F/MD-033 CHIMeR WOLF
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これまでのあらすじ
“仮面武闘会(マスコリーダ)”での初戦を、華々しい勝利で飾ったミオリネとエリクトの新しいガンダム・ローゼッテ。
舞台は移り、望みを賭けた者たちの武闘(ダンス)はつづく…
「アーシアンのテロリストどもめ!卑劣な事をしやがる!
ドミニコス隊員の家族を人質に取るなんて…
お、おい!子どもが埋まっているぞ!酷い状態だが息はまだある。…GUNDなら、GUND医療ならこの子の命、まだ希望はあるんじゃないか⁉︎」
「クルーヘルさん、事態は一刻を争い、お子さんの命を救うにはこれが唯一の手段です。早く同意書にサインを!」
「…出来ない。出来ないんだ、GUND医療を承諾する同意書にサインなんか。GUNDを取り締まってきたドミニコス隊員として、自らが異端の門を叩く事など…」
オルコットは、コクピットに座りながら震える右手を義手と化した左手で押さえた。その名すらもかりそめのものではあったが、この“仮面武闘会(マスコリーダ)”に参加するにあたり、狼の仮面を被り“夜明けの狼”を名乗って。
夜も眠れぬ程うなされる事こそ少なくなったが、今でもあの日の記憶を忘れることは出来ていない。
闘技場では次の試合のアナウンスが響いていた。
「さて、それでは戦いはBブロックに移ってまいります。
続いては一回戦 Bブロック 第一試合
決闘上等!後輩思いの熱いパイセン!
デミ・フルバーディングを駆る、エントリーネーム・地球番長 選手!
対
歴戦の風格漂う孤高の一匹狼
シメール・ヴォルフを駆る、エントリーネーム・夜明けの狼 選手!
なお、本試合は嗜好を凝らしました変則マッチと致しまして、“廃墟ステージバトル”となります。障害物多数の廃墟ステージにて、身を隠しながらの駆け引きあり、過去の挑戦者たちが残していった武器の使用もありの、これまでの真っ向勝負とは一味違ったスリル溢れる試合をお楽しみ下さい!」
「な〜んだよ、廃墟ステージバトルって?あーしは聞いてねぇっつーの!」
「両者向顔」
「ゲリラ戦ということか。好都合だ!」
「西に弱き敗者あり 東に強き敗者あり
勝者はただ最期まで踊り続けた者のみ!
決心解放!!(フィックスリリース)」
試合開始直後から、両者の行動は対照的だった。
障害物などお構い無しとばかりに猪突猛進、特効をかけるデミフルバーディングを、シメール・ヴォルフは身を隠しながら待ち伏せる。
「どこ行ったー!かくれんじゃねー!テメー!!」
「これだけ遮蔽物がありながら、自ら飛び込んでくるバカがいるとはな。」
シメールヴォルフは物陰からライフルを浴びせるが、デミフルバーディングに有効打を与えられた様子は無い。
廃盤となった型遅れの部品を繋ぎ合わせてようやく作られた機体と、ブリオン社の次世代コンセプトモデルとしてコストを惜しみなく注ぎ込まれたMSとでは、その機体性能には雲泥の差があって当然だった。
オルコットが接近戦に切り替えようと構えたアーミーナイフを、チュチュは咄嗟にライフルで受け、2機は組み合う。
「地球番長…アーシアンが何故ブリオン社のワンオフ機なんか駆っている?雇われたのか?」
「んなわけねーし!あーしは地球寮の後輩たちにちっとは良いとこ見せてやんねーとって、土下座までしてMS借りてきてんだ!」
「なるほどな。なら、その機体、傷モノにならないうちに返したほうがいいんじゃないのか?操縦技術と機体性能は釣り合っていないようだ。」
「うっせー!!おっさんこそ、よく見りゃつきはぎだらけのポンコツの機体じゃねーか!ようやく動けるようなMSでこんなところ出て来て、怪我しねぇうちに帰んな!」
近距離通信での挑発的な応酬の後に、シメールヴォルフは再び距離をとり姿を隠す。
「技量はまだまだだが、拳を通して伝わってくる熱量が本物だという事は分かったさ。
アーシアン同士が潰し合うのは本懐では無いが、こちらも背負っているものがある以上、勝って先に進まなければならない。アーシアン、とりわけ難民たちの権利保証は未だに軽んじられているのだから。」
ハッチが開き、ミサイルポッドから発射されたのは煙幕弾だった。辺りはは瞬く間に見通しの効かないステージと化す。
「センサー異常⁈コレって、ただの煙じゃねぇのかよ?」
「これは電波撹乱など特殊な効果をもたらす煙幕弾だ。戦闘用に調整されたセンサーのMSでは、この煙霧の中じゃまともに身動きは取れない。
ヴァナルガンド、狩りを始めるぞ!」
その言葉と共に、シメールヴォルフは背中に背負っていた巨大なフライトユニットをパージした。
その大きな鉄塊だったものから四肢が展開すると、もうそこには自らの脚で大地に立つ黒い獣がいた。
「あ、あれは…!!」
その様子を見て、ミオリネの予告で試合を観戦していたラジャンは驚きを隠せないようだった。
「ラジャン、何なの?あれは?」
「ミオリネ様ぐらいの世代ならば、もうアレをご存知無くても無理はないでしょう。
アレはとうに忘れられた過去の遺物。
歴史上の出来事として、ドローン大戦の事はご存知でしょう?」
「えぇ、歴史の授業でね。MS開発が始まるもっと前、人類が地球で経験した最後の世界大戦の事よね?」
「その名の通り、あの戦争では生身の兵士ではなくドローン兵器が戦場の主役となりました。攻撃しても流れるのは血ではなくオイルであり、やがて痛みを伴わない戦闘行為は全世界に拡大、歯止めの効かない世界大戦となったのです。だからこそ、“愚かなる戦争行為の引き金は機械ではなく人が引くべき“との自らへの戒めとして、MS開発評議会が設立され、人型機動兵器の開発の歴史が始まりました。
あの獣型ドローンも、かつてその戦場で俊敏性と攻撃性から最も恐れられたタイプの一つです。しかし、まだ動く個体が居たとは…」
暗い霧に覆われたステージで、目を奪われたデミフルバーディングは、暗闇からいつ現れるか分からない攻撃に身構えていた。
「チクショー!あっちのセンサーも同じように効かないはずなのに、なんでこっちの位置が正確に分かるんだよ!」
「この煙霧の中で動けるものは、よく聞こえる耳とよく効く鼻をもつ者だけさ。」
獣型ドローン・ヴァナルガンドと、シメールヴォルフは、この暗がりの中でも的確にヒット&アウェイを繰り返す。
MS格闘技の為に用意されたステージとはいえ、やはり瓦礫の折り重なった街並みは、あの日、妻子がテロに遭った時の光景によく似て、オルコットの古傷を疼かせた。
あの時、自分は自らの掲げる正義を通す為に、妻が身を挺して庇った我が子の命すら見捨てようとした。
結果として、妻は助からなかったものの、子どもは一命を取り留めた。
担当医師は自らの判断でGUND医療を使用して救命措置を施したのだ。
男には普通ならば、父親として何とか助かった我が子を育てる責任があった。妻が我が身を盾にし、医師も懸命に治療して救ってくれた小さな命。
だが、あの日あの時、男の中でそれまで信じていた全ては無残にも崩れ去っていた。
「ドミニコス司令部、こちらチーム2リドリック。
アーシアンのテログループはスペーシアの民間人を人質に取ったまま依然立て籠っています。犯人は『ドミニコス隊の地球からの撤退と、カテドラルの解散』を要求している模様。」
「ドミニコス司令部より、チーム2リドリック。
別働隊のチーム1が突入して人質の確保に成功したとの報あり。チーム2は、ただちにMSによる攻撃で目標を制圧せよ。ドミニコスがテロリストの要求に屈する事などあってはならない。繰り返す、チーム2は、ただちにMSによる攻撃で目標を制圧せよ。」
後にメディアへは“自爆テロ”と発表されたその爆発の引き金を引いたのはリドリックである。
実際には別働隊が突入に手間取った事により、民間人にも犠牲者を出した誤射だった。
我が子を見捨ててまで通そうとした自らの正義には、果たしてどれ程の価値があったのか…
再び目を覚ました我が子に合わせる顔など無かった。
男は子どもが無事回復し、成人するまでに不自由無く暮らせるよう財産の全てを病院に預けると、『リドリック・クルーヘル』という名前と、ドミニコス隊員の職を捨て、地球へと立ち去った。
「捨てただろ。要らないんだよ…そんなものはっ!!」
哀しみを絞り捨てるようなオルコットの叫びに対し、ヴァナルガンドは大地を駆けまわることの出来る喜びに満ちているかの様子だった。
「しゃんなろー!いつまでも卑怯に隠れ回ってないで出て来やがれー!!」
チュチュが痺れを切らして手当たり次第に掴んだその手は、かつての参加者が遺していったらしいハンマーを握っていた。
「地球番長舐めんなーーー!!!」
ハンマーを勢いよく回した遠心力と風圧で、意図せずしてデミフルバーディングの周囲の煙霧は晴れた。
「チッ、運は良いようだな。こちらも何か致命打を与えられるような得物を探すか…」
そう言ってシメールヴォルフが手に掴んだそれは、剣と言うにはあまりにも大きすぎた大きく分厚く重くそして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった。
それでも、今なお廃墟ステージにはシメールヴォルフの姿を隠すだけの煙霧は残っている。
互いに必殺の武器を構えている以上、試合は次の一撃で決するであろう。
そのヒリヒリするような静寂の間を突如として、狼の遠吠えのような音が破る。
「ヴァナルガンド、なぜ目立つような真似を⁉︎」
「そっこだぁーーー!」
デミフルバーディングの構えは大ぶりだったが、自ら位置を晒したヴァナルガンドを捉えるには充分だった。
無残にも簡単に押しつぶされる軽量化を優先したフレーム───
だが、それは同時にその巨大すぎる大剣を振りかざす千載一遇の隙を生み出した。
「そこだー!!!」
感情を押し殺しているかに見えたオルコットの、力の限りの雄叫びと共に、デミフルバーディングの頭部が中に舞う。
「試合終了!
勝者 夜明けの狼!!」
「終わったわね。でも、どうしてあの獣型ドローンは遠吠えで位置を晒すような真似をしたのかしら?囮になる様パイロットからの指示だったとか?」
疑問に思っているミオリネに、ラジャンは静かに耳打ちをした。
「疑問に思って急遽調べさせていたのですが、あの獣型ドローンには、GUND-ARM開発の為の前段階としてGUNDフォーマットのテストヘッドとして流用された個体が一部あったそうです。
そして、“夜明けの狼”を名乗るオルコットこと『リドリック・クルーヘル』には、テロ事件により身体の大半を一時GUND義体化した息子が居たようなのですが…やはり研究段階で禁止された技術です。相性などもあったのでしょうが、数ヶ月前から病院のベッドの上で意識不明の状態だった様です。」
「あの子の意識もね、こっちに、データストーム空間に居たんだけどね。
パーメットリンクを介して、あのドローンをオーバーライド出来るよって教えたら行ってしまったんだ…
きっと、お父さんと一緒に走り廻ってみたかったのかも知れない。」
エリクトのその言葉に、ミオリネはハッとして口元を押さえる。
「あの子、、だった、のか?
あんなに戯れるように走り廻っていたのは。
俺に、チャンスを生む為に、囮になってくれたのは?」
オルコットは再び右の手を押さえるが、その声は涙に震えていた。
その数時間後───
「前の試合では手慣れた戦いぶりを見せた歴戦の戦士も、この男の前では無力なのかー⁉︎
前大会では無傷の優勝を飾った、日没する処の戦士
勝者 漆黒の騎士 !!」
【機体解説】
F/MD-033 シメール・ヴォルフは反スペーシアン組織“フォルドの夜明け”のパイロット・オルコットが『仮面武闘会』に出場する為に用意されたMSである。
シメール(仏語:合成獣、キメラ)の名が示す通り、旧ベネリットグループ傘下の企業から売却された中古部品や、戦闘により破壊された機体から取り外されたジャンクパーツ、旧オックスアース社の工廠から接収された装備などを強引に繋ぎ合わせただけの物であり、機体バランスや操縦性は全く考慮されていない。
互換性や整備性も劣悪であり、「動くのがやっと」と言われる程のガラクタだが、オルコットの操縦技術や、長年不利な機体で戦い抜いて来た戦闘経験により、最新型にも引けを取らない動きを見せる。
本機最大の特徴である背部に背負う巨大なフライトユニットは、かつてのドローン大戦時に猛威を奮ったとされる獣型ドローン・ヴァナルガンドであり、新規装備を開発する余裕の無いアーシアン陣営が、過去の遺物を発掘・修復して搭載したものである。
狼を参考にしたと思われる機体構造は、俊敏性と探知能力に優れ、通常のセンサーが効かない状況下においても、高感度ソナーと匂いセンサーにより、正確に敵を把握する。
クローや、四肢に配置されたブレードの他にオプション武装の銃火器を装備して、MSの支援攻撃を行うことも可能。
AIによる自律戦闘が基本だが、他のドローン兵器と同様、パーメット通信の逆流によるデータストーム空間からのオーバーライドには脆弱性を抱えている。
【あとがき】
第3章、ここにきて大幅に遅れて、ようやくアップ出来ました😅
ここのところ遅々として制作が進まず、執筆も進まず。
原因は、この第3章が元々物語の大筋にはあまり関与しない回だった為、プロットを省略しておりアイデアが湧かなかった事。
そして、11月中に一度方向性は固まりかけたのですが、展示会に参加して偉大なモデラー諸兄の作品たちを目にした事で「自分自身がしっくり来ないモノを仕上げる訳にはいかない!」ともう一度土台を白紙から練り直したことです。
おかけで、オルコットの為の漢くさい機体が出来上がりました!
本体は、機体解説どうりディランザとザウォート・ヘヴィのポン付けミキシングで、敢えてつぎはぎ感を出しました。
ブラウンと、クラウド迷彩で渋さを演出。
獣型メカは、ほぼ30MMドッグメカそのままですが、背負った時のバックパックとしてのまとまり感と、サンボルFAガンダムぽいシルエットが気に入っています。
頭部はザウォートですが、狼っぽく見えるよう耳と鼻を付けたら、まるでジオン系みたいなシルエットになりました🐺笑
闘技場で拾った必殺アイテムということで、ドラゴン○ろしならぬ、ヴァルキュリアバスターソードも持たせました。
おとこは黙ってでっかい剣❗️w
相手役という事で、デミフルバーディングにも新規武器を持たせました。チュチュパイセンにはやっぱり鈍器やろ❗️という事で、殺意高そうなハンマーですw
今回も自作デカールをペタペタ貼ってます。
狼のパーソナルマークは、今回1番カッコ良く出来たかも!
デミフルバーディングの方は、キャラを意識して特攻服の刺繍をイメージしたデザインです。
劇中では登場しませんが、フル装備状態です。大剣担ぎはやっぱり映える❗️
第3章では、アニメ本編では意味深に描かれながらも、明確に多くは語られなかったオルコットの過去を勝手に妄想して描いてみました。彼もまたGUNDに翻弄された者の1人であり、カテドラルとドミニコスの正義とは?を絡めた内容としました。どことなく、自分の好きなイグルー風味の味付けになったと思います☺️
そして、いよいよライバル機の登場となります❗️
次回もお楽しみに✨
甦る銀狼
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バックパックのワンワンがK-9のハウンドを彷彿させ、正に2dog
UC.60生まれ
ジオン第四工科大卒
1年戦争時 工兵の不足により工業科学生でありながら学徒動員・徴用され第603技術試験隊においてオリヴァー・マイ技術中尉付きのメカニック見習いとして、様々な機体に携わり無事終戦まで生き残る。これは、彼の肉眼に映った兵器たちの記録である。
主に微改造・全塗装で仕上げている初心者モデラーです。
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