再編、再始動、そして戦士は、再起に向かう——。
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U.C.0079 11月12日。
陥落させたばかりのオデッサの基地内を、連邦軍の将兵が慌ただしく走り回っている中、ヘント・ミューラー少尉は、随分と様変わりした自分の愛機を見上げていた。
「機体はあの損傷だったてのに、パイロットは打撲程度で済んだか。流石のルナチタニウム、いや、ガンダリウム合金だな。」
背後からのラッキー・ブライトマン少佐の声に、ヘントは振り向きざまに敬礼する。
「不甲斐ありません。貴重なガンダムを……結果的にジムも潰して、ビームライフルも喪失しました。」
「気にするな、ああいう奇襲を想定できていなかった。ガンダムやビームライフルの性能にも頼りすぎた。作戦立案段階での、俺のミスだよ。」
仲間のこともだ、と付け加えると、少佐は立ち去っていった。
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「俺は明日から何に乗ればいいんだ?」
ブリーフィングルームで、不服そうな仏頂面で訴えるのは、イギー・ドレイク少尉だ。
陸戦型ガンダムは、V作戦のMS製造計画とは別に、急遽先行生産を行なったため、生産ラインと呼べるような製造の下地がない。機体に大きな損傷が出た場合、予備のパーツはほとんど入手できないため、陸戦型ガンダム同士や、互換性のある陸戦型ジムからパーツを取り合う”共喰い整備”が行われる傾向が強い。
先の戦いで中破したヘントのガンダムは、イギーの乗っていたジムを解体して修理・改修が行われている。ジェネレーター出力など、ほんの僅かだが、総合的な性能差からガンダムを維持すべきと判断されたらしい。
「ガンダムが直ったらお前が乗ればいいよ。」
ヘントの本音である。
「そういうことじゃない。ガンダムはお前の担当。それは決まってるんだよ。」
ヘントに対する不平・不満ではない、と言いたいらしい。
「あのジャブローから持って来たっていう新型はどうなんだ。乗ってみたんだろう。」
「”にせガンダム”か。あれはダメだ。」
イギーが言う”にせガンダム”とは、地球連邦軍の正式な量産型MSである、RGM-79ジムのことだ。まだその存在は公表されておらず、搭載予定の”本物のガンダム”の戦闘データも組み込まれていない。
「軽すぎるんだよ。何て言うか、スカスカ行き過ぎる。陸戦型のジムみたいな、ズシっとした感じがない。」
ヘントも資料は見た。装甲材はルナチタニウム合金ではなく、チタン系合金となり耐弾性は落ちているらしい。しかし、ヘントらが乗っていた陸戦機よりも、推力・出力も高く、重量も軽い。ビームライフルほどの射程はないものの、ビーム兵器を装備した運用を前提としている。ビームの高火力を生かして、一撃離脱を想定しているのだろうか。いずれにしても、宇宙での運用が前提の機体なのだろう。
とにかく、格闘戦を好むイギーには物足りないスペックだろうとは、想像にたやすい。
「少尉はガチンコですからね。」
隣に腰かけていガンタンク隊”ライオンズ”のスコット・ヤング軍曹が口を挟む。ブリーフィングルームには、ガンタンク隊”ライオンズ”のパイロットたちもいる。
「そんな少尉のために、良い機体を取ってきたよ。
室内にブライトマン少佐が入ると、全員が立ち上がり、敬礼をする。
「新型だ。RGM-79FPジム・ストライカー。」
「新型でありますか。まだ公表もされていないような機体に、なんですでにバリエーション機があるんです?」
イギーの疑問ももっともである。
「ヒト・モノ・カネだよ、少尉。連邦の国力を舐めてはいかん。」
何でも、ベテランパイロット用の、近接戦闘に特化した機体らしい。
「たった1ヶ月しか乗っていないのにベテランでありますか。」
イギーの皮肉めいた返答に、ブライトマンはきっぱりと返す。
「あれだけの死線を越えて生き残っている。少尉は十分ベテランと言えるよ。」
「少佐、もうよろしいでしょうか。」
部屋の後方から、女性の声が響いた。
「よろしい。復命しろ。」
「はっ、キョウ・ミヤギ曹長であります。新たに配備されたガンキャノンのパイロットとして着任しました。」
ピシッと音がしそうな、きちんとした敬礼をしながら、よくとおる涼やかな声で名乗る女性下士官は、茶色がかった黒い髪に、薄紅のくちびる、そしてハッとするような琥珀色の瞳が印象的だった。
美人だ。
ヘントはつい、見入ってしまった。
「何見てる、エロがっぱが。」
茶化すイギーにも、うまく返せない。不覚だった。よろしくお願いします、と、キョウ・ミヤギ曹長は涼やかに言って、ヘントの隣に腰掛けた。ふわりとした香りが、鼻腔をくすぐる。
「87戦隊は解隊となった。本日付で、L3038MS試験隊と統合し、MS中隊として再編されることになった。」
少佐が宣言する。曰く、第22遊撃MS部隊。現在回収中の陸戦型ガンダムと、"ライオンズ"のガンタンク6機に加え、ジム・ストライカーとガンキャノンを加えた9機3個小隊規模のMS中隊として再編された。このブリーフィングルームにいるのは、そのパイロットたちというわけだ。
「一週間後、北アフリカ方面、レバント地方への攻撃作戦に参加する。」
ブライトマン少佐が、"ベルベット作戦"の概要をパイロット達に伝える。
「我々はレバノンから上陸する戦力の先鋒だ。」
北アフリカ方面はオデッサ陥落直後から、オデッサを脱出してきたジオンの戦力と、現地に展開している両軍とで混戦状態らしい。しかし、ブライトマン曰く、トルコは間もなく連邦が制圧するだろうとのことだった。第22部隊を含んだ、レバノンから上陸する戦力は、トルコを制圧して南下してくる部隊と共に、シリアを制圧するという。
「まずは、"ライオンズ"とキョウ曹長とで、鑑上から敵の基地を狙撃する。」
少佐が示す狙撃地点は、沿岸から10kmは離れている。噂によると射程200kmを超えると言われるガンタンクの砲は問題あるまい。しかし……
「キョウ曹長は、この距離からの狙撃を……?」
思わず、ヘントが呟いた。
「ガンキャノンのビームライフルは、最大射程30kmです。」
実際口にはしていないが、その後に、やれます、と聞こえてきそうな、きっぱりとした口調だった。
「30kmって、届いても狙えないだろう。」
イギーがため息混じりに言う。ヘントも以前、10kmのビームライフル狙撃訓練を行なった。届くことと、当てることは別の問題だというイギーの言葉はよく分かる。
「もちろん、絶対、とは言えませんが、やれる、と思います。それに、狙撃対象がMSとは限りません。動かない、大きい、施設に対する破壊ということであれば、何の問題もありません。」
確かに、基地を兼ねた大きな港ならば、それなりの大きさの建造物や設備もあろう。しかし、撃てば当たると言うものでもあるまい。遠方からの砲撃など、当然想定された配置になっているはずだ。それに、曹長の口調には、適当で楽観的な感じがない。確かに狙撃できると確信している。
「それと。」
鈴を転がすような声とは裏腹な、鋭い口調で続ける。
「キョウ、ではなく、ミヤギとお呼びください。何となく、自分のファーストネームの響きが好きではありませんので。」
『これは、俺好みだ。文句なしだ。』
通信機から聞こえるイギーの声は、少年のように弾んでいた。新たに受領したジム・ストライカーが気に入ったらしい。全身にウェラブルアーマーを装備し、敵からの銃撃をものともせず、懐に飛び込む接近戦用の機体だ。
少佐とのミーティングが終わり、試運転を兼ねたMS隊の連携訓練を行うところだった。
「諸君、聞いてくれ。オデッサの作戦で、MSの戦い方にはジオンに一日の長があると感じた。」
ヘントはオープン回線で、MS隊全体に語り始めた。作戦序盤こそ、ホワイトベースのガンダムの噂や、連邦軍のMSという意外性、そもそもの機体性能差で、ザク程度との格闘ならば圧倒出来た。しかし、最後に戦ったグフ率いる小隊。MS戦を見据えて、連携を取られれば、ガンダムといえどひとたまりもない。
「1対1の格闘は危険だ。できれば敵を孤立させ、2機以上で囲い込みたい。」
『我々は噂のNTではありませんからね。凡人にはそのやり方が正解でしょう。』
最初に応じたのはスコット軍曹だった。
『お得意の物量戦か。まあ、こちらはこちらのやり方でやるのが戦争ってもんだろう。』
イギーの返事も、軽快だ。
ジオン公国アフリカ方面軍。
砂漠のジオンは強兵だと言う。今後またあのグフのような敵と渡り合うことになるだろうか。
(一度敵に追われる恐怖を味わった兵士など、宇宙に上がっても大して戦力にならんさ。)
いつかの、少佐の言葉が頭をよぎる。死にはしなかったが、自分は一度撃ち落された。その恐怖が、毒のように身体を巡るのを感じる。
『少尉、行きましょう。ダミーのドローンを出します。』
ミヤギ曹長の、澄んだ声に、ハッとする。モニター上に、MS大のダミーバルーンを乗せた大型ドローンが、よろよろと漂い始めたのが見えた。
「了解。予定通り、ミヤギ曹長、スコット軍曹の砲撃で、先頭の1機を分断する。わたしとイギーで前後から挟撃だ。」
まとわりつく不安を引きはがすように、機体を走らせた。
【#13 / re- / Nov.12.0079 fin.】
前回から少しだけ時間が戻り、部隊再編のお話です。
ミヤギ曹長、ずっと登場させたかったのですが、ヘントの曹長を見る目がキモいですね笑
あと、ここでこんな訓練してるくせに、前の話の空挺作戦で、早速イギーとばらばらになっているのは、直後にジム部隊の空襲があるのをわかっていたからです、たぶん笑
ヘントのガンダムは、マスタングという愛称にする予定です。今後、ガンダム呼びのままではわかりにくいので、どこかに命名エピソードを入れたいのです。ちなみに、前回のコメントで何名かの方が触れられていましたが、このガンダムはEZ8ではなく、あくまでオデッサで改修されたヘントの陸ガンです。EZ8ぽいのはたまたまです笑
名前は「陸戦型ガンダム改修型"マスタング"」とでもなるんでしょうか。
さて、前回のベルベット作戦の進軍イメージですが、こちらに訂正しました。
オデッサ編の時もですが、わたしは近藤和久氏の漫画に付いている宇宙世紀年表と、インターネット検索で出てくるおそらく非公式の1年戦争年表を参考に、ストーリーを考えています。その中で「11/26 アフリカ戦線が拡大」という記述があるので、最初はレバント地方をガンガン攻めて、いい具合に押せ押せになってきた26日ころに、サハラ砂漠とかスエズ運河の方にも攻めていった……なんていかがでしょうか!?その頃だと、ホワイト・ディンゴ隊のオーストリアでの作戦なども始まるようなので、連邦もかなり攻勢に出ているのかなあ、などと考えてみました。
……が、さらに調べてみると、スエズ西岸からリビア砂漠、エジプトの広い地域には、ロイ・グリンウッドのいる部隊がいるんですね(gundam-kao5)アレクサンドリアで終戦を迎えたらしいので、第一次攻撃のエジプト上陸地点(アレクサンドリア港をイメージしてます)は、たぶん橋頭堡を確保出来なかったんじゃないでしょうか。 あるいは、アレクサンドリアは取って、取り返されてを繰り返したのかもしれませんね。
……と、ここまで書いた後に、オデッサ作戦やベルベット作戦について詳細に記されたHPを発見しました!やっぱりわたしの浅はかな考えとはかなり違いました……一部、急遽書き直しましたが、やっぱり辻褄は合わなそうです(gundam-kao10)まあ、素人の二次創作だからいいか……と、開き直ることにしました(gandam1)
公式設定集など持っているわけではなく、インターネットでさらえる程度の知識で書いているので、今後も間違い・矛盾、アリアリかと思います。ご容赦ください。
ところで、ミヤギ曹長のガンキャノンは、サンドカラーというより、とある大人の嗜好品をイメージしていますが、分かるでしょうか?ボディーはブラウンですが、少し金を混ぜてあります。
わかった方はぜひコメントでお知らせください笑
今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
オリジナルストーリー第13話
コメント
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おや?名前、変えられました? 小津安二郎監督へのリスペクトですかね 只今、仕事中なので、明日あらためて感想を申し上げます ありがとうございます
いつもありがとうございます。
実は、登録当初はこの名前でした笑
小津安二郎をもじっておりますが、小津監督の作品は拝見したことがございません……(gundam-kao10)
いつの間にか、ぶんどどデジラマストーリー投稿アカウントと化してしまいましたので、監督気取りで、幻之介から、押忍やすじろうに改名いたしました。
技術がないので、基本的に無改造。キットの基本形成のままですが、できる限り継ぎ目けしや塗装などをして仕上げたいと思っています。
ブンドド写真は同じキットを何度も使って、様々なシチュエーションの投稿をする場合もあります、あしからず。
F91、クロスボーン、リックディアスあたりが好きです。
皆さんとの交流も楽しみにしておりますので、どうぞお気軽にコメントなどもいただけますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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