MS戦記異聞シャドウファントム #16 / Guerrilla soldier / Nov.20.0079

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 敵か、味方か——。

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 現在、第22遊撃MS部隊を含んだMS師団が進む渓谷は、先日ディーン中尉率いる第18MS中隊が、敵のゲリラ攻撃を受けた地点に近い。キョウ・ミヤギ曹長は、愛機のガンキャノンを、岩場を跳ねるように先行させながら索敵に勤しんだ。ガンキャノンのセンサーとカメラが、一番遠目が効くということで、ミヤギ曹長自ら突出しての偵察を提案した。 高地の岩場に機体を立たせると、バーニア噴射の余波と自然風で、砂塵があがる。ちょっとしたことで砂埃が舞う、この砂漠の景色を、ミヤギは嫌いではない。ハイスクールまでエースを務めたソフトボール競技のマウンドを思い出すのだ。あの場所も、ちょっとしたことですぐに砂埃が巻き上がった。 思えば、あの頃からそうだった。ボールを放れば、思ったところに、思ったとおりに球が走った。相手の顔色や、ちょっとした挙動から、次にどう動くか、どんな球が欲しいか、あるいは欲しくないかが分かった。MSでの長距離狙撃も、それに近い。集中すると、敵の姿がよく見える。どこに弾を放てば、どこに当たるか、

 現在、第22遊撃MS部隊を含んだMS師団が進む渓谷は、先日ディーン中尉率いる第18MS中隊が、敵のゲリラ攻撃を受けた地点に近い。キョウ・ミヤギ曹長は、愛機のガンキャノンを、岩場を跳ねるように先行させながら索敵に勤しんだ。ガンキャノンのセンサーとカメラが、一番遠目が効くということで、ミヤギ曹長自ら突出しての偵察を提案した。

 高地の岩場に機体を立たせると、バーニア噴射の余波と自然風で、砂塵があがる。ちょっとしたことで砂埃が舞う、この砂漠の景色を、ミヤギは嫌いではない。ハイスクールまでエースを務めたソフトボール競技のマウンドを思い出すのだ。あの場所も、ちょっとしたことですぐに砂埃が巻き上がった。

 思えば、あの頃からそうだった。ボールを放れば、思ったところに、思ったとおりに球が走った。相手の顔色や、ちょっとした挙動から、次にどう動くか、どんな球が欲しいか、あるいは欲しくないかが分かった。MSでの長距離狙撃も、それに近い。集中すると、敵の姿がよく見える。どこに弾を放てば、どこに当たるか、"何となく"わかるのだ。

 MS訓練生だった頃は、同期や教官たち、皆から"ニュータイプ"だともてはやされた。しかし、ミヤギの実感は違う。アスリートたちがよく言う"ゾーンに入る"というものの方が、感覚的に近い。ジオン・ダイクンを始めとする、宇宙世紀の思想家たちが言う、ニュータイプは、宇宙という環境に適応した人類の革新だ。ミヤギの勘の鋭さは、経験の先で習得した技術に近いと思う。強いて言うなら、ミノフスキー粒子濃度の高い戦場の方では、その傾向が強いと感じる。

(誤解なく分かり合える人間が、ニュータイプと言うのなら……)

ふと、思い浮かぶのは、上官のヘント・ミューラー少尉の顔だ。彼の、柔らかいものの感じ方や直感力こそ、むしろニュータイプに近いと感じる。どことなく言葉の足りない感じも、直感で分かってしまうからなのではないだろうか。

 ふと、自分の愛機とコールサインを”マスタング”と名付けた彼の感性を思った。

 彼が言う通り、馬という動物は、力強い美しさを持っている。と、同時に、人の思いを汲み取れるほどの優しさがあるとも言う。そして、野生馬のしたたかさだ。

 人を思う優しさと、鋼の巨人を駆る力強さ、そして、過酷な戦場を生き延びるためのしたたかさ。我々軍人の本懐を、ああいう言葉で表すことができる、彼の感性は、好ましいと感じる。

(何を、考えている、わたしは。)

ミヤギは、ぶるんぶるんと首を振ると、モニターごしの砂塵に目を見張った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 先行するガンキャノンが、バックパックのバーニアを小刻みにふかし、岩場をひょいひょいと登っていく。18mもあろう鋼鉄の巨人とは思えない、身の軽さと接地の柔らかさに感心させられる。『あいつは天才だな。』イギー・ドレイク少尉も舌を巻いた。「そう言ってあげればいい。曹長がお前を見る目も、少しは変わる。」『素直に褒める女はカミさんだけと決めてる。』その感覚は生きづらくなりやしないか、と思うと共に、イギーらしいな、とヘント・ミューラー少尉は思う。思うが、口には出さない。『”モルト”より、全隊。特に異常はありません。』高台に立つガンキャノンのパイロット、キョウ・ミヤギ曹長から、涼しげな声で通信が入る。

 先行するガンキャノンが、バックパックのバーニアを小刻みにふかし、岩場をひょいひょいと登っていく。18mもあろう鋼鉄の巨人とは思えない、身の軽さと接地の柔らかさに感心させられる。

『あいつは天才だな。』

イギー・ドレイク少尉も舌を巻いた。

「そう言ってあげればいい。曹長がお前を見る目も、少しは変わる。」

『素直に褒める女はカミさんだけと決めてる。』

その感覚は生きづらくなりやしないか、と思うと共に、イギーらしいな、とヘント・ミューラー少尉は思う。思うが、口には出さない。

『”モルト”より、全隊。特に異常はありません。』

高台に立つガンキャノンのパイロット、キョウ・ミヤギ曹長から、涼しげな声で通信が入る。

『待ってください、MSの機影が見えます。』声色に、緊張が混じる。『ザクです。1機です。』全隊に緊張が走る。『たった1機だと?それとも例のゲリラ戦法か?』こういう時に、冷静なのはイギーの良いところだ。 ディーン中尉による敵襲の報告を受け、ダマスカスへの出発を半日遅らせた。制圧済みのダマスカスからも、掩護のための戦力を差し向けている。敵もさすがにそれくらいの動きは予見すると踏んでいたが、まさかまだ粘っているなどと、誰も思わなかった。「同じ柳の下の鰻を狙う馬鹿か、それともそれだけ自分たちの作戦に自信があるのか……」『どっちでもいい。全機、とにかく足元に気を付けろ。』報告にあった潜砂からの奇襲を警戒し、イギーが友軍に通信を送る。『ヘント、ミヤギ曹長にスプレーミサイルを蒔かせろ。』『待ってください。』イギーからの通信を遮るように、再び、ミヤギからの通信が入る。どこか、言葉がたどたどしい。『何も、武装していません。白旗、を、掲げています。』

『待ってください、MSの機影が見えます。』

声色に、緊張が混じる。

『ザクです。1機です。』

全隊に緊張が走る。

『たった1機だと?それとも例のゲリラ戦法か?』

こういう時に、冷静なのはイギーの良いところだ。

 ディーン中尉による敵襲の報告を受け、ダマスカスへの出発を半日遅らせた。制圧済みのダマスカスからも、掩護のための戦力を差し向けている。敵もさすがにそれくらいの動きは予見すると踏んでいたが、まさかまだ粘っているなどと、誰も思わなかった。

「同じ柳の下の鰻を狙う馬鹿か、それともそれだけ自分たちの作戦に自信があるのか……」

『どっちでもいい。全機、とにかく足元に気を付けろ。』

報告にあった潜砂からの奇襲を警戒し、イギーが友軍に通信を送る。

『ヘント、ミヤギ曹長にスプレーミサイルを蒔かせろ。』

『待ってください。』

イギーからの通信を遮るように、再び、ミヤギからの通信が入る。どこか、言葉がたどたどしい。

『何も、武装していません。白旗、を、掲げています。』

「待て、敵ではない。」 ダマスカスに入る直前に現れたザクのパイロットは、機外スピーカーを通して呼びかけてきた。朗々とした、好い声だった。 機体の足元には、機銃を抱えた兵士らしい人間が数名見えたが、皆、装備も服装もばらばらだった。「諸君らに協力するためにここに来た。我々は”レバント解放戦線”だ。」ザクは高々と白旗を掲げ、戦闘の意思がないことを示したが、その様子は妙に堂々としたものに見えた。

「待て、敵ではない。」

 ダマスカスに入る直前に現れたザクのパイロットは、機外スピーカーを通して呼びかけてきた。朗々とした、好い声だった。

 機体の足元には、機銃を抱えた兵士らしい人間が数名見えたが、皆、装備も服装もばらばらだった。

「諸君らに協力するためにここに来た。我々は”レバント解放戦線”だ。」

ザクは高々と白旗を掲げ、戦闘の意思がないことを示したが、その様子は妙に堂々としたものに見えた。

 合流したのは、現地のゲリラ部隊だった。ザクを鹵獲し、ジオンの小規模拠点に対して奇襲攻撃を繰り返してきたという。 ザクのパイロットは”ロレンス”と名乗った。パイロットであると同時に、どうやらゲリラのリーダーらしい。”ロレンス”というのはおそらく偽名、と言うよりコードネームのようなものらしい。堀が深いブロンドヘアーで、綺麗な二重まぶたに青い瞳が、俳優のようだった。おまけに、声が抜群に好い。コクピットから降りて、ラッキー・ブライトマン少佐の元に向かう彼を見て、人を魅了する男だ、と、ヘントは思った。 もともと、アフリカ戦線に展開していた連邦軍に、開戦当初から協力していたらしく、ブライトマン少佐にもすぐに話が通った。「連邦の最終的な狙いはバグダッド、サラサール基地という理解で構わないでしょうか。」”ロレンス”に尋ねられたブライトマン少佐は、軍事機密である旨を返答するが、否定もしない。”ロレンス”は満足げに微笑んだ。「MSの装備品の補給、新たに進軍してくる戦力から供給があると伺っておりました。」「それは、約束通り。」 レバント解放戦線にその約束を取り付けた連邦軍の部隊は、既にジオンによって壊滅させられていたが、その旨は確かに引き継いでいた。ブライトマンが手渡した目録を見て、”ロレンス”は目を細め、ありがとうございます、と深い声で言った。「簡単に信用されないと思っておりましたが、こんなにご理解いただけるとは。これに報いられるよう、積極的にご協力いたしましょう。」 ”ロレンス”は表情を引き締めると、ブライトマンとの間におかれた机に、レバント地方の地図を広げた。「こことサルサール湖のちょうど中間地点あたりに、ルトバという街があります。この、ルトバの北。」言いながら、広げた地図を指さす。「ここに、サルサール基地の前線拠点があります。ここを落とすための支援に、我々で工作をいたしましょう。まずはそのお手並みをご覧いただければと思います。」

 合流したのは、現地のゲリラ部隊だった。ザクを鹵獲し、ジオンの小規模拠点に対して奇襲攻撃を繰り返してきたという。

 ザクのパイロットは”ロレンス”と名乗った。パイロットであると同時に、どうやらゲリラのリーダーらしい。”ロレンス”というのはおそらく偽名、と言うよりコードネームのようなものらしい。堀が深いブロンドヘアーで、綺麗な二重まぶたに青い瞳が、俳優のようだった。おまけに、声が抜群に好い。コクピットから降りて、ラッキー・ブライトマン少佐の元に向かう彼を見て、人を魅了する男だ、と、ヘントは思った。

 もともと、アフリカ戦線に展開していた連邦軍に、開戦当初から協力していたらしく、ブライトマン少佐にもすぐに話が通った。

「連邦の最終的な狙いはバグダッド、サラサール基地という理解で構わないでしょうか。」

”ロレンス”に尋ねられたブライトマン少佐は、軍事機密である旨を返答するが、否定もしない。”ロレンス”は満足げに微笑んだ。

MSの装備品の補給、新たに進軍してくる戦力から供給があると伺っておりました。」

「それは、約束通り。」

 レバント解放戦線にその約束を取り付けた連邦軍の部隊は、既にジオンによって壊滅させられていたが、その旨は確かに引き継いでいた。ブライトマンが手渡した目録を見て、”ロレンス”は目を細め、ありがとうございます、と深い声で言った。

「簡単に信用されないと思っておりましたが、こんなにご理解いただけるとは。これに報いられるよう、積極的にご協力いたしましょう。」

 ”ロレンス”は表情を引き締めると、ブライトマンとの間におかれた机に、レバント地方の地図を広げた。

「こことサルサール湖のちょうど中間地点あたりに、ルトバという街があります。この、ルトバの北。」

言いながら、広げた地図を指さす。

「ここに、サルサール基地の前線拠点があります。ここを落とすための支援に、我々で工作をいたしましょう。まずはそのお手並みをご覧いただければと思います。」

「”アラビアのロレンス”か。なかなか洒落がきいているな。」「出たな、地球文学かぶれの蘊蓄が。」ヘントが呟くのを聞いて、茶化すイギーに、「そういうのは教養があると言うんです。」とミヤギが釘を刺す。いや、ただのオタクだろう、とイギーは思ったが、その一言は飲み込んだ。先日のコールサインの一件から、ミヤギからの風当たりが強いからだ。「で、どう思う?信用できるか?」 ブライトマンと話を続ける”ロレンス”を遠巻きに見ながら、イギーは明確に疑いの目を向けた。「曹長はどう思う。主観や直感で構わん。」イギーの疑問には答えず、ヘントはミヤギ曹長に話題を振る。「なぜ、自分でありますか。」「なんとなくだ。曹長には、そういう直観力があるのではないかと思える。それこそわたしの主観と直感だが。」そうですね、とミヤギは顎に手を当て、空を見上げる。「嘘はなさそうな気がしますが、いちいち芝居じみているのが気になります。」「それは、俺だって気づく。」イギーがからっと笑う。「つまり、そういうことですよ。わたしは別に、そういう直観力を持ち合わせてはいません。」そうだろうか、とヘントは思った。が、いつものごとく、口にはしない。芝居じみているのが気になる、とミヤギの言葉を、もう一度反芻し、ぽつりと呟く。「何か隠している、という感じはするかな。」「ああ、それは、そうですね。そういう感じはします。」「しゃべり方がな、俺は気になる。あの芝居じみたしゃべり方。」イギーも、何かが引っかかるらしい。「まあ、前任部隊も信用に足ると信じて引き継いだのだろう。信じるしかないか。」ヘントは、自分自身を信じこませるように言った。~~~~~~~~~~~~~~~

「”アラビアのロレンス”か。なかなか洒落がきいているな。」

「出たな、地球文学かぶれの蘊蓄が。」

ヘントが呟くのを聞いて、茶化すイギーに、

「そういうのは教養があると言うんです。」

とミヤギが釘を刺す。いや、ただのオタクだろう、とイギーは思ったが、その一言は飲み込んだ。先日のコールサインの一件から、ミヤギからの風当たりが強いからだ。

「で、どう思う?信用できるか?」

 ブライトマンと話を続ける”ロレンス”を遠巻きに見ながら、イギーは明確に疑いの目を向けた。

「曹長はどう思う。主観や直感で構わん。」

イギーの疑問には答えず、ヘントはミヤギ曹長に話題を振る。

「なぜ、自分でありますか。」

「なんとなくだ。曹長には、そういう直観力があるのではないかと思える。それこそわたしの主観と直感だが。」

そうですね、とミヤギは顎に手を当て、空を見上げる。

「嘘はなさそうな気がしますが、いちいち芝居じみているのが気になります。」

「それは、俺だって気づく。」

イギーがからっと笑う。

「つまり、そういうことですよ。わたしは別に、そういう直観力を持ち合わせてはいません。」

そうだろうか、とヘントは思った。が、いつものごとく、口にはしない。芝居じみているのが気になる、とミヤギの言葉を、もう一度反芻し、ぽつりと呟く。

「何か隠している、という感じはするかな。」

「ああ、それは、そうですね。そういう感じはします。」

「しゃべり方がな、俺は気になる。あの芝居じみたしゃべり方。」

イギーも、何かが引っかかるらしい。

「まあ、前任部隊も信用に足ると信じて引き継いだのだろう。信じるしかないか。」

ヘントは、自分自身を信じこませるように言った。

~~~~~~~~~~~~~~~

 100mmマシンガンを1丁と、その弾倉を1ダース受け取り、”ロレンス”の部隊は引き上げていった。先ほどまで”ロレンス”とブライトマンが話していた机に、MSパイロット、戦車隊、輜重隊と、部隊の主だった面々が集まる。「前任部隊の引継ぎを信じるしかあるまい。」ブライトマンも、感じるものがあるらしく、どこか歯切れが悪い。「第1攻撃目標は、ルトバの北の前衛拠点だ。2号線を使ってイラクへ入る。”レバント解放戦線”の支援が入るはずだ。」 トルコの戦力も、ユーフラテス川沿いの街を、アブ・カマルを最終目標に南下してくる。最終的に、北と南西からサラサールの基地を締め上げる算段だ。「宇宙からの第2次空挺作戦も展開予定だが、こちらはどうなるかわからん。さすがにジオンも宇宙艦隊で抵抗をしてくるはずだ。」 しかも、空挺作戦は、アレキサンドリアの制圧に重点を置くはずだ。「まずはここ、ダマスカスから航空戦力で空爆だな。地面に潜るのが奴らの十八番だと言うなら、今回はバンカーバスターでも使ってみるか。」「砂の中の相手に地中貫通弾。なかなか冷酷な発想で。」イギーが皮肉めいた声色で、茶化すように言うが、ブライトマンは取り合わない。「潜っていそうな場所はゲリラに探らせる。貫通弾は用意できるか。先にダマスカスに連絡しておけ。」「いつもの物量戦ですね。」イギーがつまらなそうに言う。うまくいってしまうと、MS隊は出番がない。「心配するな。サラサールを落とすときには必ず活躍してもらう。」「それに、そうそう思い通りにいくものではない。」 ヘントが静かに言う。「盛り下がること言うなよ。」イギーが小突いてくる。「いや、少尉の心掛けは感心だ。」ブライトマンが真剣に応じる。「食事をとった後、このままダマスカスに入って、そこを拠点にする。出撃は航空機隊の後をついていく形になるはずだ。」ルトバへの出発は早く見積もっても3日後と、ブライトマンは宣言する。「さすがにダマスカスの街は焼け野原にはなっていないだろう。この際だから、束の間の休暇を楽しむつもりでいればいい。」~~~~~~~~~~~~~~~

 100mmマシンガンを1丁と、その弾倉を1ダース受け取り、ロレンスの部隊は引き上げていった。先ほどまでロレンスとブライトマンが話していた机に、MSパイロット、戦車隊、輜重隊と、部隊の主だった面々が集まる。

「前任部隊の引継ぎを信じるしかあるまい。」

ブライトマンも、感じるものがあるらしく、どこか歯切れが悪い。

「第1攻撃目標は、ルトバの北の前衛拠点だ。2号線を使ってイラクへ入る。”レバント解放戦線”の支援が入るはずだ。」

 トルコの戦力も、ユーフラテス川沿いの街を、アブ・カマルを最終目標に南下してくる。最終的に、北と南西からサラサールの基地を締め上げる算段だ。

「宇宙からの第2次空挺作戦も展開予定だが、こちらはどうなるかわからん。さすがにジオンも宇宙艦隊で抵抗をしてくるはずだ。」

 しかも、空挺作戦は、アレキサンドリアの制圧に重点を置くはずだ。

「まずはここ、ダマスカスから航空戦力で空爆だな。地面に潜るのが奴らの十八番だと言うなら、今回はバンカーバスターでも使ってみるか。」

「砂の中の相手に地中貫通弾。なかなか冷酷な発想で。」

イギーが皮肉めいた声色で、茶化すように言うが、ブライトマンは取り合わない。

「潜っていそうな場所はゲリラに探らせる。貫通弾は用意できるか。先にダマスカスに連絡しておけ。」

「いつもの物量戦ですね。」

イギーがつまらなそうに言う。うまくいってしまうと、MS隊は出番がない。

「心配するな。サラサールを落とすときには必ず活躍してもらう。」

「それに、そうそう思い通りにいくものではない。」

 ヘントが静かに言う。

「盛り下がること言うなよ。」

イギーが小突いてくる。

「いや、少尉の心掛けは感心だ。」

ブライトマンが真剣に応じる。

「食事をとった後、このままダマスカスに入って、そこを拠点にする。出撃は航空機隊の後をついていく形になるはずだ。」

ルトバへの出発は早く見積もっても3日後と、ブライトマンは宣言する。

「さすがにダマスカスの街は焼け野原にはなっていないだろう。この際だから、束の間の休暇を楽しむつもりでいればいい。」

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「おひとつ、どうですか。」 愛嬌のある小柄な男が、カレーのような見た目の料理をよそった皿を、ヘントの前に差し出した。(わたくしどもに御用ならば、この者をお使いください。)”ロレンス”が連絡員として置いていった”キッド”という男だ。おそらく、この名前も通称というか、コールサインのようなものだろう。”ロレンス”の一団が、100mmマシンガンと引き換えに置いていった食料を使い、”キッド”は大きな鍋で料理を始めたのだ。「なんですか?カレーですか?」最初に食いついたのは、ミヤギ曹長だった。そういえば、ベイルートでもカレーを食べながら食事に不満を漏らしていた。心なしか、瞳孔が開いている気がする。「バーミヤです。現地のものが一番うまいですよ。それは、宇宙世紀も旧世紀も変わりません。」どうぞ、と、にこやかに皿を差し出す。ミヤギはおずおずと皿を受け取る。本当は飛びつきたいのではないか、とヘントは思った。「曹長は、カレーが好きか。」ヘントの問い掛けに、ミヤギに代わって”キッド”が、ニッと愛嬌のある笑顔で応じる。「兄さん、カレーとは違うよ。」「……おいしい。」ミヤギ曹長の呟きは、魂から溢れだしたかのような感動が感じられた。頬に僅かに朱が差し、明らかに喜色が浮かぶ。ヘントは思わずふっと微笑む。「へえ、じゃあ、わたしもいただこうかな。」「これ、オクラだな。肉にナスとトマトか。うん、これは、間違いない。」いつの間にか、隣でイギーがバーミヤを頬張りながら、レポートをしている。「ダマスカスに入ればもっと色々美味しいものがあるから、少し楽しんでほしいな。」 

「おひとつ、どうですか。」

 愛嬌のある小柄な男が、カレーのような見た目の料理をよそった皿を、ヘントの前に差し出した。

(わたくしどもに御用ならば、この者をお使いください。)

”ロレンス”が連絡員として置いていった”キッド”という男だ。おそらく、この名前も通称というか、コールサインのようなものだろう。”ロレンス”の一団が、100mmマシンガンと引き換えに置いていった食料を使い、キッドは大きな鍋で料理を始めたのだ。

「なんですか?カレーですか?」

最初に食いついたのは、ミヤギ曹長だった。そういえば、ベイルートでもカレーを食べながら食事に不満を漏らしていた。心なしか、瞳孔が開いている気がする。

「バーミヤです。現地のものが一番うまいですよ。それは、宇宙世紀も旧世紀も変わりません。」

どうぞ、と、にこやかに皿を差し出す。ミヤギはおずおずと皿を受け取る。本当は飛びつきたいのではないか、とヘントは思った。

「曹長は、カレーが好きか。」

ヘントの問い掛けに、ミヤギに代わって”キッド”が、ニッと愛嬌のある笑顔で応じる。

「兄さん、カレーとは違うよ。」

「……おいしい。」

ミヤギ曹長の呟きは、魂から溢れだしたかのような感動が感じられた。頬に僅かに朱が差し、明らかに喜色が浮かぶ。ヘントは思わずふっと微笑む。

「へえ、じゃあ、わたしもいただこうかな。」

「これ、オクラだな。肉にナスとトマトか。うん、これは、間違いない。」

いつの間にか、隣でイギーがバーミヤを頬張りながら、レポートをしている。

「ダマスカスに入ればもっと色々美味しいものがあるから、少し楽しんでほしいな。」

 "ロレンス""レバント解放戦線"が何者かは、まだ分からない。だが、この"キッド"の人懐こい笑みを見ていると、決して悪い出会いではないと、ヘントには思えてくるのだった。

 

【#16 / Guerrilla soldier / Nov.20.0079 fin.

もう覚えている人も居なそうな、第11話で出したザクは、現地ゲリラの鹵獲機でした。もったいぶった割にフツーでしたね笑まだ秘密があるかのような書き方をしていますが、そのヒミツも多分大したことはないでしょう笑100mmマシンガンを持った姿がお気に入りです。白旗は、ランナーにティッシュを瞬間接着税で固定して作りました。

もう覚えている人も居なそうな、第11話で出したザクは、現地ゲリラの鹵獲機でした。もったいぶった割にフツーでしたね笑

まだ秘密があるかのような書き方をしていますが、そのヒミツも多分大したことはないでしょう笑

100mmマシンガンを持った姿がお気に入りです。

白旗は、ランナーにティッシュを瞬間接着税で固定して作りました。

そして、ミヤギ曹長を押し出した回は、明確に人気が落ちます笑「よそでやれ」という声が聞こえてきそうですが、わたしが曹長を描きたいので、多分止められません、すみません。でも、曹長がヘントを好意的に感じるのはちょっと脈絡がなさすぎるなぁ、と、反省しています。

そして、ミヤギ曹長を押し出した回は、明確に人気が落ちます笑

「よそでやれ」という声が聞こえてきそうですが、わたしが曹長を描きたいので、多分止められません、すみません。

でも、曹長がヘントを好意的に感じるのはちょっと脈絡がなさすぎるなぁ、と、反省しています。

そして、最後に登場した

そして、最後に登場した"キッド"は、いつもお世話になっているヨッチャKIDさんがモデルです。

お会いしたこともないのに、勝手に小柄とか人懐こいとか、すごく失礼な登場のさせ方をしてしまいました。すみません。

今後も登場させていく予定です。

ヨッチャKIDさんの作品はこちらです!アーティファクトの可動化など、ホントに神レベルの工作です。ぜひご覧ください。

パイロットフィギュアも予定より早く届きました。画作りの幅が広がりそうです。

 

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

オリジナルストーリー第16話

コメント

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  1. ヤスさん、再三宣伝していただいて、いつもありがとうございます。紹介文も恐れ多くて感謝しかないです😭。合わせてありがとうございます。

    毎度のことながら、場面情景が手に取るように分かる。そこに合わせた作品デジラマの数々、ミヤギ曹長の画。どれもいい。何をどうしたらここまでのものが書き上げられるのか。ミヤギ曹長のハイスクールの話なんか到底出てこないですよ。桁が違う。ほんとにたまたまプロの人がこっそりガンプラ作ってるんじゃないかと思えるくらいです。

    キッドさんいい役で登場させてくれました😙。このストーリーに出てくるキッドなんでヤスさんが思うまま書いてくれたらおいら満足です。ちなみにバーミヤという食べ物を初めて知りましたけどね笑。

    • いつもありがとうございます。

      過分なお言葉にこちらこそ畏れ多いです(gundam-kao6)

      ソフトボールの話は、この間たまたま試合を見る機会がありまして「あ、これ、ミヤギ曹長だな」って、ピンと来ちゃいました。何考えて試合見てんだって感じですが笑

      なんかヨッチャKIDさんて料理とかうまそうだなーと勝手に想像してます笑

      バーミヤはわたしも適当に検索してみて美味しそうなやつを出しただけなので、実はわたしも知らない食べ物です笑

      あと、小柄とか、ホントにすみません(gundam-kao10)名前がKIDなのでなんとなく(gundam-kao10)

      今後もよろしくお願いします!

      • 一つの物語や作品手掛けてる人の視点ってそうゆうふうなんじゃないかと、おいら思いますね。アンテナ広がってるからいい作品になるというか😙。

        実はですね料理するの好きだし結構うまいんですよ。そのかわり片付けは苦手なんで、お嫁キッドにぶつくさ言われます笑。

        今後も自由にヤスさんの思うまま書き上げて下さい。おいら的には、遠慮されたり意識されてストーリーや世界観が変わってしまう方がつらいっす。

        ちなみにどうしても作中のキッドのイメージはタムラコック長が出てくるのはおいらだけ?笑

        • お、こういう漠然とした 勘が当たるのは嬉しいですね(gundam-kao6)

          “キッド”のイメージは、料理も得意な在野のアストナージです笑

          たぶん塩は足りてますし、サラダは作らないのでご安心ください笑

  2. cinnamon-1 7時間前

    曹長のイラストが入るのは、めちゃ嬉しい😆 ミヤギ曹長の大ファンです😁 ⁉️曹長の回は人気が下がる😱 なんと😣しかし、私は曹長を推します👍 

    ストーリー、フィギア、現地改修のザク、よくできていて素晴らしい👍

     

    • いつもありがとうございます。

      曹長、わたしも気に入っているので、cinnamon-1さんのご感想いつも嬉しいです笑

      今回は可愛く描けたとも思っているので😆

      次回はオデッサ編で出したかったけれど、手元になくて出せなかったメカも登場させます(gandam-hand2)

  3. プラモやパイロットのフィギュアの出来が素晴らしいうえに作品の中に思わず入り込んでしまうストーリー。期待は膨らむばかりです。ザクの白旗、よく自分も嫁に白旗あげてます。

    • いつもありがとうございます。

      次回は少し戦闘もさせてみたいと思います(gandam-hand2)

      白旗は、今回のザクもそうですが、あくまでこの場では戦意のないことを示すツールと思っておりますので笑

      奥様にはやはり、白旗こそが円満の最適解かと思います笑

  4. 与一 15時間前

    アクションシーンが無いにもかかわらず、画角が良くて、シーンの雰囲気が伝わり販売されている挿絵等より遥かに上等のガンダム小説です🥰👍✨

    パイロットフィギュアって凄いのですね🤩💕❇️感心致しました😀

    静から徐々に動へ楽しみです🙂😊🙋🙇

    • いつもありがとうございます。

      いつもたくさんお褒めくださり、本当に嬉しく思います(gundam-kao6)画角などはいろいろ工夫しているので、そこを認めていただけるのはひとしおです。ただ、ガンプラ(元キット)やフィギュアなどら素材がもともと持っている魅力によるところと大きいと、改めて感じることも多いです。

      次回はもう少し、動の話になると思います(gundam-kao6)

  5. Ryu- 16時間前

    毎回、面白いストーリーですなぁ……。
    そしてザクも現地改修感、有り合わせで直した感が出て良いのです(gundam-kao3)

    • いつもありがとうございます。

      ザクは急いで作ったところもありますが、有り合わせの改修はすごく意識したので、伝わって嬉しいです(gundam-kao6)

  6. T-Non 16時間前

    ミヤギ曹長、好きですよ❗️

    パイロットフィギュア、絵が決まりますね❗️

    で、まだ秘密がある。それも、あっと驚く大きな秘密だって確信しています🫡

    今回も、プラモ、ジオラマ、ストーリー 三拍子揃った楽しい作品ありがとうございます😊

    • いつもありがとうございます。

      おそらく今後も「今回のミヤギ曹長」のイラストが入ると思いますので笑

      そのように言っていただけると嬉しいです(gundam-kao6)

      パイロットフィギュアは、買ってよかったと思える汎用性があります(gandam-hand2)ただ、イラストもフィギュアも、ガンプラが脇役になってしまうので、使い所は気をつけていきたいと思います。

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MS戦記異聞シャドウファントム #14 / Sea monster / Nov.18.0079

MS戦記異聞シャドウファントム #14 / Sea mons…

(これが、地球の海か。)  水陸両用MSズゴックに搭乗し、海…

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應援團型MS YE-11D オッス改

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以前も同じ機体を投稿しておりましたが、顔がカッコ悪かったので…