身を包んだウェーブ(女性士官)が、凛と佇んでいた。
「あ……。」
カイルは、思わず、口を開けて見惚れた。
「お久しぶりです、ヘント中尉。」
ウェーブは、爽やかに微笑み、敬礼する。
「またご一緒出来て、光栄です。」
「こちらこそだ、ミヤギ中尉。」
ヘントも、軽く微笑み敬礼を返す。
「うそ、やだ、ホンモノじゃん!」
アンナが興奮して声をあげると、カイルが、失礼ですよ、とたしなめる。
「え、待って、めっちゃ可愛いんだけど!」
「ほら、行きますよ、中尉。」
邪魔しちゃ悪いですよ、と、カイルが言いながら、アンナをどこかに引っ張っていった。人ごみの向こうから、後で一緒に飲もうね~、と、アンナの声が聞こえた。
「楽しそうなご同僚で。」
「そうかな。」
ええ、と、ミヤギはくすくす笑う。
「素敵なご婦人もいらっしゃったから……本当に口説かれるのかと。」
「本気で言っているのか?」
「どうですか、そう、思います?」
2秒、視線を合わせると、二人、微笑んだ。
2年ぶりだ。
話したいことがたくさんある。
だが、アランの言うとおり、ここで彼の”恋人”に戻るのは得策ではない。
永遠に感じた2秒の後、ヘントが口を開く。
「周辺宙域は、我々がしっかりと守ります。中尉の隊は、存分な飛行を。」
この宙域には、連邦軍の”イーグルス”や、ティターンズも付いています、と付け加える。
「万全です。何があっても、貴女の任務は邪魔させない。」
「ええ、頼りにしています。」
「おい、こんなところで油を売っていたのか?」
人ごみに中から出てきたのは、二コラ・ボーデン少佐だ。
「君は……」
ヘントの方を訝し気な顔で見つめる。
「EFMP第2部隊第1班MS隊長の、ヘント・ミューラー中尉であります。」
敬礼をして、明瞭に応える。二コラ少佐は、ああ、と生返事をする。
「積もる話もあろうが、ミヤギ中尉は時の人だ。悪いが、後にしてくれたまえ。」
では、と言って、ミヤギの手を引いていく。
ミヤギが、一瞬名残惜しそうにこちらを見たが、視線が合うと、瞬間、声が聞こえた気がした。
(大丈夫。)
(そうだ、大丈夫、分かっている——。)
そして、ヘントは、再び、壁の花に戻った。
~~~~~~~~~~~~~~~
「そういうの、疲れないの?」
気づくと、ヘントの隣に、黒いスーツを着た女が立っていた。先ほどまで、微塵も気配を感じさせなかった。時を止めて、突然現れたようで、ヘントは一瞬気味の悪さを感じた。
「そんな、本心を隠して、我慢して。」
「……失礼ですが、あなたは……?」
ミヤギと、同じくらいの年齢に見える。しかし、どこか、子どものような幼さと、同時に、娼婦のような妖艶さを感じさせた。
女は、虚ろで、深い、闇のような色をした生気のない眼で、ヘントをチラリと見たが、すぐにその眼を伏せた。
「あなた、面白くない。」
会話に、要領を得ない。
「……失礼します。」
ヘントは、立ち去ろうとしたが、ふふ、と笑う女の声に、思わず足を止めてしまった。
「あの人のことで心がいっぱいなんだ。大事なんだね、とっても。」
「なんだ、君は……?」
ヘントは、警戒して、体を緊張させた。敵意だ。この女は、自分に対して敵意を発している。そういう素振りはまったく見せていないが、なぜか、はっきりと感じた。
「そんなに大事なら、一緒に壊してあげるから、安心して?」
ヘントは、ぎくりとする。
やはり、この女は——……
「大丈夫、ここでなんとか、なんて、考えていない。」
敵意を察知したこちらの心を読んだかのように、女が言う。
目を細めて笑う女の顔は、美しかったが、同時に、ゾッとするような、気味の悪い印象を与える。
「ジンは、あなたと、キョウ・ミヤギにこだわっている。」
「今、何、と……?」
ジン、と、言ったか。
「でも、あの人に、あなたたちは壊せないんじゃないかと思った。だから、わたしが、かわりに壊そうって……壊す前に、どんなのか、見ておきたかったけど。」
ふふふ、と楽しそうに笑いながら、女は、でも、と続ける。
「あなたも、あの人——キョウ・ミヤギも、こんなにつまらなくて、たいしたことなさそうなのに……彼が何を躊躇っているのかは理解できなかった。」
「お前は……!?」
この女を拘束すべきか、ヘントは迷った。だが、今、ここ——新サイド5は、地球連邦政府の法律を行使すべき場所ではない。それに、この女は、まだ何もしていない。恫喝にしても、その根拠は、不明瞭だ。
「焦らなくていいよ、そのうちまた会えると思う。」
ためらうヘントの真横をすり抜け、女は人ごみに消えた。
~~~~~~~~~~~~~~~
会場を出て、夜の空気を吸いながら、ミヤギの胸は充たされていた。
様々な不躾な質問や、ティターンズの将校のようなちくりとした敵意を前にしても、何ら動じることがなかった。ヘントが、同じ空間にいる。それだけで、ここまで魂が守られるものかと、自分でも驚いていた。
「たったそれだけしか会話しなかったの?バカなの?二人とも……ねえ、バカだよね?」
少し酒に酔ったチタが、絡むようにミヤギに詰め寄って言う。
「それ、ただの事務連絡じゃないの。」
だが、たったそれだけの会話が、今宵、彼女の心を守った。今、ミヤギはたまらなく気分が良い。身体も、軽い。
「いいの。」
これから、約1ケ月、二人ともサイド5にいるのだ。宇宙港も同じ"リボー"のものを使う。まだ、いくらでもチャンスはある。
「そんなの、あっという間だよ。お互い忙しんだし。」
むしろ、チタが焦っている。セッティングしようか、と鼻息を荒げる始末だ。
笑ってチタをいなしながら、ミヤギは、頬を撫でる夜風に心地よさを感じていた。
こうして、華やかな夜は、更けていく——。
【#46 Reunion night / Oct.1.0087】
どうやってガンプラを入れるか……今回は本当に苦労しました(gundam-kao10)
たまたま手に入ったジムスパルタンに助けられましたが、ジムスパルタン、なんかこの一コマで終わるの勿体無いですよね。めっちゃかっこいい。
ジムスパルタン作ってて、第4部のような中途半端なメロドラマをだらだら書いてるより、ジムスパルタンでドンパチやる話の方が需要ありそうだなと思いました笑 今回は、1年戦争終戦後、ガンダムを没収されたヘントに新たにあてがわれた機体という設定で登場させました。密林とか市街地で冷静に連携を取る22部隊の活躍とか、見てみたい気もしますが、ミヤギのPTSD設定があるので、たぶんの0081までの約1年は、ホントにがっつりした戦闘をしていなそうで、描けなそうです。(そんな使えない兵員の維持に、MSあてがったりコスト割くかなあ、とか自分でツッコミ入れてしまいます笑)描くとしたら、別の部隊の違う人たちですね。
まあ、いつか、なにかの機会に使ってあげたいとは思っています。なので、22のナンバリングと、桜のマークは入れずに作りました。
ちなみに、最近のデジラマは、背景はジェミニに作ってもらい、フォトルームを使って切り貼りしています。イラストの背景(今回のレセプション会場)などもジェミニ産です。
ジムスパルタン、背中がかっこいい……(gundam-kao3)
さて、余談になりますが、キャラクターの名前について、ちょっとした裏話を笑
キャラクターの名前は割とふざけて、ノリでつけていますが、その由来を一部ご紹介します。
【その1】いわゆるパクり笑
ボブ、ケビン、スチュアート……第2部の最初に出てきたジオン兵は、黄色くてまるっこいあいつらの名前です。このシリーズは、デイブとか、オットーとか、他にも結構います笑
"デューク"、ケーン・ディッパー……デュークは第3部を読んでいただいてすぐわかったと思いますが、「俺の後ろに立つんじゃねえ!」の人です。まんまです笑 ケーン・ディッパーは「ディッパー」が「北斗七星」。北斗七星の、ケーン、ケンということです。眉毛太いとか、声が低いとか地の文に書いた気がします笑 イメージ的には、初期回想の、婚約者をお姫様抱っことかしてたころの彼です笑
【その2】微妙なミックス
アーサー・クレイグ、アイザック・クラーク……実はこの2人、合わせると「アーサー・クラーク」という、SF作家の名前になります。アーサー・クレイグも、アーサー・クラークを意識した名前です。と、なると、そのうち◯◯・アシモフも出さなきゃなくなるか?笑
【その3】酒の名前
キョウ・ミヤギ……「宮城峡」というシングルモルトのジャパニーズウイスキーです。爽やかでキレがありながらも、ほのかに甘みすら感じる……一番好きなお酒なので、ヒロインの名前にしました笑
カルア・ヘイズ……「カルーアミルク」からです。「悪酔いしそうな安酒のような名前」にしたくて、色々調べてたら、「飲みやすくて気づくとベロベロになってる」という意味で「レディーキラーカクテル」と呼ばれているらしいカルーアミルクに辿り着きました笑 「ヘイズ」はAIが提案してくれた「霧がかかっている状態=酩酊して頭がぼんやりしている状態」です。
グレン・G・モーレン……「グレンモーレンジィ」という、シングルモルトのスコッチウイスキーです。これもすごく好きです。高すぎず、でも「安い」とも言えないいい感じのお値段で、2次創作の悪役にはちょうどいい高級感かと思ってこの名前にしました笑
チタ・ハヤミ……ブレンデッドのジャパニーズウイスキー「知多」からです。これも好き。「宮城峡」よりバニラ香が強く、女の子っぽいお酒だと思っています。「ハヤミ」は綺麗な水のイメージです。
【その4】連想ゲーム
ジン・サナダ……レッドウォーリアに乗せるのは決めていたので、「赤→真田幸村→武将→刀→刃→ジン」という感じです。
ウォルフガング・クリンガー……「オオカミ要素があって、なんか名前だけ無駄にかっこいい小物の悪党の名前を提案して」みたいにAIに相談したら出てきたやつを適当に採用笑 クリンガーは、刃物とかそんな感じの意味だった気がします。そして、最近知ったのですが、公式にもウォルフガングていう名前の割と重要なキャラクターが、少なくとも2人いたんですね。勉強不足でした。
由来のあるキャラクターはだいたいこんな感じです。
あとは、ネットで出てくる「英国名一覧」みたいのからひっぱったり、知り合いの名前をアナグラム化したり。あと、ときどきAIに「こんな感じの名前でなんかある?」みたいにオーダーすることもあります。第3部に、クララ・クラインていうキャラがいるんですが、彼女はAIオーダーの名前です。ちなみに、作中の人物と実在の方々は一切関係ありませんのであしからず。
しかし、ジムスパルタン、かっこいいな……第4部打ち切って、こいつで別の第4部を始めたいレベルです笑
しませんけども。
ミヤギとヘントの物語に、もう少しお付き合いいただければ幸いです(gundam-kao6)
次回、
MS戦記異聞シャドウファントム
#47 The shield of valkyria
抗がいたい——抗って、みせる。
なんちゃって笑
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
次回のお越しも心よりお待ちしております。











オリジナルストーリー第46話
コメント
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ミヤギとヘント…あ~焦れったい😅
グレン一党の登場、不穏ですね~👍️
なんだかんだと、やすじろうさんの物語に、良いようにヤラれてます💦
スパルタン❗️格好良いですね~👍️
この仕上がりはたまらんです😍
いつもありがとうございます(gundam-kao6)
わたしも書いててじれったいです笑
もー!てかんじです笑
チタはこの後も寝るまでミヤギに絡むでしょう笑
ていうか、たぶん、部屋で2人で飲み続けます笑
スパルタン、久しぶりに自分でもまあまあ納得できる仕上がりになりました(gandam-hand2)
ジムスパルタンいいですよね。ちょっと前にプレバンの再販がありましたが買えませんでした。あーあ
この先ハチャメチャなことを起こしてくれるであろうキャスト達が静かに絡み合う今回って今後のストーリーにとても深みをもたらしてくれるでしょうね。ヘント隊のキャラクター性も明確になってきて読んでいて楽しかったです。とても良い回でした!
そしてまた、気になる次回予告を残していかれましたね・・・
いつもありがとうございます(gundam-kao6)
わたしも、ディスカウントショップで偶然見かけて……お値段もお手頃でした。過去回想のヘントの機体どうしようかと思ってたので、即ゲットでした(gandam-hand1)
今回は冗長なだけであんまり深まらない気もしますが、どこかで派手に絡んでくれる……はずです!
さて、チタがねらっている”俺”とは誰か……
今後もよろしくお願いします!
ヘントとミヤギの物語は読みたいっす^o^
でもジムスパルタン活躍の描写も期待してます!
今回、気に入ったのはコメディってどんなのやってるの?想像つかない(笑)
毎年、年末に向けて&年明けまでは休み無く仕事に追われてます(T ^ T)
やすじろうさんとの物語とガンスタ投稿作品見るのが休息になってます╰(*´︶`*)╯♡
いつもありがとうございます(gundam-kao6)
ジムスパルタン、いろんな角度から眺めてたらカッコいいお話し描きたくなってきました笑
この実験、昔アン●リ●ボーでやってたんですよね笑 コメディは……なんでしょうね笑 要はお笑い番組だと思いますが、宇宙世紀のお笑い……どんなだろう笑
そう言っていただけるのが何より励みになります(gundam-kao6)お仕事頑張ってください(gandam-hand2)
ついに巡り会えましたね😁 わずかな時間であっても、ミヤギの心が救われてよかった😭
そして、不気味に活動する、恋する乙女、ジン•サナダ、グレン•G•モーレン。そして、ティターンズの部隊。
新サイド5に訪れる暗い影が、どのように影響するのか、
次回作品も楽しみにしています😁
ジムスパルタン、とてもかっこいい機体ですよね😊 おっしゃる通り、連邦軍といえど、特別に機体を割り与えれる余裕はないと思います。どこかのタイミングでの登場も楽しみにしております😁
いつもありがとうございます(gundam-kao6)
引っ張ったわりにあんまりお話しできませんでしたが、本人たちは満足そうなのでいいことにします笑
なんか怪しい奴らが紛れてますね笑
どうなるんでしょうね、そろそろストーリーもMSも動いてくるかな、と思います。
ジムスパルタン、ホントになんかお話し書きたくなってきました笑
そのうちやると思います笑
ぶんどどデジラマストーリー投稿アカウントです。励みになりますので、ストーリーのご感想・誤字脱字の訂正など、ぜひお気軽にお寄せください。
技術がないので、基本的に無改造。キットの基本形成のままですが、できる限り継ぎ目けしや塗装などをして仕上げたいと思っています。
ブンドド写真は同じキットを何度も使って、様々なシチュエーションの投稿をする場合もあります、あしからず。
F91、クロスボーン、リックディアスあたりが好きです。
皆さんとの交流も楽しみにしておりますので、お気軽にコメントなどもいただけますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
(作品投稿のないアカウントはフォローバックしかねますのでご了承ください。)
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