特殊部隊との死闘(後編)
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ピーターの興奮したような声がインカムから聞こえたのは、青いキャノン付を撃破したのとほぼ同時だった。
「これでビーム砲をぶち込めばおしまいだ!」
「・・・なるほど。 そこがビームの発射口なんですね」
その直後、聞き覚えのない女の声が小さく聞こえた。
次の瞬間、けたたましい轟音が聞こえたと思ったら、インカムからザーッという耳障りなノイズが流れた。
「・・・ピーター? おい、ピーター! 応答しろ!!」
ピーターの声は聞こえず、インカムからは相変わらずノイズだけが響いている。 そんな・・・ピーターまで・・・。
目の前にいたオレンジのやせっぽちが、ふいに俺の前からどこかへ向かっていった。 操縦桿を握る手に力が入らず、呆然とその様子を見ていると、ソイツのコクピットが開くのが見えた。 中からノーマルスーツを着たパイロットが現れ、先ほどピーターがスナイパーを追いかけていった方からゆっくりと近づいてきた人影を中に引っ張り込んだ。 おそらく、さっきのスナイパーのパイロットを回収したのだろう。
・・・そうか、あのスナイパーのパイロットは生きているのか。 ローレンの、ピーターの命を奪った、あのスナイパーが・・・!
「・・・俺は、お前だけは絶対に許せない!」
戦う理由が、見つかった気がした。
「イエヴァ、ケガはないか?」
クロサワ中尉は自機のコクピットに、乗機のジム・スナイパーカスタムを失ったハルコネン少尉を引っ張り込みながら声を掛けた。
「・・・はい。 すみません。 モビルスーツは敵機の爆発に巻き込まれて失いました」
彼女にしては珍しく、素直に謝罪を口にする。
「お前が無事なら、とりあえずはそれでいい」
クロサワ中尉も、いつになく優しい言葉を彼女にかける。
「それよりも、あそこにジョバンニを殺した敵がいる。 仇を取るぞ!」
「・・・はい!」
あのやせっぽちの中に、ローレンとピーターの仇がいる。 絶対にここで倒す・・・!
俺は決意を込めて操縦桿を握りしめ、ゲルググの右手にグレネードランチャー付ビームライフルを、左手に背部から抜いたビームナギナタを構えさせた。 格闘戦が得意なパイロット、たとえばハウプトマン隊長なら、ナギナタの両側からビームの刃を出して使うのだろうが、俺は片刃のほうが使いやすい。
スコープを覗き込み、相手と距離を詰めすぎないようにしながらビームライフルを連射する。 やせっぽちはかなり機動性が高いようで、次々と放たれるビームをかわしながら反撃してくる。
あの機動性、射撃戦では埒が明かないかもしれない・・・。 グレネードなんてとっくに撃ち尽くしたし、ビームライフルのエネルギーも、もう持たない。 格闘戦を仕掛けようかとも思ったが、さっきシールドに食らった一撃を見るに、相手は相当近接戦に自信があるようだ。 「俺では」勝ち目はないだろう。 何としてもあの2人の仇を自分で取りたいという気持ちを必死に抑え、俺はインカムの無線周波数をいじった。
「さっきも感じたが、さすが新型だ。 良い機動性をしている。 パイロットの腕も悪くないな。 俺たちが近づけないよう、的確に狙って撃ってきている。 おまけに、こちらの射撃も一切当たらないときた」
ジム・コマンドライトアーマーのコクピットで、クロサワ中尉は敵モビルスーツの性能とパイロットの技量に感心していた。
「・・・そんな適当な狙いで、当たるわけがないじゃないですか。 相手の技量だけが原因ではありませんよ」
助かった安心感からか、ハルコネン少尉はいつも通りの毒舌を、隊長であるクロサワ中尉に向ける。
「・・・私が乗っているからといって、遠慮する必要はありませんよ。 いつも通りの動きで、さっさと相手に近づいて仕留めて下さい」
「・・・舌を噛んでも知らんぞ・・・!」
そう言うが早いか、クロサワ中尉は操縦桿を前に押し込み、ペダルを一気に踏み込んだ。 その動きが伝わったジム・コマンドライトアーマーは、一気に新型に向かっていった。
やせっぽちが急に速度を上げたので、俺は思わず息を呑んだ。 アイツ、さっきまでとはまるで動きが違う。 もう容赦なしってわけか・・・。
サーベルを横一文字に構え、加速を利用して一気に俺のゲルググを切り裂くつもりだ。 クソッ、ここまでか・・・!
しかしそのビームの刃は、すんでのところで何かに防がれた。 俺とやせっぽちの間にどこからか割って入ってきた、黄土色の機体がビームの刃を差し込んできたのである。
「無事か、サム!?」
「隊長! 助かりました。 ・・・それと、申し訳ありません。 ピーターと、ローレンが・・・」
思わず声が掠れてしまう。 先ほど無線で簡単に状況を説明すると、隊長は部下を死なせた俺を責めるでもなく「すぐに行く。 絶対に死ぬな!」と言ってくれたのだ。
「今それは言いっこなしだ。 とにかくブラックが来るまで、コイツを抑えるぞ」
「了解!」
先ほど隊長が簡単に説明してくれたが、第1分隊はア・バオア・クーに侵攻してくる大規模な敵部隊と鉢合わせ、かなりの乱戦になっていたようだ。 その中でイヴァンのリックドムが両脚をやられて戦闘不能になり、ブラックさんに援護されながら「トラツグミ」に後退することになったらしい。 幸いにもイヴァンは無事なようだが、ブラックさんはリックドムを母艦まで引っ張っていかねばならず、とりあえず隊長が単機で援護に来てくれたということだった。
「・・・隊長。 皮肉な話なんですけど、俺、あの二人を失って、初めて自分の戦う理由ができた気がします」
こんなときに何を言っているんだと自分でも呆れながら、つい隊長にこぼしてしまう。
「・・・そうか。 だけど今は、とにかく生き残るために戦わないとね。 アンタたちが生き残ってくれることが、私の戦う理由なんだから」
「・・・はい!」
「もう武器が全部弾切れなんだって? じゃあ、とりあえず死なないように自衛だけしながら、そこでよく見ておきなよ」
顔なんて見えるはずもないのに、隊長の得意顔が見えるような、そんな、自信に満ちた声だった。
「この武器は、こうやって使うんだよ・・・!」
そう言うと隊長のゲルググは、それまで相手のビームサーベルを抑えていた「上の刃」で相手のサーベルをいなしながらビームナギナタを半回転させ、「下の刃」で銃を持った右腕を切り落とした。
・・・やっぱり、俺に両刃のナギナタを使いこなすのは無理そうだな・・・。
だが、そんな呑気なことを考えている場合ではなかった。
なんとやせっぽちは、左脚で隊長のビームナギナタの柄を蹴り飛ばしたのだ。 その勢いのまま半回転して右脚で隊長のゲルググの頭を蹴り、さらにもう半回転して勢いをつけたビームサーベルの一太刀でコクピットの真下、ゲルググの腰のあたりをバッサリと切り裂いた。
ビームサーベルを食らったのはちょうど腰のスラスターに推進剤を送るタンクの辺りだったらしく、隊長が乗るゲルググの上半身は、その爆発でどこかに吹き飛んで行ってしまった。
「隊長・・・」絶望的な気持ちになった瞬間、後方から二本のビームとバズーカの砲弾が飛んできた。
「サム、無事か!?」
「先輩、生きてますか?」
無線に声が届く。 ブラックさんとイヴァンだ。 二人が援軍として駆けつけてくれたのを見ると、やせっぽちは俺のゲルググに向かって何か黒っぽいものを投げつけてきた。 それがハンド・グレネードだと分かったのは、ゲルググの頭部が吹き飛ばされ、メインカメラがブラックアウトしたあとだった。 やせっぽちは、そのまま後退していった。
「・・・隊長・・・」
「さすがに3機相手は分が悪すぎる。 しかも、そのうち2機は新型だぞ。 残念だが、ここは後退しかない」
ジム・コマンドライトアーマーのコクピットで不満そうなハルコネン少尉に、クロサワ中尉は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「ブラックさん! イヴァン! ていうかイヴァン、お前リックドムやられたんじゃ・・・?」
「『トラツグミ』のすぐ近くにシャロン姐さんの補給艦がちょうど来てて、新品に乗り換えてきたっす。 てか、中隊長は?」
状況がよくわかっていないらしく、イヴァンは隊長のゲルググを探している。 俺は泣きじゃくりながらも、なんとか二人に状況を説明した。
母艦であるザンジバル級「ヌエ」に着艦した俺たちに艦長は、つい先ほど、ギレン総帥とキシリア少将が立て続けに戦死した、と告げた。 それは事実上、俺たちジオン公国軍の敗北を意味していた。 だが俺にとっては、そんなことはもうどうでもよかった。
ローレン・リー曹長・・・・・・戦死
ピーター・マシアス曹長・・・・戦死
リリー・ハウプトマン大尉・・・MIA(戦闘中行方不明)
UC.0080、俺たちの戦争はこの日、ようやく終わりを迎えた。
2年後、UC.0082
「では確認しますね。 お届けする品は武器弾薬類と食料、それとゲルググ・マリーネが1機。 お届け先はシベリアに潜伏中の『同志』の元。 以上でお間違いないですね?」
宇宙でいまだに活動を続けているジオン残党の母艦であるムサイ級の指揮官に、荷物と送り先の最終確認を行う。 問題なさそうなので、俺たちが仕事で使っているコムサイの操縦手に連絡を送った。
戦後、一年戦争と呼ばれることになったあの戦争から2年が経過していた。
ブラックさんは軍を除隊し、今はサイド3で奥さんや子供と暮らしながら、民間の建設会社で働いているらしい。 イヴァンは意外なことに、今はジオン共和国軍となった軍に残って、モビルスーツパイロットを育成する教官になっているそうだ。
そして俺は、とある「運送会社」で働いていた。 もちろん一般的な荷物を運ぶ仕事がほとんどだが、今回のように、戦後も秘かに活動を続けている旧ジオン公国軍残党からの、非合法な仕事を請け負うこともある。 というか、そちらの方が単価が高くていい儲けになるのだ。
「サム、今回の運送だが、ルナツー艦隊の哨戒ルートを横切ることになる。 万が一に備えておいてくれ」
「了解」
コムサイの操縦手の言葉に、俺は格納庫内に積まれた運送会社の作業用、という名目の、実質的には自衛用モビルスーツ「リックドムⅡ」のコクピット内から返事をする。 作業用モビルスーツという名目なので胸部の拡散ビーム砲は封印してあるが、先ほど荷物の送り主から、万が一の時には品物のMMP-80 90mmマシンガンとシュツルムファウストを使えるよう許可をもらっておいた。 それと、格納庫内にはヒートサーベルも隠してある。 これらを使う機会がないと良いんだが・・・。
「そろそろ大気圏に突入する。 各員、周囲の警戒も怠るなよ」
操縦手の言葉に、深呼吸をして改めてリックドムⅡの操縦桿を握り直す。
2年前のあの日、確かに一年戦争は終わった。 しかし、ピーターとローレン、そして隊長の仇を取ることを、俺は諦めたわけではなかった。
俺の戦いは、まだこれからだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・fin
コメント
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痛み分けですか。悲惨な最期でなくて良かったかな?
TOMSIMさん、
いつもコメントありがとうございます。
一応、その後が想像できる余地を残し、こういう形に落ち着きました。
緊迫した前回の続きを待ち望んでいました✨自分はサムに感情移入していますね、この結末はサムとイエヴァ少尉との因縁を今後も感じてなりません^ ^読みごたえある小説をありがとうございます^ ^ノ
中光國男さん、
いつもコメントありがとうございます。
主人公に感情移入していただけるとは、作者として感無量です。
サムとイエヴァ少尉、クロサワ中尉のその後は、考えつけばいつかエピローグとして執筆してみたいと思います。
お邪魔します♫
物語のコンプリートと一時帰国お疲れ様デス💦
休息とコレからの旅のプランニングに全集中して下さい😁
gtarouさん、
いつもコメントありがとうございます。
ガンプラはもうしばらくお休みして、お言葉通り休息と旅の準備に努めたいと思います。
無事完結(と、一時帰国)お疲れ様です😌しっかり英気を養って下さい🏘️
RH少佐さん、
いつもコメントありがとうございます。
なんとか日本に一時帰還し、ストーリーも完結させることができました。
ああ、Zooさんだw
tomさん、
いつもコメントありがとうございます。
はい、私です(笑)。
GUNSTA帰還お疲れ様です。
そして素晴らしい物語もありがとうございます。
暫くコチラに滞在するのかな?
久しぶりの日本でゆっくり体を休めて下さい。😄
ape100さん、
いつもコメントありがとうございます。
何とか無事帰還し、物語を完結させることができました。
1ヶ月ほどは日本で休息&次の準備を行いたいと思います。
4年ほど前に、スマホのネットアプリ(?)のオススメで発見して登録しました。
地味な作品が多いかもしれませんが、暇を見て投稿していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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