MS戦記異聞シャドウファントム#59 Singlemalt Xmas -Cheers to Amber Eyes- / Dec.25.0087

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 UC0087.12.25、グラナダ。

 エゥーゴとティターンズの騒乱は未だ混迷を極めている状態ではあるが、その不穏さの中でも、銃後の市井の営みは続いている。クリスマス——人類は西暦を捨てたにもかかわらず、やはりこの日は華やいだ空気を皆が味わう。

 昨日、アンナから聞いた、UC0079の12月24日、ソロモン攻略戦の話を思い出す。今も、まだエゥーゴとティターンズの騒乱が落ち着いたわけではない。だが、8年前は本当に、こんなことを楽しむ余裕など、この宇宙にはなかったように思えた。

(戦地にいたから、そう感じただけか……?)

 そんなことを考えながら、氷を伝って注がれていく、琥珀色の液体を見ていた。

「……で、ジオンの捕虜?になっちゃって。民間人じゃないから、捕虜とは言わないのかな?まあいいや。食事がさ、すごい酷かった。」 グラナダの片隅にあるバーの、小さなステージの上では、ギターを抱えた亜麻色のロングストレートヘアーの女が、からからと笑いながら話している。「若い軍人のカップルにお世話になってさ。彼氏の方はパイロット。彼女の方は、天使みたいに可愛らしい衛生兵だった。2人とも、生きているといいけど。」 やがて、軽快にギターをかき鳴らすと、美しい声で歌い始める。「あれって……。」 ロックグラス同士をチンと合わせると、妻のキョウ・ミューラーが言う。「例の”マリア”だろう。お忍びのライブかな。」 ヘント・ミューラーは、応えながら、ジャパニーズ・シングルモルトに一口、口を付ける。ステージ上にいるのは、1年戦争当時から人気のある、反戦シンガーの

「……で、ジオンの捕虜?になっちゃって。民間人じゃないから、捕虜とは言わないのかな?まあいいや。食事がさ、すごい酷かった。」

 グラナダの片隅にあるバーの、小さなステージの上では、ギターを抱えた亜麻色のロングストレートヘアーの女が、からからと笑いながら話している。

「若い軍人のカップルにお世話になってさ。彼氏の方はパイロット。彼女の方は、天使みたいに可愛らしい衛生兵だった。2人とも、生きているといいけど。」

 やがて、軽快にギターをかき鳴らすと、美しい声で歌い始める。

「あれって……。」

 ロックグラス同士をチンと合わせると、妻のキョウ・ミューラーが言う。

例の”マリア”だろう。お忍びのライブかな。」

 ヘント・ミューラーは、応えながら、ジャパニーズ・シングルモルトに一口、口を付ける。ステージ上にいるのは、1年戦争当時から人気のある、反戦シンガーの"マリア"だ。サイド5の航空宇宙祭でもステージがあった、宇宙世紀のスターだ。

 昨日、アンナに呼び出されて行った士官クラブのバーとは違う、隠れ家のようなひっそりとしたバーだ。クリスマスの夜ともなると、さすがに予約を取っていないと入れない。席は当然満席だが、もともとひっそりとやるのがセールスポイントなので、"マリア"のようなスターが来ていても、客でパンパンということもない。

「こういう、落ち着いて、っていうのもいいわ。」

昨日、イブの夜は、キョウにチタ・ハヤミを交えた3人でささやかにホームパーティーをする予定が、結局仲間を皆呼んで、飲めや歌えの騒ぎになってしまった。グラナダにあるエゥーゴの居住区にある、世帯用コンパートメントでは手狭になり、結局上官のラッキー・ブライトマンの助けを借りて、空いていたミーティングルームを急遽抑えた。

「デラーズなんとかだ、エゥーゴだ、ティターンズだ……最近は、何?アクシズ?ハマーン……ハーン……だっけ?」

客からの指摘を受けて、え?違うの?と、声を上げている。

「ジオンの残党?まあ、なんでもいいよ。あたしに言わせれば、アイツらは揃いも揃って、みんな同じバカだから。」

"マリア"が、この宇宙で続く騒乱を痛烈に批判している。

「わたしたちも"バカ"の一員ですね。」

キョウは、苦笑いを浮かべながら、声を潜めて夫に囁いた。

「……どうかな、彼女のいつもの主張だと、わたしたちは除外されるのでは、と思ってしまうがな。」

ヘントの応えに、キョウは不思議そうに数度瞬きした。まあ、続きを聞いてごらん、と、ヘントは言う。ヘントは、割と"マリア"が好きだ。彼女の美しい歌声もだが、その主義主張に気骨があるのだ。

 しかし、”マリア”は、一旦話をやめ、ジャズ調の曲を奏で始めた。

 ウイスキーが好きだろう、と、相手に問いかけるようなフレーズから、曲は始まった。後ろに控えるジャズバンドの演奏も加わり、ムーディーな雰囲気がバーに充ちる。

「あ、この曲……。」

 キョウが、振り返って、ステージを見る。

「覚えてる?」

「ええと……?」

 ヘントが言葉を詰まらせると、覚えていないの?と、キョウは悪戯っぽく微笑む。

「すまん。」

「初めて、2人で飲んだとき。」

「……”ベルベット作戦”の時だな。中東の、ダマスカス。士官クラブ。」「そう。」 キョウは満足そうに微笑んだ。 それは、さすがに覚えている。 一目惚れ、だった、と思う。まだオデッサにいた頃、部隊に着任の挨拶を述べる彼女の、凛とした空気に、堪らなく惹かれた。だが、彼女に好意を抱いていると、はっきりと自覚したのは、中東の作戦の合間に、ダマスカスで酒席を共にしたその時からだ。敵からの夜襲に2人で対応した後、士官クラブで飲んだ。「3人で飲んでいたのに、イギー少尉がいつの間にか席を外して。」キョウが楽しそうに話す。「ああ、そうだったな。」「その時も、この曲、流れていたわ。」「そうだったか?」「そうよ。」 歌詞は、”もう少し話をしよう”と語り掛けるような内容になっている。そうだ。この歌詞。思い出した。「よく覚えているな。」ヘントが感心して言うと、そりゃあそうよ、と、キョウは自信に満ちた顔で胸を張って見せる。「わたし、あなたのこと、大好きだから。」「……出たな、得意のストレート。」ヘントが顔を赤らめると、つられて、キョウも赤くなった。 「そろそろ、よろしいですか?」 幸せそうに笑い合う2人に、バーテンが話し掛けてくる。「ああ、頼む。」「何?」 キョウは、半ば確信しながらも問い掛ける。ヘントは曖昧に応えたが、バーテンがカウンターの下をごそごそとやるのを見て、キョウは目を輝かせた。

「……”ベルベット作戦”の時だな。中東の、ダマスカス。士官クラブ。」

「そう。」

 キョウは満足そうに微笑んだ。

 それは、さすがに覚えている。

 一目惚れ、だった、と思う。まだオデッサにいた頃、部隊に着任の挨拶を述べる彼女の、凛とした空気に、堪らなく惹かれた。だが、彼女に好意を抱いていると、はっきりと自覚したのは、中東の作戦の合間に、ダマスカスで酒席を共にしたその時からだ。敵からの夜襲に2人で対応した後、士官クラブで飲んだ。

「3人で飲んでいたのに、イギー少尉がいつの間にか席を外して。」

キョウが楽しそうに話す。

「ああ、そうだったな。」

「その時も、この曲、流れていたわ。」

「そうだったか?」

「そうよ。」

 歌詞は、”もう少し話をしよう”と語り掛けるような内容になっている。そうだ。この歌詞。思い出した。

「よく覚えているな。」

ヘントが感心して言うと、そりゃあそうよ、と、キョウは自信に満ちた顔で胸を張って見せる。

「わたし、あなたのこと、大好きだから。」

「……出たな、得意のストレート。」

ヘントが顔を赤らめると、つられて、キョウも赤くなった。

 

「そろそろ、よろしいですか?」

 幸せそうに笑い合う2人に、バーテンが話し掛けてくる。

「ああ、頼む。」

「何?」

 キョウは、半ば確信しながらも問い掛ける。ヘントは曖昧に応えたが、バーテンがカウンターの下をごそごそとやるのを見て、キョウは目を輝かせた。

「粋なこと、しますね。」「ど、どうだろうか……。」 しかし、バーテンがウンターの下から取り出した巨大な包みを見て、キョウはわずかに顔を引きつらせた。少し、想像と違っていた。「……大人のプレゼントって、もっと、こう、小さな包みに入っているような……。」え、と、ヘントは驚いたような声をあげる。「もしかして、やらかしたか?」少し、顔色が青ざめる。「拝見します。青ざめるのは、それからでいいんじゃない?」そんなヘントを見ながら、キョウはふふっと微笑み、包みを受け取る。大きさの割には意外と、軽い気がする。そして、丸い。「開けてみても?」「あ……ああ、もちろんだ。」 不安になったのだろう。目が泳いでいる。 そんな夫の様子をひととおり楽しんだ後、”マリア”の歌う軽快なクリスマスソングを聴きながら、キョウは包みを開けた。           中からは、大きな、丸い球体が表れた。球体の中央を横断するように、緩やかな曲線の溝。そして、チョンと、小さな楕円が2つ、瞳のように乗っている。「これ……。」 瞳の楕円が、ピカっと光ると、ソイツは球体の上に付いた小さなハッチを2つ、パカッと開けて、パタパタと羽ばたかせるようにした。

「粋なこと、しますね。」

「ど、どうだろうか……。」

 しかし、バーテンがウンターの下から取り出した巨大な包みを見て、キョウはわずかに顔を引きつらせた。少し、想像と違っていた。

「……大人のプレゼントって、もっと、こう、小さな包みに入っているような……。」

え、と、ヘントは驚いたような声をあげる。

「もしかして、やらかしたか?」

少し、顔色が青ざめる。

「拝見します。青ざめるのは、それからでいいんじゃない?」

そんなヘントを見ながら、キョウはふふっと微笑み、包みを受け取る。大きさの割には意外と、軽い気がする。そして、丸い。

「開けてみても?」

「あ……ああ、もちろんだ。」

 不安になったのだろう。目が泳いでいる。

 そんな夫の様子をひととおり楽しんだ後、”マリア”の歌う軽快なクリスマスソングを聴きながら、キョウは包みを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中からは、大きな、丸い球体が表れた。球体の中央を横断するように、緩やかな曲線の溝。そして、チョンと、小さな楕円が2つ、瞳のように乗っている。

「これ……。」

 瞳の楕円が、ピカっと光ると、ソイツは球体の上に付いた小さなハッチを2つ、パカッと開けて、パタパタと羽ばたかせるようにした。

「キョウ、ゲンキカ、キョウ!」 ”ハロ”というペットロボットだった。「……離れ離れだったときに、渡せれば、なんて思っていたが……。」 1年戦争の英雄、アムロ・レイが所持していたということで、戦後ちょっとした流行になったが、今は巷ではほとんど見ない。機械好きの間では未だ愛好されていると聞くくらいで、まあ、希少性がないことはない。「

「キョウ、ゲンキカ、キョウ!」

 ”ハロ”というペットロボットだった。

「……離れ離れだったときに、渡せれば、なんて思っていたが……。」

 1年戦争の英雄、アムロ・レイが所持していたということで、戦後ちょっとした流行になったが、今は巷ではほとんど見ない。機械好きの間では未だ愛好されていると聞くくらいで、まあ、希少性がないことはない。

「"キッド"の助けも借りて、パーツをかき集めて、組んでみた。」

手製、というわけだ。まあ、特別……な、贈り物、とは、言えなくはないのか。

「この色……?」

カラーリングのカスタマイズは聞いたことがない。たしか元はライトグリーンのボディのはずだが、まるでウイスキーボトルのように、光沢のある深い茶色をしている。

「愛好家の間では、自分たちで思い入れのある色にすることが……その、ある、らしい。調べてみたら、”シングルモルト・カラー”というのがあったから……。」

ヘントは、自身なさげに応える。

 

「……可愛くないわ。」 

 

 キョウは、呆れたようにため息をついた。

「茶色いハロなんて、まるで煮玉子みたいじゃない。」

ところどころ入っているセールカラーも見ると、栗に見えなくもない。

「そ、そうか……渋くて良い色で、評判だと聞いたのだが……。」

 ヘントは、目に見えて狼狽している。撃墜された時よりも焦っているかもしれない。

「愛好家の方々には、そうでしょうけど。」

そうか、と、少し寂しそうな顔をしてから、ヘントは言う。

 「シングルモルト・カラー……君の瞳の色と同じだと思った。」

 言い訳のように、けれど真剣に、ヘントが言った。

「君の瞳は、いつだって綺麗だ。」

そして、静かに続ける。

「だから、このハロも、俺には一番綺麗に見えた。」

 その言葉に、キョウは思わず赤面する。この男は、こういうキザな台詞を、大真面目に、計算なしで言うから始末が悪い。

「あ、ハロだね、それ、懐かしいな、待ってたよ!」

"マリア"の声だ。いつの間にか曲が止まっている。"マリア"のライブは再び"トークタイム"に入ったらしい。ハロの出した声は存外大きく、小さく静かなバーには場違いなほど、人の気を引いてしまったのだ。

「オッス!マリア、オッス!」

「おっす!あたしのこと、知ってるか、お利口だね!」

"マリア"は気さくに返す。

「おい、ハロ、静かにしろ!」

ヘントは慌てたが、"マリア"はいいよ、と、笑う。

「大義とか、理想とか、何だかんだ偉そうに語ってドンパチやってる連中より、ここで平和に飲んで、ハロと遊んでるみんなの方がよっぽど利口だよね。」

「大義とか、理想とか、何だかんだ偉そうに語ってドンパチやってる連中より、ここで平和に飲んで、ハロと遊んでるみんなの方がよっぽど利口だよね。」

"マリア"が笑いをとると、ヘントは気まずそうに縮こまったが、キョウはそれを見て楽しそうに笑った。

「平和って言えばさ、人類みんながニュータイプになれれば、平和になるかもねって話、あれ、みんな、信じる?」

 突然の"ニュータイプ"の話題に、2人は思わずぎくりとした。

「ニュータイプってさ、巷ではエスパーか、スーパーソルジャーみたいな扱いされてるけど……MSにちょっと触っただけで、配線からなにから全部わかっちゃうとかさ。違うよね、それ、絶対。言い出したヤツはさ、"ジュニア・ハイ・シック"……"チューニビョー"って言うの?ジャパニーズ・バトル・コミックを読みすぎだよ。」

けらけらと笑いながら、”マリア”は客との掛け合いを交えながら続ける。

「そう、言葉も使わないで意思疎通をできるって……うん、それが気持ち悪いって人もいるよね。ティターンズとかさ。そうだよね。」

いないよね、ティターンズの人?と、”マリア”は言って笑いを取る。力関係がエゥーゴと逆転したとは言え、なかなか度胸のある発言だ。

「でもさ、言葉を使わないで意思疎通できるって、それもちょっと違う気がするんだよね。」

言いながら、”マリア”は天井を仰ぐようにして、ウーン、と考える。

「”ニュータイプ”の知り合いって、あたしはいないけどさ。意思疎通じゃないと思うんだよね、いろんなとこから聞こえてくる話をちゃあんと聞くとさ。」

言って、"マリア"はまた、視線を正面に向ける。

「たぶん、全部”分かっちゃう”んじゃないかな。意思疎通すら超えて、分かり合えちゃう力。それが”ニュータイプ”なんじゃないかって。」

 真剣な顔でキョウは"マリア"の話に聞き入る。

「戦いを捨てて、分かり合うために強い共感の力を使う。それがニュータイプだろ、って。それはあたしの一応の結論。」

でもさ、と、"マリア"は呟く。

「全部"分かっちゃう"のって、どうなんだろうね。辛いときも、あるんじゃないのかな。」

 キョウは、ハッとする。ヘントも同じのようだ。

「ひとの感情ってさ、綺麗なとこだけじゃないよ。キャッチしたくない部分だってある。だから戦争はいつまでも終わんないんだろ?そういうの、全部、"分かっちゃう"って、辛いよね、きっと。」

ましてさ、と、一息ついて天井を仰ぐ。

「戦場でエスパーまがいのスーパーソルジャーとして使われてんだろ?怨嗟渦巻く戦場にいるニュータイプ……あたしは、心配でならないね。そう言う人たち、あんなとこにいたら、すぐぶっ壊れちゃうよ。」

 グルリと客を見渡す。キョウは、自分と”マリア”の目が合うのを感じた。”マリア”は二ッと笑う。

「ね、さっきの、ハロのお姉さんはどう思う?」

お姉さん、軍隊の人でしょ?とも付け加える。

「……彼女、”ニュータイプ”じゃないですか?」

ヘントを横目でちらりと見て、クスリと微笑む。

「あたしのこと、”ニュータイプ”だって、いま彼氏に聞いたね?違うよ、こうして人に揉まれてりゃ、どんな人かはすぐ分かるよ。」

気持ちよく笑い、再びギターをかき鳴らす。

「まあいいや。なあんか2人とも幸せそうだし、さっさと軍隊なんかやめちゃいなよ?そんなお仕事、くだんないよ!」

言いたいことだけ言うと、こちらの返答も聞かず、”マリア”は再び歌い始めた。持ち歌の、”アメイジング・グレイス”だ。

 突然の”奇襲”に面食らったものの、2人はその美しい歌声に聞き惚れ、そして、凛とした姿に見惚れるように、しばらく無言で並んでいた。 キョウは、ちらりと夫の横顔を盗み見た。作戦を打ち合わせるときの、鋭く真剣な眼差しも惹かれるものがある。しかし、やはり、地球の大地が育んできた人々の営み、文化に触れ、うっとりと優しい眼をしているときこそが、彼の本当の、愛すべき姿なのだと、キョウは改めて思う。「さっき、彼女の批判の対象から、わたしたちは除外されるのではないか、って、あなた、言ったけれど……。」キョウは、ポツリと呟く。「うん?」「やっぱり無理ね。戦いを捨てたい、とは思っている。けれど、まだ、わたしたち、戦場にいるもの。」少し寂しそうに笑いながら、キョウは言う。そうだな、と、ヘントも同意を示す。「だが、目指すべきはそこだ。」ヘントは、カウンター上のロック・グラスにそっと指先で触れながら言った。、「目指すべきところ?」ああ、と、ヘントは応える。「彼女の批判の届かないところ。」「また、独特な言い方を……。」キョウが苦笑を浮かべたが、ヘントは余裕のある微笑みを浮かべた。「言い方など。」ヘントは続ける。「アクシズとの騒乱が落ち着けば、戦場を降りる。そうすればもう、俺たちは平和なカレー屋だ。」先程の、ハロの

 突然の”奇襲”に面食らったものの、2人はその美しい歌声に聞き惚れ、そして、凛とした姿に見惚れるように、しばらく無言で並んでいた。

 キョウは、ちらりと夫の横顔を盗み見た。作戦を打ち合わせるときの、鋭く真剣な眼差しも惹かれるものがある。しかし、やはり、地球の大地が育んできた人々の営み、文化に触れ、うっとりと優しい眼をしているときこそが、彼の本当の、愛すべき姿なのだと、キョウは改めて思う。

「さっき、彼女の批判の対象から、わたしたちは除外されるのではないか、って、あなた、言ったけれど……。」

キョウは、ポツリと呟く。

「うん?」

「やっぱり無理ね。戦いを捨てたい、とは思っている。けれど、まだ、わたしたち、戦場にいるもの。」

少し寂しそうに笑いながら、キョウは言う。そうだな、と、ヘントも同意を示す。

「だが、目指すべきはそこだ。」

ヘントは、カウンター上のロック・グラスにそっと指先で触れながら言った。、

「目指すべきところ?」

ああ、と、ヘントは応える。

「彼女の批判の届かないところ。」

「また、独特な言い方を……。」

キョウが苦笑を浮かべたが、ヘントは余裕のある微笑みを浮かべた。

「言い方など。」

ヘントは続ける。

「アクシズとの騒乱が落ち着けば、戦場を降りる。そうすればもう、俺たちは平和なカレー屋だ。」

先程の、ハロの"誤爆"とは別人のように迷いがない。

 砂漠では、命令を無視して、キョウの危機に駆けつけた。

 北米では、彼なりに決心したはずのプロポーズを断っても尚、待ってくれた。

 この8年が、彼の本気を何よりも雄弁に物語っている。今度も、キョウのために、ヘントは何としても生き残り、そして、何の未練もなく軍籍を退くだろう。

「ハロ、おいで。」 キョウが手を差し出すと、ハロはパタパタと耳を揺らして、カウンターの上から彼女の膝にポンと弾んできた。茶色に見えるボディは、角度を変えると、黄色とオレンジのような、深い色合いも見える。「琥珀色……そう言われれば、悪くない色ね。」  光沢のあるボディに、バーの照明が反射して、キラリと輝く。背面には桜の紋様と、22の数字が刻まれている。

「ハロ、おいで。」 

キョウが手を差し出すと、ハロはパタパタと耳を揺らして、カウンターの上から彼女の膝にポンと弾んできた。茶色に見えるボディは、角度を変えると、黄色とオレンジのような、深い色合いも見える。

「琥珀色……そう言われれば、悪くない色ね。」 

 光沢のあるボディに、バーの照明が反射して、キラリと輝く。背面には桜の紋様と、22の数字が刻まれている。

「大切にします……ありがとう、あなた。」 キョウは、ハロを胸に抱きしめると、ヘントに向けて、とびきりの笑顔を見せた。「ヘント、ダイスキ! ヘント、ダイスキ!」 空気を読んだのか、単なる偶然か。ハロが甲高い声で叫ぶ。「……教育が必要だな、こいつには。」 「いいじゃない。間違ったことは言ってないもの。」ふふ、と笑いながら、ハロを抱えたままロックグラスを手に取った。「君の指摘通りだ。

「大切にします……ありがとう、あなた。」 

キョウは、ハロを胸に抱きしめると、ヘントに向けて、とびきりの笑顔を見せた。

「ヘント、ダイスキ! ヘント、ダイスキ!」 

空気を読んだのか、単なる偶然か。ハロが甲高い声で叫ぶ。

「……教育が必要だな、こいつには。」 

「いいじゃない。間違ったことは言ってないもの。」

ふふ、と笑いながら、ハロを抱えたままロックグラスを手に取った。

「君の指摘通りだ。"マリア"の言うとおり、俺たちはまだ"愚か者ども"の仲間だ。」

ヘントもまた、ロックグラスを手に取る。

「だから、次も、生き残る。そして、"マリア"の言うとおり、こんなくだらない仕事を終わりにしよう。」

言って、キョウの持つロックグラスに、チン、と合わせる。

 その後、UC0087の年末からUC0088に掛けて、エゥーゴ、ティターンズ、そしてアクシズの三つ巴の戦い、後の世に言う”グリプス戦役”は最終局面に突入する。年明け早々に、コロニーレーザーを巡る決戦や、メールシュトローム作戦が展開され、数多の命が宇宙に散ることになる——。

 その後、UC0087の年末からUC0088に掛けて、エゥーゴ、ティターンズ、そしてアクシズの三つ巴の戦い、後の世に言う”グリプス戦役”は最終局面に突入する。年明け早々に、コロニーレーザーを巡る決戦や、メールシュトローム作戦が展開され、数多の命が宇宙に散ることになる——。

 だが、今は、この静かな夜に——平和に肩を寄せ合う2人に、祝福が注がれることを祈るばかりである。 琥珀色の液体と、琥珀色のハロ、そして、愛すべき琥珀色の瞳に乾杯を—— メリー・クリスマス! 【#59 Singlemalt Xmas - Cheers to Amber Eyes- / Dec.25.0087 fin.】MS戦記異聞シャドウファントム 4.1部「乾杯、生き抜いた者たちへ」

 だが、今は、この静かな夜に——平和に肩を寄せ合う2人に、祝福が注がれることを祈るばかりである。

 琥珀色の液体と、琥珀色のハロ、そして、愛すべき琥珀色の瞳に乾杯を——
 メリー・クリスマス!
 

【#59 Singlemalt Xmas - Cheers to Amber Eyes- / Dec.25.0087 fin.】

MS戦記異聞シャドウファントム 4.1部

「乾杯、生き抜いた者たちへ」

メリークリスマス笑以前、存在をボツにしたミヤギ専用ハロ、やはり設定を捨てきれず、登場させてしまいました笑シャドウファントムを投稿し出したのが、4月。まだ1年も経っていませんが、なんだか彼らには、もう何年も付き合ってきた気分です笑ヘントとキョウにも、歴史のようなものがあるようで、いちゃいちゃするときに「どうですか?」「どう思う?」みたいにわざと質問を返してはぐらかす、みたいなやり取りなど、2人の間の会話のくせみたいなものなども、書いているうちに自然に出てきました笑気持ち悪いかもしれませんが、キャラクターが生きていて、勝手に動いている感じがします笑

メリークリスマス笑

以前、存在をボツにしたミヤギ専用ハロ、やはり設定を捨てきれず、登場させてしまいました笑

シャドウファントムを投稿し出したのが、4月。まだ1年も経っていませんが、なんだか彼らには、もう何年も付き合ってきた気分です笑

ヘントとキョウにも、歴史のようなものがあるようで、いちゃいちゃするときに「どうですか?」「どう思う?」みたいにわざと質問を返してはぐらかす、みたいなやり取りなど、2人の間の会話のくせみたいなものなども、書いているうちに自然に出てきました笑

気持ち悪いかもしれませんが、キャラクターが生きていて、勝手に動いている感じがします笑

新ヒロイン?の

新ヒロイン?の"マリア"は、第4部にちょっとだけ登場しています。監修には、シャドウファントムシリーズ大手コラボ先でご存じの笑ヨッチャKIDさんがかかわっている、強気系ヒロインです笑

実は、新年からやろうと思っていた企画のヒロイン?として考案しておりましたが、今回先行して登場させました。

ヒロイン投票にも参戦させておりますので、ビビッと来た方はぜひ投票お願いします笑

顔がキョウ・ミヤギもといミセス・ミューラーとおんなじですね(gundam-kao5)

一昨日、忘年会の差し入れ用に宮城峡買いに行ったら、パッケージが変わっていました。レッドブラウンだった部分が緑になっていました。宮城→仙台→杜の都のイメージですかね?笑

今回のキョウ・ミューラー(ミヤギ)のセーター、緑にしたのはたまたまですが、何となく嬉しい偶然でした笑

もとから緑のパッケージならガンキャノンやジムスナイパーは緑になっていたかもしれません……緑だと弱そうだな笑

えーと、どうでもいいオハナシですが、せっかくなので、執筆でこだわった点を幾つかご紹介します。

 

1.『回線、オープンですけど?』

 ヘントとミヤギがいちゃついてる時によく入るツッコミです。第3部ではイギーが、第4部ではアンナに言わせています。あのバカップル、絶対ワザとだろ……。

 

2.「どう思う?」

 ヘントとミヤギがいちゃつき始める合図です。第3部ラスト、第4部のレセプションの回、最終話などで出てきます。

 

3.キョウ・ミヤギ(ミューラー)のにっこり

 ここはこだわったわけではないのですが、第2部と第4部のラストは、図らずも対になる構成になりました。

・いずれもキョウの「にっこり」からのヘントへの宣言

・2部は「カレーについての言及」(キョウから、特に意図はなかったが、ヘントが勝手に期待)「わたしのことを愛しておいででしょう?」(相手からの返事を強要)「負けません」(これからの駆け引き)

・4部は「カレー屋への言及」(ヘントから、互いに同じ意図を汲んで)「地球であなたと暮らしたい」(共に歩む姿勢を主体的に伝える)「あなたと生きていきたい」(駆け引きなど不要な寄り添う姿勢)

と、言う感じです。

他にも、色々小ネタは挟んでいます。

昨日のも、'井戸のカイブツ"とか、"ニンジン"とか、結構ふざけてみましたが、幾つお気づきいただけたでしょうか?笑

今年はあと3本ほど、紅白戦で投稿させていただきます。ぜひ、最後までお付き合いください。

今年はあと3本ほど、紅白戦で投稿させていただきます。

ぜひ、最後までお付き合いください。

オリジナルストーリー第59話

コメント

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  1. cinnamon-1 2時間前

    バーでゆったり過ごす二人の時間、思い出、とても良い雰囲気ですね😆

    ヘントの粋なプレゼント🎁、琥珀色のハロもめちゃおしゃれな大人のカラーリングてま素敵です🤩

     

    マリアの歌、そしてトーク。

    マリアの的確なコメントに言葉の影響力を感じます😊

     

    戦場から離れた日常、深い話、とても良い内容でした👍😊

     

    紅白戦も楽しみにしていますね😊

    • いつもコメントありがとうございます(gundam-kao6)

      この2人の話になるときは、いつもそうなんですが、ホントにGUNSTAに投稿していいものか悩みます笑

      苦し紛れに出したプラモもハロと過去作だし笑

      マリアは年明けの企画で活躍?する予定です。キャラクター造形が結構気に入っているので、他のキャラクターたちのように皆さんに愛していただけたら幸いです。

      紅白戦もよろしくお願いします(gundam-kao6)

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