機動戦士ガンダム ウォッチ・ドッグス 第八章「ロミオ」
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「少尉、先行したケンパルからの通信は?」
「依然として応答ありません」
「また厄介ごとじゃないだろうな…」
レーゼンビーは帽子をクッと整えた。
「仕方ない、我々も後を追うぞ。進路をロサ・ギガンティアIIのポイントへ」
「了解」
操舵のガラリア少尉である。
レーゼンビーは隣で頭を抱えるグレッドに目を向ける。
「どうか?」
「嫌な予感がする」
グレッドはニュータイプとしてでなく、凡人として答えた。
「そうか、心を落ち着かせておけ」
「デッキに戻ります」
グレッドはブリッジの扉を開けた。
モビルスーツ・デッキではルドウィグのヴィル・サンパーク大佐とホンマ大尉が話していた。
「グレッド、来たか」
「はじめましてパトラス大尉。私がルドウィグの艦長ヴィル・サンパークだ」
「あなたが…お怪我はありませんか?」
「まあな。それよりその物資を無事運べてよかったよ。ラインガルにも何機か入ったはずだ」
「サラ・ホリン中佐の船ですね。あそこもなかなかに良いパイロットが揃っていると聞きます」
「期待しているよ!」
サンパークは振り返って手を振って行った。
「それで、うちの隊に新しい機体が?」
「そうだ。この三機だ」
ホンマはオリーブドラブに塗られた三機のジェガンを指差した。
「左からジェガン・スナイパーカスタム、インターセプトカスタム、ガードカスタムだ。一年戦争のジムのエースパイロット向けバリエーションの再現さ」
「パイロットは?」
「スナイパーにはドリスが乗ると聞いた。あとはあんたに任せるって艦長がな」
また面倒な仕事を増やしてくれたと、グレッドは艦長を恨んだ。
「そうだな……アディス中尉はインファイト向きのスタイルだからガード、ルクレ少尉は機体の制御が良いしインターセプトといこうか」
「了解だ、隊長」
ホンマはわざとらしく敬礼してみせた。
「あ、そうだ。あんたにも来ているぞ」
「スターライトに?」
「あれさ」
スターライトの股間に何か長方形をしたユニットが取り付けられていた。
「これは?」
「隠し腕さ。ビーム・サーベルなんかが使える。不意打ちに使えるさ。もし使いづらかったら、戦闘中でのパージも可能だ。好みでやってくれ」
「まあ、使ってみるよ」
デッキの通信機が鳴き声を発した。
「パトラス大尉です」
「大尉、間も無くロサ・ギガンティアIIのポイントに到着する。発進準備だ」
「了解」
グレッドはスターライトに、他三人は新たな機体に乗り込み、発進シーケンスを開始した。
「スターライト、出る!」
「ドリス・マードック、スナイパーカスタム、出ます!」
「アディス・フレクソン、ガードカスタム、出るぞ!」
「ルクレ・ルシハット、インターセプトカスタム、行きます!」
四機はそれぞれ発進した。
グレッドたちの目にも枯れ果てた薔薇が映し出された。
「こりゃひどい……中将はよく映像を送ってこられた」
「隊長、どうします?」
「俺は重力ブロックへ向かう。ドリスはエンジンブロック、アディスは工廠ブロック、ルクレはそのまま待機していてくれ」
「「「了解」」」
四人はそれぞれの位置に潜り込んでいった。
重力ブロックはエンジンブロックのすぐ前にあり、損傷が大きかった。グレッドは回転を止めたそのブロックの小さな穴にスターライトを潜らせた。そこにはモビルスーツ用のライフルやパーツが散乱している。恐らくここで撃墜されたのだろう。
グレッドは機体から降り、辺りを見渡す。そこで廊下につながる穴を見つけた。ワイヤー・ガンを使って飛び移ると、踏み出した面が崩れた。無重力だが、ワイヤーの巻き取りによる引力は大きく、グレッドは左足にあざを作ってしまった。
腕で這い上がると、廊下がある。だがグレッドが気にしたのはそこではない。奥に誰かがいる。彼はそのまま壁を蹴り上げて突き当たりを目指した。腰から拳銃を取り出し、構えると、ようやくその人影がはっきりと見える。その人影はこちらとは反対の向きに立っていて、どこか奇妙であった。顔は見えない。ノーマルスーツのバイザーで隠れている。そのスーツはネオ・ジオンのクローン兵士用のものによく似ていた。その体格から少年ということはわかる。
「君は?」
グレッドは何かの思惟に魅入られるように訊いた。
少年の顔がはっきりと見えた。青いつぶらな瞳には広大な宇宙が広がっている。それは比喩でも外の景色でもなく、グレッドにそう見させたのだ。
「誰なんだ! 君は!」
その問いは鋭く、悲鳴のように轟いた。
「脅迫しているのか⁉︎」
その叫びが少年に届いたようで、少年は少し笑った。彼は青い瞳をキュッと閉じて、可愛らしい笑みを浮かべるのだ。
「何がおかしい……! 大人をからかっ……て……」
グレッドが言葉を詰まらせたのは、その言葉が彼の最も嫌う言葉だからだ。
「……」
少年は振り向き、奥の方へ進んだ。
「おい!」
グレッドもそのあとを追う。すると少年は一つの扉を開けた。グレッドも同じように入るともう一つの扉。それも開けて中へ入ると、そこはまだ明るかった。中央にはあの少年が、ヘルメットを外して立っていた。その髪は明るい茶色で、サラッとまとまったマッシュ・ヘアーだ。肌もうんと白く、綺麗だった。振り返ると、その頬には火傷のような痕があり、広大な雪の王国を悪魔が滅さんとするようであった。少年はこちらを見つめる。
「ここは空気が残ってるんだ。少しだけどね」
「君は一体……」
「僕、ロミオ。あんたは?」
少し生意気にも思ったが、彼の笑顔がその感情を包み隠していた。
「俺は……グレッド。グレッド・パトラス」
恐る恐る名前を言った。スーツからジオンということは分かっていたが、思わず言ってしまった。いや、言わせられたのだ。
「あんた、ニュータイプでしょ?」
ロミオはグレッドの瞳を見ながら言った。
「俺は……ニュータイプじゃない」
「嘘だ。その瞳とオーラが言ってるもん」
グレッドは戦慄した。これが本物だと。
「君こそそうだろう?」
「そうだけど、僕は完全な自然種じゃないから」
「クローン……ニュータイプ?」
「そう。まあ僕は失敗作らしいけどね」
「その力を失敗としたヤツの顔を見てみたいものだな?」
グレッドは片方の眉を上げてそう言った。
「力じゃない。性だよ」
「性、まさか君……」
「あんたの想像通りだよ」
グレッドはロミオのノーマルスーツの意味を理解した。
「……戻らなきゃ」
ロミオは左手の通信機を確認し、天井へ上った。
「どこへ行く!」
「仕事だよ」
「子供が仕事に行くか!」
天井のタイルがカパッと外れてそこにロミオの細身が流れていく。グレッドはそこを除くと黒い何かが蠢くのが見えた。それはモビルスーツである。
「まずいな」
グレッドは部屋を後にし、スターライトのコクピットに戻る。道のりははっきりと覚えていた。
「ニュータイプは厄介だ。俺だけでやれるのか?」
その自問がニュータイプを自覚しない証拠だ。
「隊長! 敵機です!」
ドリスの声だった全て予想していた通りなのだ。
「分かった。そちらに向かう。あと、ニュータイプ専用機がいるはずだ。気をつけろ」
「ニュータイプ専用機⁉︎」
「とにかく向かう!」
グレッドはスターライトのテールノズルを全開にした。
「こいつ、手強い…!」
ドリスは狙撃手に苦戦していた。相手がエースであることはすぐに分かった。
「なかなかやるな…こいつ!」
リリーも同じようにドリスを見ていた。
「なんだ! この速いヤツ!」
ヒル少尉はルクレ少尉のインターセプトカスタムについていくのが精一杯…いやそれすらできなかった。
「ロミオって人は! どこにいるの!」
その時、二条のビーム光がインターセプトカスタムのプロペラント・タンクを破裂させた。
「何かにやられた⁉︎」
同じ頃、ドリスとアディスにも同じビームが襲ったが、少し掠めるだけで済ませた。
「ッ……」
「どこだ⁉︎」
「ここだよ!」
ヘルマプロディートスがドリスのスナイパーカスタムに斬りかかる。ドリスは右腕のボックスタイプ・ビーム・サーベルを起動し、これを受け止めた。
「残念!」
ロミオはファンネルの先端からビーム刃を展開し、それをスナイパーカスタムめがけて飛ばした。
「アロー・モード!」
しかしそれは何かに弾かれた。
「なっ……! さっきの人か?」
スターライトがファンネルを跳ね除けた。
「でも……甘いさ!」
ファンネルの両側が展開し、そこから無数の粒が見える。
「ファンネル・ミサイル⁉︎ 親子ファンネルか!」
「墜ちなさいよ!」
ミサイルは渦を巻きながらスターライトに接近する。
「小蝿がぁ!」
グレッドはコンポジット・シールド・ブースターIIの拡散メガ粒子砲でミサイルをはたき落とした。
「あんたがどんな手を使おうったって、このヘルマプロディートスは勝つよ!」
「やってみせればいい!」
ヘルマプロディートスは両方の袖のビーム・サーベルを展開し、スターライトらビーム・ブレードで受け止めた。
飛散するメガ粒子はさながら、ロミオとグレッドの負の感情である。
「いい加減に…」
ロミオの言葉を切るように、スターライトは隠し腕ででヘルマプロディートスのビーム・サーベル弾き返した。しかし、
「ヒィッ……」
ロミオは操縦桿を握る手の力を緩めた。そしてもう一度さらに強く握り直す。
「来るなァァァァ!」
「なに?」
ヘルマプロディートスの拳が、スターライトのコクピットに直撃した。
「グハァっ!」
スターライトはそのままロサ・ギガンティアIIの残骸に叩きつけられた。
「不意打ちがよっぽど気に障ったか…!」
「リリー中尉! ヒル少尉! 撤退する!」
「え?」
「しかし敵が…」
「このまま勝てるかよ…!」
「り、了解…」
三人はそのまま姿を消した。
「おい待て! まだ終わってない!」
「今はいい! 補給が必要だ」
グレッドはこの状況から今すぐにでも脱したかった。それは叩きつけられた心外さからではない。彼のオールドタイプとニュータイプの両方の心を毟り取られたからである。
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