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蒼い闇を越えて・・・

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 オデッサの激戦を生き残った俺たちを待っていたのは、また地獄だった。

 モビルスーツや戦車をすべて失いながらも、辛くもオデッサを生き残った我ら04小隊は、同じく基地から脱出する将兵を輸送する潜水艦に運良く同乗させてもらうことができた。
 艦長の話では、これからアフリカにある基地を目指すらしい。
「アフリカには、HLVの打ち上げ施設もある。 諸君らにはそこから宇宙に上がってもらい、ソロモンかグラナダでもうひと働きしてもらうことになる。・・・ま、アフリカまではそれなりに長い航海になる。 狭い艦内ではあるが、それまではどうかゆっくり休んでくれ。 オデッサが落ちたのは残念だったが、皆本当によく戦ってくれた」
 艦長もそう言ってくれたので、俺たちは初めて乗る潜水艦の内部をあちこち見せてもらったり、たまに軍曹がソナー手を手伝ったりしながら数日はのんびり過ごしていたが、アフリカまであと半日に差し掛かったある日、当直に付いていたソナー手の緊張した叫び声が、俺たちの平穏を打ち破った。

「艦長! ソナーに感あり! 前方7海里、おそらく空母1隻と思われます」
 艦内全体に緊張が走る。
「機関停止! 大丈夫だ。 じっとしていれば見つかりはしない」
だが、そんな希望は次の瞬間、ソナー手の報告によって砕け散った。
「敵艦、爆雷を投下!・・・いや、それにしては・・・。 !! 訂正! 敵艦、空母からモビルスーツを発進させた模様! この距離ではすぐに見つかってしまいます!」
 艦内に動揺が広がる。 無理もない。 ここにいるのは、あの地獄のようなオデッサを何とか生き延びた将兵ばかりだ。 ケガを負って戦えない者も大勢いる・・・。
「・・・やむを得ん。 第一種戦闘配備! 機関始動、魚雷発射管、注水急がせろ!!」
 艦長の指示で艦内が慌ただしくなる中、俺たちの小隊長、ハウプトマン少尉が艦長の前に進み出た。
「艦長。 この艦には水中用のモビルスーツが2機ほど搭載されていたと思うのですが、それは発進させないのですか?」
「パイロットがいないのだ。 オデッサの戦闘が始まる前にやられてな・・・。 艦内に残っているのは、予備機だよ」
 隊長の言葉に、艦長は苦笑しながら返す。
「では、我々にそのモビルスーツをお貸しいただけませんか?」
 おいおい、隊長本気かよ!?
「諸君らはオデッサで十分戦った。 こんなところでむざむざ戦死させるわけにはいかんよ」
「どの道ここでこの艦が沈んでしまえば、みんなまとめて魚のエサです。 それに・・・お言葉ですが艦長、私の部下は皆、優秀ですよ」
「・・・生きて帰れよ」
どうやら、話はまとまってしまったようだ・・・。

「搭乗割り、サムは水中用ザク、ブラックとピーターはシーランスで出撃。 ズゴックは私が使う。 軍曹は艦に残って、ソナー手を手伝ってやってくれ」
「隊長、僕たち今深海にいるけど、シーランスって水上艇だよね? どうやって発進させる気なの?」
ピーターがもっともな疑問を口にする。
「魚雷と一緒に耐圧カプセルで水上まで上昇させる。 水面に出たら自動でカプセルが開いて、発進できるそうだ。 シーランスには外付けで魚雷発射管が2門装備してあるから、2人は空母に魚雷を打ち込んできてくれ。 モビルスーツは、私とサムで片付けてくる」
「「了解!」」
ピーターとブラックさんが返事をした。
「さて、私たちはモビルスーツを沈めに行くよ、サム」

 水中でモビルスーツに乗るのなんて初めてだったが、この感じ、宇宙に近いな・・・。 これならいけそうだ。
「敵モビルスーツ、確認した。 前方およそ2000、数は3機。 動きはそう速くないうえに、あんなに密集して動いている。 おそらく、まだモビルスーツ戦に慣れていないね。 サム、私が合図したら、胸の方の魚雷を一斉射だ!」
隊長の指示がインカムに届く。 水中だと通信にノイズが混じるが、なんとか聞き取れる。
「行くよ。 ・・・3、2、1、今!」
 ズゴックの頭部ミサイルと水中用ザクのブラウニーM8が一斉に放たれ、敵モビルスーツ部隊の直前で爆発した。
 先頭を進んでいた1機が爆発に巻き込まれ、バラバラになるのがザクのモノアイにも映し出される。
 残りの2機が左右に分かれたのを見て、隊長から指示が届く。
「私が右のをやるから、サムは左のヤツを任せた!」
「了解!」
短く答え、ザクをやや左に向けながら、敵モビルスーツの頭上を目指す。
 敵のモビルスーツ(後で知ったが、連邦の量産型モビルスーツ「ジム」のバリエーション機で「アクア・ジム」と言うらしい)は俺の動きを頭部のカメラで追っているが、動きはついてこられないようで、なおもまっすぐ進んでくる。 隊長の言うとおり、乗っているのは本当に素人みたいだ。 あるいは、宇宙で戦ったことがないから立体的な動きをするという発想がないのか・・・?
 手持ちの武器から銛のようなものを撃ち出してきたが、ザクの足元を素通りしていった。
「悪いが、こっちも死にたくないんでね」
 俺がトリガーを引くのに合わせて、水中用ザクの手に握られたサブロックガンから小型の魚雷が1発発射された。
撃ち出したばかりの魚雷なんて、そうそう目標にあたるものじゃない。 さすがに相手も回避行動をとったが、それが俺の狙いだった。
「沈め!」
 相手の動いた方に向けて続けざまに発射した2発の魚雷は、吸い込まれるように敵モビルスーツに直撃した。
「敵機撃破!」
報告がてら隊長のズゴックに目をやると、頭部を破壊した敵モビルスーツのコクピットにクローを突き立てているところだった。 ・・・敵ながら、あのモビルスーツのパイロットには同情するよ・・・。

            一方その頃

「ピーター! あと400、いや、300メートル敵艦に接近できるか?」
「了解! あんなノロマな空母に比べれば、コイツの小回りは圧倒的だからね! 楽勝だよ!!」
 シーランスは、右に左に舵を切って空母から放たれる攻撃を避けつつ水面を移動する。
「舵を狙いたい。 右に移動して、魚雷を撃ち出したら即座にそのまま旋回して後退だ!」
「分かった!」
「行くぞ! 魚雷発射5秒前! ・・・3、2、1、発射!!」
 シーランスの両脇に外付けされた魚雷発射管から撃ち出された2本の魚雷は、白い尾を引きながら空母の船尾に吸い込まれていった。
 Uターンしたシーランスの後方で、派手な水しぶきと爆音が上がった。
「軍曹! 敵艦のアシが止まったよ! あとは潜水艦から魚雷撃って、トドメ刺しちゃって!!」
「ピーター、さすがにここから潜水艦に通信は届かないぞ。 まぁ、向こうもソナーで様子は逐一確認しているだろうから、わざわざこっちから報告しなくても、トドメは刺してくれるだろうがな」
 ブラックの言葉通り、潜水艦は動きが止まった空母に向けてありったけの魚雷を発射した。
先ほどよりもさらに大きな水しぶきと轟音を上げ、空母は完全に沈黙した。

「本当に優秀な部下を持っているな、少尉は。 おかげで助かったよ。 艦長として、礼を言わせてくれ」
 帰艦した俺たちを、艦長が出迎えてくれた。

「目標地点まで5海里」
「よし。 艦を浮上させろ。 ようやく新鮮な空気を吸えるぞ」
 ブリッジの大型モニターに、小さくではあるが陸地が映し出された。 なんとかアフリカに到着できたようだ。
「後方、敵艦隊発見! 待ち伏せされました!!」
 監視員から緊張した声で報告が届く。
ウソだろ? やっとここまで生き延びたってのに・・・!
 そのとき、前方のアフリカ大陸が不規則に光った。 次の瞬間、後部カメラからの映像を映していた小型モニターの中で、敵艦隊が炎と煙を上げた。
「前方カメラをズームにしろ!」
艦長の声でアフリカ大陸の映像がズームになる。 見るとそこには、海岸に並び立ち、バズーカやキャノン砲を構える味方のモビルスーツ部隊、戦車や野砲の姿があった。
「通信です。 『アフリカへようこそ。 我々は諸君らを歓迎する。 3番ドックに入港されたし』・・・」
「・・・やれやれ。 さすがに今のは肝が冷えたな」
艦長がこぼした。

こうして俺たちは、無事アフリカへ脱出することができた。 あとはHLVに乗って宇宙へ帰るだけ・・・。
と、このときは胸をなでおろしたのだが、まさかこの後アフリカであんなことが起こるなんて、全く予想できなかった・・・。

コメント

  1. アフリカ大陸での話も楽しみです!
    オデッサからアフリカへ逃亡中の緊急戦闘
    ハラハラしながら読んでましたが、途中からちょっと連邦に同情しちゃったりしました。
    それだけ04小隊メンバーが優秀って事で
    僕が連邦側なら
    見て見ないふりして過ごします 笑

    • Zoo 11か月前

      な・か・け・んさん、
      コメントありがとうございます。
      04小隊は地獄のオデッサ戦線を生き残った上、一番軍歴の浅いサムですらルウム戦役を戦い抜いたベテランぞろいなので、昨日今日アクア・ジムに乗り始めた連邦のパイロットには荷が重すぎました・・・。
      アフリカ編は9月ごろに投稿予定なので、どうぞお楽しみに!
      また、本作と同じくモーメントに、04小隊のオデッサ作戦の前日譚も投稿してあるので、よろしければ本作品と合わせてお楽しみください。

  2. 水中戦での宇宙戦経験の有無による立体的思考の差とか、シーランスをカプセルで上げるといった発想、素晴らしいです!

    • Zoo 1年前

      くぼさん少佐Mk-Ⅱさん、
      いつもコメントありがとうございます。
      水中戦で宇宙戦経験が活かされるというのは、だいぶ昔に読んだマンガから得たアイディアだったのですが、上手く落とし込めて良かったです。
      シーランスを耐圧カプセルに入れて水上へ上げるというのはかなり苦肉の策でしたが、思いのほか好評をいただけて作者として嬉しく思います。

  3. シーランス?どうやって?と瞬間思いましたが、耐圧カプセルで…と、抜かりなしですね!
    ズゴックはともかく水ザクでもまだ通用した時期。
    この後の連邦の怒濤の勢いが垣間見えて興味深いです。
    で、アフリカ話に続くのですよね?(←希望)

    • Zoo 1年前

      ロートルさん、
      いつもコメントありがとうございます。
      今回の話は高校生の時から構想があって、その時点でシーランスは登場させる予定だったのですが、どうやって潜水艦から発信させようか、と考えた末、このような形になりました。
      アフリカの話は夏ごろに完成品投稿の方でガッツリやりたいと考えていますので、どうぞご期待ください!!
      まぁ、まず登場させるモビルスーツをあれやこれやと製作しなくてはいけないのですが・・・。

  4. うわぁ緊迫した空気感がありますね^ ^
    確かに宇宙(ソラ)戦と水中戦は通じるところがありますね。
    そんな描写が上手く描かれていて、一発目のダミーからのスイング撃ちが実戦的でグッときました!
    Zooさんの物語は情景が浮かんで楽しいです^ ^ノ

    • Zoo 1年前

      中光國男さん、
      いつもコメントありがとうございます。
      今回は、以前投稿したザクVS先行量産型グフ以上に戦闘描写に力を入れたので、その雰囲気を感じ取っていただけて非常に嬉しく思います。

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