〜0079 12月中旬 北米大陸某所〜
オデッサ作戦以降劣勢に回っているジオン軍は、宇宙要塞ア・バオア・クーでの本土防衛決戦に注力すべく、地球からの戦略的撤退を進めていた。
ここ北米でも順次主力部隊の引き上げが続き、その殿(しんがり)を守る少数精鋭の存在が必要不可欠となっていた。
コクピット内に大音量で鳴り響く、バスドラムを激しく連打するブラストビート。美しく哀しいギターの慟哭。くぐもったノイズの様な潰れた歌声。
馴染まぬ者には騒音でしかないであろう、DEATH METAL。
そんな音の洪水の中で、そのコクピットの住人、トビアス・ライホ中尉は睡眠とも覚醒ともつかない瞑想の世界を揺蕩っていた。
腕の立つパイロットは誰しも、自分なりのコンディション・コントロール手法を持つものだが、彼のそれは少々風変わりと言えるものかもしれない。作戦行動前の待機時間、彼はもっぱらこのようにして過ごす。
ここのところずっと彼を苛んでいるのは、先日遭遇した蒼いジムだ。
いや、ジムの頭が付いていたがあの動きはどう考えても普通ではなかった。
あの時はこの乗機、グフカスタムを受領したてでろくに用意が整っていない状態だった。
相手の中距離砲撃に対して、咄嗟に手近にあったスナイパーライフルで、あわや直撃かという出来過ぎの威嚇射撃をお見舞いしたが、
その後基地内に乗り込んで来た相手と、僅か一合の斬り合いで頭部を落とされて戦闘不能になったのだった。
機体も乗り手も整っていなかったとはいえ、MSに乗り始めてせいぜい1ヶ月程度であろう相手に鮮やかに無力化され、開戦以来MSパイロットとして闘ってきたライホの心中は穏やかではなかった。
あの蒼いジムめ…
なんとしてももう一度遇わないと気が済まない。
その為に急ピッチで機体をカスタムし、あの時とは別物に仕上げた。
そんな物思いにアラート音が割って入る。
すぐ近くに接近する熱源1。
ジェネレーターを切って機器電源だけの状態で潜伏待機していたのでレーダーに捉えられるハズは無いのだが…
あぁ…コレか…
爆音で鳴り響いている音の洪水に自嘲する。もはや当たり前で何も感じなくなっているが、普通に考えたら少々…賑やかかもしれない。
耳の良いヤツなら聴きつけるかもしれないし、ノイズを漏らしたか、低音が振動しているかもしれない。
しかし、だとすると近付いて来ている相手はこっちがMSだとは思っていないかもしれない。不審なノイズの出処を確認しに来ただけのパトロールだろう。
だがこちらは歩調の音紋で相手がジムだとわかっている。
スケジュールより少し早い時間だが…
「しゃーねぇなぁ…アドリブで帳尻合わせるか…」
大きな欠伸を一つして、操縦桿を握る。
警邏のジムパイロットは、ほんの微かに聴こえた奇妙なノイズが気になってルートを外れて確認に向かっていた。
気にする程の事ではないと自分に言い聞かせつつも、夜に何処からともなく咽び泣きのようなものが聴こえたとなると不気味で堪らない。少し離れて巡回している2機編隊の僚機には聴こえなかったようだ。
宇宙世紀にもなって幽霊なんて、と思うが空耳なら空耳と確認したい。どうせ何とも無いだろう。少しゆっくり目に山間を進んでいく。
ジオンのヤツらがいくらゲリラ戦が得意だからといって、今は地球からどんどん逃げ出して数を減らしている。こんな連邦軍の制圧エリア内に居るとは思えない。
「地球はアースノイドのものだ」
そう小さく呟いた時に、また聴こえた。
空電雑音の奥から、咽び泣く哀しい叫びと怒号が重なったような、あれを慟哭と言うのだろうか… そんなモノが、微かに、だが今度はハッキリと聴こえた。
一気に背筋が冷たくなる。進みたくないが戻るのも怖い。
そう思った瞬間、突如レーダーに熱源反応が現れた。こんな所にMS!? どうやって!?
聴こえていた不気味な音、幽霊の如く突然現れたレーダー反応、そして目の前には死神のような真っ黒でゴツゴツしたジオン機。
「うぅぅわぁぁぁぁぁ!!」
ジムパイロットは完全に取り乱してワケもわからず飛び掛かった。
ガキィィィィィン!
グフが左腕の分厚いシールドで受け止める。4本の突起が十手のように機能する。
「蒼いジムはどこだ…」
接触回線でジムのコクピットに声が響く。
「へ…? し、知らない…」
「そうか、残念だ」
シールドを振り上げてジムの姿勢を崩し、そのまま至近距離からガトリングを掃射した。
さっきまで居なかったが、倒れたジムの後ろにもう1機連邦機が。ジムが無線で呼んだか、レーダーで気付いて駆け付けたのか。
ライホ中尉は無線のスイッチを押す。
«ワンより、Steel Heart各機!»
«ツー!» «スリー!»
即座に応答が返る。このレスポンスの速さが実戦慣れした仲間ならではだ。
«予定より早いお客さんで開演した。このまま俺が遊撃で動く、オマエらは目標へ。行動(セッション)開始!»
«ツー、りょうかーい» «しっかり囮やって下さいよ隊長»
「つぅワケでサッサと片付けさせて貰おーかぃ」
左右のガトリングを一斉掃射して一気に勝負を決めに掛かるライホ。
しかし相手MSは大型のシールドで殆どの弾を受け流した。
「オイオイオイ、上手いじゃねぇか!」
「だったら!」
シールドを構えて体当たりする。装備が多い分、質量が大きく衝撃力がある。陸戦ガンダムは大きく仰け反った。
「どぅおぉゥラァ!」
右腕のガトリングシールドをバットの様に大きく振り抜く。
「この見た目だからブッ放すしか能が無ぇと思ったろ? 俺はな、殴り合いは大好きだ!ハッハーーー!」
構えられない盾に意味は無い。
「ヘイ 、ハッチ開けて出てきな。人ごと撃ち抜いてもイイが、目覚めが悪ぃからな。見事な盾捌きだったぜ、ミスター」
再び無線のスイッチを押す。
«Steel Heartワン、1曲終わった。そっちはどうだ?»
«スリー、敵駐屯地付近で交戦中。ツーが損傷、継戦出来るがアンコールは厳しい»
«ワン了解、合流する»
陸戦ガンダムのコクピットからパイロットが這い出すのを眺めながらそう交信し、無線スイッチを切ると同時に空のコクピットとカメラアイに単射を放った。
味方が逃げる為の時間稼ぎ。もう何週間もこんな事を続けている。どんどん味方は減っていき最後に自分達が乗る船があるかもわからない。それでもライホは今の戦況を楽しんでいた。
“退路の殿” 、それは “最も優れた兵” に任される名誉の立ち位置。まんざらでもない。それに、宇宙に上がってしまってはあの蒼いジムと遭遇するのは望み薄だろう。
地上に残ることになるなら、その時はその時。どうにでもなるさ、と小さく笑い、レーダーの次の光点へ向けてスロットルを開けた。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
というわけで。
実は半年前に完成していたグフカスタムです。
個人的にはグフカスってもう一息インパクトが欲しいと思っている機体で、(あくまで一年戦争という時代背景に照らし合わせて)ヤリ過ぎない範囲で盛ってみたいという想いを形にしてみました。
ミックス材料は鉄血のウヴァル、FAユニコーン、F2ザク。
ガトリングシールドを右腕に持ち替えるだけでグフカスタムの固定観念を崩せるかな?と思った所から、足して足して引いてこの形に落ち着きました。
初期案では肩にもミサイルとか積んでましたが、ゴチャゴチャし過ぎでコンセプトがボケてる感じだったのでボツに。
ほぼ剥き出しなコクピットにも思う所があったので、装飾的なアーマー(ウヴァルの顔パーツ)で覆いました。
トビアス・ライホというキャラ名は、メタラーの方にはすぐわかると思いますが、Edguy / Avantasiaのトビアス・サメットと、 Children of Bodomのアレキシ・ライホです。もっと分かりやすいMETALレジェンドの名も色々有りますが、個人的に世代としてはやっぱりこの辺りw
BD1に相手役で出した時からあーだこーだ考えていて、色んな機体を乗り継いでいくエースに育てたいな、なんて思ってたりします。
BD1にヤラれた彼はリベンジに燃えていますが、今回の舞台設定12月中旬には既にBD1はイフリート改と交戦して大破してます。
かといって蒼い死神に拘って妄執していくというわけではなく、カラッとした職業軍人なイメージ。
ヒートロッドはオミットしましたが、ソードは手持ちも出来るし左腕シールドに挿し込む事も可能。むしろこの銃剣スタイルを基本にしたら強いんじゃね?w
腕を盛りすぎて下半身が寂しかったので、F2ザクのミサイルポッドをパクって装備。ザクとグフ、脚の形が殆ど同じなので無加工でネジ込めてます。
左右のガトリングシールドは入れ替え、持ち替え可能。ふつーのグフカススタイルにも換装できます。
一つアピールポイントは、上の6・7コマ目(ジムのサーベルを盾で受ける)なんですが、めちゃくちゃ腰ヒネってます。ノーマルはここまで回りません。
腰の内側を削って回転可動域を広げ、それに伴って腰のパイピングを変えています。簡単に出来てポージングが劇的にキマるようになるのでオススメです。(ちょっとやり過ぎて360°回るのは秘密w)
ちなみに、どーでもいい蛇足誰得ネタですが、
彼がコクピットで聴いていた曲は
Etarnal Tears of Sollow の “Sweet Lilith of my Dreams” です。
今回のキャラ設定やシーンを考えている間、イメージ曲として頭の中で回していましたw
グフ・ヘビーアームズ
コメント
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メタラーなので響きました。
こういう設定とかストーリー普段は読まないんですが、メタラーとしては気になっちゃいましたね(笑)
同胞に反応して貰えるのが一番嬉しいです。凹(☆∀☆)凹←メロイックサイン
そのうちSteel Heart2と3も名前つけて登場させましょうかねー?シランケドw
コメント失礼します
まさにヘビーアームズですね😁。可動改修でポージングも決まってます。
物理的にもヘビーです(zaku-kao4)
可動改修はやり過ぎるとユルユルになって保持出来なくなる事もあるので難しいですね。
製作お疲れ様です!ストーリーも作品もカッコ良いです✨目に見える改修だけでなく、可動も踏まえて改修されてるんですね〜(zaku-kao2)
ありがとうございます。┏◯
私はほぼ可動域の為にしか改修してない気がします… 動かしてブンドドして遊んでナンボのスタイルなのでポーズの自由度が至上命題です(笑)。( ・`ω・´)
一話見終えた気がしました。この色合い重厚感が大好物です😍
最初にMETALというキーワードを思いついたので、そのイメージの色合いにしています。真っ黒ではなく、黒鉄色…だったかな…?半年前だから覚えてない…w
ストーリーも👍 グフカスタムも👍 かっこいいです😆
ありがとうございます。┏◯
細かい所は色々ツッコミ所ありますが、そこは雰囲気で(笑)。
渋格好良いグフカスですね😆
タブル?トリプル?ガトリングという尖った装備、それなのにシールドバッシュする接近戦の立ち回り、腰の回転もそれらを最大限に活かしていて素晴らしい!
デスメタ好きなパイロットという設定も作品に深みが出ていて素敵です☺️
いつもコメントありがとうございます。┏◯
ロマンの塊です(zaku-kao5) 派手に火力盛りしつつも、グフの泥臭いイメージもしっかり残したいと思ってバランスを考えました。一味違うグフカスになったでしょーか?(zaku-kao8)
私自身METAL小僧なのでノリノリで考えましたw
2020に未経験からプラモ開始。
HGを缶スプレーで。
“リアリティ” “兵器感” に拘って、基本暗め配色で塗ります。
塗装剥がし大好き、合わせ目はキニシナイ。
“駆け抜ける悦び” に侵された、戦闘BGMはHR/HMなジオン軍人。
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