再会の宇宙(そら)
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絶望的な喪失感の中でHLVに乗り込んだ俺たちは、そのままグラナダにたどり着いた。
無重力の感覚を懐かしむ暇もなく、俺たちはあれよあれよという間にザンジバル級のブリッジへと案内された。 どうやらこの艦が、俺たちの新しい配属先らしい。 思えばオデッサが陥落してから、いや、もっと言えば、あの東南アジアにある小さな前線基地が壊滅してから、俺たちの所属はかなり曖昧なものだったはずだ。 これでようやく、よその部隊に間借りする立場からオサラバできる。 そんな風に考えて、なんとか気を紛らわせようとした。
全員とてもそんな気分ではなかったが、さすがに自分たちが乗り込む艦の艦長の前で沈んでいるわけにもいかない。 俺たちはなんとか空元気を振り絞って、艦長室の前に並んだ。
隊長がノックをすると、入室するように声が掛かった。
「失礼します。 リリー・ハウプトマン少尉以下3名、着任の挨拶に参りました」
「ああ、よろしく頼む、ハウプトマン『大尉』。 ・・・うん? お前ひょっとして、ハーバートか?」
隊長の階級がおかしかったような気がしたが、艦長が俺の顔をまじまじと見つめてきたので、それどころではなく一体何事かと戸惑った。
「いやぁ、見違えたぞハーバート! それにしてもお前、まだ死んでいなかったか! ハッハッハッハッ!!」
バシバシと俺の肩を叩く艦長の様子で、俺もようやく思い出した。
「あぁっ! 艦長お久しぶりです! ルウムでは大変お世話になりました」
「なにサム、艦長と知り合いなの?」
不思議そうな顔をする全員を代表して、ピーターが俺にたずねてきた。 その疑問に、俺ではなく艦長が愉快そうに答える。
「そうだ。 ルウム戦役の時、私の艦のモビルスーツ隊に新兵だったハーバートがいたんだよ。 あのときのヒヨッ子がずいぶん立派になって、全く時が経つのは早いもんだ」
「ほぉ、ルウムが初陣だったのか」
ブラックさんも驚いたようだ。
「しかもコイツは、初陣でサラミスを1隻沈めてきたんだ。 まさか新兵が単独で巡洋艦を沈めるなんて誰も思わなかったから、みんなおったまげたぞ!」
「えぇ!? サムすごいじゃん!!」
「ルウムが初陣なのは知っていたが、そんなこと私も聞いていないぞ?」
隊長まで驚いた顔をして俺を見ている。 別に隠していたわけじゃないんだが、あえて自分から言わなかったのは・・・。
「もっとも、その直後に自分が撃沈したサラミスの爆風で吹っ飛ばされて、ムサイに衝突して骨折していたがな。 危うく味方の艦まで沈めそうになるとは、本当に大したタマだ!」
・・・こういうオチが付いていたからである。 艦長、それは黙っていてほしかった・・・。
それを聞いてピーターは大笑い、ブラックさんもニヤニヤしだした。 隊長までもが「プッ」と噴き出している。 俺も、照れ隠しの意味も含めて苦笑いするしかない。
・・・そういえば、あのアフリカでの戦闘以来、みんなが笑っているところを初めて見たな・・・。
「さて、全員緊張もほぐれたようなので、本題に入る。 諸君らはこの『ザンジバル級ヌエ』のモビルスーツ隊に所属してもらう。 まずは辞令を申し渡す」
そう言って艦長は机の上から書類を取り上げ、俺たちを自分の前に整列させた。
「リリー・ハウプトマン大尉。 ジョン・ブラック中尉。 サム・ハーバート少尉。 ピーター・マシアス曹長」
全員階級が上がっている。 しかも異常な上がり方だ。 隊長とブラックさんは2階級特進、俺とピーターに至っては3つも階級が上がっている。
「・・・全員顔に『なんで急に階級が上がったのか?』と書いてあるので、順を追って説明するぞ。 まず、我々の任務は、簡単に言えばエース部隊の影武者だ」
俺たちの驚いた顔を見て、艦長が説明を始める。
「『キマイラ隊』。 聞いたことがあるだろう。 アレは、ここグラナダの司令、キシリア少将直属の特別編成大隊だ。 トップエースばかりを集めた部隊だが、それだけに壊滅させられるようなことが万にひとつでもあってはならないというので、我々のようなおとり専門の部隊を作ることになったらしい。 当然、我々の存在は軍の極秘情報だ。 他言するんじゃないぞ」
先ほどまでとは打って変わった真剣な表情で、艦長が説明する。
「君たちの地上での活躍は方々で噂になっていたそうじゃないか。 しかも、所属していた前線基地が壊滅して以来、正式にどこかの部隊に編入されたわけでもなく所属も曖昧。 まさに、おとり任務にはうってつけというわけだ」
「・・・階級が上がったのはそのためですか?」
困惑しながらも、隊長が質問する。
「それもあるが、今のジオンには階級の高い将兵が不足しているというのも大きな理由だ。 階級に見合っただけの経験と実力を伴っているものとなれば、なおさらな」
艦長が返す。
「まぁおとりといっても、やることは基本的に戦闘だ。 今までと大して変わらんよ。 さて、そろそろ君たちのモビルスーツを乗せた補給艦が到着する頃だが・・・」
艦長がそういった矢先、指令室の扉がノックされた。
「失礼します。 艦長、補給艦が到着しました」
伝令のオペレーターが告げた。
「シャロン・ミルフォード大尉です。 補給物資をお届けに来ました」
懐かしいおっとりした声がブリッジに響く。
「シャロン! 補給物資を持ってきたのってアンタだったのか!? というか、いつ宇宙に上がったんだ?」
隊長が嬉しそうにシャロンさんに笑いかける。 この人、シャロン元中尉は俺たちがいた東南アジアの前線基地に所属していた補給・整備中隊の中隊長だった人だ。 あの最後の戦闘以来、どこに行っていたのか俺たちの誰も知らなかったが、どうやら宇宙に脱出できていたらしい。 しかも階級も上がって、今では補給艦の艦長だそうだ。
「あとでゆっくり話しますね。 まずは、皆さんが搭乗するモビルスーツの説明をさせてください」
そう言ってシャロン「大尉」は、俺たちをハンガーに案内する。
「まずはリリーの機体ですが、先行量産型のゲルググです。 正式な量産タイプよりも各部の調整がしっかりしているから、高性能ですよ」
「ほぉ、新型か。 ビームライフルも装備してあるのか」
隊長が感心したように、自分の新しい愛機を見上げる。
「ええ。 次にこちらが、ゲルググキャノンです。 ビームキャノンを装備した中距離支援タイプのゲルググで、ブラックさんの機体です。 ビームライフルも、試作の高出力タイプのものですから火力は折り紙付きですよ。 その分、機動性は他のゲルググタイプに比べると劣りますが、それでも十分なパワーがあると思います」
「良いな。 これなら、みんなの支援が今まで以上にできそうだ」
ブラックさんも嬉しそうだ。
「そしてこちらが、サム君のゲルググです。 機体は量産型のゲルググですが、オプションで高機動型バックパックが装備できます。 これなら、リリーのゲルググにも置いていかれませんよ」
俺のゲルググはビーム兵器ではなく、新型だというロケットランチャーを装備していた。 なんでも、高機動型バックパックにジェネレーターの出力を回すために実弾武装なのだそうだ。
「一応、バックパックにビームライフルも装備してあるんですよね?」
「ええ。 多少出力を取られますが、ビームライフルも撃てますよ」
そこでピーターが声を上げた。
「ねぇシャロンさん。 僕は何に乗ればいいの?」
「うふふ。 ピーター君の機体は、もう一隻の補給艦を待って。 でも、あなたに任せる機体はモビルアーマーだから、期待していいわよ」
シャロンさんの言葉に、ピーターは飛び上がって喜んだ。
「そうそう。 艦長、次の補給艦には、補充パイロットも何人か乗ってくるそうです。 彼らの機体も一緒に持ってきますから、もう少し待ってくださいね」
「了解した。 あとどのくらいだ?」
艦長がたずねる。
「2、3週間後には、こちらの艦に運べますよ」
「そうか。 楽しみにしておこう」
艦長の質問に、シャロンさんは笑顔で答えた。
それから3週間後、シャロンさんは約束通り、ピーター用のモビルアーマーと追加のモビルスーツ、そしてそのパイロットを運んできてくれた。 そしてその日、宇宙攻撃軍の要塞、ソロモンが陥落した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・To be Continued
コメント
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読ませますね。さすがでございますな。
ですがシャロン大尉の容姿を詳しく説明していないのはマイナスですねw
TOMSIMさん、
こちらにもコメントありがとうございます。
シャロン大尉も含めてキャラクターの容姿などは、一応自分の中である程度イメージはあるのですが、読んでくださった方の想像にお任せしたいと考えているため、敢えて詳しく描写しませんでした。
なので、TOMSIMさんの理想の容姿で想像してお楽しみください。
ゲルググが何機も並ぶと壮観ですね〜!
ストーリーもガンダムガンダムしていて素晴らしい設定ですね😃
私はガンダムらしい設定を考えるのが苦手なので勉強になります
tamamaさん、
こちらにもコメントありがとうございます。
ゲルググは数年前に製作したモノですが、おっしゃる通り改めて3機も並べると壮観ですね。
ストーリーもまだ続きますので、どうか楽しみにしていてください!
どんどん楽しくなってきましたね✨ゲルググもタイプ違いで配備、これからのストーリー、絶対波乱がありますね😊今回今までからの物語が時系列と共に色々繋がってきて、設定が素晴らしいです!これってもしかしていくつかのエピソードやseasonで完成されたストーリーがあるのでしょうか✨そして人々の繋がりがあったところに次回、一番楽しみな細かな描写の実戦が待ち受けているのでしょう^ ^ドキドキ💓
中光國男さん、
こちらにもコメントありがとうございます。
この後も怒涛の展開(?)が待ち受けているので、どうぞお楽しみに!
完成されたストーリーというワケではありませんが、高校生の頃にノートに落書きしていた時から決めてあったことはいくつかありました。
東南アジアからオデッサ、海、アフリカ、ア・バオア・クーの順番に転戦すること、それぞれの場所で各隊員が乗る機体(後から少し変えたモノもありますが)、アフリカで軍曹が戦死することなどは、当時から決めてありました。
ちなみにほとんど描写はありませんでしたが、最初にサムたちが配属されていた東南アジアの前線基地の登場人物や戦闘の様子も一応設定はあります(機会があれば、またモーメントに投稿しるかもしれません)。
今回登場したシャロン・ミルフォード大尉(中尉)も当初から設定していたキャラクターの一人です。
次回はまだ戦闘描写は少なめになるかと思いますが、各隊員たちの掘り下げを挟みたいと思っています。
どうぞお楽しみに!
良いですね~
こういうとある部隊の裏側みたいなストーリー、好物です🤤
meg-oceroさん、
コメントありがとうございます。
この後も怒涛の展開(?)が待ち受けているので、どうぞ最後までお付き合いください。
またまた最新機材をもらえるなんて、この部隊への軍部の期待度がわかりますね。
で、ピーター君のMA。
なんか嫌な(面白い)予感しかしないんですけど(笑)
ロートルさん、
こちらにもコメントありがとうございます。
実際のところはおとり部隊なので、軍の上層部としては期待というよりサイクロプス隊のように捨て駒に近い扱いかもしれません・・・。
ピーターのモビルアーマーは、残念ですがそんなにネタ機体というわけでもないのですが、次回を楽しみにしていてください。
4年ほど前に、スマホのネットアプリ(?)のオススメで発見して登録しました。
地味な作品が多いかもしれませんが、暇を見て投稿していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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